ACT.8 Mika Midou's May
01 《アトミック・ガールズ》五月大会
五月の第三日曜日――《アトミック・ガールズ》五月大会の当日である。
御堂美香は天覇館東京本部の面々とともに、試合会場である『ミュゼ有明』に乗り込むことになった。
その中には、美香が心から敬愛する来栖舞や、後輩門下生である高橋道子も含まれている。その他にも、師範代や指導員やMMAのプロ選手である男子門下生など、美香にとっては恐れ多いぐらいの面々が集結していた。
本日出場するのは、美香と高橋道子である。
そして、美香はフライ級のタイトルマッチ、高橋道子はバンタム級王座決定トーナメントに出場する身であったのだ。それで道場においても、現状で考え得る最強の布陣が準備されたのだった。
「それじゃあ、行こうか」
師範代の言葉に従って、一行は控え室を目指した。
無駄口を叩こうという人間はいない。天覇館東京本部道場に、能弁な人間はあまりいないのだ。他者との会話を苦手にしている美香にとっても、それはありがたい話であった。
たとえ会話は少なくとも、美香は彼らに絶対の信頼と敬愛の念を抱いている。もっとも尊敬する来栖舞が高橋道子のセコンドになってしまったのは残念な限りであったが――その代わりに師範代がこちらのチーフセコンドになってくれたのだから、たとえ美香が能弁家であったとしても文句を言えるものではなかった。
そうして控え室に到着しても、こちらの静謐な空気が壊されることはない。本日は新宿プレスマン道場や横浜ドッグ・ジムとは別の陣営で、天覇ZEROや四ッ谷ライオットの選手も出場しないためか、控え室には静かな熱情だけがこもっていた。
「東京本部のみなさん、お疲れ様です」
そのように挨拶をしてきたのは、天覇館竜ヶ崎支部の面々である。本日はそちらの所属である後藤田成美がプレスマン道場の猪狩瓜子と対戦するのだった。
「今日はおたがいに正念場ですね。いい結果を残せるように、頑張りましょう」
竜ヶ崎支部の師範である人物が、そのように呼びかけてくる。
それに「はい」と応じたのは、来栖舞であった。
「言うまでもなく、猪狩くんは強敵です。成美も、どうか頑張って」
後藤田成美は精悍なる面持ちで、「押忍」とだけ答えた。
彼女は猪狩瓜子と二回もタイトルマッチを組まれながら、どちらも負傷欠場することになってしまったのだ。しかし、そんな無念の思いも闘志に昇華して、試合に集中しているようであった。
そうして一行が手荷物を片付けていると、廊下のほうから賑やかな気配が伝えられてくる。
やがて姿を現したのは、天覇館柏支部の面々と――そして、かつて福岡支部の所属であった鬼沢いつきであった。
「おう! 天覇んお仲間が居揃うとーね! 誰も彼も、今日はよろしゅうな!」
まずは鬼沢いつきが、豪放な笑顔でそのように声を張り上げた。賑やかな気配の正体は、彼女であったのだ。
ごつごつとした顔立ちで、短い髪は金色に染めている。そして黒地のウェアに隠されたその肉体に和柄のタトゥーが刻まれていることを、美香は知っていた。彼女は美香とともに、かつて『アクセル・ロード』に招聘された身であるのだ。
彼女は遠方の住まいであったため、これまで《アトミック・ガールズ》に参戦したことがなかった。
しかしこのたび、東京近郊に住まいを移すことになり――そしていきなり、バンタム級王座決定トーナメントに抜擢されることになったのだ。天覇館の関係者にそれが通達されたのは、先月の下旬のことであった。
もともと彼女は、東京本部道場への移籍を希望していたらしい。
だが、それと同時に《アトミック・ガールズ》への出場を打診したところ、こちらの所属である高橋道子と同じくバンタム級王座決定トーナメントにエントリーするように要請されたため、取り急ぎ柏支部に預かってもらうことになったのであった。
「鬼沢さん、お疲れ様です。決勝戦で対戦できるように、頑張りましょう」
