04 赤鬼ジュニアと魔法少女

 ようやく屋台の料理を購入した瓜子たちがリングサイド席に着席すると、それを待ち受けていたようなタイミングで開会式が始められた。

 司会者は、かつて赤星大吾のフリークであったというお笑い芸人、マスター神松なる人物だ。その野太い声に招かれて、二十名の選手がケージの試合場の周囲に集結した。


 本日、瓜子が注目しているのは、四試合。

 第一試合の、大江山すみれ vs 成沢未来なりさわ みき

 第三試合の、まじかる☆あかりん vs 保坂昭雄ほさか あきお

 第五試合の、バニーQ vs 豪山ごうざん

 そしてメインイベントの、赤星弥生子 vs マリア。


 以上の、四試合である。

 本日は青田ナナやレオポン選手が出場しないため、他には注目している選手も見当たらなかったのだった。


「あれ? 天覇館の成沢って、アトミックの浜松大会にも出てなかったっけ?」


 小笠原選手がそのように言いたてると、魅々香選手が「は、はい」と応じた。


「か、彼女は浜松でも大江山という選手に敗れてしまったそうです。そ、それでリベンジをするために、《レッド・キング》に出場依頼を出したそうですね」


「なるほどねぇ。アタシはウォームアップしてて、その試合をちゃんと観てなかったんだけど……猪狩とかは、覚えてる?」


「押忍。成沢選手が先にダウンを奪ったんすけど、その後にカウンターをくらって、一ラウンドKOでしたね」


 それはまだ《アトミック・ガールズ》が平穏であった時代、瓜子が代役出場で鞠山選手と対戦した日のことであった。瓜子はその大会の直前に《G・フォース》の試合会場で大江山すみれを紹介されたため、その試合もそれなりに注目していたのだった。


(そっか。その大江山さんを紹介された日に、犬飼さんは《G・フォース》の王者になって、すぐさまベルトを返還したんだよな)


 それからおよそ十ヶ月ほどの時間が過ぎ――大江山すみれは再び成沢選手と対戦し、そして犬飼京菜が観戦している。そして来月には、大江山すみれと犬飼京菜のリベンジマッチが実現するのだった。


(やっぱりアマだと余計に、軽量級の層が厚いよな。邑崎さんにも頑張ってもらいたいもんだ)


 その愛音はユーリのかたわらで、食い入るように大江山すみれの姿を見据えている。愛音もまた大江山すみれには敗北しているので、リベンジマッチが実現する日をうずうずして待ちかまえているのだった。


 そうしてすべての選手が花道を戻り、開会式が終了すると、すぐさま大江山すみれの出番である。

 リングアナウンサーが試合の開始を告げ、防具を纏った大江山すみれと成沢選手があらためて入場してきた。


 雛壇席の客たちは、ほどほどの熱がこもった声援をあげている。本日もそちらはほぼ満席で、高額のリングサイド席は八割方が空席だ。そして瓜子はケージをはさんだ向かい側に、六丸と思しきフードの人物とグティが二人でぽつんと座っている姿を発見した。


 いっぽうエドゥアルド選手も本日は招待客であるそうだが、こちら陣営でオリビア選手と楽しそうに語らっている。この二ヶ月ほどで、ずいぶん親睦が深まった様子であった。


『第一試合、五分二ラウンド! アマチュア・スタンダードルール、四十八キロ以下級、アマ部門オフィシャル・マッチを開始いたします!』


 リングアナウンサーが、元気いっぱいの声でそのように宣言した。


『青コーナー。百五十五センチ。四十七・九キログラム。天覇館静岡東支部所属、駿河の豪腕……成沢、未来!』


 成沢選手は、うっそりと一礼する。瓜子より長身なばかりでなく、骨格もがっしりしているため、なかなかの貫禄だ。それに彼女は、瓜子よりも三歳ばかり年長であるはずであった。


