第8波【記憶】
人生を終わらせるような激しい頭痛と
内臓の全てを吐き出したい感覚に
しかたなく目を覚ます・・・
ベッドの横には・・・
付き合いの長さからファーストネームで呼んでいる
空になった「
こちらに口を向けて嘲り笑い・・・その周りには
自ら命を絶ったかのように砕け散ったグラスの破片が
窓辺から差し込む沈みかけた紅い日差しを受けて微光し
飛び散った血痕を思わせた
何があったのだろう・・・?
虚ろな
輝きを隠し・・・左右を分かつ一本の皹を持った波の滴が
何の表情も伺えないまま、無機質に収まっていた
かける言葉も無く・・・じっと見つめていると
突然あの忘れられない光景が
無作法に頭の中に上がりこみ暴れ出す・・・
・・・昨夜・・・
確かに静寂の海はそこに存在していた
月光を身に纏い、青白く浮き上がり
いつものように優しくかわいい表情を称えて・・・
・・・しかし・・・
波の無い海に・・・何かが動いていた・・・
それは白い滑らかな姿態を上下させ
時折跳ね上がり、背びれや尾びれを海面に見せ
もう長い間、そこが自分の居場所かのように
なんの疑いも無く回遊する・・・
・・・・そして静寂の海も・・・・
それがあたりまえの営みのように
動きに合わせ・・・幾重ものさざ波を起こし
自分にしか見せないと思われた狂おしい表情までも
その無邪気に泳ぐ白いイルカに注ぎ・・・
優しく寄り添っていた
動く事も、叫ぶ事も出来ず
ただ呆然と見つめる事しかできないなか・・・
突如として・・・忘れていた大事な記憶が
荒波のように脳裏に押し寄せた・・・
・・・・そうだった・・・・
・・・・最初から知っていたんだ・・・・
静寂の海は、もう長い間この暮らしを続けていた事を・・・
知っていたから、最初の【さざ波】に触れた時
思わず後ずさりして・・・自制したはずだった
・・・・なのに・・・・
いままでの生き方を覆すような
あまりにも素直で、明るい笑みと
控えめさと積極さを合わせ持つ
狂おしいほど切ないしぐさと甘い囁きに
愛おしさが信じられないほど深く・・・深く・・・浸透し
溢れ出る喜びと幸福の波が・・・
深海に沈めた玉手箱のように
真実の記憶をずっと眠らせてしまっていた
夕闇に包まれた部屋の中
引き上げられ、えぐり出された現実に
戸惑いと恐怖・・・空しさと後悔が交差し
嗚咽の高まりに萎縮し始める身体と戦いながら
祈りにも似た想いで
傷ついた波の滴に両手を這わせ
・・・・明日の約束の日を前に・・・・
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