04 開戦
そうしてついに、戦いの火蓋は切って落とされた。
第一試合は、後藤田選手と一色選手による対戦だ。
《アトミック・ガールズ》のトップファイターである後藤田選手も、アイドル活動をしていて見目のいい一色選手も、入場の際の声援合戦では互角の勝負を見せていた。
(昨日の公開計量では、一色選手のほうが大歓声だったけど……やっぱりあれは、仕込みのサクラだったってことだな)
しかしさすがに入場料を犠牲にしてまで、試合会場にサクラを動員することはないだろう。ならば今日のこの声援こそが、現段階でのフラットな人気を示していることになる。一色選手はこの一戦がMMAのプロデビュー戦であったが、キックのキャリアとアイドル活動によって、すでに確実な人気を博しているのだろうと思われた。
『それでは、第一試合を開始いたしまァす!』
派手なファッションをしたリングアナウンサーが、甲高い声でそのように宣言した。
瓜子たちはそれぞれウォームアップに励みつつ、控え室のモニターを注視する。
『青コーナー、百五十三センチ、五十一・九キログラム、天覇館竜ヶ崎支部所属……後藤田ァ、成美ィ!』
実直そうな面立ちをした後藤田選手は、ただ静かに頭を下げていた。
骨太のがっしりとした身体に、青と白のタンクトップとショートスパッツを纏っている。名うてのグラップラーである彼女のグラウンドテクニックは、瓜子もお盆の合同稽古で痛感させられていた。
『赤コーナー、百六十二センチ、五十二キログラム、フレア・ジム所属……ルイ=フレアァ!』
いっぽう一色選手はにこにこと笑いながら、左腕を振り上げていた。
明るい髪をポニーテールにした、柔和な顔立ちの可愛らしい女の子だ。手足が長くて引き締まった身体つきをしており、ご当地アイドルという肩書きに相応しいビジュアルをしている。
ただやはり、すとんとしたシルエットの上半身に対して、下半身の発達具合はなかなかのものであった。
細めの腰から臀部がぐいっと盛り上がっており、それがそのままカモシカのような脚線につながっている。どこかマリア選手を思わせる、しなやかでバネのありそうな下半身である。きっとこの下半身が、躍動感のあるステップを生み出すのだろうと思われた。
そしてもう一点、この選手との試合で用心すべきは、スタンド状態の肘打ちであった。
彼女はムエタイルールの試合において、クリンチからの肘打ちを得意技にしているのだ。
基本はアウトスタイルで、至近距離になったらクリンチをして肘打ちか膝蹴り――それが彼女の、ムエタイルールにおけるファイトスタイルであったのだった。
(極端な話、この選手はアウトスタイルと肘打ちの巧さを買われて、チーム・フレアに誘われたんだろうしな。このシチュエーションで試合をするには、うってつけの人材だったってわけだ)
瓜子がそんな風に思案している間に、両名はケージの中央に招き寄せられた。
そうすると、九センチの身長差が顕著である。
しかし瓜子も、他人事ではない。この試合の結果がどうあれ、同じ階級である瓜子もいずれは一色選手とやりあう日がやってくるかもしれないのだ。後藤田選手よりもさらに一センチほど小さい瓜子は、なんとかこの身長差を攻略しなければならないのだった。
セコンド陣は最初からケージの外であるため、『セコンドアウト』のアナウンスはされない。ただ、レフェリーによるルールの確認が終了すると、撮影班が慌ただしく撤退して、ケージの扉が閉ざされた。
他には二名のカメラマンが、対角線上にある柱の上からカメラをかまえている。
その片方から映される画面の中で、レフェリーが『ファイト!』の声をあげた。
ゴングではなくブザーが鳴らされて、両者はケージの中央に再び進み出る。
しかしやはり、一色選手は途中でサイドにステップを切り替えた。彼女は多くの選手が苦手にするであろう、サウスポーのアウトスタイルであったのだ。
後藤田選手は頭を振りながら、果敢に前進していく。
