05 閉会式

 すべての試合が終了したならば、全選手がリングに集まっての閉会式である。

 瓜子がリングに上がっていくと、ユーリがご主人を見つけた大型犬のように駆け寄ってきてくれた。


「うり坊ちゃん! ちゃーんと見守っててくれた?」


「もちろんっすよ。タイトル挑戦の権利獲得、おめでとうございます。……ユーリさん、最後のほうは心の底から楽しそうでしたね」


「うん! 三ラウンドの終わり際までずーっと溺れっぱなしみたいな心地だったけど、最後の最後で幸福の極致だったわん」


 試合衣装の上からメタリックカラーのガウンを羽織ったユーリは、その言葉の通りの表情で微笑んでいた。


「今日は二回も試合ができたし、うり坊ちゃんの超絶KO勝利も拝見できたし、幸せな気持ちも三倍増だよー! 幸せすぎて、カラダがぱーんって弾けちゃいそう!」


「自爆攻撃するスライムみたいっすね。ところでさっき、来栖選手は――」


 と、瓜子がそのように言いかけたところで、リングアナウンサーがリングの中央に進み出てきた。


『それではこれより、閉会式を開始いたします! 選手の皆様、本日はお疲れ様でした! 最初から最後まで激闘の連続で、会場にお越しいただいたお客様方も大満足であられるかと思います!』


 リングアナウンサーの煽りに応じて、観客席から歓声があげられる。

 瓜子の個人的な質問は、後回しにせざるを得ないようだった。


 本日の参加選手は十二名であるが、三名は閉会式を欠席してしまっている。

 亜藤選手とラニ・アカカ選手は病院送りとなり、犬飼京菜も「ダメージが深いために」という名目でさっさと帰ってしまったらしい。確かに彼女はそれなりのダメージを負っていたが、単にサキと顔をあわせたくなかっただけという可能性も否めなかった。


『それでは本日のベスト賞を発表いたします! ベストバウト賞に選ばれたのは……メインイベントで勝利された、ユーリ・ピーチ=ストーム選手です!』


 歓声が、いっそうの勢いで渦巻いた。

 疲労困憊のユーリは生まれたての小鹿めいた挙動で立ち上がり、リングアナウンサーのもとまでひょこひょこと近づいていく。


『おめでとうございます、ユーリ選手! これで復帰から、二回連続の受賞となりますね! ぜひご感想をお聞かせください!』


『ありがとうございますぅ。ユーリは試合をさせていただけるだけで、いつも幸せいっぱいなんですけどぉ……今日は、ひときわハッピーでしたぁ』


 大歓声と「ユーリ!」のコールが、試合中にも負けない勢いで会場を揺るがした。

 ユーリは、心から幸福そうな表情である。そんなユーリの姿を見ているだけで、瓜子もまた胸の中が熱くなってしまった。


『これでユーリ選手は、ついにミドル級の王座に挑戦する権利を獲得したわけですが……ずばり! 勝算はいかがでしょうか?』


『えっとぉ、ユーリはこの二ヶ月間、魅々香選手と沖選手と沙羅選手の研究にかかりきりだったのでぇ、チャンピオンのジジ選手に関してはまだ手つかずなのですよねぇ』


『ジジ選手はミドル級の絶対王者であり、名うてのストライカーでもあります! あの強烈な打撃技をかいくぐってグラウンドに持ち込む自信はありますでしょうか?』


『自信なんてこれっぽっちもないですけどぉ、明日からまたお稽古に励んで頑張りまぁす』


 のれんに腕押しの格言を体現しているユーリに見切りをつけたのか、リングアナウンサーは鷹揚な表情でうんうんとうなずいてから、客席に向けて腕を振り上げた。


『地上最凶のプリティモンスターへと進化を遂げたユーリ選手が初の戴冠となるか、わたしも刮目して見守らせていただきます! ユーリ選手、本日はおめでとうございました! 皆様、今一度ユーリ選手に盛大な拍手をお願いいたします!』


