04 勉強会

 ストライキングのスパーにも一時間ほどの時間を費やし、その後はまた十名で合流して、あれこれ稽古の内容を論じ合うことになった。

 これだけ多様な選手がいれば、実に多様な稽古に取り組むことが可能となる。瓜子たちもボディプロテクターを装着して、ミドル級の面々と組み合いありの立ち技スパーを敢行してみたり、寝技の甘いストライカーには、鞠山選手からそれぞれに必要なグラップリングの稽古内容が発案されたり、インファイターとアウトタイプがそれぞれの技術を磨けるように、特定の相手と限定スパーを試みてみたり――そんな濃密な時間を過ごしている間に、最初に設定された五時間のトレーニングも無事に終わりを迎えることになった。


「さ、それじゃあ二手に分かれて、稽古場の掃除と食事の支度だね。まだまだ休んではいられないよ」


 年齢の上では四番手となる小笠原選手であるが、リーダーシップを執る才覚の面では年長者たちに負けていなかった。

 厳正なるジャンケンの結果、瓜子は食事当番を担わされる。同じメンバーとなったのは、ユーリ、小笠原選手、鞠山選手という顔ぶれだ。食材は朝方に小笠原選手が準備してくれていたので、あとは調理するばかりである。献立は手軽な鍋物と、最初に定められていた。


「おおう、立派なキッチンでございますねぇ」


 キッチンは、二階に存在した。一階はそのほとんどが鍛錬場に占められているため、調理場や事務室や会議室などは二階に、宿泊の施設は三階に設えられているのだそうだ。


「ここには内弟子が何人か住み込んでるんだけど、今年はみんな里帰りで空っぽなんだよ。だからまあ、誰にも気兼ねはいらないけど、あんまり羽目を外しすぎないようにね」


「いやあ、そんな体力は誰も残ってないんじゃないすかね。お腹が膨れたら、爆睡しちゃいそうです」


「ふふん。食事が終わったら、十時まで勉強会の予定だからね。それまで、誰も寝かしゃしないよ」


 キッチンは、料理店の厨房のように広々としている。そこで白菜をざくざくと刻みながら、小笠原選手はご機嫌の様子であった。


「……それにしても、あんたも思い切ったことをしたもんだわね」


 と、自前の可愛らしいエプロンを身につけた鞠山選手が、冷蔵庫から鶏の肉塊を運び出しつつ、そのように言いたてた。


「舞ちゃんや美香ちゃんを踏み潰してくれたピンク頭を合宿に誘うだなんて、いったいどういう了見だわよ? これまでは、天覇とフィストと武魂会でがっちりとスクラムを組んで、プレスマンの入り混じる余地なんて存在しなかったんだわよ」


 ユーリと一緒に長ネギやニンジンを刻もうとしていた瓜子は、思わず顔を見合わせることになった。

 が、小笠原選手は上機嫌に笑っている。


「だったら、花さんはどうして来てくれたのさ? こんなの、断れば済む話じゃん」


「……わたいは、監視に来たんだわよ。あんたが美香ちゃんを裏切って、そこのピンク頭に肩入れするつもりだったら、成敗するつもりだっただわよ」


「ふうん。その割には、ずいぶん熱心に指導してくれたじゃん。それだって、桃園に肩入れしてることになるんじゃないの?」


「肩入れなんてしてないだわよ! わたいは心から、美香ちゃんの戴冠をお祈りしてるんだわよ!」


「うん。別に美香さんの攻略法を伝授してるわけじゃないんだし、アタシだって後ろ暗いところはないよ。その代わり、桃園の攻略法を美香さんに教えたりもしないしさ。アタシはもともと出稽古で修練を積んでるんだから、そのあたりの線引きはきっちり考えてるつもりだよ」


