02 ストライキング・スパー
カフェでのインタビューを終えた後は、プレスマン道場に移動することになった。
瓜子もあまり自由のきく生活ではなかったため、道場における取材も同じ日に詰め込んでいただいたのだ。道場では、コーチ陣や門下生のインタビューと練習風景を撮影される手はずになっていた。
時刻は、そろそろ午後の四時に差し掛かろうかという頃合いである。
ユーリが副業の仕事を終えるまで、あと一時間ていどだ。もちろんユーリへのインタビューも、スケジュールの中に組み込まれていた。
そうして瓜子がインタビュアーと撮影班を引き連れて、プレスマン道場に踏み入っていくと――手前の稽古場では、ジョンがキック部門の選手たちの面倒を見ていた。現在はプロ選手や熱意のあるアマ選手が集まる、自由稽古の時間である。
「押忍。おはようございます」
「ウリコ、おはよー。……ああ、キョウはサツエイのヒだったねー」
ひょろりと背の高いジョンが、いつも通りの柔和な笑みを投げかけてくる。その黒いスキンヘッドも、うっすらと汗に濡れていた。
「押忍。ご迷惑をおかけしますが、どうぞよろしくお願いします」
「ちっともメイワクじゃないよー。ボクだって、ホコらしいキモちでイッパイだからねー」
「では、ジョンさんからインタビューをお願いいたします。その間に、猪狩さんも稽古の準備をしていただけますか?」
彼らはユーリのベストバウトDVDを作製する際にもプレスマン道場を訪れていたため、ジョンとも顔馴染みであったのだ。
瓜子はもういっぺんジョンに頭を下げてから、更衣室に向かうことにした。
そうして着替えを済ませて出てくると、ジョンはすでに稽古に戻っている。関係者に対するインタビューというのは、ごく短いものであるのだ。
「お待たせしました。この時間、MMA部門の門下生は奥の稽古場で練習してるんで、そちらにご案内します」
瓜子の案内で、奥の稽古場へと歩を進める。
そちらでは、立松とキリル氏が稽古をつけており――男子門下生に入り混じって、メイとオルガ選手も汗を流していた。
「メイ選手とオルガ選手もいらしているのですね。よろしければ、そちらの方々とのスパーを撮影させていただけますか?」
「それには本人たちの了承が必要ですね。話を聞いてきますんで、少々お待ちください」
瓜子はまず、立松のもとを目指すことにした。
立松は身振りで瓜子を止めてから、グラップリング・スパーに励んでいるメイへと指示の言葉を飛ばす。
「そら、また力ずくになってるぞ! メイさんの腕力が通用するのは、女子選手を相手にしてるときだけだ! 野郎相手には頭を使え、頭を!」
メイが相手取っているのは、七十キロ級の男子選手である。メイは体格よりもパワーのあるほうであったが、さすがに十五キロ以上も重い相手では分が悪い。赤みがかった金色のドレッドヘアを振り乱し、黒い双眸をぎらぎらと燃やしながら、メイはポジンションを奪い返すべく猛獣のように身をよじっていた。
いっぽうオルガ選手は男子選手に負けない体格であるため、ほとんど互角の勝負を演じている。普通は体重が同程度だと男子選手のほうがパワーでまさるものであるのだが、彼女は日本の成人男性よりも頑強なぐらいの骨格と筋力をしているので、決して力負けしないのだった。
「……そうか。今日は撮影だったな。お前さんも稽古をするなら、今の内に身体を温めておけ」
マットで取っ組み合うメイたちの姿を見下ろしながら、立松がぶっきらぼうに言い捨てた。
「押忍。メイさんやオルガ選手とのスパーを撮影したいというお話なんで、お二人に聞いてもらえますか?」
「このサーキットが終わったら、聞いておくよ。……そら、足もとがお留守だぞ! 顔を潰されても、集中を乱すな!」
立松にとっては、撮影などよりも目の前の稽古のほうが重要であるのだ。
そんな立松の姿勢を心より好ましく思いながら、瓜子は撮影班のもとに舞い戻った。
