03 二度目の大晦日(下)

《レッド・キング》の過去の試合を視聴したのちは、実に充実した自主トレーニングの時間を過ごすことがかなった。

 ユーリばかりでなく、瓜子もメイも赤星弥生子の怪物じみた強さを立て続けに目の当たりにして、すっかり発奮することになったわけである。


 その中でもひときわ心を動かされたのは、やはりベリーニャ選手との一戦であった。

 八年近くも前の話であるのだから、赤星弥生子もベリーニャ選手も存分に若い。しかし、二十歳前後であったその時代から、両者はまぎれもなく世界クラスの実力を有していたのだった。


 その時代は、赤星弥生子もまだ古武術スタイルを体得していなかったらしく、ごく真っ当なMMAのスタイルで試合を行っている。ベリーニャ選手はベリーニャ選手で得意のボクシングスタイルが確立されておらず、いかにも柔術家らしい寝技主体のファイトスタイルであった。

 しかしそれでも、二人は大した実力であったのだ。


 赤星弥生子はストライカーで、その打撃の鋭さは現在に見劣りしないレベルに達していた。柔術家であるベリーニャ選手はその卓越した打撃技にたいそう苦しめられていたものの、ひとたびグラウンド状態となれば無類の強さを見せつけた。しかしそれでも両名は、相手の得意なフィールドでも決して屈しないディフェンス能力と精神力を有していたのだった。


 スタンドでは赤星弥生子が圧倒し、グラウンドではベリーニャ選手が圧倒する、一進一退の攻防である。古い時代の粗い映像でも、客席に凄まじいまでの歓声がわきたっているのが確認できた。

 そうして両名は、魂を削り合うような攻防を最終ラウンドまで繰り広げ――時間切れの寸前に大怪獣タイムを発動させた赤星弥生子が、地を這うようなアッパーカットでベリーニャ選手をマットに沈めてみせたのだった。


(きっと今の尺度で考えたら、これも未熟で荒っぽい試合って見なされるんだろうな)


 赤星弥生子は寝技の技術が、ベリーニャ選手は立ち技の技術が不足している。そうして得意な分野が逆方向であるために、異種格闘技戦めいた試合となっているのだ。

 しかし赤星弥生子は一流のストライカーであり、ベリーニャ選手は一流のグラップラーであった。赤星弥生子の苛烈な打撃技に怯まないベリーニャ選手の姿と、ベリーニャ選手の流麗な寝技に怯まない赤星弥生子の姿が、見る者の胸を揺さぶってやまないのだ。異種格闘技戦に興味の薄い瓜子でさえ、この一戦には心を震わせずにいられなかった。


「僕、認識を改めた。ヤヨイコ・アカボシ、ベリーニャ・ジルベルトに負けない精神力、有している。事実上、世界一の実力かもしれない」


 メイなどは、そのように語らっていた。


「それに、彼女のニックネームである、裏番長……完全に正しいこと、理解した。ウリコ、北米でMMAの流行が生まれた理由、知ってる?」


「あ、はい。北米で流行に火をつけたのは、やっぱり《アクセル・ファイト》なんだって聞いてます」


「そう。そして、《アクセル・ファイト》の企画を北米に持ち込んだのは、ジルベルト柔術の関係者。彼ら、自分たちの強さを証明するために、《アクセル・ファイト》でトーナメント戦を開催させた。それで、彼らが優勝して、MMAの流行が発生し、ジルベルト柔術の名が世界に轟いた。……そして、その血族であるベリーニャ・ジルベルト、女子選手最強の座をつかんだ」


 見果てぬ何かをにらみ据えるような眼差しで、メイはそのように言葉を重ねた。


「ヤヨイコ・アカボシ、そのベリーニャ・ジルベルトに勝利した。でも、世界で彼女の名前を知る人間、いない。ベリーニャ・ジルベルト、この数年間で栄光をつかんだのに、それに勝利したヤヨイコ・アカボシは、日陰者。すごく……すごく、理不尽だと思う」