「……それでも、横紙破りであることに変わりはないだわよ」


「わかってるさ。外様のプレスマンとつるんだりしなけりゃ、いらない波風が立つこともないんだろうしね」


 小笠原選手は作業の手を止めて、鞠山選手を振り返った。


「アタシがどうして横紙破りをしたのかって、それは花さんが合宿に来てくれたのと同じ理由だと思うよ」


「……あんたに見透かされるほど、わたいは薄っぺらい人間じゃないだわよ」


「ああそう。だったら勝手に語らせてもらうけど、アタシはもっと強くなりたいだけだよ」


 そう言って、小笠原選手は力強く微笑んだ。


「今のままじゃあ、とうていアトミックを引っ張っていけないからね。無差別級のベリーニャに、ミドル級のジジ・B・アブリケル、それにライト級のメイ=ナイトメア……このままじゃあ、アトミックは外国人選手の天下になっちゃうよ。しかもどうせあいつらは、来年にはこぞってアトミックからいなくなっちゃうんだろうしさ」


「え?」と、瓜子は思わず声をあげてしまった。


「は、話に割り込んですいません。でも、それってどういうことっすか? ベリーニャ選手は来年春までの契約でしょうけど、他のお二人もアトミックから離脱しちゃうんすか?」


「そりゃあそうでしょ。メイ=ナイトメアなんてのは、ベリーニャを追いかけてるだけなんだしさ。それにジジだって、《アクセル・ファイト》に参戦したいからこそ、ベリーニャを倒して実績を作りたいんでしょ」


 小笠原選手は、むしろ意外そうに瓜子を振り返ってきた。


「あんた、《アクセル・ジャパン》のカードを確認してないの?」


「いえ、もちろんチェックしてますよ。でも、女子選手の試合は一試合だけで、両方外国人選手っすよね」


「そう。せっかくの日本大会だってのに、日本の女子選手にはお呼びがかからなかった。《アクセル・ファイト》のプロモーターにとって、アタシらはまだその水準に達してないと思われてるってことさ」


「ふん! 舞ちゃんの体調が万全だったら、絶対に声がかかってたはずだわよ」


「うん。舞さんは《S・L・コンバット》でベリーニャといい勝負をしたからね。でも、裏を返せばアトミックの実績はまったく買われてないってことさ。その舞さんといい勝負をしてきたアタシやアケミさんにだって、まったくお声はかからなかったんだからさ」


 小笠原選手は、ふっと白い歯をこぼす。

 しかしその目は、力強い光をたたえたままだった。


「実際問題、アタシらはベリーニャにもジジにもメイ=ナイトメアにも勝ててない。だからジジもアトミックに見切りをつけて、タイトルの返上を申し出たんでしょ。このままアトミックで活動を続けてても日の目は見られないから、ベリーニャの首を手土産に《アクセル・ファイト》への参戦を狙ってるのさ」


「……まったく、ふざけた話だわね」


「ああ、ふざけてる。だからアタシらは、もっと強くならないといけないんだよ。このままベリーニャたちに勝ち逃げされたら、負け犬同士で傷をなめあうしかなくなっちゃうんだからね」


 強い光をたたえた小笠原選手の目が、その場にいる全員を見回してきた。


「そんな崖っぷちの状態なのに、日本国内のジム同士で勢力争いとか、馬鹿げてるでしょ。……この前は、花さんのところで沙羅選手を預かったんだよね?」


「ふん。思うぞんぶん、痛めつけてやっただわよ」


「あいつもこれまでは、プロレスラーって肩書きにこだわってた。だから《パルテノン》系列のジムでしか稽古してなかったんだ。それが天覇に頭を下げて、ムエタイや柔術を取り込み始めた。恥も外聞もなく、強くなろうとあがいてるんでしょ。あいつのそういう部分は、アタシも嫌いじゃないんだよね」


「…………」


「舞さんも美香さんもアケミさんも、今回の合宿に反対したりはしなかったよ。ベリーニャのおかげで、みんな危機感を共有できたんじゃない? このままだと、アトミックの看板が木っ端微塵にされちゃうってさ。アトミックにちょっとでも思い入れがあったら、そんなの耐えられないと思うんだよね」