 リングアナウンサーに煽られるまでもなく、客席は歓声と拍手の坩堝である。

 ユーリは両手を振ってその歓声に応えてから、またよたよたとした足取りで瓜子のもとに戻ってきた。


『続きまして、ベスト・ストライキング賞は……第七試合で勝利された、猪狩瓜子選手です!』


「え?」と、瓜子は声をあげてしまった。

 今日ばかりは、メイ=ナイトメア選手あたりが受賞するのではないかと思っていたのだ。


 だが、観客席からは惜しみのない声援と拍手が届けられてきている。

 瓜子は頭をかきながら、リングアナウンサーのもとに向かうことになった。


『猪狩選手は、二月大会から三度目の受賞となりますね! こちらのベスト賞が導入されたのは本年からとなりますが、三度の受賞は現時点において最多受賞の記録となります!』


『ありがとうございます。自分はいつも泥臭い試合ばかりしちゃってるんで……それでも評価していただけるなら、ありがたく思います』


『それは、誰もが納得する評価でありましょう! また、猪狩選手は一月大会から四試合連続KO勝利という記録をも樹立されているのです! これは、《アトミック・ガールズ》において歴代三位の記録となります!』


 歓声が、いっそうの熱を帯びていく。

 ひたすら恐縮しながらも、瓜子の胸にはじんわりとした誇らしさが満ちていった。


(そっか。《G・フォース》とかだったら四試合連続KOなんて、歴史に残るほどの記録ではないだろうけど……MMAなら、そういうこともありえるのか)


 たとえばユーリなどは昨年に七連勝しているが、その内の四勝はサブミッションによる一本勝ちであったのだ。《アトミック・ガールズ》のトップファイターにはオールラウンダーが多いため、KOだけに偏ることがない、ということなのだろう。


『ちなみに、歴代一位はミドル級王者のジジ選手であり、二位はライト級王者のサキ選手となります! この錚々たる顔ぶれに続く記録を打ち立てた猪狩選手の今後の勇躍に、わたしも期待させていただきます!』


『はい。ありがとうございます』


 すると、驚くべきことが起きた。

 客席から、「瓜子! 瓜子!」というコールが巻き起こり始めたのだ。

 その中に、「うりぼー!」だの「かわいー!」だのという声も織り交ぜられていく。

 瓜子が言葉を失って立ち尽くしていると、リングアナウンサーは満足そうににんまりと微笑んだ。


『猪狩選手は地方大会に出場されていたため、東京大会の出場は四ヶ月ぶりとなるのです! まりりん選手とイリア選手をKOで撃破された猪狩選手とは、いったいどれだけの実力者であるのかと、東京の皆様もお帰りを待ちわびておられたのでしょう! そのご期待を裏切ることのない試合であったと、わたしもそのように考えております!』


『は、はい。ありがとうございます』


『そして猪狩選手は、モデル活動のほうでも多くのファンを獲得されたところでありましょうし……おっと、これは禁句だったでありましょうか?』


『はい。ぶん殴らせてもらってもいいっすか?』


 瓜子は七割がた本気であったのだが、会場からは爆笑が巻き起こっていた。

 リングアナウンサーはわざとらしく頭をガードしながら、にこやかに笑っている。


『それではわたしもKOされてしまわないうちに、職務を全うさせていただきたく思います! 猪狩選手、ありがとうございました!』


 大歓声に包まれながら、瓜子はユーリのもとに戻ることになった。

 すると、ユーリよりも先に沙羅選手が皮肉っぽい笑顔を届けてくる。


「この白ブタよりも長い尺でイジられてたやんか。うり坊が同じ階級だったら、またターゲットが増えてたとことやで」


「……そんな評価は、試合内容だけでお願いします」


 そうして瓜子がふてくされている間に、最後の受賞者の名前が発表された。


『続きまして、ベスト・グラップリング賞は……セミファイナルで勝利された、ベリーニャ選手に贈られます!』


 ベリーニャ選手もまた、大阪大会から連続の受賞であった。

 もちろん、不満の声があげられることはない。あれだけ見事な試合っぷりで、何も受賞しないほうがおかしいはずだった。


 ベリーニャ選手はいつも通りの静かなたたずまいで、熨斗袋を受け取る。

 その姿を、ユーリはうっとりとした眼差しで、メイ=ナイトメア選手は物騒な目つきで見守っていた。


『ベスト賞の授与は、以上となります! 続きまして、次回の七月大会についてですが……こちらは先日に発表されました通り、数年ぶりにPLGホールにて開催されることが決定されております!』