一色選手は笑っているようにも見えかねない無邪気な面持ちで、軽妙にステップを踏み始めた。
後藤田選手がぐいぐい前進しても、一色選手は右回りで逃げていく。
やはりリングよりも広大でコーナーも存在しない分、一色選手はのびのび動けているように見えた。
後藤田選手が焦れておもいきり踏み込むと、たちまち鼻先に右ジャブが飛ばされる。
そうしてわずかに距離ができると、一色選手は豪快なハイキックを披露した。
組み合いを狙うグラップラーに、高い蹴りで牽制をする。スタンダードで、堅実な戦略だ。
しかし後藤田選手も、このひと月で対策を練っている。合同稽古においては、同じサウスポーでアウトスタイルの愛音が、さんざんスパーリングパートナーを務めたのだ。
その成果を見せるべく、後藤田選手も左のミドルキックを繰り出した。
アウトサイドに回ろうとする相手の進路をふさぐための攻撃だ。また、一色選手がどれだけMMAのトレーニングを積んでいようとも、グラップラーである後藤田選手にタックルを仕掛けてくるとは思えなかったので、こちらは積極的に蹴りを使っていくという戦略であった。
ミドルキックをバックステップでかわした一色選手は、すました顔で逆側に回り始める。
それと同時に、後藤田選手は相手の前足にタックルを仕掛けた。
トップファイターである後藤田選手の、渾身の片足タックルだ。
が、一色選手は両足を後方に飛ばして素早く身を伏せるバービーの動きで、見事にそのタックルを切ってみせた。
前側に突っ伏した後藤田選手は執念深く両腕をのばしたが、一色選手はその両肩を押すような動きで身を起こし、すぐさま後方へと回避した。
「やっぱりこの選手は、ステップが軽いな。タックルを決めるには、もう半歩踏み込まないと届かないだろう」
立松が、低い声でそのようにつぶやいていた。
立ち上がった後藤田選手はまた果敢に前進し始めたが、一色選手の右ジャブと前蹴りに阻まれて、なかなか距離を詰めることがかなわなかった。
見ている以上に、後藤田選手には舞台が広く感じられることだろう。
また、ベテラン選手である後藤田選手には、これまでのリングで戦ってきた記憶がいっそう強く身体に刻みつけられているはずであった。
一色選手は円を描くようにステップを踏み、後藤田選手にはどうしてもつかまえることができない。
右ジャブを無視して強引に組みつこうと試みても、長い両腕でストッピングされ、勢いをすかされた上で、強烈な左ローを叩き込まれてしまう。やはり一色選手を組み伏せるには、ここぞというタイミングでタックルを決めるしかないようだった。
そうして同じ展開のまま、試合時間の二分が過ぎたとき――後藤田選手が再びスイッチをして、左ミドルを繰り出した。
それをブロックした一色選手は、さきほどと同じように逆の側へとステップを踏む。そこに後藤田選手が片足タックルを仕掛けるというのも、さきほどと同じ構図だ。
ただ違うのは、後藤田選手がさきほどよりも深く踏み込んでいることであった。
右足を取られそうになった一色選手は、慌てた様子でバックステップする。
後藤田選手はすぐさま身を起こし、それを追いかけた。
その勢いに圧されたかのように、一色選手は下がり続ける。
もはやサイドにステップを踏む余裕もない。背後にはもう黒いフェンスが迫っていた。
後藤田選手が胴体に組みつき、一色選手の背中がフェンスに衝突した。
客席からは、底ごもった歓声が伝えられてくる。
ついに、後藤田選手が一色選手をつかまえたのだ。
後藤田選手は相手の両脇を差しながら、頭で下顎を圧迫した。
一色選手は苦しげに顔を背けながら、フェンスにべったりと背中を押しつける。やはり一色選手も、壁レスリングをきっちり鍛え抜いてきたのだろう。双手差しの有利なポジションを確保しながら、後藤田選手も両腕をクラッチさせることはかなわなかった。
と――一色選手の両手の先が、後藤田選手の首裏に回された。
後藤田選手の組み合いに、首相撲で対抗しようとしているのだ。
