第13話 唯一無二の願い事


願い事を押しつける妖精なんて聞いたことがありません。

早く願い事をいわないと食べてしまうぞ、という悪魔なら絵本で見ました。もしかしたらパルは悪魔の手先なのかもしれません。


「やっぱりいいよ。願い事を聞く代わりに、大事なものをよこせ、とかいうんでしょ。私こわいからいい」


口に出すとどんどん怖くなってきました。

おびえたピーノを心配したダッフルさんも、ピーノの手を取り、来た方向に帰ろうとします。


「ごめん。そういうわけじゃないんだ。本音をいうと、この島の秘密を見られずに早く帰ってほしいってだけだ。あんた達をどうにかしようとか思ってるわけじゃない。いままでこの島の噂を信じてきたヤツは、金目のものを出せば『この島は、海賊の宝の隠し場所だ!』と狂喜乱舞して、金をかき集め、それ以上考えもせずに帰ってくれる。でも、おまえらはそんなものに見向きもせず、どんどん探検してくる。困ってるのはこっちさ」


太い眉毛を八の字に下げて、パルは本当に弱り切った顔で告白しました。


「この島の秘密っていうのは、そんなに重大なのかい」


「そうだね。おまえら人間が係わることじゃないことは、確かだ」


すべてを知っているような厳しい口調で言い放つパルは、見た目ほど若くないどころか、ずいぶん長い期間ここを守って生きてきたんだと思わせるほどの疲れた影が見えました。ピーノはパルがかわいそうになってきました。


「でも、本当に願い事なんてないのよ。お金や食べ物は自分達で手に入れるべきだっていうのがお父さんのキョウイクホウシンみたいだしね」


ダッフルさんはこれを聞いて、〈そのとおり!〉と言わんばかりに親バカな顔をして頷いています。


「まあ、強いていうならこれしかないわ! 『お母さんにもう一度会わせて』ってことくらいだけど、いくら、なんでも、これ、ばかりは…ね……?」


というピーノの声がだんだん小さくなったのは、パルの表情が凍りつき、真っ青になったり、真っ赤になったり、最後には白くなってしまったから。


「な、なんてことを口にするんだい! おまえ、取り消せ、いまの言葉を取り消せ」


「ひどいよ、私やお父さんが、どんなにお母さんを愛していたか知らないくせに」


ピーノは大声で抗議しました。


「ダメだダメだそれだけはダメだ。そういう願い事は、違反だずるいぞ」


パルは止まりません。地団駄を踏んで、両手を振り回して怒鳴ります。


そのときです。


〈連れてきなさい、ここまでこられるのなら。かなえてあげよう、その願い〉


風に音に紛れて、途切れ途切れの声がしました。空から? 地底から? でもとても硬質な、威厳のある声でした。


そしてパルはとうとう、地面に体を投げ出して、大声で泣き出してしまったのです。

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