第10話 願い事
「これ、時計みたいだね」
ピーノが棒の周りをくるくる回りながらスキップしています。
「よく知ってるね。日時計っていうんだよ。これもそうなのかな? 今は何時だろう」
ダッフルさんも近づいてきます。
そのときです。
「日時計じゃないよ」
棒の真下辺りから声がします。
よく見ると、カブトムシくらいの小さな男の子がこちらを見上げています。
ピーノは珍しい虫を見つけたときのように勢いよくしゃがむと、上気した顔で呼びかけます。
「こんにちは! 私ピーノ」
「大きな声でしゃべらなくても聞こえるよ。まったく」
そう言いながら男の子はぐんぐん大きくなって、ピーノより少し大きいくらい背丈になりました。
「ふう。ここに隠れておまえらを見てたんだが、この小ささだといろいろ面倒くさくてな。あ、俺の名前はパルだ。こう見えてもおまえらよりもずっと年上だからな」
パルは、よれよれになったジーンズとハイカットのスニーカー、だぶだぶのスモックのような上着を着ています。金色髪に水色の瞳がすてきだと思ったピーノはパルをじろじろと見つめます。
「な、なんだよ、おまえ」
「おまえじゃないよ。ピーノだよ」
「オーケー、ピーノ。話は簡単にすませよう。あんたもだ」
パルはダッフルさんを指でさしながら言います。
「よくここまでたどりついたな。ここがゴールだよ。この島はさる大魔法使い様が作った不思議な島だ。まれにここにたどり着いた人間には、ごほうびとしてほしいものをお持ち帰りいただくことになっている。さあ、金でもごちそうでも、ドレスでも好きなものを言えよ。出してやるから」
パルはちっとも楽しくないという表情で淡々と話します。プレゼントってお互いにもっとわくわくしながらあげるものじゃないのかしら、とピーノは思いました。
ピーノがいままでプレゼントしてきたものは、ぴかぴかに磨いた大きなドングリやレンゲで編んだ花冠、3日かけて描いた似顔絵などです。その人の喜ぶ顔が見たくて一生懸命作りました。そして、だれもがそのプレゼントにはたくさんの時間と手間と気持ちが詰まっているのがわかり、目を輝かせて喜んでくれました。
ダッフルさんも、パルの急な申し出に目をぱちくりしています。声を出すのも忘れてしまったようです。
「この島はなんていう名前なの。他に誰か住んでいるの。大魔法使いってどんな人?」
ピーノは全く関係ないことを聞き始めました。知らない人にものをもらってはいけないと言われていたし、それより大魔法使いという言葉に心惹かれました。
ダッフルさんよりもすごい魔法使いなのかしら、怖い人なのかしら、どんな魔法が使えるのかしら、と考えたら興味がとまらなくなったのです。
「うるさいな、チビのくせに。つべこべ言わずにほしいものを言えってば」
パルは焦っているようです。なぜでしょう。願い事を早く言ってほしくて仕方がない、という感じです。
「君はなにを急いでいるのかな。もし、僕たちが願い事を言わなかったらどうするんだい?」
ダッフルさんはちょっと意地悪をして聞いてみました。
「いや、それは困る!」
思わずパルは叫びました。
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