「手が空いたら、メイさんたちに話を通してくれるそうです。その間に、自分もウォームアップを済ませちゃいますね」
「では、そちらも撮影させていただきます」
瓜子がひとりでウォームアップに励むというのも、ずいぶんひさびさのことだ。なおかつその姿をビデオカメラで撮影されるなどというのは、人生で初めての体験であった。
そうして瓜子が身体を温めていると、立松が汗だくのメイを引き連れてやってくる。
「オルガさんも撮影に協力してくれるそうだが、二人いっぺんにスパーをするわけじゃないだろうから、必要なときに声をかけてくれとさ」
「ありがとうございます。あちらのキリル氏にもインタビューをお願いできますでしょうか?」
「あのお二人は、出稽古に来てるだけなんだぞ? そんな相手にインタビューする必要があるのかい?」
「はい。今日は出稽古の女子選手が勢ぞろいする日だとうかがっていましたので、全員にお話をうかがいたく思っています。猪狩さんの強さの秘訣は、チーム・プレスマンの結束にあるという評判ですので」
「チーム・プレスマン? なんだ、そりゃ?」
「プレスマン所属の女子選手と、出稽古におもむいている灰原選手、多賀崎選手、小柴選手、オルガ選手を含めた一団の、俗称です。ネット上ではそれなりの評判になっているようですが、ご存じではありませんでしたか?」
「そんなケッタイな話は、知らねえな」
瓜子も、初耳の話である。インタビュアーの男性は穏やかな微笑を絶やさぬまま、説明してくれた。
「猪狩さんやユーリ選手は格闘技雑誌のインタビューなどで、出稽古におもむいてくる選手たちとのトレーニングがきわめて有意義であると話されていたでしょう? それが発端となって、チーム・プレスマンという呼び名がつけられたようです。プレスマン道場に関わる選手の多くが立派な結果を残していますので、女子格闘技界の新たな潮流と見なされているわけですね」
「ふん。なんだか、ありがた迷惑って感じがしちまうな。四ッ谷ライオットの人らなんかは、きっといい気がしないだろうぜ」
「でも、灰原選手なんかは、面白がってくれそうじゃないっすか?」
ウォームアップに励みながら瓜子が口をはさむと、立松は「そうかもな」と苦笑した。
「まあ何にせよ、出稽古で来てる人らはお客さんだ。俺たちが口を出す筋合いはないから、交渉は自力で頑張りな。キリルさんには、あとで紹介してやるよ」
「ありがとうございます。では今の内に、立松さんへのインタビューをお願いできますでしょうか?」
「俺かい」と顔をしかめながら、立松はちらりと瓜子のほうをうかがってきた。
「どうぞ自分にはご遠慮なく。ボロクソ言われても、泣いたりはしませんから」
「お前さんが、そんなタマかよ。……インタビューって、何を語りゃあいいんだよ?」
「まず、猪狩さんの印象をおうかがいできますでしょうか?」
「印象……印象なんざ、見たまんまだよ。ま、試合では意外とクレバーに動けるんで、安心したな。私生活とおんなじように猪突猛進だったら、これほどの結果は残せなかっただろうぜ」
「けっこうボロクソ言ってくれるじゃないっすか」
「うるせえ! さっさとウォームアップを終わらせろ! ……まあ確かに、稽古相手にも恵まれてるんだろう。ストライカーにレスラーにグラップラー、インファイターにアウトボクサー、テクニックタイプにパワータイプにスピードタイプと、女子選手だけで網羅できちまってるからな。それでこれだけ熱心に稽古に取り組んでりゃあ、誰でも結果がついてくるだろうよ」
「その中でも、猪狩さんは飛躍的に実力をのばしたという印象があるのですが、その秘訣は何なのでしょう?」
「秘訣なんざ、ありゃしねえよ。こいつはやるべきことをやって、結果を出した。ただそれだけのこった」
「そうですか」と、インタビュアーの男性は物思わしげな面持ちとなった。
