第3話 楽しい船遊び

その日は、まだ3月だというのに、とても暖かい日でした。空はぴっかりと晴れていました。今から考えると、ちょっと怖いくらい空が高い、よい天気でした。


「ピーノ、今日はなんていい日なんだろうね!」


めずらしくぱっちりと起きたダッフルさんは、嬉しそうに窓を開けます。


「そうだね、お父さん。飛べそうなくらい青い空だよ!」


ピーノも思いっきり深呼吸をします。


「こういう日はピクニックかな?」


ほら、もうダッフルさんはピーノと遊びたくてウズウズしています。


「山登りも楽しいよ。山で鳥と遊んだり、果物を取ったりしたいな」


「いいねえ、美味しいものが食べたくなったよ。そうだ! 海までサイクリングして、魚釣りはどうだい」


ダッフルさんが提案すると、ピーノはクルクルした目をさらに大きく開いて叫びます。


「すてき! 夕飯のお魚もたくさん釣ろうよ」


2人は急いで顔を洗って着替えた後、いつもの倍の速さで食事を終えると、食パンにチーズを挟んだだけのサンドイッチと、毛布とタオルを持って、自転車に飛び乗りました。


商店街のカッサンさんの店で釣り餌を買って、2本の釣りざおを借りました。おやつのポテトチップス1袋と大きなゴミ袋、細いロープも買いました。

それらを、手品道具がたくさん入るダッフルさんの大きな鞄に詰めて、海まで2人乗りです。


「おとうさーん、風がお花の匂いだね」


ピーノが背中につかまりながら叫ぶと、ダッフルさんも目を閉じて鼻をクンクンさせます。


「この匂いは……バラかな? パンジーかな?」

「おとうさん! 目をつむっちゃ、あぶないよ」


慌てて叫ぶピーノですが、ダッフルさんは自転車をフラフラ運転しながら、笑いだします。


「大丈夫さぁ、おとうさんは魔法使いだからね!」


ピーノは、赤ちゃんのときからダッフルさんの手品を見てきました。新しく考えた手品をピーノに披露しては「どーら、覚えたての魔法はすごいでしょう」と言うのです。

また、ピーノが頼めば、ダッフルさんはどんな手品でも、何度も見せてくれました。


そのおかけで、ピーノはダッフルさんのことを何でもできる魔法使いだと思っていました。

けれど、お母さんが亡くなったときに、お父さんの魔法でもどうにもできないことがあると知りました。


それはとてもショックでした。


自分を楽しませる魔法なんてもういらないから、お母さんを助ける魔法だけをかけてほしいと、ダッフルさんに泣いて頼んだのですが、お母さんは1人で天国に行ってしまいました。


それ以来、ピーノはダッフルさんに魔法を見せて欲しいと言うことはなくなりましたが、相変わらずダッフルさんのことは大好きでした。


ピーノは少しだけ大人になったのかもしれません。

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