 そう、それは瓜子たちの間でも語り草になっていた。いったいどの段階で会場を押さえたのかは知らないが、《アトミック・ガールズ》はこのミュゼ有明よりもさらに規模の大きなPLGホールで興行を行うと発表していたのだ。


 PLGホールの収容人数は、二千名にも及ぶ。まあ、収容人数が千六百名ていどのミュゼ有明でも満員札止めであるのだから、それほど分の悪い勝負ではないのかもしれないが――しかし、一月大会においては千名ほどしか集客できていなかったことを思えば、いささか性急の感は否めなかった。


(ユーリさんのタイトルマッチが決まったから、今回は集客にも問題はないかもしれないけど……もしもユーリさんが負けちゃってても、それだけの客を集める算段があったのかなあ)


 瓜子は、そんな風に考えていた。

 すると――リングアナウンサーはそんな瓜子の懸念を嘲笑うかのように、とんでもないことを言い出した。


『本日のトーナメント戦の結果により、ユーリ選手はミドル級王者ジジ選手とのタイトルマッチが決定されました! そしてさらに、七月大会においてはサプライズのイベントが準備されていたのです! それは……《アトミック・ガールズ》の全階級、四大タイトルマッチであります!』


「全階級?」と、瓜子は思わず息を呑んでしまった。

 それはつまり――ライト級王者であるサキの防衛戦も執り行われる、という意味であるはずだった。


(そんな話、聞いてないぞ!)


 瓜子は思わず、リング下に控えているサキの姿を探し求めてしまった。

 サキはジョンと立松にはさまれて、仏頂面で腕を組んでいる。


『《アトミック・ガールズ》には、四つの階級が存在いたします! すなわち、バンタム級、ライト級、ミドル級、無差別級の四階級となります! このうち、ミドル級はユーリ選手とジジ選手の一戦が決定され、バンタム級とライト級においては調整のさなかとなりますが……無差別級タイトルマッチのカードがここに決定されたことをお伝えさせていただきます!』


 会場は、沸きに沸いていた。

 選手たちは、けげんそうに顔を見合わせている。やはり、誰にとっても初耳の話であるのだろう。ユーリもきょとんとした面持ちで、しきりに首を傾げていた。

 そうしてリングアナウンサーは、最後の爆弾を投下する。


『無差別級の現王者は、言わずと知れたベリーニャ選手となります! その挑戦者の座を獲得したのは……《アトミック・ガールズ》の「女帝」こと、来栖舞選手になります!』


 来栖選手が、武人めいた沈着なるたたずまいでリングに上がってきた。

 歓声とどよめきの中、来栖選手はリングアナウンサーの前に立つ。


『本日は魅々香選手のセコンドとして、来栖選手もご来場しておりました! 来栖選手、タイトルマッチに向けての抱負をお聞かせ願えますでしょうか?』


 歓声が、すうっと静まっていく。

 まるで、来栖選手の静かな気迫に気圧されたかのようだ。

 来栖選手は昂ることなく、重々しい声音でマイクに語った。


『……自分は去年の七月、予選試合で敗退した。そんな自分にタイトル挑戦の機会を与えてくれたパラス=アテナの運営陣には、深く感謝している』


 彼女がこのように語るのも、去年の七月の開会セレモニー以来のことであった。

 この八ヶ月間、彼女は試合を行うこともなく、マスコミに対してもノーコメントを貫いていたのだ。


『三年前の《S・L・コンバット》において、自分はベリーニャ選手の強さをこれ以上もなく体感させられた。ただし、MMAならば決して負けない。……自分が、五体満足であるならば』