「ただ……猪狩さんは対戦相手に恵まれていた、という風評もあるようですね」
「対戦相手に恵まれた? いったい何の話だよ?」
「猪狩さんは去年の初めに灰原選手と対戦した後、代役出場で鞠山選手と対戦しました。それでコスプレ三銃士というくくりでもって、トップファイターたるイリア選手との対戦が決定したわけですね。さらに、正統派の実力者であるラニ選手との対戦を経て、メイ選手との暫定王者決定戦にまでこぎつけたわけですが……対戦相手が一段階ずつステップアップすることにより、猪狩さんも順調に成長できたわけです。普通はこんな風に、綺麗なステップアップは望めないでしょうから――」
「それがラッキーだったとでも抜かすつもりかい? まったく、馬鹿げた話だな!」
と、立松はたちまち沸騰してしまった。
「鞠山さんは、中堅の壁と言われてるお人だろうがよ? それに勝てたんなら、トップファイターとの対戦も当然の話だろ。で、イリア選手は邪道中の邪道だろうが、サキの前の王者じゃねえか。それがどうして、ラニ選手より格下って扱いになるんだよ? それになあ、たとえ対戦相手が順調にステップアップしたところで、実力が足りてなきゃあ途中で負けるだけだろうがよ? こいつには、その全員に勝てるだけの実力があったんだよ! だいたいなあ、このメイさんに連勝できるような選手が、他にいるってのか? そんな選手がいるってんなら――」
「ちょ、ちょっと落ち着いてくださいよ、立松コーチ。そんな喧嘩腰になるような話じゃないでしょう?」
「うん。でも、挑発したのは、そちらのほう」
と、無言であったメイがぽつりと発言した。
「その男性、コーチ・タテマツの本音を引き出したいから、挑発した。あまり、よくないやりかただと思う」
「……大変失礼いたしました。決して挑発しようという心づもりではなかったのです」
インタビュアーの男性は申し訳なさそうに眉を下げつつ、微笑した。
いっぽう立松は、しかめっ面で腕を組む。
「油断のならねえ野郎だな。こっちは大事な稽古をぬけだして相手をしてやってるんだぞ」
「申し訳ありませんでした。ですが、お二人が強い師弟愛で結ばれていることは理解いたしました。猪狩さんも立松さんとお会いするなり、ずいぶんリラックスできたようですしね」
「ええ? そんなことはないと思いますけど……」
「ですが、立松さんのインタビューを開始するなり、猪狩さんは軽口を叩いていたでしょう? 表情も、見るからにやわらいだように感じられます」
そう言って、インタビュアーの男性はにこりと微笑んだ。
「猪狩さんは何よりチームメイトを重んじているご様子ですので、やはりコーチの立松さんに対しては絶対的な信頼を置かれているのでしょう。そして立松さんの側も、それは同様であられるのですね」
「うるせえな! こんなやり口なら、インタビューなんざお断りだ! キリルさんにも、手前で話をつけな!」
立松はぷりぷりと怒りながら、男子門下生のほうに戻ってしまった。
いっぽうインタビュアーの男性は、どこか満足そうに微笑んでいる。
「では、ウォームアップが終了しましたら、メイ選手とのスパーをお願いいたします。立ち技と寝技を一ラウンドずつ拝見できれば、それで十分ですので」
「はあ……でも、立松コーチを怒らせたままでいいんすか? 自分もちょっと気まずいんすけど」
「はい。立松さんには、のちほど謝罪いたします。そして立松さんへのインタビューは、猪狩さんのおられない場所でうかがったほうがよろしいようですね」
なんだか立松との関係性を見透かされたような心地で、瓜子は気恥ずかしくなってしまった。
こんなときには、身体を動かすに限る。瓜子は大急ぎでウォームアップを済ませて、メイとのスパーリングを開始することにした。
まずは立ち技のスパーということで、ヘッドガードにエルボーパッド、ニーバッドにレガースパッドといった防具一式と、八オンスのオープンフィンガーグローブを装着する。その物々しい装備に、インタビュアーの男性は目を丸くした。