高橋道子がそのように声をかけると、鬼沢いつきは豪快に笑った。
「もちろんウチもそんつもりだばってん、そげん相手と同じ控え室ってんな、何だかおかしな心地やなあ」
「二人とも一回戦で勝ち抜いたら、どちらかが控え室を移ることになりますよ」
高橋道子は落ち着いた面持ちで、そのように説明した。
彼女はもともと大らかな気性であったが、試合前には熱くなるタイプである。しかし、大幅な減量に取り組むことで、肉とともに煩悩まで削げ落ちたのだろうか。今日の彼女は沈着で、ただ静かな気迫を双眸にみなぎらせており――まるで、現役時代の来栖舞さながらであった。
それはきっと、外見の変化も関係しているのだろう。百七十二センチの身長で七十五キロというウェイトであった時分はぱんぱんに肉が張り詰めており、どこか力士めいた風貌であったのだが、現在は顔も身体も厳しく引き締まり、現役時代の来栖舞を思わせる姿になっていたのだ。
彼女は平常体重を六十七キロまで落とし、さらにドライアウトで規定の六十一キロまで絞った。そして昨日の計量の後にリカバリーして、本日の朝の数値は六十六・八キロであったという。まずは、理想的な数値と言えるはずであった。
(来栖さんも現役時代は、ベストウェイトが六十六キロでしたものね。それで身長も二センチしか変わらないし……きっと骨格なんかも、もともと似ていたんでしょう)
もしかしたら、彼女こそが来栖舞の正統な後継者であるのかもしれない――このひと月半ほどで、美香はそのような思いに至ることになった。ただ外見が似てきたばかりでなく、彼女はそれぐらい強くなったのだ。かつては美香もスパーで互角の勝負ができていたのに、最近はパワーとテクニックの両面で圧倒される場面が増えてしまっていた。
(自分が来栖さんの後継者になりたいだなんて、そんなおこがましいことを考えていたつもりはないけれど……年長者で、入門もプロデビューもわたしのほうが先だったのに、なんの結果を残すこともできなくて……本当に、不甲斐ないです)
そうして美香がこっそり嘆息をこぼしていると、鬼沢いつきがずかずかと近づいてきた。
「試合前に、何ばシケた面ばしとーとや? そげなとじゃ、勝てる試合にも勝てんよ?」
「あ、はい、すみません……わ、わたしはもともと、意気地のない人間なもので……」
「何ば言いよーとしゃ! あんたがどれだけタフな女かは、アメリカで思い知らされとーけんね! うじうじせんで、胸ば張りな!」
鬼沢いつきはガハハと笑いながら、美香の背中をどやしつけてきた。
彼女はいかにも豪快な人間であるように見えるが、その内側には親切で繊細な一面を隠しているのだ。それもまた、数週間に及ぶ合宿所の生活において知らされた事実であった。
(大して交流もなかったわたしにまで、こんなに気を使ってくれるなんて……鬼沢さんは、なんて優しいんでしょう。わたしには、とうてい真似できません)
美香は陰気で、内向的な人間である。
それがもともとの気性であったのか、生活の中で育まれたものであるのか――おそらくは、その両方なのだろうと思われた。
美香は幼年時代から、人と交わるのが苦手であった。また、周囲の人間も美香の存在を扱いかねていた。美香は生来、無毛症という遺伝子異常の疾患を抱えており、それで余計に他者とのコミュニケーションに支障が生じてしまったのだった。
おまけに美香は、日光アレルギーである。直射日光に素肌をさらすと疼痛が生じて、ひどいときには火傷のようにかぶれてしまう。よって、幼稚園の時代から屋外の活動には参加できなかったし、日に当たらないために肌も病的に白かった。なおかつ、もともと彫りの深い顔立ちで、目などは毛のない眉の下で大きく落ちくぼみ、いっそう陰気な容姿になってしまった。幼年時代には「宇宙人」や、もっと屈辱的な仇名をつけられて、ますます外界が怖くなってしまったのだった。