『来栖選手は、腰と膝に古傷を抱えておられます。それが復調されたために、タイトルマッチの要請をおうけしたのですね?』


『そうだ。……ただし、これが最後の挑戦となるだろう。もしも自分がタイトルマッチで敗れたときは、選手活動を引退させていただく』


 今度こそ、会場は驚きの声で満たされた。

 ユーリに負けて以来、身内の人間には引退を示唆していたという話であったが――ついにそれが、公の場で確約されたのだ。


『自分の半生は、《アトミック・ガールズ》とともにあった。自分が最後に無差別級の王座を勝ち取れるかどうか、見守っていただきたく思う』


 それだけ言って、来栖選手は身を引いた。

 普通であれば、ここでベリーニャ選手と向かい合って、報道用の写真を撮らせるところであるのだろうが――そんな業界の通例など黙殺する格好で、来栖選手はリングの四方に向かって礼をして、リングを立ち去っていった。


 来栖選手はそのまま花道を帰っていき、報道陣がそれを追いかけていく。

 リングアナウンサーはそれに困惑する様子もなく、しめやかに閉会の挨拶を始めた。


『《アトミック・ガールズ》の創立以来、リングアナウンサーとしての仕事をお引き受けしてきたわたしも、心してこの一戦を見守らせていただきたく思います。……それでは、《アトミック・ガールズ》五月大会、そうる・れぼりゅーしょん#3はこれにて終了させていただきます! 本日はご来場ありがとうございました!』


 そうして閉会式が終了しても、リング上と観客席にはざわめきが残されたままであった。

 あまりの出来事に、誰もが困惑顔である。その中で、比較的おちついた顔をした沙羅選手はいつもの調子で肩をすくめた。


「やっぱり来栖は、引退かいな。ターゲットにしてた相手が試合も組まれんまま消えてまういうのは、ちょいと物悲しいもんやな」


「でも……引退は、あくまで負けたらの話っすよ」


「そうはいうても、あいつが抱えとる膝と腰の爆弾は、どうあがいても完治するもんやないやろ。もう五年遅く生まれとったら、ベリーニャと五分の条件でやりあえたのかもしらんけど……反面、あいつがおらんかったらアトミックも今日まで生き残ってなかったんやろうしなあ」


 そんな言葉に、沙羅選手はわずかながらに感傷をにじませているようだった。

 そこで瓜子は、ぽけっと座り込んでいるユーリに向きなおる。


「あの、ユーリさんは試合の後、来栖選手に声をかけられてたでしょう? あれって、どういう話だったんすか?」


「ふにゅ? ああ、アレはねぇ……『アケミのこと、感謝している』っていうお言葉だったよぉ。ユーリには、いまひとつ意味がわからんちんだったのだけれども」


 アケミ――合宿稽古でいきなりユーリにスパーリングを申し込んできた、兵藤アケミ選手についてのことであったのか。

 瓜子の頭には、そのスパーリングの後に聞かされた鞠山選手の言葉がまざまざと蘇っていた。


「舞ちゃんやアケミちゃんが守ってきたアトミックの看板を、これからはあんたたちが守っていくんだわよ。もしもぶざまな姿を見せたら、わたいが黙ってないんだわよ」


 鞠山選手は、そのように語らっていたのだ。

 何とはなしに、瓜子は胸が詰まるような思いであった。


「ま、人の心配しとるヒマなんざあらへんわ。ウチは明日から、再スタートや。……ほんならなあ」


 と、沙羅選手はリングを下りていった。

 気づけばすでに半分ぐらいの選手は、花道を引き返している。瓜子たちも、呆けている場合ではなかった。


「とりあえず、みんなと合流しましょう。サキさんにも、タイトルマッチのことを確認しないといけませんし」


「うんうん。サキたんがこんなに早く復帰するなんて話は、これっぽっちも聞いてないもんねぇ」


 そうして瓜子とユーリが立ち上がったとき、ひとつの人影がこちらに近づいてきた。

 スキンヘッドに大きなタオルをかぶった、魅々香選手である。


「……桃園選手、さきほどは失礼いたしました」


 瓜子は、思わず立ちすくんでしまう。

 実のところ、瓜子が魅々香選手の声を聞くのは、これが初めてのことであったのだが――彼女はその容姿にまったく不似合いな、やたらとキーの高い少女めいた声音をしていたのである。