「ずいぶん厳重な装備ですね。プレスマンのスパーでは、そちらがスタンダードなのですか?」
「それはスパーの内容にもよりますけど、メイさんとのスパーではこれが標準装備っすね。以前なんかは、これに十六オンスのボクシンググローブだったんすよ」
「それには何か、特別な理由でもあるのでしょうか?」
「メイさんは流すスパーが苦手なんで、これぐらいしないと危ないんすよ。他の選手が相手でも、体重差があるときはこれが標準装備ですけどね」
立松が行ってしまったので、瓜子は自分でタイマーをセットした。
「一ラウンドのみの三分で、首相撲以外の組み技は禁止にしておきましょう。あくまで撮影用なんで、お手柔らかに。……ってのは、難しいんでしょうけど」
「うん。難しい」と、メイは早くも両目をぎらつかせている。メイは瓜子とのスパーを何よりも楽しみにしており――その昂揚感が、いっそうの熱意を招いてしまうのだった。
瓜子がタイマーをオンにして、スパーが開始される。
挨拶のグローブタッチを交わすと、メイはとたんに鋭いバックステップで距離を取った。
その後は瓜子を幻惑するように、前後のステップを繰り返す。そのステップの鋭さは、瓜子の知る女子選手の中でナンバーワンであった。
ただしメイは左右のステップが苦手であるため、現在もその弱点を克服中の身となる。
瓜子は遠慮なく、アウトサイドから踏み込ませてもらった。
瓜子の左ジャブを回避したメイは、凄まじい反応速度でぐんと距離を詰めてくる。
瓜子はカウンターの膝蹴りを繰り出したが、それは左腕でブロックして、右フックを繰り出してくる。メイはアウトスタイルも習得中であったが、本日はインファイトの気分であるようだった。
メイの右フックをブロックした瓜子は、バックステップで距離を取る。
しかしメイは、それを上回る速度で追いすがってきた。
それを予測していた瓜子は、左ジャブで相手の出足を止めようとする。
それをヘッドスリップでかわしたメイは、右のボディブローを繰り出してきた。
左足を引いて半身になることで、瓜子はそのボディブローを回避する。
そうしてスイッチをした瓜子は、至近距離から右肘を繰り出した。
メイは左腕でガードして、自らも右肘を繰り出してくる。
それをガードした瓜子の左腕に、重い衝撃が走り抜けた。
エルボーパッドを装着していても、たいそうな威力である。
こと肘打ちに関しては、まだまだメイのほうが経験でまさっている。彼女は北米で活動していた時代から、肘打ちありのルールで試合に臨んでいたのだ。
いまだに距離が詰まっているために、瓜子は首相撲でメイの頭をとらえる。
しかしメイは腰を落としながら頭を振り、その拘束から脱出した。
いつにも増して、メイは本気のようである。
こうなるともう、瓜子も本気を出さざるを得なかった。
至近距離で足を止め、おたがいに拳と肘を乱打する。
瓜子はそこに膝蹴りも織り込んだが、メイは的確にガードして、反撃の手を返してきた。
瓜子もすべての攻撃をガードできていたが、メイの攻撃は一発ずつが痛い。試合で使うものより倍の重さのグローブであるのだから、拳の破壊力も半減しているはずであるのだが――拳の硬さが、この痛みをもたらすのだろう。よって、同じていどの骨密度を有する瓜子の拳も、同じぐらいの痛みをもたらしているはずであった。
しかしまた、攻撃の回転力でまさっているのは、メイのほうだ。
その分、瓜子はメイよりも多彩な武器を有しているのだが、削り合いでは分が悪かった。これだけスパーを重ねていると、おたがいに攻撃パターンを熟知して、おおよそはガードすることができるのだが――メイは瓜子の倍ぐらいの手数を出してくるため、瓜子のほうがより削られてしまうのだった。
