第26話 美咲の嫁入り

 美咲の嫁入りの日がやってきた。村の公会堂には次々と村人たちがやってくる。あまりの多さに公会堂に入りきらない人もいるほどだ。二度目とは言っても、こんなにも沢山の人たちが集まってきて祝ってくれてる事で、堀川も緊張気味だ。二人は一度別れた夫婦だから、祝言などしてもらわなくても、入籍だけで良いと言ったが、村人として新たな門出なのだから祝うのが当然という、村長をはじめとする周囲の意見に押し切られたのだ。

 しかし、改めて白無垢に綿帽子の美咲を見たとき、堀川は感無量となり目に涙を浮かべたのが印象的だった。着付けを手伝った徳さんも「美咲ちゃんは本当に綺麗だよ」といって涙を流してくれた。徳さんにとっては、百合も美咲も自分の子供のようにかわいいのだろう。

 それにしても、堀川の一言は村の歴史始まって以来の迷言として刻まれるかもしれない。彼は羽織袴に着替え終わって、いざ美咲を迎えに控室まで行った時、思わず彼女の美しさに凄い言葉を口にしたのだ。

「美咲、こんなに美しい君を見れるなら、僕は君と何度でも結婚したい」

 思わず堀川の口から漏れた言葉に、すかさず百合が声をかけた。

「てことは何度でも離婚するってことかしら」

「いや・・・そんな意味じゃなくて・・・何度生まれ変わってもということです」

 頭を掻きながら、そう言い訳する堀川を、みんなが笑っている。この一言で、二人は緊張の呪縛から解き放たれたといっても過言ではないだろう。ともあれ、二人の結婚式は、やはり村人たちのお祭り騒ぎとなり、次から次へとお祝いの人が挨拶に来る。飲めや唄えの宴会は、夜遅くまで続いた。

「美咲さん、疲れたでしょう」

 百合の言葉に、それまで緊張していたのだろう、美咲は一気に疲れが噴き出してきたような顔つきになった。

「百合さんの出産のときも凄いと思ったけど、まさか私達にまでこんなにしてもらえるとは思ってもいませんでした」

「この村はね、昔っから祝い事は村全体でするの。要はそうすることで、幸せのお裾分けをしてるんだと思うの。だから、誰かが幸せになれば村全体が一緒に幸せになれるのよ」

 百合の説明を聞いて、美咲も堀川も納得したようだ。確かにお祝いを言って帰っていく人たちの姿は、幸せそのものだった。他人ひとの喜びを自分の喜びとし、他人の幸せを自分の幸せと感じることができる。そんな村だからこそ、清も百合もこの村を愛することができるのかも知れない。そして、その村の一員として、居間、ここで祝言を挙げられたことで、本当に村の住人となれたのかも知れない。堀川と美咲はそう実感していた。

 翌日、例によって二人は子づくりの湯に一泊しに行った。清と百合から不思議なお酒と、不思議な薬湯の話を聞いて、美咲は何やら好奇心の塊になっているようだったが、堀川は玄関に掛かっているという、清の絵を見るのを楽しみにしているようだった。

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