インターバル
ユーリのももいろ日記
「兵藤選手って、誰だったっけ?」
ユーリのそんな発言に、瓜子は思わずずっこけそうになってしまった。
「兵藤選手は、アトミック無差別級の代表格じゃないっすか! ほら、自分と初めて出会った日の控え室で、ユーリさんに殴りかかろうとしてた、あのお人っすよ!」
「あー、あのおっきくて意地悪そうな人かぁ。うんうん、きちんと覚えてるよぉ」
牛乳の注がれたシリアルの皿をスプーンでかきまぜながら、ユーリは寝ぼけた声を返してくる。本日はサキが早朝出勤で朝食を作る時間がとれなかったため、このようにつつましやかな献立であったのだ。
「確かにあの人は強そうだったねぇ。で、その兵藤選手がどうしたってのぉ?」
「だから、どうしてあの人はユーリさんにあそこまで怒ってたのかって聞いたんすよ。いくら何でも殴りかかろうとするなんて、ちょっと普通の話ではないでしょう?」
「うーん、どうだろう? ユーリはもうなれっこだから、あんまり気にしてなかったにゃあ」
そんなことを言いながら、ユーリはいつも以上にとろんとした眼差しを虚空に向ける。
やがてその肉感的な唇が「ああン」と色っぽい声をもらした。
「思い出したぁ。あのときはねぇ、ユーリが控え室で写真を撮ってたら、兵藤選手が怒りだしちゃったんだよぉ」
「写真? まさか、盗撮でもしてたんすか?」
「そんなわけないじゃん。自分のお顔を撮ってただけだよぉ。ほら、あの、何て言ったっけ……そう、自撮りってやつ!」
そんな風に言ってから、ユーリは切なげに銀色のスプーンをくわえた。
「ああ、ジドリなんて言ってたらニワトリさんを食べたくなってきちゃったぁ……いいよねぇ、地鶏」
「やかましいっすよ。それで、どうして試合の直後に自撮りなんてしてたんすか?」
「それはもちろん、ブログ用の写真だよぉ。毎回きちんと撮っておくように、千さんから指示されてるんだぁ」
「へえ、ユーリさんはブログなんてやってたんすか」
瓜子と同じぐらいインターネットなどには興味のなさそうなユーリであったので、少しばかり意外であった。
そんな瓜子を見返しながら、ユーリは「ううん」と首を振る。
「デビュー前にドキュメント番組を作ってるとき、同時進行でブログをアップ? していこうって話になったんだけどぉ、ユーリはそーゆーの苦手だったから、荒本さんが千さんに代筆を頼んでくれたのぉ。もともと千さんは荒本さんをサポートする役割だったからさぁ、ユーリもデビュー前からおつきあいがあったってわけ」
「はあ。それじゃあ今でも、千駄ケ谷さんがユーリさんのフリをしてブログを更新してるわけですか」
「うん、そのはずだよぉ。ユーリは画像を送るだけで、あとは千さんにまかせっきりだから、そのブログってのがどんな具合なのかも全然知らないんだけどねぇ」
瓜子はちょっと興味をひかれて、テーブルの上に転がっていた携帯端末を取り上げた。
甘いシリアルを咀嚼しながら、お行儀悪く端末を操作する。『ユーリ ブログ』で検索すると、最上段に『ユーリのももいろ日記』というタイトルが浮かびあがった。
幸いなことに、瓜子の時代遅れな端末でも表示できるサイトであるようだ。
瓜子は何気なくその文面を読み進め、そして口の中身をふきだしそうになってしまった。
それをこらえる瓜子のもとに、ユーリが「どうしたのぉ?」と顔を寄せてくる。
瓜子は器官に入ってしまったミルクに苦しみながら、携帯端末の画面をユーリに突きつけてみせた。
*・゜゚・*:.。..。.:*・゜ユーリのももいろ日記゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*
☆★☆ユーリゎ負けないっ!☆★☆
今日も夜までぉ稽古だったょ!
もぅすぐ秋代選手との試合だからね……
ユーリ、超がんばってる♪───O(≧∇≦)O───♪
(画像)
前回の試合がマグレだー!!なんて言われないよぅに
ぃっぱぃぃっぱぃ★ぉ稽古★してるんだぁ(*´ω`*)
よかったら、みんなまた観に来てねっ
ウサピョンのアイコンからチケットの予約もできるので|ω・`)
それじゃぁぉやすみぃ☆ ♥♡♥みんな愛してるよぉ♡♥♡
更新:8時間前(コメント45件)
*・゜゚・*:.。..。.:*・゜ ゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*
☆★☆超びっくりっ!☆★☆
きょぅは♡原宿♡でショッピング!ヽ(*^ω^*)ノ
撮影の合間にこっそりぬけだしたのっ!
そしたら超びっくりっ!!
去年なくしちゃったぉ気に入りのストールが
なんと再販されてぃたのですっっ!!!
(画像)
びば♥再販♥ヽ(*´∀`)ノ
迷わず$購入$しましたともっ!
これでこの春も♥♡ゥキゥキ♡♥だぁ☆
✝かみさま✝ぁりがとぅ(*´ω`*)☆彡
更新:15時間前(コメント82件)
*・゜゚・*:.。..。.:*・゜ ゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*
「…………」
「…………」
「…………千駄ケ谷さん、どんなお顔でコレを更新してるんすかね?」
「…………ユーリ、よくわかんなぁい」
そんなこんなで、本日もユーリと瓜子の多忙な一日は開始されたのだった。
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