第25話 活気づく村、元気ない徳
百合の出産から一か月が経った。赤ん坊の名前も、安直ではあるが百合の小さい時の顔に似ているというので、小百合と命名した。村人たちは「小さな百合ちゃん」といって、道端で見かけても声を掛けてくる。清も百合も、小百合が自分たちだけの子供ではなく、村の子供なんだと実感している。そう、今や、小百合は村のアイドル的存在になっているのだ。
しかし、それだけでは収まらない。村人たちにとっての次なる関心事は、美咲と堀川の結婚だ。二人は二度目の結婚なので派手なことはしたくないと言っていたが、本来祝い事の大好きな村人たちにしてみれば、こうも立て続けにお祝いができるということが嬉しくて仕方ないのだ。
百合と清が結婚するまで、この村にはこれといって大きな祝い事が殆どなかった。それ故に村自体にも活気がなく、いつこの社会から消滅してもおかしくない状態だったのだ。それが、清が廃校に住まい、百合と結婚してからというもの、毎年のように祝い事が続き、村人たちにしてみれば、こんなにも喜ばしい事はない。そのせいか、村自体の活気づき方が今までとは全く変わってきた。というか、村人たちがどんどん若返っていくような感じさえうかがえる。
清と百合が二人と相談して、結婚式は小百合の三ヶ月検診を終えてからということにした。そのころには百合も小百合も落ち着いているだろうという配慮からだ。美咲も村人と会うたびに、みんなから式はいつ挙げるのかと質問されるので、日程が決まったことでホッとしているようだ。
ただ一人、元気が無いのは徳さんだ。これまで、何かにつけて清と百合の世話をしてきたのが、両親が引っ越してきたために自分の役目がへってしまったのだから。百合はそんな徳さんの事が心配になった。
「清さん、徳さん最近元気ないと思わない?」
「君も気づいてたか・・・。世話好きの徳さんが、世話する相手が居ないんだよなぁ」
「そうよね、あなたと私っていうお荷物が無くなったから気が抜けっちゃってるんだわ」
しかし、今の段階では徳にお願いできるような役目は見当たらない。
「兎に角、ゆっくりと考えよう。きっと徳さんにお願いできる役割が見つかるはずだから。越川の夫婦は僕にとってこの村の両親のような存在だから、大切にしたいしね」
百合は清の言葉がとても嬉しかった。自分を育ててくれた村をこんなにも愛してくれている。百合としてはそれだけで充分なのだが、村の一員として考えるとそうはいかない。清の本当の親のようにいつも見守ってもらえたからこそ、今の自分たちが居るんだと思うと、どうにかしてあげなくちゃいけないという気持ちが湧いてくる。
清と百合の二人にとって、夫婦になれたのも徳のお蔭だし、今までどれだけ彼女に世話になってきたか、それを考えるだけでも本当に村一番の恩人であることは間違いのない事実なのだ。しかし、今現在特にしてあげられることがない以上、無理な押し付けは、かえって徳に対して失礼になるという清の考えも間違ってはいない。
結局、結論としては徳の事を静かに見守っているしか、方策は無いのかもしれない。
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