後藤田選手は膝蹴りを警戒して、さらに相手に密着しようとする。
その動きに合わせて、一色選手が身体をひねった。
フェンスから背中を離した一色選手は、後藤田選手の首を抱えたまま、さらにサイドへとステップを踏んでいく。
後藤田選手は相手を押し倒すべく前進したが、一色選手の軽妙なステップがそれを許さなかった。
後藤田選手は相手の両脇に腕を入れているだけで、クラッチも組めていない。そして、両者の間には危険な距離が生まれていた。このままでは、膝蹴りの餌食であろう。
形勢悪しと判断し、後藤田選手は相手の身体を突き放そうとした。
後藤田選手の首裏をホールドしようとしていた一色選手の腕が、それで真っ直ぐにのばされる。
が、その指先はまだ後藤田選手の首裏に回されたままだ。
そちらにも危険な距離が生まれていたが、後藤田選手は一瞬対応が遅れた。
その一瞬を見逃さずに、一色選手は左腕のみを首裏から離す。
一色選手の左肘が、後藤田選手のこめかみに突き刺さった。
後藤田選手は力なくよろめき、一色選手がその首裏をあらためてホールドした。
首相撲で完全に有利な形を作った一色選手が、しなやかな左足を振り上げる。
膝蹴りが、後藤田選手のレバーを容赦なくえぐった。
後藤田選手は身を折ったが、一色選手の両手はまだ首裏を拘束している。
一色選手はダンスでも踊るように左右の膝を振り上げて、後藤田選手の両脇に膝蹴りを連打した。
「まずいぞ。距離を取らないと――」
立松がそのようにつぶやくのと同時に、一色選手がやおら後藤田選手の身体を突き放した。
後藤田選手は千鳥足で、引き下がっていく。
そこに、大振りの左ハイキックが繰り出された。
一色選手の長くて肉づきのいい足が優美な曲線を描いて、後藤田選手の横っ面を蹴り飛ばす。
後藤田選手は棒のように倒れ込み、一色選手は笑顔で両腕を振り上げた。
しかしダウン制度は撤廃されているので、試合はまだ継続中である。
後藤田選手はマットに拳をつき、ぶるぶると身を震わせながら起き上がろうとした。
それに気づいた一色選手はひとつ肩をすくめてから、ひとっとびで後藤田選手の横合いに回り込んだ。
ダメージの深い後藤田選手は、緩慢な動きでそちらに向きなおろうとしたが――それよりも早く、一色選手の左足先が後藤田選手のレバーを蹴りつけた。
後藤田選手は苦悶の形相で倒れ込み、レフェリーが両腕を交差させる。
試合終了のブザーが鳴らされて、客席には歓声がわきたった。
控え室では、声を発するものもない。
そんな中、リングアナウンサーの勝利者コールが響きわたった。
『一ラウンド、三分三十五秒、グラウンド・キックによるレフェリーストップで、ルイ=フレア選手のKO勝利でェす!』
レフェリーが、一色選手の右腕を上げる。
フェンスの扉が開かれて、リングドクターとセコンド陣がなだれこんできた。
後藤田選手のセコンドは、天覇館のコーチと女子選手、そして来栖選手だ。
後藤田選手は右脇腹を抱えたまま、まだ立ち上がれずにいた。
「……一ヶ月じゃ、攻略できなかったか」
やがて、小笠原選手が力強い声でそう言った。
「こればっかりは、しかたがない。みんな、自分の試合に集中だよ」
「押忍!」と大きな声で答えたのは、いつの間にか控え室に戻っていた小柴選手であった。
ウォームアップで上気した顔に、小柴選手は気合をみなぎらせている。
「それじゃあ、わたしも行ってきます。必ず、一矢報いてきますので」
「ああ、期待してるよ」
「頑張ってください、小柴選手!」
「ピエロの野郎に、ひと泡ふかせてやれ!」
小柴選手は再び「押忍!」と答えて、控え室を出ていった。
天覇ZEROのコーチと、灰原選手に多賀崎選手もそれに続く。
その間に、画面上では勝利者インタビューが行われていた。
『華麗なハイキックで仕留めたかったんですけどぉ、ちょっとポイントがズレちゃったみたいですねぇ。次の試合ではまた頑張りますので、応援よろしくお願いしまぁす』
