06 終焉

 瓜子たちは一丸となって、試合場に向かうことになった。

 すべての試合が終了したのだから、スケジュールとしては閉会式だ。しかしそれよりも、瓜子はユーリのもとに駆けつけたいという一心であった。


 青コーナーの側からケージに向かうのは、瓜子と雅選手、魅々香選手と沖選手の四名のみである。ベリーニャ選手とゾフィア選手と宗田選手が病院送りとなってしまったため、わずかこれだけの選手しか残されていなかったのだ。

 ただしその周囲は、頼もしいセコンド陣が囲んでくれていた。立松にメイに柳原、鞠山選手に灰原選手に小柴選手、来栖選手に天覇館のコーチ陣、そして《フィスト》のコーチ陣だ。


 試合場に向かうさなか、来栖選手や鞠山選手が中心となって、何やら熱のこもった打ち合わせがされていた。

 しかし瓜子の心はユーリへの懸念で満たされてしまっていたため、そんな言葉もなかなか耳に入らない。申し訳ないが、面倒な話は立場ある人々におまかせする他なかった。


「瓜子ちゃん、あんたも当事者なんやさかい、知らんぷりはでけへんでぇ?」


 と、雅選手がねっとりとした声音で何事かを耳打ちしてくる。

 瓜子はその言葉をしっかり吟味するゆとりもなく、ただ「承知しました」と答えてみせた。


 瓜子たちが花道に出ると、ざわめいていた客席に歓声があがる。

 ケージの上ではまだユーリが泣きじゃくっており、黒澤代表を筆頭とする運営陣もただ慌てふためいているばかりであった。


 会場は、混乱状態の渦中であったのだ。

 タイトル戦に勝利したユーリがベルトを巻くのを拒み、《カノン A.G》を全否定した。その段階で、時間が止まってしまっていたのだった。


 セコンド陣はエプロンサイドに留まり、選手だけがケージに踏み入る。

 瓜子は真っ直ぐにユーリのもとに駆けつけ、「ユーリさん!」と大きな声をあげてしまった。


 涙に濡れた顔をあげたユーリは、震える指先で瓜子の胸もとに取りすがってくる。

 マットに膝をついた瓜子は、精一杯の思いを込めて、そのピンク色の頭を撫でるしかなかった。


『おやおや、赤コーナー陣営は、ずいぶん寂しい顔ぶれやねぇ』


 ユーリのもとに置かれていたマイクを拾い上げ、雅選手が笑いを含んだ声をあげた。

 ケージの反対側に開かれた扉から、沙羅選手と犬飼京菜が踏み入ってきたのだ。その後に続くのは、外様のマーゴット選手ただひとりであった。


『他の連中は、病院送りかボイコットや。せやけど、これだけ綺麗どころが居揃っとったら、寂しいことはないんちゃう?』


 雅選手から傾けられたマイクに向かって、沙羅選手が陽気な声をあげた。

 エメラルドグリーンのビキニの上からオーバーサイズのTシャツをかぶっただけの、セクシーな姿である。ユーリたちの試合を見届けるために、着替えるいとまもなかったのだろう。その肩に引っ掛けたチャンピオンベルトさえもが、グラビア撮影の小道具に見えてしまった。


 いっぽう犬飼京菜は自前の真っ黒なジャージに着替えて、ぶすっとした顔をさらしている。敗戦のショックからは立ち直ったように見えたが、その目もとには赤く泣きはらしたあとがうかがえた。