『赤コーナー。百六十センチ。四十七・八キログラム。赤星道場所属、赤鬼ジュニア……大江山、すみれ!』


 大江山すみれは、身長が一センチだけのびていた。

 ヘッドガードの隙間からツインテールを垂らし、にこやかに微笑んでいるのは、いつもの通りだ。


 瓜子がこっそり、斜め後ろのエリアに陣取ったドッグ・ジム陣営の様子をうかがってみると――パイプ椅子にふんぞりかえった犬飼京菜は、ぎらつく目で試合場の両名をにらみ据えていた。


 ルール確認をした両名は、グローブをタッチさせてそれぞれフェンス際まで引き下がる。

 大江山すみれのセコンドは、彼女の父親たる大江山軍造師範代とレオポン選手、それに高校生ぐらいの若き門下生だ。レオポン選手はつい先週、《フィスト》の興行に出場したとのことで、左目の上にカットバンを貼っていた。


 じわじわと高まっていく熱気の中、試合開始のブザーが鳴らされる。

 大江山すみれは、赤星弥生子ゆずりの古武術スタイルだ。拳を腰のあたりに垂らし、すり足で移動するその姿は、何度見ても見慣れなかった。


 いっぽう成沢選手はオーソッドクスに構えながら、慎重に距離を測っている。かつての試合ではカウンターでKO負けをくらったのだから、慎重になるのはわかるのだが――


(でも、そうやって慎重になると、ますます相手の土俵になっちゃうんじゃないかな)


 瓜子はすでに、大江山すみれの試合を五回も見ている。その中で彼女を打ち負かしたのは、犬飼京菜ただひとりであり――犬飼京菜はお得意のファーストアタックで距離を詰め、すぐさまグラウンドに引きずり込んで、見事に仕留めてみせたのである。


 その次に善戦したのは、やはり愛音であろう。息もつかせぬ連続攻撃で追い詰められた大江山すみれは、やむなく古武術スタイルを打ち捨てて、いきなりレスリングのスタイルに切り替えた。それで寝技を苦手にする愛音は、惜しくも敗れることになったのだ。


 そして、成沢選手自身も、かつてはがむしゃらに乱打戦を仕掛けることで、大江山すみれからダウンを奪っている。

 残りの二名、愛音と同じ日に対戦した谷選手や、前回の《レッド・キング》で対戦した高崎選手などは、大江山すみれの古武術スタイルを警戒して慎重に試合を進めようとしていたが、何もできないまま敗れ去ったのだ。


 以上のデータから推察するに、大江山すみれの古武術スタイルにもっとも有効なのは、やはりスピード勝負なのである。あの古武術スタイルはゆったりと動きながら一撃必殺のカウンターを狙うのが真骨頂であるので、まずはそのリズムを崩すことが肝要であるのだろうと思われた。


(だからこそ、ジョン先生も邑崎さんにああいう作戦を授けたんだもんな。大江山さんの間合いに入るのは、怖いことかもしれないけど……そこで勝負できないと、きっと活路はないんだ)


 そんな瓜子の思いもよそに、成沢選手は間合いの外からジャブを振っている。

 しかし大江山すみれが的確に距離を調整しているため、それはかすりもしなかった。

 前回の試合では、大江山すみれのほうから向こうずねを狙った蹴りなどを出していたが、今回はそういった動きも見られない。あれは男子選手が相手であったために、必要な動きであったのだろうか。