「ああもう、わかっただわよ。御託はいいから、あんたは黙ってベリーニャを蹴り殺すんだわよ」


 鞠山選手は眠たいカエルのような目を細めて、ユーリのことをねめつけてきた。


「……ベリーニャを倒すのは朱鷺子ちゃんの役目だし、ジジを倒すのは美香ちゃんの役目なんだわよ。あんたはせいぜい、二人の踏み台になるといいだわよ」


「はぁい。ユーリはとにかく、沖選手に勝てるように頑張りまぁす」


 ユーリはにっこり微笑んで、鞠山選手の眼光を吸い込んでしまった。

 鞠山選手はひとつ肩をすくめると、鶏肉の切り分けに取りかかる。口で何を言おうとも、鞠山選手がユーリに敵意を抱いていないことは、日中のトレーニングで証明されていた。


(……小笠原選手はそこまで考えて、この合宿を計画してたんだな)


 瓜子もけっきょくは、ユーリの同類であるのだろう。

 今は目の前の対戦相手、ハワイのラニ・アカカ選手のことしか考えられない。そうして自分が奮起することが、《アトミック・ガールズ》の繁栄につながるものと、そのように願うばかりであった。


                   ◇


 それからおよそ一時間後、瓜子たちは実に賑々しいディナーを開始することになった。

 灰原選手もずいぶん元気になった様子で、もりもりと食事を進めている。どれだけ肉体を酷使しても食欲が減退しないというのは、ひとつの才能であるだろう。少なくとも、この場にそういった才能が欠けている人間は存在しないようだった。


 こういう場では静かになりがちなユーリも、サキや愛音がいつもの調子で言葉をかけてくれるので、それなりに場を賑やかす役目を果たしている。それに、小笠原選手やオリビア選手がユーリに好意的であるために、身内だけの盛り上がりに留まることもなかった。


 そうして、瓜子はというと――灰原選手や鞠山選手ばかりでなく、隣の席に陣取った小柴選手までもがやたらと話しかけてくるので、それらのお相手をするのに終始することになってしまった。

 口の悪いコスプレコンビとは異なり、小柴選手はきわめて友好的な態度である。というか、彼女は瓜子よりも年長者であったのだが、ちょっと幼げな外見と相まって、なんだか子犬になつかれたような心地であった。


「あの、今度はわたしもプレスマンで出稽古させていただけるでしょうか? しばらくは、試合の予定もないのですけれど……」


「あ、いえ、自分にそんな権限はないんで、コーチの方々と相談してもらえますか? 小笠原選手を通してもらえば、話もスムーズだと思います」


「わかりました! 小笠原先輩、どうぞよろしくお願いいたします!」


 小笠原選手は鷹揚に了承していたが、ユーリをはさんで向こう側にいる愛音は、じっとりとした目で瓜子をねめつけていた。


「……またひとり、清純なる女子選手が猪狩センパイの毒牙にかけられてしまったのです」


「なんすか、それ? 毎度毎度、おかしな言い方をしないでほしいっすね」


 そんな風に愛音をあしらってから、手前のほうに視線を引き戻すと、ユーリも複雑そうな目つきで瓜子を見つめている。こちらには、苦笑を返すしかなかった。


「なんすか、ユーリさんまで? あんまりおかしなことは言わないでくださいよ?」


 瓜子がそのように言いたてると、ユーリは囁き声を返してきた。


「いいのです。うり坊ちゃんはこんなにかわゆらしい存在なのだから、人気を博して当然であるのです。ただ、ユーリというちっぽけな存在がいつでもうり坊ちゃんの幸福を祈っているということを、心の片隅にでもお留めおき願いたいだけなのです」