 そしてマーゴット選手は、すました顔つきで腕を組んでいる。日本人同士のいがみあいなど知ったことではない、とでも言いたげな面持ちだ。

 それらの姿をざっと見回してから、雅選手は再び赤い唇を開いた。


『沙羅はん、あんたはあのド腐れチームから足ぬけする言うから、こうしておしゃべりを許したってんねん。いまさら吐いた唾呑むことはあらへんよなぁ?』


『あらへんあらへん。せやけど、ウチらは外様やから、取り仕切りは雅はんに任せるで』


『任されたわぁ』と、雅選手はねっとり笑った。

 すると、黒澤代表から指示を受けたらしいスタッフが、マイクを奪い返しに来る。が、雅選手のひとにらみで、スタッフたちは立ちすくむことになった。


『あんたらがしょうもない真似たくらむさかい、こないな騒ぎんなっとるんやろぉ? ド腐れチームは壊滅したんやから、おとなしゅう引っ込んどきやぁ』


 観客らも大歓声でもって、雅選手を後押ししてくれている。

 雅選手は満足そうに笑いながら、ケージの出入り口に白い腕を差し伸べた。


『そやけどうちはおしゃべりが苦手やさかい、取り仕切りはそれに相応しいお人に任せよかぁ』


 舌鋒の鋭さで知られる雅選手であるので、これは冗談口であろう。客席からも、笑い声があげられている。

 そしてそれは、すぐさま歓声に変じることになった。

 エプロンサイドから、来栖選手がケージの内部に踏み入ってきたのだ。


『今日はセコンドに過ぎない身だが、誰よりも長く《アトミック・ガールズ》の舞台で試合をしてきた人間として、出しゃばらせていただくことにした。申し訳ないが、わたしに少しだけ時間をいただきたい』


 寡黙な来栖選手がマイクを取ることは、きわめて珍しい。ユーリの慟哭で心をかき乱されていた観客たちも、来栖選手の登場ですっかりわきかえっていた。


『まず、最初に……ユーリ・ピーチ=ストームこと桃園選手がこのように取り乱したことで、客席の方々はずいぶん面くらったことだろう。これはひとえに、ベリーニャ選手とタクミ=フレアこと秋代選手の試合に原因があるものとご理解いただきたい』


「く、来栖さん! 出場選手でもない人間が興行に口出しすることは差し控えていただきたい!」


 黒澤代表が泡をくって声をあげたが、来栖選手はそちらを振り返ろうともしなかった。


『客席にも、事情は通達されていないのだろうか? ベリーニャ選手は秋代選手に目潰しの反則を受けたと証言し、勝敗の裁定の見直しを申請したが、それを却下されたのだと聞いている。桃園選手はベリーニャ選手に憧れて格闘技の世界に入ったため、それで大きく心を乱すことになってしまったのだ』


 客席が、大きなどよめきに包まれた。

 この反応からして、やはり客席にも事情は通達されていなかったらしい。


『新しい運営陣とチーム・フレアに所属する人間は、これまでの《アトミック・ガールズ》を恥ずべき歴史であると断じていた。では、反則行為でもって難敵を排除するのが、あなたがたの望む新時代なのだろうか? そうであるならば、我々はとうてい賛同できない』


 来栖選手がそのように言いたてたとき、魅々香選手がおずおずと瓜子に近づいてきた。その手に掲げられていたのは、瓜子が授与されたストロー級のチャンピオンベルトだ。それを受け取った瓜子は、ユーリを胸もとに取りすがらせたまま、立ち上がってみせた。

 雅選手はすでにアトム級のチャンピオンベルトを肩に引っ掛けて、妖艶に微笑んでいる。瓜子は雅選手と目を見交わしてから、その手のベルトを黒澤代表の足もとに放り捨てた。


『あなたがたが《アトミック・ガールズ》を認めないというのなら、我々は《カノン A.G》を認めない。……沙羅選手、君はどうだろう?』


 沙羅選手はひとつ肩をすくめると、来栖選手の握ったマイクに唇を寄せた。


『まずは最後まで聞かせてもらおかぁ。ま、おおよそ見当はつくけどなぁ』


『我々が運営陣に求める条項は、ふたつ。ベリーニャ選手と秋代選手の試合を審議して、その裁定を見直すこと。そして、《カノン A.G》の名を《アトミック・ガールズ》に戻し、運営の健全化を目指すことだ』