 客席からは、早くもブーイング一歩手前の野次が飛ばされる。

 それでも成沢選手は自分のペースを乱さずに、ひたすら届かないジャブを繰り出し続けた。


「なんか、よくない感じだね。ジャブを振って距離を測ってるんだろうけど……逆に、距離やリズムを測られてる感じだよ」


 小笠原選手は、そのように言っていた。

 瓜子も、まったくの同感である。成沢選手が遠い位置で動けば動くほど、大江山すみれに照準を定められているような雰囲気であるのだ。


 そんな中、成沢選手がついに新たな動きを見せた。

 これまでより半歩だけ深く踏み込んで、左のローを出したのだ。


 これもまた、軽い牽制の攻撃であろう。

 ただし、蹴りが届くぐらいの間合いにまで踏み込んでいる。

 それはつまり、大江山すみれの蹴りも届く間合いであるということであった。


 成沢選手の左足は、低い軌道で相手の前足を狙う。

 その間に、大江山すみれの奥足が真っ直ぐに繰り出された。

 腹を狙った、前蹴りである。


 成沢選手の左足は、大江山すみれの右腿を叩いた。

 大江山すみれの左足は、成沢選手のみぞおちにめりこんだ。

 前蹴りはローキックよりも射程が長い上に、大江山すみれはもともと身長でまさっている。よって、大江山すみれの攻撃のほうが、より深くヒットし――防具も関係ない中足でみぞおちを蹴られた成沢選手は、その一撃で沈むことになった。


 大江山すみれはグラウンドに移行しようという素振りも見せず、後退する。

 いっぽう成沢選手は前のめりに突っ伏したまま、腹を抱えていた。遠目にも、その背中が苦悶に震えているのが見える。それを確認して、レフェリーは両腕を頭上で交差させた。


『一ラウンド、二分五秒、フロントキックで、大江山すみれ選手のKO勝利です!』


 観客たちは、目を覚ましたかのように歓声をほとばしらせていた。

 大江山すみれは昂ることなく、にこにこと笑いながら細長い右腕をあげている。

 その姿を見届けて、小笠原選手が愛音のほうを振り返った。


「なるほど、こいつは達人系だ。こんなのが同世代にいたら、さぞかし燃えるだろうね」


「はいなのです! 愛音は闘志がはちきれそうなのです!」


 愛音はすっかり、鼻息を荒くしている。

 愛音がライバル視している大江山すみれと犬飼京菜は、どちらも父親の影響で幼少期からMMAの稽古を積んでいるのだ。武魂会の空手からスタートして、MMAのキャリアが一年足らずである愛音には、なかなかの苦労であるのだろうが――瓜子はまったく、悲観していなかった。


(邑崎さんだって、格闘センスはかなりのもんだからな。大江山さんも犬飼さんもクセモノの部類だけど……邑崎さんなら、正攻法で突き崩せるさ)


 ケージ内ではようやく起き上がることのできた成沢選手が、うつむきながら大江山すみれと握手を交わしていた。

 セコンド陣も、健闘をたたえあっている。ここ最近の瓜子たちには、試合会場でお目にかかれなかった風景だ。《カノン A.G》の舞台で試合後に握手を交わしたのは、後にも先にも瓜子とイリア選手のみであるはずであった。


 そうして大江山すみれと成沢選手が退場すると、今度は男子選手によるアマの試合が披露される。相手はフィスト・ジムの所属で、結果は赤星道場の門下生の判定勝利であった。


 大江山すみれの劇的なKO勝利でわきかえった会場は、またいくぶん空気が弛緩してしまう。

 そんな中、とてもポップでキャッチーな入場曲が流され始めた。

 新進気鋭の若手バンド、『モンキーワンダー』の『スピードスター』という曲である。

 そうして青コーナーの側から、小柴選手の陣営が登場すると――会場に、新たな熱気がわきかえった。


 ひさびさの、魔法少女の登場である。

 しかも、「まじかる☆あかりん」たる小柴選手ばかりでなく、セコンドの鞠山選手と雑用係の女子選手までもが、魔法少女ルックであったのだった。


 小柴選手は水色、鞠山選手は黄色、雑用係はピンク色の、パステルカラーだ。

 開会式では、小柴選手もマントのようなもので試合衣装を隠していたため、会場の人々も大盛り上がりであった。《アトミック・ガールズ》を追っている人間でない限り、このように珍妙な試合衣装は初めて目にするはずであるのだ。


