第7波【破約】

青い巻貝を耳に這わせ


幾度と無く寝返りを繰り返えす・・・


ベッドへ注ぎ込まれた月明かりは


その乱れた四角い布に陰影を作り


幾重にも打ち寄せる波のような模様を浮き上がらせた




足の小指には


月光を受け、安心しきった様子で


眠るように爪に収まっている波の滴




それを確認すると


青い巻貝を握り締め


部屋を抜け出すと


いつものように裸足のまま


月明かりに照らされた入り江へと続く道に足を向ける




月光を身に纏い


くったくのない


素直な笑顔を思わせる


そんな静寂の海を心に抱きながら


入り江の入り口にさしかかろうとした時・・・





小指に小さな痛みを覚え足を止める





戸惑いながら視線を落とすと・・・




そこには何かを訴えたがるように


悲しげに震えながら


小さく輝く波の滴が・・・


そしてその輝きは左右わずかに違って見えた




不安に駆られながら目を凝らすと・・・




滴の真ん中には一本


左右を分かつ皹が入っていた




動揺の高まりは鼓動の速さを加速させ


痛む小指を抱えつつも


足早に入り江の入り口に近寄よる




そこには月光を纏った静寂の海が・・・


 




・・・・・・・・・・・・・・






全身の血が急速に冷たくなる・・・


両足が凍ったように次の一歩をねじ伏せ


呼吸の苦しさと、冷たい汗の滲みを感じさせながら




そこに写し出される光景をただ見つめるしかなかった・・・




自制できず・・・約束とは違う日に


ここを訪れてしまった後悔に打ちのめされながら・・・

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