『ふぅん。せやったら、チーム・フレアはどうでもええのん?』


『あのような輩は、どうでもいい。今後、公正な試合を行えるのならな。……先の条件を満たせない場合、我々有志は《カノン A.G》から離脱し、新たな団体を立ち上げることになる。現在のところ、賛同を表明しているのは、雅選手、猪狩選手、魅々香選手、沖選手、鞠山選手、灰原選手、小柴選手の七名だが……桃園選手、沙羅選手、犬飼選手、君たちはどうだろうか?』


『せやから、さっきも言うたやろ? ウチの標的は残り三人、魅々香はんと小笠原はんと白ブタちゃんなんや。アンタら古株がごっそり抜けるなら、小笠原はんも続くやろ。号泣しとった白ブタちゃんは、言わずもがなやな』


 そう言って、沙羅選手は惜しげもなくフライ級のチャンピオンベルトを放り捨てた。


『うちが出向くのは、その三人が居揃っとる場や。この団体がもとの名前に戻すんでも、新しい団体を立ち上げるんでも、どっちでもかまへんで』


『そうか。現王者全員の賛同をもらえれば、ありがたく思う。……桃園選手も、それで問題なかっただろうか?』


 ユーリは瓜子にもたれて弱々しく立ったまま、子供のようにこくりとうなずいた。

 来栖選手もひとつ首肯し、真っ青な顔になった黒澤代表に向きなおる。


『これはあなたの独断で決定できる話でもないだろう。運営陣の会議の場で、しっかり吟味してもらいたく思う。……我々としても、分裂騒ぎで数年前の轍を踏むのは望むところではないのでな』


 黒澤代表の答えを待つ素振りも見せず、来栖選手は会場を見回した。


『そして、会場の方々は……このような醜い身内争いをお見せしてしまって、申し訳ない。これからも、選手ひとりずつの活躍を見守ってもらいたく思う』


 来栖選手の言葉を聞き届けるために抑えられていた歓声が、倍する勢いで会場を揺るがした。

 さまざまな選手の名を呼ぶ声が、そこに入り混じっている。もっとも勢いがあるのは、やはり「来栖!」と「ユーリ!」のコールであったが、瓜子や雅選手や沙羅選手の名を呼ぶ声も、それに負けていなかった。