一色選手はうっすらと汗をかいているぐらいで、いつも通りののんびりとした笑顔であった。
彼女は一発の攻撃もくらわず、《アトミック・ガールズ》のトップファイターを初回のラウンドで下してみせたのだ。
たとえ彼女が何ヶ月も前から新ルールでの戦い方を研究しており、水面下で有利な状況を作りあげていたのだとしても――試合は、結果がすべてであるのだった。
やがて一色選手が退場して、第二試合目のコールがされたとき、後藤田選手が控え室に戻ってきた。
来栖選手は次のセコンドも担うために、コーチと雑用係の女子選手が肩を貸している。頭からタオルをかぶった後藤田選手は、がっくりとうつむいたまま「ごめん」という言葉を振り絞った。
「……言い訳のしようもない。あたしの、力負けだ」
「謝る必要はないよ。今日ですべてが終わるわけじゃないんだからさ」
小笠原選手は、やはり力に満ちた声でそのように答えた。
「次は勝てるように、頑張ろう。また合同で稽古をしようよ」
後藤田選手は無言でうなずき、控え室の奥へと下がっていった。
瓜子はおもいきり息を吸い込み、体内に満ちた無念を吐き出す。
瓜子たちも死力を振り絞って勝利を目指す所存だが――その結果がどうあれ、後藤田選手の敗北は自身で挽回するしかないのだ。
慰めの言葉など、なんの意味も為さないだろう。瓜子たちにできるのは、同じ志でともに戦っていくことだけであった。
「……お次は、犬飼の娘さんか」
と、マリア選手のウォームアップを手伝っていた大江山軍造が、不機嫌そうな声でつぶやいた。
「何をどうしようが本人の勝手だが、試合をするなら最低限の身体を作ってほしいもんだな」
赤星弥生子は何も答えず、ただモニターを凝視していた。
前園選手と犬飼京菜が入場して、試合開始のコールが始められる。
『第二試合、アトム級、四十八キロ以下契約、五分三ラウンドを開始しまァす! ……青コーナー、百五十四センチ、四十七・九キログラム、天覇館川崎支部所属……前園ォ、彩ァ!』
前園選手は張り詰めた面持ちで、四方に礼をしていく。
後藤田選手とほとんど身長は変わらないが、一階級分シャープな体格をしている。いかにもストライカーらしく、引き締まった身体つきであった。
前園選手は器用なファイターで、インファイトもアウトスタイルも苦手にしていない。なおかつ、左右のどちらの構えでもこなせるスイッチャーで、KOパワーは持っていないものの、堅実な試合運びで数多くの勝利をものにしていた。
『青コーナー、百四十二センチ、四十キログラム、犬飼格闘鍛錬場ドッグ・ジム所属……イヌカイィ=フレアァ!』
犬飼京菜は腕を組んでフェンスにもたれたまま、歓声にもブーイングにも応えようとしなかった。
三つ編みでくくった茶色い癖っ毛も、狂犬めいた双眸の光も、ファイターらしからぬ小さな体躯も、変わるところはない。ただ、赤と黒の試合衣装だけが、彼女の遂げた変容を示していた。
ちなみに犬飼京菜はこれがプロデビュー戦であり、本来はBリーグの所属であるが、Aリーグの所属である前園選手との対戦であるため、肘打ちありのルールとされている。運営側の事前説明によると、これは犬飼京菜のAリーグ昇格を見定めるための査定試合でもあるそうなのだ。
デビュー戦でいきなり査定試合とはふざけた話であるが、そのように些末なことまで文句をつけていたらキリがない。また、犬飼京菜にしてみても、これはハイリスクハイリターンの所業であるはずだった。
(もしかしたら、これはリーグの査定だけじゃなく、犬飼京菜がチーム・フレアに相応しい実力を持っているかどうかを見定めるための試合なんじゃないかな)
しかし何にせよ、瓜子たちが応援すべきは前園選手である。
犬飼京菜は体格面で絶対的なハンデを負っているが、その代わりに尋常でない爆発力とトリッキーなファイトスタイル、それに確かな寝技の技術を有している。いかに前園選手が熟練のトップファイターであっても、決して油断できる相手ではなかった。
