学校生活も緩やかに終わりを告げる

 


 

 

 これで俺の借金返済は終了することとなる。

 それどころか、お金が余ったので様々なことに使うことができる。


 俺の学園生活の前半にあった主なことはこれぐらいだろうか。

 後半にもいろいろなことがあった。


 小さなこととしては、将棋の件のすぐ後ぐらいにレオン兄とやらが学校に来たこととか。

 国が管理しているもう一つの学校に通っているらしい。


 最近のレオンはヘタレている、アホだ。そんな学校にいるからだ。だからこちらの学校に来い。

 そんな言い分であった。


 王族ってブラコンやシスコンが多いのか?


 勝負方法に将棋を提示してきたことに笑うのを堪えるのに必死だった。

 どうやら将棋の製作者が俺で、城に持ち込んだのがレオンだと知らなかったらしい。

 レオンはどうやら王様とも対戦するが、俺より弱いらしく、あっさり勝ったそうだ。

 王様は息子に負けて、しかもその息子に勝つやつが製作者であるなんてことは積極的には言いたくなかったのだろう。

 レオンの兄がドヤ顔で


「お前はよく将棋で遊ぶそうじゃないか。年上だしハンデをあげてもいいぞ。さすがに父上には負け越しだが、最近はだんだん勝てるようになっているんだ。降参なら今のうちだぜ」


 と言ってきたところでふきだした。

 貴族取り巻き達にも教えて、ここのところ訓練させていたらしい。というのは後で知った話だ。

 結果、俺が直々に教えているレオン、レオナに俺とアイラを加えて、あと一人誰がいいかレオンに聞かれてロウを勧めた。

 五人対五人、三勝した側の勝利という剣道みたいな方式で戦った。

 結果は圧勝。俺が大将としてでたときに


「なるほど、知恵がまわるじゃないか。一番強くて勝てないだろう僕には弱そうな男を当ててくるとは。別にいいぞ? それでも勝つからな」


 と言っていた。そのくせして途中でロウとレオナに二人抜きされた時点で慌てて


「俺が出る!」


 と途中で順番変更するという暴挙に出た。

 だから途中で総当たり戦でも代理戦でも構わないと言ってあげた。

 それでも全敗してわめきちらしていた。

 特に平民が二人も入っているのに負けたのが悔しかったのだろう。

 俺の見た限りでは、俺の次に強いのがレオナだった。


「勝てなくても恥ずかしくはありませんよ。これを作ったのは僕ですし、遊び方から効率のいい戦い方まで教えていますからね」


 とにっこり笑って心をへし折ったところでレオンにいたく感激された。

 今までお兄さんには言いくるめられっぱなして、今回なんかは絶対に向こうに行きたくなかったのだそうだ。

 レオンは兄弟姉妹の中でも、光るものがあると言われるレオナと双子だったことで、よく比べられていたらしい。

 レオンは男子であったこともあって、レオナより悪い扱いは受けることがなかったし、それでレオナも特に不満を言わなかったのがレオンを救っていた。

 そのことを聞いてなにやら腹のたった俺はトドメにもう一言。


「年下に頭を使う遊びで完全敗北。えーっとどんな学校にいるからレオンがアホになるんでしたっけ? もう一度お聞かせねがいませんか?」


 体こそ年上だが、中身は十以上年上だ。

 あまりに大人気ない仕打ちと邪悪な笑みに周りの子供達は


「やっぱりグレイ家の子だ……っ!」


 と騒然としたが、レオナとアイラだけはいつもの通りで少しこそばゆいような。まあ勝ったんだから褒めてくれるのは構わない。





 他にもいろいろあったが、概ね平和であった。

 そんな学校生活の傍ら、とりあえずの目標である「神」という存在との再会に向けて調べ物をしていた。

 学校の図書館に残っていた資料によると、俺を転生させた奴の名前はおそらくヘルメス【マーキュリー】ではないかと思われる。

 ヘルメス。もしくはマーキュリー。

 それは盗み、商売、旅人への加護を持ち、そして異界に導く役を司る神だ。

 生まれてからすぐに牛を盗んだ挙句、口先三寸で牛と楽器を交換することで有耶無耶にしてしまった酷い神だという。

 盗むときに証拠隠滅はしっかりしていたくせに、ゼウスによる占いという反則じみた手段であっさりばれている。なんなんだ。神って未来や過去を見れるのか? 制限ついてそうな能力だな。

 ヘルメスとやらは詰めが甘いんだな。ロクでもなさそうだ。と責めるのは早計か。神として生まれたばかりの時のことである。それに占いで、とはまた予想しづらいものを。

 まあ神話なんてものはどこまで本当かわからないものだ。


 会う手段はいくつかある。

 一つは教会につとめて、信心を何年も捧げて高位職にまで登りつめれば声ぐらいは聞けるとか。


 遅い。遅すぎる。


 それだけのために教会に缶詰めになる趣味はない。

 しかもそれだけの時間を、労力をかけておいて声が聞けるだけって。

 それは単なる天啓とかお告げとかのあれだよ。

 常時発動型やピンチのときに来てくれないと、単なるプチ預言者にしかなれないよ。

 確かに俺は信じているよ。この目で見たんだもの。

 ならば最初から会わせてほしいものだ。


 もう一つは死ぬこと。

 これは却下だ。あの神が言っていたからもしかしたら、とは思っていたけど、本当に死ねば会えるんだな。

 そのためには神への謁見を許可される程度には善行を積まねばならないとか条件がありそうだ。

 なんにせよ、生まれ変わったり生き返る保証なんてどこにもないのに。あったとしても二度目の死は勘弁願いたい。それならなるべく長生きしてからがいい。


 最後は直接神のいる天界まで会いにいくことだ。

 この世界は天界、地上、冥界の三世界に区分されているようで。俺の元いた世界でもあるのかもしれない。一つの世界の中に三つ世界があるというか。違和感は拭えないがそういうものなのだろう。

 神のいる天界にいくには特別なものが必要で、それが何かまでは図書館ごときではわからなかった。

 やはりこの国の外に出なければわからないのだろうか。


 

 教会には漠然としたことしか書いておらず、それ以上は何も手がかりのないままだ。

 魔族国家のノーマや魔導国家ウィザリアとかならもしくは……それとも教会本部にして宗教国家の聖法皇国家ヒジリアの方がよいのか?

 竜や龍を祀る国リューカもありかもしれないが。


 相変わらず俺は魔法を微塵も使えないし、剣も上の下で止まっている。

 上の下、というと一般兵士には勝てる程度。

 俺は弱い。誰よりも、とは言わないが、少なくとも冒険を志す者の中では強くはない。

 そのことを言うたびに、妙な顔をする者はいるが。

 まともに戦えば王国筆頭騎士だとか、軍団長に、救国の英雄なんかにはあっさりと負けるというのに。



 だが、そんな化け物みたいなやつらがあっさりと負けてしまうような奴らがひしめく世界で、もうすぐ十二年が経つ。


 俺が十二歳、学校卒業の歳だ。

 

 今は目の前のことに集中しよう。

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