『ほんならなぁ。またお会いできる日を楽しみにしてるさかい、気をつけてお帰りやぁ』


 雅選手ののんびりとした別れの挨拶を最後に、瓜子たちはケージを下りることになった。

 一行が花道を引き返す間も、大歓声が鳴り響いている。

 自分の試合では虚しさを覚えることになった瓜子であるが、この歓声には涙を誘発されるほど心を揺さぶられることになった。


 これだけ大勢の人々が、来栖選手の主張を支持してくれたのだ。

 運営陣がどのような結論を出すかは、まったく知れたものではなかったが――この段階で、瓜子はこれまでの苦労が報われた思いであった。


 あとは、ベリーニャ選手の安否を確認するだけだ。

 瓜子はとぼとぼと歩いているユーリの顔を覗き込みながら、心よりの笑顔を届けてみせた。


「ユーリさん。どんな状況になっても、頑張れるかどうかは自分次第っすよ。これからも大好きなMMAを楽しめるように、頑張りましょう」


 ユーリは泣き疲れた子供のような顔で、「うん……」と弱々しくうなずいた。


 控え室に戻ったのちは、すみやかに帰り支度を整える。

 ジョンの携帯端末が鳴ったのは、そのさなかのことであった。


「ユーリ、ベリーニャのコーチからレンラクがあったよー。とりあえず、モウマクやカクマクにダメージはなかったし、シリョクにもモンダイはないってさー」


 私服に着替えて控え室を出たところでその報告を受けたユーリは、壁に取りすがったままへなへなとくずおれてしまった。

 瓜子が慌てて駆けつけると、ユーリは新たな涙をこぼしながら、赤ん坊のような笑顔を向けてくる。


「うり坊ちゃん……ベル様のお目々は、無事だったみたい……」


「はい。ベリーニャ選手も、きっとすぐに復活してくれますよ」


 すると、灰原選手が「よーし!」と両腕を振り上げた。


「ベリーニャも無事だったんなら、万々歳だね! 心置きなく、祝勝会といこうかー!」


「え? あ、いや、さすがにドンチャン騒ぎする気分じゃないんすけど……」


「なに言ってんのさ! あたしらは、そろいもそろって運営にたてついたんだよー? ことと次第によったら新しい団体を立ち上げることになるんだし、決起集会も兼ねて盛り上がらなきゃでしょ!」


 瓜子はいくぶん迷ったが、今のユーリにはそういう騒がしさも慰めになるかと思いなおし、了承することにした。

 ひとまずは、駐車場の車に荷物の積み込みだ。運営陣のちょっかいを警戒して、青コーナー陣営の一行はひとかたまりとなって駐車場を目指すことになった。


「しかし、思わぬ展開になっちまったもんだな。千駄ヶ谷さんに叱られないといいんだが」


 その行き道で、立松がそんな風につぶやいた。

 まだいささか足もとの覚束ないユーリをフォローしつつ、瓜子はおずおずと立松を振り返る。


「実は自分も、そこがちょっとだけ心配だったんすよね。……あの、立松コーチ、もしよかったらなんすけど……さっきの話は、立松コーチから千駄ヶ谷さんに伝えてもらえないっすか?」


「お前なあ……そんな捨てられた子犬みたいな目つきでそんな言葉を吐くのは、卑怯すぎるだろ」


「あははぁ。うり坊ちゃんも、魔性のおねだりスキルを体得したのだねぇ」


 ユーリが弱々しい口調ながらも冗談口を叩いてくれたので、瓜子は安堵の息をつくことができた。

 そのとき――先頭を歩いていた来栖選手が足を止めて、鋭い声をあげたのだった。


「我々に、何か用事だろうか? 今後の運営方針については、きっちりと運営陣の総意をまとめてからにしてもらいたい」


「その前に、ひとことご挨拶をさせていただこうと考えた次第ですよ」


 その朗らかな笑いを含んだ男の声が、瓜子の心を一気に引き締めた。

 瓜子はユーリの服の裾をつかんで、来栖選手のかたわらに進み出る。その眼前に立ちはだかっていたのは、灰色のスーツを着込んだネズミ顔の小男に他ならなかった。


「まったく面倒なことをしてくださいましたねぇ。質実剛健で知られるあなたがマイクパフォーマンスで聴衆を味方につけようとは、いささか計算外でありました」


「我々は、自らの気持ちを表明したに過ぎない。どちらの味方につくかは、観客たちのひとりひとりが判断することだろう」


 この小男の存在はあちこちの関係者に周知しておいたので、初対面であるはずの来栖選手も警戒心をあらわにしていた。

 すべての元凶と目されている、ワンダー・プラネットの徳久である。徳久は、虫も殺さぬような顔で微笑みながら、瓜子たちの姿を見回していた。


「それにしても、新団体の発足とは、思い切ったものですねぇ。数年前に秋代選手が同じ真似に及んだ際には、共倒れの危険が生じたのでしょう? ただでさえ人数の少ない女子選手の興行で分裂騒ぎを起こすのは、あまりに無謀なのではないでしょうか?」


「であれば、運営陣が心を入れ替えることを祈るばかりだ。何にせよ、正規の運営者でもない人間と、そのような話を語らうつもりはない」


「ですがわたしもアドヴァイザー役として、責任を持つ立場なのですよ。……そもそも話がこのようにこじれてしまったのは、あなたとそちらの猪狩選手の責任なのではないでしょうかねぇ?」