「おやおや? あのピンクの子って、天覇ZEROの門下生かにゃ?」


「ええ。出稽古でお世話になったっすね。喜んでコスプレをするような娘さんには見えなかったっすけど……まあ、鞠山選手の後輩になったのが運のツキなんでしょう」


 瓜子たちが知るその娘さんは、とても控えめな性格で見た目も地味めな高校生の女の子であった。そんな彼女がピンク色のフリフリの衣装を纏って、恥ずかしそうに歩いているのだ。これはもう、気の毒と称するしかなかった。

 いっぽう鞠山選手は元気溌剌で得意のバトンを振り回しており――小柴選手は以前の入場時と同じように、きりりと張り詰めた面持ちであった。


「……気弱なピンクとクールなブルーと陽気なイエローで、まるで計算ずくの設定であるかのようなのです」


 愛音などは、そんな感慨をこぼしていた。

 ともあれ――七月以来の、『まじかる☆あかりん』の復活劇である。瓜子も惜しみない拍手でもって、それをお祝いすることにした。


 ボディチェックを受けたのち、小柴選手は単身でケージ内に踏み入る。

 大歓声の中、赤コーナーから対戦相手が入場してきた。


 対戦相手は、保坂選手。十九歳の大学生で、キックのアマ戦績は五勝一敗。MMAは、これがデビュー戦。――瓜子たちが知るデータは、それのみであった。

 頭は金色に染めあげて、サイドの刈りあげた部分だけが黒い。よく日に焼けていて、シャープな体格をした、いかにも当世風の若者といった雰囲気であった。


 ケージに上がった保坂選手は、にやにやと笑いながら魔法少女の小柴選手を見やっている。

 女相手の非公式マッチと、余裕をかましているのであろうか。

 それならば――小柴選手にも勝機はあるように思われた。


『第三試合、五分二ラウンド、男女ミックス、五十二キロ以下級、アマチュア・スタンダードルール、インフォーマルマッチを開始いたします! ……青コーナー、百五十四センチ、五十一・九キログラム、武魂会船橋支部所属、氷結の魔法少女……まじかる☆あかりん!』


 予想以上の大声援が、客席からあがっている。どうやら《レッド・キング》の観客たちは、こういった演出をこよなく好んでいるようだ。

 しかし小柴選手はきりりとしたお顔のまま、静かに右腕を上げている。その試合衣装とのギャップが、とても可愛らしかった。


 ちなみに、相手に合わせてアマチュア・ルールとなっているが、防具はレガースパッドとニーパッドのみである。ただ、オープンフィンガーグローブが八オンスと重ためで、あとはパウンドと肘打ちと関節蹴りが禁止事項となっていた。


『赤コーナー、百六十三センチ、五十二キログラム、ラウンド五反田所属、褐色のストライカー……保坂、昭雄!』


 いかにもとってつけたような二つ名とともに、保坂選手はそのように紹介された。

 男子選手で五十二キロ以下級というのはかなり軽量であるが、身長もそれ相応でスタイルがいいためか、均整の取れた体格であるように感じられる。そしてやっぱり、小柴選手より九センチも長身であるのに、身体の厚みもまさっていた。


「やっぱ男ってのは、骨格が違うよね。しかも、それなりにリカバリーしてんじゃない?」


 小笠原選手の言葉に、愛音が「はいなのです」と応じる。


「小柴センパイをなめきった顔つきですけれど、身体はきっちり作っているのです。これは油断大敵なのです」


「小柴に限って、油断はないかな。かかりすぎるほうが心配だよ」


 大歓声の中、試合開始のブザーが鳴らされた。

 保坂選手は、キックそのままのアップライトスタイルだ。完全に後ろ足重心で、MMAの対策をしているようには思えなかった。

 いっぽう小柴選手は適度に腰を落としつつ、それでも空手家らしく隙のない構えだ。小柴選手は九月大会にも出場していたため、ブランクの心配も見られなかった。


 保坂選手は、余裕の表情で左ジャブを放っている。

 小柴選手は綺麗なフットワークで、それを回避した。やはり男子選手が相手では、腕でブロックしてもダメージが溜まると考えたのだろう。たとえ同じ階級でも、骨格と筋力の違う男子選手は破壊力がとてつもないのだ。


