第2話

「あー、やっぱ麻衣のお母さんの料理って、いつ食べても最高!」

「ありがとう。でも莉子のお母さんの料理もすごく美味しいよ」

 お互いの母親を褒め合い、少し照れる。親友とテレビを見ながら、お喋りしながらの夕食は、もしかしたらコンビニの冷えたお弁当でも最高に美味しいのかもしれない。体型が気になる年頃の女子高生二人は綺麗に完食し、後片付けをして一緒にお風呂に入り、二階へと上がった。

 莉子はベッドに横になり、その脇に敷いた布団に麻衣が入り、またお喋りをする。夕飯を食べたばかりなのに菓子を食べながら、麻衣は昼間気になっていたことを聞いてみた。

「あのさ、私ちょっと気になってることあるんだけど……」

 莉子はベッドから降りて、麻衣の布団の上に座った。

「それって、雛人形のことじゃない?」

「あ、やっぱり分かってた? あの時、莉子の様子がおかしかったし、それに……」

 麻衣は布団から這い出て莉子の隣に座り、二階へ上がる前に見た雛人形をまた思い出した。

「それに……なによ?」

「うん……お雛様ね、なんか首が曲がってるように見えたのよ」

「いや、それがさ……」

 莉子はそう言ったきり、続きを喋りたくないのか菓子を頬張った。

「どうしたのよ、莉子らしくない。はっきり言いなさいよ」

「うん……それが昨日、雛人形出してる時にあのお雛様落としちゃってさ……首が曲がっちゃったのよ」

「そうだったんだ」

「でさ……曲がってると落としたのバレると思って、取っちゃったのよ」

「えっ!? 取ったって……それって……」

 麻衣は驚いて、思わず莉子の横顔を覗き見た。言い出して気が楽になったのか、莉子は妙にさばさばした口調で続けた。

「曲がったまんまだと、見た目にあれだし、親にばれたらきっと怒られるし。だから、一回首を取り外して付け替えたほうが見た目分かんなくなるだろうと思って、切ってからくっつけたのよ」

「え、でも、なんか、それってちょっと……いいの?」

「いいもなにも、その時はごまかすことに必死だったからさ、何にも思わずやっちゃったのよ」

 なんとなく気味が悪くなり、麻衣は莉子から目をそらした。しかし、それでもまだ気になる。

「ねえ莉子。でも、付け替えたって言う割には、お雛様の首曲がってなかった?」

「それが……」

 莉子の顔が途端に曇った。

「どうしたのよ?」

「うん……今朝起きたら、あのお雛様だけ雛壇から落ちててさ……また曲がっちゃったのよ」

 麻衣の背中に悪寒が走った。

「……昨日地震あったっけ?」

「ないよ。あったら他のも落ちてるって」

「ちょっと、なんかやばくない?」

 莉子は、「そうなのよ」と言いながら

「たかが人形だけど、なんか気持ち悪くてさ。それで今夜、麻衣に来てもらったってわけ」

と、私を呼んだ理由を話した。

「いや、でも、それだったらさ、うちに泊まりにきたほうがよくない?」

 麻衣は言いながら、莉子は何故気持ち悪いならこの家を離れるという発想にならなかったのだろうと思った。

「そっか……そうだよね。何でそうしなかったんだろう。なんか……家を空けちゃいけない気がしてさ」

 麻衣は徐々に不安を覚え始めた。なぜかは分からなが、ここにいてはいけない気がしてきていた。

「ねえ、今からでもうちに来ない? 自転車だったらすぐだし。莉子には申し訳ないけど、なんだかここに居たくないっていうか、気味悪いっていうか……」

「うん……でも、大丈夫だって。雛人形があるのは一階だし、まさか人形が歩いて階段登るなんてこと――」


 ――カタン



 莉子の言葉を遮るかのように、一階から物音が響いた。

「ちょ……莉子……今の音って……」

 思わず腰を浮かせて莉子を見ると、彼女の顔が真っ青になっていた。

「昨日も……こんな音がしたの……そして……窓に……」

 その言葉につられて、麻衣は思わず窓を見た。

「……ひっ!」

 窓の外には、カーテンの隙間から部屋の中を覗くお内裏様がいた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る