「なるほど。日本では、表の『女帝』が来栖選手で、裏番長が弥生子さんだって言われてましたけど……世界規模の目線で見ても、それは同じことなんすね」


 瓜子は赤星弥生子の凛々しい面差しを思い浮かべつつ、そのように答えてみせた。


「つまり弥生子さんは、そんな栄光よりも赤星道場と《レッド・キング》が大事だったってことっすよ。きっと弥生子さんは後悔なんてしていないでしょうから、同情するには及ばないと思います」


「うん。……ユーリとの試合で、彼女の強さも認知されればいいと思う」


 最後には、メイも眼光をやわらげてそんな風に言っていた。


 いっぽう、ユーリであるが――こちらはもう、両名の試合を観戦しているさなかからぽろぽろと落涙し、もう大変な騒ぎであった。最後にベリーニャ選手が敗北した際などは、子供のように号泣してしまったのである。


 ユーリは今でも試合の前日に、ベリーニャ選手のドキュメント番組を視聴している。しかしここ最近は大泣きすることもなく、涙をじんわりにじませるぐらいで済んでいたのだ。おそらくは、「試合に勝てない情けない自分」という部分が解消されたため、多少ばかりは涙腺が抑制されたのだろうと思われた。


 しかし今回は初見となる映像である上に、ベリーニャ選手が負けてしまう内容であったものだから、無茶苦茶に情動を揺さぶられてしまったのだろう。ユーリは全身に鳥肌を浮かべながら瓜子に抱きついて、十分近くも泣き続けていたのだった。


 そうして涙が引いた後は、揺り戻しのように活力を取り戻して、怒涛の自主トレーニングである。いつも元気なユーリであるが、そのときばかりは活火山のごときエネルギーの塊と化していた。


「弥生子殿のものすごさが、あらためて実感できたのだよ! こんな大怪獣様に挑戦できるなんて、ユーリは幸せだぁっ!」


 憧れのベル様の敵討ちを――などという不純な動機ではなく、ユーリは対戦の意欲を燃えさからせていた。あのベリーニャ選手をここまで苦戦させた赤星弥生子に、自分の力がどれだけ通用するのか――ユーリが奮起している理由は、その一点に尽きるようであった。


                 ◇


 そうしてあっという間に時間は過ぎて、午後の六時である。

 五時間ばかりの猛トレーニングでへろへろになった瓜子たちは順番にシャワーを浴びて、夕食の準備に取りかかることになった。

 当然のようにメニューは簡単な鍋物で、ただいつもより高級な肉を使っている。練習用のマットは折りたたみ、空いたスペースに去年購入したコタツを設置して、テレビ放映されている《JUFリターンズ》を観賞しながら鍋をつつくというのは、去年と同じ光景であった。


「今年はサキさんと理央さんも、あけぼの愛児園で年越しだって言ってましたもんね。ちょっとさびしい気はしますけど……でも、あっちで仲良くやれてるなら、何よりっすよね」


「うんうん。きっとおばあちゃん先生を中心に、固く団結できたのだろうねぇ」


 瓜子とユーリは楽しく語らい、メイもぽつぽつとそれに参加した。この顔ぶれで食事をするというのはそんな頻繁にあることではないので、メイはいくぶん気を張っている様子である。

 そんなメイを気づかって、瓜子は何かと声をかけていたのだが――鍋の残りが少なくなってきたあたりで、メイがいきなりぽろりと涙をこぼしたものだから、大いに慌てることになってしまった。


「ど、どうしたんすか? 何か問題でもありましたか?」


「違う。……僕、大晦日に人と過ごす、ひさしぶりだったから……」


 メイは泣き顔を隠すように、深くうつむいてしまう。そうすると、こたつの毛布にぽたぽたと涙がしたたった。

 メイがここまで感情をさらすのは、初めてこのマンションに招き入れた雨の夜以来のことだ。瓜子は精一杯の思いを込めて、その細くてしっかりとした肩に手を置くことになった。