「だから、そういうのがおかしな発言だっていうんすよ。まったく、困ったお人ですね」


 瓜子はたわむれに、自分の頭をユーリのこめかみにぐりぐりと押しつけてやった。

 ユーリは「むにゃー!」と幸福そうに叫び、愛音は眉を吊り上げる。


「い、いったい何をされているのですか! ユーリ様に失礼な真似は許しませんですよ!」


「いえ。ただのスキンシップですので、お気になさらず」


「はーん。ついに人前でいちゃつき始めたか。こいつは末期だな」


「なに言ってんすか。大阪では、サキさんのほうこそセクハラ三昧だったじゃないっすか」


「覚えてねーよ。おめーが夢でも見たんだろ」


 斯様にして、騒がしくも楽しいひとときであった。

 そんなディナーを終えたならば、小笠原選手の企画する勉強会である。


「初日の今日は、直近に試合を控えてる桃園と猪狩に焦点を当てたいんだけど……十人がかりじゃまとまらないし、ジムの仁義ってもんがあるから、二手に分かれようか」


 仁義とは、灰原選手と多賀崎選手についてであった。ユーリの対戦相手である沖選手はフィスト・ジムの所属であり、彼女たちはその系列ジムである四ッ谷ライオットの所属であるのだ。


「猪狩とやりあうラニ選手と対戦経験があるのは、サキと花さんだよね。それじゃあ先に会議室を譲るから、試合映像を観ながらじっくり語らってよ」


 その間、小笠原選手たちは食堂で語らうかまえであるようだった。

 サキに鞠山選手、灰原選手に多賀崎選手という、なかなかに偏った顔ぶれだ。しかし、サキに加えて鞠山選手や多賀崎選手に意見をもらえるというのは、心強い限りであった。


 会議室には大きなプロジェクターが設置されており、小笠原選手の要請で鞠山選手が持参してくれたという《アトミック・ガールズ》の公式DVDソフトがどっさりと準備されていた。


「すごいっすね。録画じゃなくって、DVDを買いそろえてるんすか?」


「ふん。せいぜい隔月の発売なんだから、大した出費じゃないだわよ」


 その中から、ラニ・アカカ選手の試合映像をピックアップして、再生する。

 ラニ・アカカ選手はひょろりとした体形の、一見では強豪選手とも思えない風貌をした人物であった。黒髪黒瞳でよく日に焼けた小麦色の肌をしており、くりくりとした目もとには愛嬌が漂っている。身長は百六十四センチで、ライト級としては長身の部類であった。


「このとぼけた見てくれに、騙されんなよ。パワーもスピードもスタミナも、やっぱ日本人選手とはひとつレベルが違うからな」


「ああ。あのオリビアだって一見は細身だけど、フィジカルはあたしや沖さん以上だ。骨格や筋肉の質からして、まったく違ってるんだろうね」


 多賀崎選手も、惜しみなく発言してくれる。この日に集まったメンバーの中ではもっとも不愛想な人物であったが、五時間ものトレーニングをともにした現在、瓜子の中にも多賀崎選手に対する信頼や親愛というものが芽生え始めていた。


「ふん。ひょろひょろに見えるのは、背が高くて首も手足も長いからだわよ。あんたよりは、よっぽど頑丈そうだわね」


「あんた」というのは、現在スクリーン上でラニ・アカカ選手と向かい合っているサキに対する言葉であった。

 サキはサキでシャープな体形をしているが、ラニ・アカカ選手はそれよりもひょろりとして見える。が、よくよく見れば手足も胴体も、サキよりしっかり肉がついているのだ。骨格がしっかりしており、リカバリーで体重もそれなりに戻しているのだろう。


 そんなラニ・アカカ選手のファイトスタイルは、実に外連味のない正攻法である。パンチもキックも巧みであり、隙あらば組みつきやタックルを狙ってくる。際立ったストロングポイントが見当たらない分、ウィークポイントもまったく存在しなかった。


「……階級が違うんで大して意識してなかったけど、こいつはけっこう厄介な相手だね」


 と、多賀崎選手が再び発言した。


「サキを相手に動き負けしてないし、どんなに打撃をくらってもぐいぐい前に詰めてくる。ラウンドが進んでもまったく動きが落ちないし……これで、グラップリングの技術も一級品だってんだろう?」