そんな中、父親によって天覇館の道場に連れていかれたのは、美香が小学四年生の頃であった。美香は体育の授業も体育館内の競技にしか参加できなかったため、体力の衰えが懸念されていたのだ。
「父さんも若い頃は、こちらの道場のお世話になっていたんだぞ。道場には美香をないがしろにするような人間は絶対にいないから、心置きなく稽古を楽しむといい」
父親は、そのように語っていた。
そしてそれは、まぎれもない事実であった。その当時から初老の年代であった師範を筆頭に、道場の人々は美香を優しく受け入れてくれたのだ。
体験入門でその事実を思い知らされた美香は、家に帰ってから何時間も感涙にむせぶことになった。
そして翌日には正式に入門して、すべての熱情を稽古に捧げるようになったのだった。
それからすでに、二十年近い歳月が流れている。
九歳で入門した美香は、今年で二十九歳となるのだ。
この二十年間、美香にとっては家と道場だけが自分の居場所であった。よって、両親が心配するぐらい稽古に没頭することになった。美香はどれだけ道場で力づけられても、居心地の悪い外界で胸を張ることができなかったのだ。それぐらい、美香は脆弱な人間であったのだった。
道場での稽古は、楽しかった。もともと天覇館は柔道と空手の融合というものを目指しており、さまざまな技術を学ぶことができた。さらに実戦で技術を磨くために、その当時から積極的に外部の試合に参加していた。格闘系プロレス団体の《ネオ・ジェネシス》や、のちにはそこから分裂した《フィスト》や《レッド・キング》や《パルテノン》などにも選手を輩出していたのだ。
さらに、遠きブラジルからブラジリアン柔術が輸入され、世間に格闘技ブームというものが広がった際にも、静かに躍進した。日本国内におけるブラジリアン柔術の普及にも力を添えたし、道場内においても積極的にそちらの技術を学ぶように心がけたのだ。
気づけば天覇館は、全国に支部を置くほどの規模に成長していた。
そしてブラジリアン柔術ばかりでなくムエタイやキックボクシングのコーチなども招聘し、さらなる技術の錬磨を目指した。格闘系プロレスをルーツとする総合格闘技がブラジリアン柔術とバーリトゥードをルーツにするMMAに進化した際にも過不足なく順応し、そちらの舞台でも活躍できる選手を数多く生み出した。
そして――そんな折に、《アトミック・ガールズ》が誕生したのである。
その発足に大きく寄与したのは、もちろん来栖舞であった。天覇館を代表する女子選手であった彼女が先頭に立って、《アトミック・ガールズ》を牽引することになったのだ。
幼少の頃から憧れていた来栖舞の躍進に、美香はひそかに胸を躍らせることになった。
それでついに、自らもMMAのプロ選手を志すことになったのだ。
両親は、もちろん反対した。美香のように弱気で内向的な人間が格闘技のプロファイターになりたいなどと言ったら、それは反対して当然だろう。しかし、美香が涙ながらに訴えると、最後には了承してくれたのだった。
「わかった。美香がそこまで言うなら、その思いを尊重しよう。ただ、父さんも調べてみたけれど……MMAのプロ選手というのは、それだけで食べていけるような環境ではないらしい。だから、きちんと高校を卒業して、就職もするんだ。美香の言う《アトミック・ガールズ》っていう団体でも、たいていの選手はそうして働きながら頑張っているようだからな」
美香は心から感謝の言葉を伝えて、親の言いつけに従った。
美香が高校を卒業する年、来栖舞は二十五歳である。格闘技ブームはとっくに終焉し、来栖舞や兵藤アケミ、鞠山花子や清水雅などが、身体を張って《アトミック・ガールズ》の灯火を守っていた時分であった。
当時の美香もすでに入門してから十年近いキャリアであったが、もちろん自分のような未熟者がすぐさまプロの世界で通用するとは思わなかった。それで、水産会社の事務職に就きながら、空いた時間はすべて稽古に注ぎ込んで、さまざまな技術の習得に励んだ。天覇館の公式試合ばかりでなく、柔術やキックの試合にも出場して、《アトミック・ガールズ》に相応しい存在を目指した。