 来栖選手はうろんげに眉をひそめつつ、瓜子と徳久の姿を見比べた。

 しかし、意味がわからないのは瓜子も同様である。瓜子が小首を傾げると、徳久はネズミそっくりの顔で笑った。


「来栖選手と、猪狩選手。旧時代のカリスマと新時代のカリスマであるあなたがたが現在の運営方針に賛同してくだされば、すべての選手が憂いなく心をひとつにすることができたでしょう。ヒール役を買って出てくださったチーム・フレアを打倒するために、一致団結してトレーニングに励み、実力の底上げと業界の活性化を実現できたはずです」


「新時代のカリスマ、か。その名に相応しい人間がもう一名存在するはずだが、現在の運営陣はそれをないがしろにしようとしている。その不透明さが反感を招いたということも理解できないのだろうか?」


「八百長と枕営業の疑惑をかけられた人間など、カリスマの名に値しません。色気を武器にしたアイドルファイターなど、時代のあだ花に過ぎないのですよ」


 すると、黙って話を聞いていた立松が「おい」と進み出た。


「いい加減にその口を閉ざせよ、ネズミ野郎。八百長だの何だのも、ぜんぶ手前らのでっちあげじゃねえか。手前の魂胆はすべてお見通しなんだから、とっとと身を隠す準備でもしておきな」


「これは心外な仰りようですねぇ。わたしはあくまでアドヴァイザーとして、微力を尽くしているに過ぎないのですが……」


「あのな、こっちは手前のネズミ面を忘れちゃいねえんだよ。卯月を赤星道場から引き抜いたときも、手前はそうやってニタニタ笑ってたじゃねえか」


 立松は、べつだん激昂したりはしていなかった。その双眸には、研ぎ澄まされた敵対心が渦巻いている。


「それで《JUF》を活性化させた手前は、さぞかし甘い汁を吸えたんだろうなぁ。だけど今回は、大失敗だ。一緒に甘い汁を吸うつもりでいた連中も、さぞかしガックリするだろうぜ。その憤懣が手前にぶつけられないことを祈っておくんだな」


「ははは……わたしは清廉潔白の身でありますが、もしもそのような輩が関わっていたならば、その怒りの矛先はどちらに向かうでしょうねぇ?」


 顔だけはにこやかに笑いながら、徳久の小さな目に嘲弄の光が宿された。

 黒い人影が横合いから飛び出してきたのは、まさにその瞬間のことである。


 反射的に、瓜子はユーリの身を庇っていた。

 そして、そんな瓜子のことを、立松と来栖選手が庇ってくれていた。


 黒い人影は、何か細長いものを握りしめている。

 それは、鉄パイプに他ならなかった。

 そして――その鉄パイプが、徳久の頭上に振り下ろされたのだった。


 徳久はニワトリのような奇声をあげて、とっさに頭を抱え込んだ。

 その右肩に、鉄パイプが振り下ろされる。

 骨の砕ける鈍い音が、瓜子の耳にまで届けられてきた。


 徳久は地面に倒れ込み、瀕死のネズミのようにのたうち回る。

 それを見下ろす暴漢は、漫画に出てくる銀行強盗のような目出し帽で人相を隠していた。

 そして、さらに鉄パイプの痛撃を徳久の右足に叩きつけてから、ものも言わずに逃げ去っていったのだった。


「お、おい、警察だ! 警察に連絡しろ! ……あ、いや、俺がする!」


 ひとりで大きな声をあげながら、立松は携帯端末を取り出した。

 他の人間は瓜子を含めて、呆然と立ちすくんでしまっている。すべてがあまりに突然のことで、なかなか事態を把握できなかったのだった。


 右肩と右足を砕かれた徳久は、ぶざまに泣きくずれながら地面でのたうち回っている。

 そして――瓜子の頭上から、ユーリのぼんやりとした声が降ってきたのだった。


「……荒本さん?」


 瓜子が背後を振り返ると、ユーリは茫洋とした眼差しを、暴漢の逃げ去った方向に向けていた。

 荒本とは――『スターゲイト』でユーリのマネージメント業務を受け持っていた、瓜子と千駄ヶ谷の前任者の名に他ならなかった。

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