「一・五級品ってとこだわね。まあ、ライト級では上から数えたほうが早いだわよ」


「評価のカラい鞠山さんがそう言うなら、間違いなく一級品だ。幸いなことに、レスリング力は並みたいだね。サキが相手だと、いまひとつわかりにくいけどさ」


 確かにサキはすべての組みつきを回避しているので、これでは相手のレスリング力を測ることは難しかった。ただ組みつきやタックルがすべて不発に終わっているので、一級品とまでは言えないだろうと推測するばかりだ。


 そして、結末は唐突に訪れた。

 サキが中段のバックスピンキックを放ち、それがラニ・アカカ選手のみぞおちを直撃したのだ。

 ラニ・アカカ選手は立ち上がることなく、テンカウントののちにサキのKO勝利が宣告された。当時の瓜子を熱狂させてやまなかった、華麗きわまりない勝利である。


「ふん。さすがのあんたも、燕返しを狙うスキは見いだせなかったってわけだわね」


「それより先に、ボディのスキを見つけたってだけのこった。……だけどまあ、雑魚とは呼べねー厄介さだったな」


 ラニ・アカカ選手は地元のハワイで積極的に選手活動を行っているとのことで、アトミックにはこの三年で四回ほどしか出場していなかった。戦績は二勝二敗で、サキと亜藤選手に敗北しており、二名の中堅選手には勝利している。亜藤選手とは接戦の上での判定負けであり、残りはハイキックによるKO勝利とチョークスリーパーによる一本勝ちであった。


「見れば見るほど、オールラウンダーだな。レスリング巧者の亜藤選手には上を取られっぱなしだったけど、攻撃らしい攻撃はされてない。マスト判定じゃなきゃ、引き分けが妥当なところだ」


「こいつは寝技でもくるくるとよく動くし、力が強い上に手足が長くて厄介なんだわよ。上になっても積極的にサブミッションを狙ってくるから、あくまで柔術が主体なんだわね。ただし、パウンドもそれなりに強烈そうだわよ」


「動きに迫力はねーんだけどな。いざ向かい合ってみると、圧力がハンパじゃねーんだ。それにこう見えて、負けん気も強い。殴られたら殴り返す、蹴られたら蹴り返すってのを徹底してる。生半可なやつじゃ判定でも勝てねーな」


 先輩選手たちのありがたい寸評が、瓜子の胸に刻みつけられていく。

 そこで多賀崎選手が、いきなり灰原選手の頭をひっぱたいた。


「お前なあ、ひとりでグースカ眠りこけてるんじゃないよ。お前だって、いつかは当たるかもしれない相手だろうが?」


「いったいなあ。今日は五時間も練習しまくったんだよ? それで頭まで回るわけないじゃん!」


「……グータラのお前が途中で逃げださなかったことは、評価してやるけどな。せっかくなら、感心させたまま終わらせてくれよ」


 多賀崎選手は苦笑しながら、灰原選手の頭を小突き回した。

 荒っぽさで知られる四ッ谷ライオットであるが、なかなか微笑ましいやりとりである。なおかつ、瓜子が多賀崎選手の笑顔を見たのは、苦笑といえどもこれが初めてのことであるはずだった。


「ま、結論から言うと、相手の組みつきをさばきながら、打撃で打ち勝つしかねーってこった。グラウンドに引きずり込まれたら、死に物狂いでしのいで立ち上がる。塩漬けじゃなく極めを狙ってくるタイプだから、それだけが救いだな」


「そうだわね。明日からはグラウンド状態からエスケープするための、地獄のメニューを組んでやるだわよ」


「……お手柔らかにお願いします」


 そうして合宿一日目の夜は、最後まで熱気をはらんだまま終わりを迎えていくことになった。

 こんな日々が、あと六日も続くのだ。瓜子の肉体は最初から悲鳴をあげかけていたが、心の中は嫌というほど充足しきっていた。

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