「今の美香なら、プロの舞台でも十分通用するはずだ」
来栖舞からそのような言葉をいただいたのは、二十一歳の春であった。
その頃には、美香の身体もずいぶん逞しくなっていた。もともと長めであった腕には筋肉が盛り上がり、背中などは自分でもびっくりするぐらい広くなっていた。その頃には、もう女性用の衣服を着るのが難しいぐらいであった。
そうして美香は、MMAのアマチュア選手としてプレマッチに出場し――なんとか、勝利することができた。その二ヶ月後にはすぐさま次の試合が組まれて、そちらでも勝利することができた。そして《アトミック・ガールズ》の運営組織であるパラス=アテナから、プロへの昇格を認められることになったのだった。
だがやはり、プロの世界は厳しかった。
ちょうど同時期に、有望なる選手がプロデビューしていたのである。
それは、フィスト・ジムに所属する沖一美であった。
デビュー戦で沖一美と対戦した美香は、あえなく敗北することになった。彼女はレスリングの技術に秀でており、いったんグラウンドで上になったならば絶対に相手を逃がさない屈強さを持っていた。
しかし美香はくじけることなく、さらなる稽古を積むしかなかった。当時の五十六キロ以下級には他ならぬ来栖舞が君臨していたので、死力を尽くしてそれを追いかける所存であった。
技術に磨きをかけるために、美香はキックの世界でもプロを目指した。柔術の稽古にも力を入れて、ひとつずつ昇段を重ねてみせた。
その甲斐あってか、沖一美を除く相手にはのきなみ勝利することができた。
そして、二度目の対戦ではかろうじて沖一美に勝利することもできたのだが――その翌年における三度目の対戦では、また敗北することになってしまった。
なおかつ、美香がそれ以上の実績を積む前に、来栖舞は無差別級に転向してしまった。彼女はミドル級の王者として君臨しながら、同時に無差別級の兵藤アケミを相手取っていたのだが、あちらがどんどん重量を増していったため、ついに自らもウェイトアップに取り組むことになったのだ。
であれば、美香は空位となったミドル級の王者を目指すしかない。
しかしもちろん、最初に挑戦権を獲得したのは、沖一美と別なるベテランファイターであった。なおかつ、沖一美は敗北し、さらには腰を痛めて長期欠場に追い込まれてしまった。
そしてそこに、さらなる難敵も登場した。
レスリングの五輪強化選手だった、秋代拓海である。
彼女との対戦で、美香は敗北してしまった。そして、秋代拓海は力強く連勝の道を辿り、ついに王座を獲得し――そして、《アトミック・ガールズ》から離反して、新たな団体を立ち上げることになった。しかもフィスト・ジムがそちらに寝返り、沖一美も《アトミック・ガールズ》から離脱してしまったのだった。
同じ階級のトップファイターがごっそりいなくなってしまったため、美香もしばらくは対戦の相手に不足した。ミドル級の王座も空位となり、美香はキックや柔術の試合に明け暮れることになった。
それから一年ていどで新団体というものは呆気なく崩壊し、沖一美を筆頭とするフィスト・ジム系列の選手もちらほらと戻ってきたのだが――そこで開催されたミドル級王座決定トーナメントにおいて、美香は初めてのKO負けを喫することになった。ジジ・B=アブリケルという怪物のように強い外国人選手が乗り込んできて、美香や沖一美をなぎ倒し、まんまとベルトをかっさらってしまったのである。
その後は、新たにデビューした羽田真里亜やオリビア・トンプソンといった選手たちとしのぎを削ることになった。
それらの選手には、かろうじて勝ち越すことができた。しかし、沖一美との対戦には恵まれなかったため、美香は「日本人選手でナンバーツー」という扱いであった。