 と――アウトサイドに回り込んだ小柴選手が、いきなり右のハイキックを繰り出した。

 スカートのような形状をしたキックトランクスの飾りがたなびき、意外としっかり肉のついた右足が、鋭く空気を切る。

 保坂選手はいささかならず虚を突かれた様子だが、それでも左腕できっちりとブロックした。


 が、小柴選手のいきなりの大技に、重心がいっそう後ろに下がっている。

 おそらくは、それが小柴選手の狙いであったのだ。

 蹴り足をそのまま前に下ろした小柴選手は、それを踏み込みとして両足タックルを仕掛けた。


 身長でまさる保坂選手は重心が高く、しかも後ろ足重心で、腰も背筋ものびている。それらの要因が折り重なって、小柴選手の両足タックルは完全な形で成功した。

 さらに、MMAのキャリアが浅い相手はとっさに足を使うこともできず、サイドポジションを許してしまう。

 横合いから相手にかぶさった小柴選手は、肘と前腕で容赦なく相手の咽喉もとを圧迫した。


 保坂選手はがむしゃらに暴れるが、小柴選手の重心は毛ほども崩れない。小柴選手がどれだけ寝技の稽古を積んでいるかは、瓜子も週二のペースで見届けていたし、さらに彼女は天覇ZEROにも同じ頻度で通っているのだ。この数ヶ月、小柴選手は出稽古に出向くほうが多いぐらいだと言っていたのだった。


 ほんの十数秒ていどで、保坂選手の動きが止まる。咽喉もとを圧迫されながらの抵抗であったので、あっさりスタミナが尽きてしまったのだろう。

 小柴選手が相手の脇腹に膝を乗せてニーオンザベリーの姿勢を取ると、保坂選手はいっそう苦しげに身をよじった。

 なおかつ、保坂選手の足はだらしなくのびたままである。やはり彼は、寝技の稽古をロクに積んでいないのだ。


 小柴選手は、そのままあっさりとマウントポジションを確保した。

 パウンドは禁止であるため、まだ何も怖がる必要はないのだが――保坂選手は頭を抱えて、背中を向けてしまった。人間は気弱になると、背中を向けてしまうものであるのだ。


 小柴選手はまず体重をかけて相手の腰を潰してから、相手の咽喉もとに右腕をこじ入れた。

 そうしてクラッチを完成させて、きゅっと力を込めると――相手は両足をばたつかせながら、右手で小柴選手の腕を、左手でマットをタップした。


『一ラウンド、一分八秒、チョークスリーパーで、まじかる☆あかりん選手の一本勝ちです!』


 大歓声の中、小柴選手の右腕がレフェリーに掲げられる。

 まったく危ないところのない、完全勝利に他ならなかったが――そうして勝利をコールされるなり、小柴選手は顔をくしゃくしゃにして泣いてしまった。


「ありゃりゃ。やっぱ男相手ってことで、そうとう気を張ってたみたいだね」


 小笠原選手は、楽しそうな顔でそんな風に言っていた。

 ピンク色の魔法少女があたふたと小柴選手にタオルを届け、黄色い魔法少女は観客を煽るようにバトンを振りかざしている。観客たちは声を張り上げて小柴選手の勝利をお祝いし、それがいっそう小柴選手の涙腺を刺激するようだった。


(そういえば、あたしが小柴選手に勝ったときも、決め手はチョークスリーパーで……しかも、試合時間も六十八秒じゃなかったっけ)


 それは瓜子にとってもMMAのデビュー戦であったため、しっかり脳裏に焼きつけられていた。

 あのときは後進の瓜子にあえなく寝技で敗れた小柴選手が、今回は寝技で勝利した。これはあくまで、戦績にも残らない非公式マッチであったが――それでも、小柴選手の確かな成長を示す一戦であるように思えてならなかった。

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