「あ、どうもお疲れ様ですぅ。別にそんな、お詫びをされるほどのことではないですよぉ」


「いえ。わたしはどうしても、七月に舞さんと同じリングに立ちたかったので……つい取り乱してしまったのです」


 タオルをかぶったまま、魅々香選手は上目遣いにユーリを見つめる。

 ぎょろりと目が大きくて、鼻筋が歪んでいて、げっそりと頬のこけた、髪も眉もない爬虫類めいた顔つきである。タオルのせいで陰影が濃くなって、いっそう怪しげな雰囲気になってしまっている。

 が、その声はユーリに負けないぐらい可愛らしかった。


「……わたしは桃園選手にもジジ選手にも連敗してしまいました。わたしにとっては、どちらも乗り越えなくてはならない壁のような存在となりますが……七月の試合では、桃園さんを応援させていただきます。どうか頑張ってください」


「はぁい。ありがとうございますぅ。それに、今日の試合は本当の本当に楽しかったので……またいつか魅々香選手と試合をできたら、ユーリはとっても嬉しいですぅ」


 よそゆきの笑顔ながらも、ユーリの言葉には心からの真情が込められているようだった。

 魅々香選手は無言で一礼して、リングを下りていく。

 けっきょく瓜子とユーリは、ほとんど最後尾でリングを下りることになった。


「ずいぶん遅かったな。まあ、色々と度肝を抜かれちまったんだろうけどよ」


 ひとかたまりになったプレスマン軍団の中から、立松がそんな言葉とともに出迎えてくれる。


「先に言っとくが、サキにタイトルマッチのオファーなんざ来てねえからな。こっちは年内の復帰に向けてリハビリ中ってことを伝えてるんだから、パラス=アテナの連中もそれは承知の上のはずだ」


「そ、それじゃあ、どういうことなんすか? まさか本当に、タイトルを返上しろとでも?」


「それならそれで、タイトル戦の予定なんざをぶちあげる前に、お達しがあるだろうよ。普通に考えりゃあ、暫定王者決定戦ってところだろうな」


 暫定王者決定戦――正規の王者が何らかの理由で防衛戦を行えない際に、暫定的な王者を決めるための試合である。そうして暫定王者が制定されたならば、速やかに正規王者との統一戦が行われるのが通例であった。


「サキの復帰は、上手くいっても十一月だ。それまでライト級を遊ばせておけねえから、そういう算段に出たんだろ。お前さんは、記者会見に向けて挨拶の言葉でも考えておくこったな」


「記者会見? なんのお話っすか?」


「暫定王者決定戦に相応しい選手なんて、せいぜい三、四人しか残ってねえだろ。お前さんはその一人なんだから、五十パーセント以上の確率でオファーが来るってこったよ。三、四人のうち、二人いないと試合にならねえんだからな」


 そんな風に言いながら、立松は実に愉快そうな顔で笑った。


「ま、そんな話は腰を落ち着けてからだな。うまいもん食わせてやるから、とっとと着替えてこい。今日は、三勝分のお祝いだ」


 そうして《アトミック・ガールズ》の五月大会は、終了した。

 ユーリがついにタイトルマッチにまでこぎつけたというのに、すっかり別の話で頭をひっかき回されてしまったようだ。

 頼もしきチームメイトに囲まれて控え室を目指しつつ、瓜子はユーリに笑いかけてみせる。


「なんか最後は、しっちゃかめっちゃかでしたけど……でも、ユーリさんのタイトル挑戦は決定事項っすもんね。あらためて、おめでとうございます」


「ありがとぉ。うり坊ちゃんも同じ日にざんてー王者決定戦だったら、今日に負けないぐらい楽しい一日になりそうだねぇ」


 そんな風に言いながら、ユーリは幸福そうに笑っていた。


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ここまでお読みくださり、ありがとうございます。

今後はしばらく一日置きに更新していく予定ですので、引き続きお楽しみいただけたら幸いでございます。

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