第14話 チのくにの国へ


「この声……」


ピーノだけでなくダッフルさんにも聞こえたようです。


「うるさいうるさい、おまえらはあの方を起こしてしまった。おれはあの方の所へおまえを連れて行かなきゃなんねえ。なんてこった。おれはまだ126年しか生きてないのに」


パルは泣いたり怒ったり大変です。

しかし、しばらくすると心を決めたように強い目をして言いました。


「あの方が来いって言ってるんだから、つべこべ言わずに行く。おまえも願いを叶えたいなら、強い気持ちをもて。弱気になればおれたち2人とも危険だ。わかったなピーノ」


初めて名前を呼んでくれたな、と思いながらピーノはワクワクするような展開に目を輝かせました。


「あのー、話がよく見ないんだよね。これからどこに行くんだい」


ダッフルさんは驚かさないように、2人の盛り上がった心に水をささないように、慎重に聞きました。


「こんなことはいままでなかったが、ピーノの願い事はあの方のお耳に届いた。だから、おれとピーノはこれからあの方の所まで行ってくる。この命令は絶対に拒否できない。だから、おまえはここで留守番だ。なーに、何十年かかっても大丈夫。はなっからこの島は時間が止まってる。何か不都合があったら、おれの仲間に頼め。おれたちが戻ってくるまで眠らせてやることもできるし、飢えることもない」


先ほどまでふてくされて泣いていたとは思えないほど、凛とした態度でした。


「長い旅になるかもしれないから、この袋を貸してやる。必要なものをここに入れて、背負うんだ」


パルの指示に従ってマッチやろうそく、ロープなどをダッフルさんのカバンから袋に詰め替えると、準備は整いました。

その間にダッフルさんはピーノに絶対にここで待っているから帰ってくること、いつでも希望をもって進むことを話しました。そして、パルの言うことをよく聞いて、自分の頭で考えるように、と小さな声で付け加えました。


「よし。ピーノ、その棒を右に3回、左に6回まわして、てっぺんを叩け」


パルが偉そうに胸を張って指示をします。

ピーノがパルのいうとおりにすると、日時計のようだった棒はすっと地面に吸い込まれていき、その穴が広がり始めました。

中をのぞくと下へ向かう階段が続いており、5段目くらいから先は真っ暗です。


「ほほう、これは魔法だな。たいしたものだ」


ダッフルさんはニコニコしています。


「ふ、ふん。このくらいは魔法のウチにも入らない。これからもっとすごいことが待ち受けているんだからな。さあ急ぐぞピーノ、〈チのくにの国〉へ出発だ」


ピーノは、生まれてから一度もダッフルさんと離れたことがありません。急に黒い不安が押し寄せてきました。本当に何十年もかかったらどうしよう。

その間、ダッフルさんはどこかに行ってしまわないだろうか、お母さんのように二度と会えなくなったりしないだろうか、と。


「お父さん、行ってもいいの?」


「お父さんもついて行きたいけど、ダメみたいだね。なんだかわからないけど、君たちなら大丈夫な気がするよ。お父さんの魔法の袋を預けるからお母さんに会えたら、見せてやってくれないか」


ダッフルさんは、いつも大切に持っている小さな革袋をピーノのオーバーオールの胸ポケットに入れました。


するとピーノは心を決めたのか、前歯の一本抜けたとびっきりの笑顔を見せました。


「行ってきます!」


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