第4話

「……まさか」

 麻衣は自分の考えが恐ろしくて、思わず身震いした。莉子はなぜか、先ほどまでとは違い随分と落ち着いて聞いた。

「何? 麻衣この唄知ってるの?」

「知らない……初めて聞いた。でも……もしかして……」

 逆に、麻衣は動揺していた。

「もしかしたら……歌詞の中の『女児に災いあらんとすれば、我身代わりとなり受けて』、そして『我は女児――女児は我なり』だとしたら……」

「何なの? 私なんのことだかまったく分からないんだけど」

 麻衣はそれを口にするのをためらった。

「麻衣! 何なのよ! 言ってよ!」

 落ち着き払っていた莉子は、今度はいらついているようだった。責めるような目で見られて、麻衣は仕方なく口を開いた。

「……この家の女の子に何か災いが起こりそうになれば、お雛様が身代わりになってくれる。お雛様は女の子と一心同体。そしてまた女の子もお雛様と……」


「えっ? それって、どういうこと?」


 ――コトン……ススッ……


「逆に……お雛様に災いが起こったら、この家の女の子が身代わりに……なる」

「この家の女の子って……私……?」

「莉子、落ち着いて。まだそうと決まったわけじゃないから。ただの唄だし、私の勝手な考えだから」

 麻衣は屈んで莉子の背中に手を置いた。

「私……私が身代わり……首が取れたお雛様の……私……」

 呟きながら、次第に莉子の目が狂気を帯びていく。

「ちょっと莉子、冷静になってよ!  お雛様よ? 人形なのよ? 何ができるっていうのよ!」

「私の首……取れるの? ねぇ……麻衣……私の首……ついてる? ちゃんとくっついてる?」

「莉子……」

 首を両手で触っている莉子を見て、思わず「何言ってるの……ちょっと! しっかりしなさいよっ!」と叫んで、その肩を掴み前後に揺らした。

「やめてーっ! 首が……揺らしたら首が取れるっ!」

 莉子は叫びながら麻衣の手を振りほどき、戸を開けて部屋の外に出ようとした。その時――


 ――カチリ


 微かな音と共に、戸が内側に開いた。

 そして、そこには首を傾げたお雛様がいた。

「あ……何……どうやって……」

 麻衣は、それだけ言うのが精一杯だった。

 その傾いだお雛様は、無表情のまま口を開いた。唄うように語るようにゆっくりと――





 贈られる日に交わされる


 家と紋との無償事


 命をかけて守りしは


 命吹き込まれし定め


 女児に災いあらんとすれば


 我身代わりとなり受けて


 我に災いあらんとすれば


 女児身代わりになり受ける


 我は女児


 女児は我なり





 やっぱり――目の前で唄を聴いて、麻衣は確信した。このお雛様は、自分がされたことを仕返そうとしている。


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