これはあくまでスパーであるのだから、熱くなりすぎる前に距離を取るべきであろう。
しかし瓜子は、そんな気持ちをなくしていた。メイの必死さがひしひしと伝わってきて、それから逃げることが忍びなくなってしまったのだ。それにまた、メイの熱意が瓜子に伝染したという面もあった。
よって瓜子はサイドステップを織り交ぜつつ、パンチの間合いに留まってみせた。
メイの鋭い攻撃をガードして、二回に一回は自分も反撃する。そうしてメイと打ち合っていると、瓜子はどんどん無心になっていった。
(来る……)
メイとのスパーではたびたび訪れる、忘我の瞬間である。
それとも、集中力の限界突破というべきか――瓜子はいまだに、この不思議な感覚をどう呼ぶべきか定められずにいた。
瓜子がスパーでこの感覚に陥るのは、メイか犬飼京菜を相手にしているときのみである。
他の選手は、スパーでこれほど必死になることはないのだ。誰よりも稽古に対して真剣なユーリや、誰よりも熱くなりやすい灰原選手でさえ、スパーではあるていどの抑制をするものであったのだった。
もちろん無心や忘我といったところで、瓜子も意識を失うわけではない。ただ、頭ではなく肉体のほうが正しい道を見出して、その通りに動いているような感覚であった。
その感覚に従って、瓜子は右のアッパーを繰り出す。
メイは頭を振ろうとするが、このタイミングでは間に合わない。右足から左足に重心を移して首をひねる前に、瓜子の拳がメイの下顎にヒットする――拳を出した後に、そういった思考が追いかけてくるのだ。
その正しさを証明するように、瓜子の右拳がメイの下顎をとらえた。
ヘッドガードも下顎までは包んでいないタイプであるため、メイの硬い骨の感触がグローブごしに伝わってくる。
メイは背中からマットに倒れ込み――それと同時に、タイマーのアラームが鳴り響いた。
「おい。撮影用のスパーで、そんな熱くなるんじゃねえよ」
と、いつの間にか戻ってきていた立松が、不機嫌そうな声を投げつけてくる。
マットに半身を起こしたメイは、ぜいぜいと息をつきつつ「うん」とうなずく。
「でも最近、ウリコと本気で打ち合ってなかったから、気持ちを止められなかった。……ウリコ、怒ってる?」
「怒る理由はありませんよ。でも、こういうのは数日にいっぺんにしておきましょうね」
瓜子もまたしたたる汗をぬぐいながら、メイに手を貸して立ち上がらせた。
そうして撮影班のほうを振り返ってみると――誰もが感嘆の面持ちになっている。
「今のは、試合と同レベルの迫力でした。むしろ、先月の試合よりも迫力を感じたぐらいです」
インタビュアーの男性も感心しきった面持ちで、そんな風に言っていた。
瓜子は苦笑しながら、ヘッドガードを頭から引き剥がす。
「それはまあ、先月の試合はギアを上げる前に終わっちゃいましたからね。……っと、ラウラ選手に申し訳ないんで、今のもカットでお願いします」
「ラウラ選手は、猪狩さんの本気を受け止められるのでしょうかね。残念ながら、彼女の力量は……メイ選手に遠く及ばないように思います」
この人物も、本職は格闘技雑誌のライターであるのだ。その面に柔和な微笑をたたえたまま、彼はしみじみとつぶやいた。
「というよりも、トリッキーな技の使い手であるイリア選手ぐらいしか、今の猪狩さんやメイ選手には太刀打ちできないように思います。パラス=アテナさんには何とか財政を立て直して、海外の強豪選手を招聘していただきたいところですね」
「ふん。スパーをひとつ見たぐらいで、ずいぶんな大風呂敷を広げるもんだな」
そんな風に言いたてつつ、立松はどこか自慢げな面持ちだ。
ともあれ――慣れない任務でずっと落ち着かない気分であった瓜子も、メイのおかげで普段通りの意欲と活力を取り戻せたような心地であった。
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