「大晦日にも、実家に帰ることは許されなかったんすか? それはちょっと、心ない仕打ちですね」


「……北米に渡ってから、三年間、実家に帰ってない。その前から、年に一度しか、帰ること、許されてないけど……正確には、もう実家じゃないから」


「いえ。たとえ戸籍がどうなっても、家族であることに違いはないはずっすよ。家族のみなさんだって、そう思ってくれてるはずです」


 メイは実家に経済的な援助をしてもらうために、富豪の養女になることを承諾したのだ。それならば、普通の家族よりもいっそう深い絆で結ばれているはずであった。


「メイさんの家族って、どんな人たちなんすか? よかったら、聞かせてください」


 瓜子がそのように呼びかけると、しばらく押し黙ったのち、メイはぽつぽつと語り始めた。


「……僕の家、六人家族。祖母、父、母、弟、妹、僕、あわせて六人」


「へえ、弟さんと妹さんがいるんすか。さぞかし可愛いんでしょうね」


「うん。だけど、両親がアルコール依存症。弟と妹、食べさせるため、僕と祖母が働いてた」


「えっ! 両親が、お二人ともアルコール依存症なんすか?」


「そう。僕たちの一族、アルコール耐性がほとんどないから、少量で泥酔する。依存症患者、多いこと、社会問題になってる。居住区、アルコールを持ち込むこと、禁止されてるけど……両親、隠れて飲酒してた」


 涙に濡れた目にさまざまな激情を閃かせながら、メイはそのように言葉を重ねた。


「だから、僕の家、破綻してた。祖母も、無理をして、身体を壊して、本当に、食べていく手段がなくなった。……それを救ってくれたのが、今の養父。僕、養子になって、MMAの頂点を目指す代わりに、実家が援助されてる。両親、リハビリ施設に入って、祖母、病気を治して、弟と妹、学校に通えるようになった。……僕、この生活、絶対に壊せない」


「そんな事情があったんすね……メイさんは、本当に立派だと思います」


「……でも、元気になった家族、三年間、会ってない。僕、自分で選んだ道だけど……ときどき、すごく苦しい」


 こらえかねたように、メイはそんな言葉をこぼした。

 胸をしめつけられるような心地で、瓜子はメイの肩に置いた手にぎゅっと力を込めてみせる。


「そういえば、うり坊ちゃんももう二年ぐらいは親御様と会っていない勘定になるのじゃないかしらん?」


 と、ユーリがふいにそのようなことを言い出したので、瓜子は「ええ」と応じてみせた。


「北海道は、あまりに遠いっすからね。ユーリさんもご存じの通り、自分もそれなりに忙しい身ですから」


「ふみゅふみゅ。ならばこの年末年始などは、希少なチャンスだったのじゃないかしらん?」


「いや、まあ、親とはケンカ別れみたいな感じだったもんで……あ、いや、それはもう半分がた解消されたんすけどね。でも、顔をあわせたらやっぱり説教をくらいそうなんで、あんまり気が進まないんすよ」


「にゃっはっは。うり坊ちゃんは格闘技を続けるために北海道へのお引越しを断って、しかもナイショでMMAを始めちゃった立場だものねぇ」


 そう言って、ユーリはにっこり微笑んだ。


「かくいうユーリは愛するパパママを失って、生まれ育ったおうちには血の繋がらない誰かさんしかおりませぬ。よって、アイドルを志しておうちを飛び出してからこの六年間、一度たりとも故郷の地は踏んでおらんのです」


 ユーリが人前で実家のことを語るのは、きわめて珍しいことだ。

 メイは涙をぬぐいながら、上目づかいにユーリのほうを見やった。

 そんなメイに、ユーリはいっそう温かい微笑を向ける。


「ユーリもうり坊ちゃんも、帰るべき場所を見失っております。きっと去年の年末は、サキたんと理央ちゃんもそうだったのでしょう。だからメイちゃまもいつか実家に戻れる日がやってくるまでは、このお部屋で楽しく大晦日を過ごしてもらいたく思うのです」