来栖舞の残したミドル級の王座をつかむには、まず沖一美に勝ち越して、さらにはジジ・B=アブリケルにも勝利しなければならない。
それを目標に、美香は血のにじむような稽古を積んだつもりであったが――そこにまた、新たな難敵が登場した。
ユーリ・ピーチ=ストームこと、桃園由宇莉である。
美香はそこで、人生二度目のKO負けをくらうことになった。ジジ・B=アブリケルの右フックによって砕かれた鼻骨を、今度は強烈な膝蹴りによって粉砕され、血の海に沈むことになった。二度にわたる骨折で、美香の鼻筋はいまだに曲がったままであった。
そして――その二ヶ月後には、来栖舞までもが桃園由宇莉に敗れることになった。
当時の美香は、我を失っていたものである。桃園由宇莉というのは奇妙なファイターであり、来栖舞もその頃にはずいぶん故障が重なっていたが、そのような結果は夢にも思っていなかったのだ。
だが、それは決して偶然の産物ではなかった。
桃園由宇莉は、実力で来栖舞を下したのだ。その後の数々の試合でその事実を思い知らされた美香は、ようやく惑乱した心をなだめることができた。
桃園由宇莉がまぎれもない実力者であるならば、それを倒せるように励むしかない。
そんな心持ちで、美香は稽古を重ねることになった。
それからも、《アトミック・ガールズ》は数々の波乱に見舞われて――そして、現在に至る。
相変わらず、美香は勝ったり負けたりの戦績であった。四大タイトルマッチでは鴨之橋沙羅に勝利したが、桃園由宇莉に敗北してしまった。《カノン A.G》にまつわる騒乱においてはジジ・B=アブリケルとマーゴット・ハンソンに勝利したが、鴨之橋沙羅に敗北してしまった。北米の『アクセル・ロード』ではランズ・シェンロンに勝利したが、靭帯損傷が再発して二回戦は棄権することになってしまった。
そして前回の大会では、多賀崎真実に勝利して――今日という日には、鴨之橋沙羅と三度目の勝負を行うことになる。そしてそれが、美香にとって人生で三度目のタイトルマッチであった。
最初のタイトルマッチでは、桃園由宇莉に敗北した。
二度目のタイトルマッチでは、鴨之橋沙羅に敗北した。
鴨之橋沙羅との対戦成績は、一勝一敗だ。なおかつ、美香も彼女も桃園由宇莉に連敗した身であり――桃園由宇莉の長期欠場中である現在においては、もっともタイトルマッチに相応しい組み合わせであるのかもしれなかった。
しかし何にせよ、これは美香にとって古き時代からの目標であった、タイトルマッチとなる。
階級の名称はミドル級からフライ級に変更されたが、五十六キロ以下級であることに変わりはない。来栖舞からベテランファイターに、ベテランファイターから秋代拓海に、そこから一年の空位を経てジジ・B=アブリケルに、ジジ・B=アブリケルから桃園由宇莉に――そして、《カノン A.G》の騒乱における桃園由宇莉の階級変更にともない、また空位となった王座を鴨之橋沙羅がつかみとり、これが初めての防衛戦となるのだ。
さまざまな人間の手に渡った王座であるが、もともと来栖舞が抱いていたベルトであったことに違いはない。美香は今、それをつかむための三度目のチャンスを迎えたところであったのだった。
「何や。うじうじしとーて思うたら、今度は気合みなぎらしてからに。性根ん、ようわからんお人やなあ」
と、再び鬼沢いつきが美香の背中を引っぱたいてきた。
その厳つい顔は、妙に楽しげに笑っている。
「ま、せっかくん試合なんやけん、思うぞんぶん楽しまなね。今日も一日仲良うしてな、魅々香ちゃん」
小心者の美香は、とっさに返事をすることもできなかったが――その代わりに、ぎこちなく口もとをほころばせることになった。
そうして《アトミック・ガールズ》の五月大会は、粛々と開始されたのだった。
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