前園選手のセコンドは、道場のコーチと来栖選手と鞠山選手だ。
ルール確認が終わって前園選手がフェンス際に戻ると、鞠山選手がしきりに声を飛ばしている姿が見えた。
『ファーストラウンドォ!』のアナウンスとともに、ブザーが鳴らされる。
それと同時に、犬飼京菜が突進した。
もはや恒例となった、先制攻撃だ。
ジャンピングバックスピンキックか、超低空のタックルか、胴回し回転蹴りか、はたまた水面蹴りか――先制攻撃を予測できても、それだけのバリエーションが存在するというのは、果てしなく厄介な話であった。
前園選手は慌てた素振りも見せず、横移動する。
リングよりも広い舞台であるため、これまでの選手よりはゆとりが生じていた。
しかし何歩か横移動したところで、あちらも軌道を修正して真っ直ぐ突っ込んでくる。とにかくこのファーストアタックを、なんとか切り抜けなければならなかった。
前園選手は腰を落とし、両腕を自然な高さで構えつつ、迎撃の姿勢を取る。
犬飼京菜は、跳躍した。
タックルや水面蹴りではなく、上空からの攻撃だ。
なおかつ、縦にも横にも回転しない。
犬飼京菜はそのまま真っ直ぐ、鋭利な角度に曲げた右膝を繰り出していた。
(飛び膝蹴りか!)
それはMMAにおいて、バックスピンキックや胴回し回転蹴りよりもポピュラーな技であった。試合開始と同時に突っ込んで飛び膝蹴りで秒殺KOというのは、男子選手の試合においてもまま起こり得るという話であったのだ。
また、技を出す側にしてみても、回転系の技は相手に背中を見せることになるため、飛び膝蹴りのほうがリスクも小さいのだろう。実際、犬飼京菜は胴回し回転蹴りを回避されて、あわやKOという窮地にまで追い込まれたこともあったのだ。
ともあれ――前園選手はぐっと両腕を固めて、その飛び膝蹴りをブロックしてみせた。
両者の身体が激突し、また離れる。
犬飼京菜は猫のような身軽さでマットに着地し、前園選手は――
前園選手は、膝から崩れ落ちた。
その身体が横倒しになり、何か赤いものがマットに広がっていく。
レフェリーは両腕を交差させ、試合終了のブザーが鳴らされた。
『い、一ラウンド、六秒……え、何? ……エ、エルボー・バットによるレフェリーストップで、イヌカイ=フレア選手のKO勝利でェす!』
「エルボー・バット?」と、瓜子は思わず声をあげてしまった。
すると、予想外に近い場所から赤星弥生子が「ああ」と応じてくる。
「膝蹴りをフェイントにした、肘打ちだ。しかし、今のは……」
画面上ではケージの扉が開かれて、リングドクターたちが前園選手のもとに駆けつけている。
そんな中、鞠山選手が猛然とレフェリーに抗議していた。
「……肘を垂直に落としていたなら、反則だ。かなり微妙な角度だったが……さて、どうだろうな」
しばらくすると、モニターにスローモーションのリプレイ映像が映し出された。
犬飼京菜が跳躍し、前園選手に襲いかかる。その時点で、両腕がバンザイの形で頭上に上げられていた。
胸もとをブロックした前園選手の両腕に、犬飼京菜の右膝が突き刺さる。
それと同時に、犬飼京菜の両腕が振り下ろされた。
握った拳は外側に開かれており、Yの字を完成させるかのように、両肘が内側に振り下ろされる。
そしてその肘が左右からはさみ込むようにして、前園選手の頭頂部に叩きつけられた。
「……垂直ではないな。よほど柔軟な肩関節をしているようだ」
そんな風につぶやきながら、赤星弥生子はサキを振り返った。
「彼女は古式ムエタイをMMAに取り入れているそうだが、これもその技の応用なのだろうか?」
「知らねーよ。だとしたら、餓鬼の頃から特訓してきた技なんだろうな」
サキは感情を殺した声音で、そんな風に言い捨てた。
ともあれ――打倒チーム・フレアを誓った青コーナー陣営は、最初の二戦であえなく連敗を喫してしまったのだった。
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