 メイはおもいきり眉をひそめながら、新たな涙をなめらかな頬に流すことになった。


「やっと落ち着いてきたのに、どうして動揺させるの? ユーリ、意地悪」


「にゃはは。コミュニケーション能力に不足しておりますもので、多少の失礼はご容赦願えれば幸いですわん」


 ユーリはふにゃふにゃ笑いながら、思い出したようにテレビのほうを振り返った。


「むーん。テレビもすっかり、BGMと化しておるねぇ。殿方の試合ばかりなので、ユーリは最初から興味薄だったわけだけれども……昨年以上に心が浮き立たないのは、お昼にものすごい試合模様を堪能してしまった反動かしらん」


「それも関係あるのかもしれませんね。今年はパっとしない試合が多いみたいですし」


 メイに復調の時間を与えるべく、瓜子もユーリの雑談に加わった。

 が、メイはぐしぐしと鼻をすすりながら、自らも声をあげてくる。


「《JUFリターンズ》、《アクセル・ファイト》が有望な選手を探すためのイベントだけど……マッチメイクの半分は、視聴率を稼ぐため、日本のプロモーターに任せてる。結果、玄人向けの地味な試合と、素人向けの空虚な試合、入り乱れているように思う」


「なるほど。去年のメイさんとベリーニャ選手の一戦は、もちろん《アクセル・ファイト》の企画っすよね。あれが実現してれば、玄人も素人も盛り上がってたと思います」


「うん。今年、《アトミック・ガールズ》、問題が生じてなければ、ウリコとユーリ、オファーがあったはずだから、残念」


「それはどうでしょうね。まあ、こんな大きな会場で試合をできたら嬉しいっすけど」


「うんうん。ユーリも昨日のライブでは、格闘技でもこれぐらいお客さんが来てくれたらなあと夢想しておったよ」


 そんな風に言葉を交わしている間に、メイも少しずつ元気を取り戻していった。

 やがて《JUFリターンズ》はベリーニャ選手の兄たるジョアン選手の勝利で締めくくられ、鍋の中身も空になる。そうして瓜子とユーリがキッチンで後片付けをしてリビングに戻ってみると――メイはこたつに首までうずまって、泣き疲れた子供のように眠ってしまっていた。


「ありゃりゃ。こたつで眠るのは至高の心地好さだけれども、お風邪を召されたりしないかしらん?」


「こたつで眠ると風邪をひくってのは、こたつの中と外の温度差が原因だって聞いたことがありますよ。とりあえず、暖房を強めてこたつの温度を下げておきましょうか」


「うんうん。無理に起こすのは忍びないほど、かわゆらしい寝顔だものねぇ」


 瓜子はメイを初めてこのマンションにお招きした日にも、この寝顔を拝見したことがある。普段はやたらと表情を引き締めているメイであるため、無防備な寝顔はたいそうなギャップが生じるのである。


「本当に、赤ん坊みたいな寝顔っすよね。……でも、知ってました? ユーリさんも、寝てるときはこういうお顔なんすよ」


「にゃっはっは。そんなお言葉は、のしをつけてお返ししますぞよ。うり坊ちゃんの寝顔なんて、赤子をも凌駕するあどけなさなのだからね」


「やめてくださいよ。恥ずかしいじゃないっすか」


「ユーリは愛情たっぷりのカウンターを返しただけですぞよ」


 瓜子とユーリはひそやかに笑い合いながら、自分たちもこたつに足をうずめることにした。


「日中は普段と変わらない騒がしさでしたけど……なんか、年末っぽくなってきましたね」


「うんうん。去年なんかもサキたんが理央ちゃんを寝かしつけてる間に、うり坊ちゃんとしんみり語り合ったねぇ」


「懐かしいっすね。もう何年も昔の話みたいです」


「そうだねぇ。あの頃はあちこちケガしてて、本当にちゃんと復帰できるか不安でたまらなかったにゃあ。……うり坊ちゃんがいてくれなかったら、きっとユーリは絶望のズンドコであったぞよ」


 こたつのテーブルに両手で頬杖をついたユーリは、幸福でたまらないような微笑みを瓜子に向けてくる。

 瓜子もまたしみじみとした幸福感を噛みしめながら、そんなユーリに笑顔を返してみせた。


「話が飛びますけど、ユーリさんってご自分の戦績を把握してます?」


「戦績? いーや、じぇんじぇん」


「ユーリさんの今年の戦績は、七戦全勝っすね。これまでの戦績と合計すると、十五勝十一敗一引き分けです」


「ほうほう。ならば、うり坊ちゃんは?」


「自分は、八戦全勝です。合計は、九勝一敗っすよ。去年はサキさんと小柴選手としか対戦してませんからね」


「サキたん以外には全勝かぁ。しかも今年は全試合KOなのでせう? これはモンスター扱いもやむなしだねぇ」


「ユーリさんだって、KOか一本のどっちかじゃないっすか。寝技でも立ち技でも勝てるほうが、よっぽどすごいっすよ」


 ユーリが本年に対戦したのは、マリア選手、沖選手、魅々香選手、ジジ選手、オルガ選手、青田ナナ、タクミ選手という顔ぶれである。日本人選手のトップスリーを撃破してタイトルを奪取し、そののちはひとつ上の階級の強豪を撃破してみせたのだから、去年にも劣らない戦績であるはずであった。


 かくいう瓜子は、灰原選手、鞠山選手、イリア選手、ラニ・アカカ選手、メイと二連戦、イリア選手とのリベンジマッチ、そして一色選手という顔ぶれであったから――最後の一色選手を除けば、存分に誇れる戦績であろう。灰原選手は若手のホープ、鞠山選手は中堅の壁といった立ち位置であったものの、瓜子自身がデビュー二年目の新米選手であったのだから、いずれも格上の相手であったのだ。


「それでついつい忘れがちですけど、自分もユーリさんもタイトルを取ってるんすよね。《カノン A.G》のベルトもアトミックのベルトに戻してくれるっていう話ですし……タクミ選手や一色選手はさておくとして、ジジ選手やメイさんに勝って戴冠ってのは、ものすごい栄誉だと思いますよ」


「おー、それは確かに失念していたねぇ。そっかぁ。ユーリはアトミックの王者だったのかぁ。去年の頭には想像もつかない立身出世でありますにゃあ」


「それを言ったら、自分こそです。……ユーリさんがそんなに頑張るお人なもんだから、自分も頑張らざるを得なかったんすよ」


 そう言って、瓜子はもうひとたびユーリに笑いかけてみせた。


「今年は色々な人たちとお近づきになれて、本当に楽しい一年でしたけど……やっぱりユーリさんの存在あってこそです。本当に、ありがとうございました」


「えー? なんか、お別れの挨拶みたいに聞こえちゃって、不安を禁じ得ないユーリなのですけれども……」


「だったら、来年もよろしくお願いしますってつけ加えますね。来年も、今年に負けない充実した一年を目指しましょう」


 ユーリは天使のように微笑みながら、右の拳を瓜子のほうに差し出してきた。


「来年もずーっとうり坊ちゃんと一緒にいられたら、その目標は呆気なく達成できるのです。となると、うり坊ちゃんに愛想を尽かされないように頑張るというのが、ユーリの目標になりそうなところですにゃ」


「だったらそれも、呆気なく達成できちゃいそうですね」


 瓜子は限りなく温かい気持ちで、ユーリの白い拳に自分の拳をタッチしてみせた。

 そうして瓜子とユーリが迎えた二度目の大晦日は、昨年にも負けない温もりと充足感を宿しつつ、とても平穏に過ぎていったのだった。

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