第11話 会議室

 ARK社上海支部のビルのどこかにある秘密の部屋。

 そこに安堂博士と松田がいた。いつもどおり厳重に鍵を閉め、部屋の電源を入れてから机についた。そして目の前の長机のディスプレイを眺める。相変わらず部屋は薄暗い。

 ディスプレイは全部で8台並んでいて、今日は全ての画面に人物が映し出されていた。世界各国のARK社支部の面々である。当然ながら顔を出してはいない。

「日本人街にて、目的のパワーズ二名を無事確保いたしました」

 安堂博士は簡潔に報告した。

 一瞬間があった後、各ディスプレイからどよめきが起きる。

「どんな様子かね? 安堂君。我々に協力してくれそうかね?」

 口だけのラグエが即座に質問した。

「はい。今は気を失っておりまして、治療中です」

「まさか、君のところのパワーズと戦ったのかね?」

 口だけのラグエが唾を飛ばしながら大声を上げた。

「ははは。ラグエ殿、ちょっと情報収集が遅くないですか? プリンシパリティーズが日本人街を襲撃したということはご存知ないですかな?」

 ネクタイのレミは笑いながら言った。相変わらず小馬鹿にしたような物言いだ。

「知らん。それは本当かね安堂君」

「事実です。部下のパワーズに日本人街に向かわせたところ、すでに魔遊がギガント・アームを破壊しており、コクピットの兵士も惨殺されていたようです。それ以外にも、無数の破壊されたブレイブ・ファングが転がっていたようです」

 またもや各ディスプレイからどよめきが起きた。

「またしてもメタトロンの独断だな。ARK社上海支部には事前通告は来ていないだろう」

 後ろ姿のサラカが言った。

「上海支部にはそのような通告は来ていません」

 安堂博士はきっぱりと言った。

「それにしても、ギガント・アームを破壊してしまうとは……。とんでもない奴だ。対戦車の兵器だぞ。新型のブレイブ・ファングとて簡単に倒せるものでもないのに……確かに凄まじい戦果と言えるだろう。訓練も受けていない、そんじょそこらのパワーズにできるかと言ったらそこまでの者はいまい」

 口だけのラグエは驚きを隠さずに感嘆した。

「また、ヴァーチャーズも同じタイミングで魔遊たちを捕獲しようとしていたようです」

「ヴァーチャーズ! やはり現れたか。奴らは一体何を狙っている?」

 後ろ姿のサラカが太い声で驚きを表現した。

「ふん、単に仲間が欲しいだけでしょう。我々やドミニオンズ戦士と戦うためのスカウトでしょうよ」

 ネクタイのレミはネチネチと言った。きっと顔はニヤニヤしてるだろう。

「今はとりあえず、杏璃魔遊と間紋護の二名が目を覚ますのを待っている状態です。命に別状はありません。ただ智力を使い果たして意識を失っているだけです。我々の仲間になるかどうかは彼ら次第です。もし、かたくなに拒否をするようなら……」

 安堂博士はそこで言葉を切った。ディスプレイの奥の各支部の上層部たちはその言葉の先を待った。

「我々の手で処分するしかないかと」

「待ちたまえ。洗脳したらどうかね?」

 後ろ姿のサラカが慌てて言った。

「過去のデータからも、洗脳を施すと、かなり高い確率で精神が崩壊します。仮に無事だったとしても、智力の低下など弊害が出ます。ドミニオンズの戦士として登録するだけならいいかもしれませんが、最高ランクのエンジェルである、セラフィム候補として迎え入れるのであれば、洗脳は行いたくありません」

 安堂博士は冷静に言った。まるで用意した回答を答えたかのようだった。

「では、安堂君がどのように彼らを説得するかによるわけだな?」

「はい。そうなるかと思われます。とはいえ実際に彼らを迎え入れるのは、同年代のドミニオンズの戦士たちです。大人のわたしが出て行っても難しい部分があるかと思われます。筆頭であるアザエルたちに言って、彼らを迎え入れる準備は出来ています。ほかのドミニオンズ戦士たちにも周知させています」

 安堂博士は自信たっぷりに言った。後ろで控えている松田も頭を下げた。

「では、日本人ふたりは安堂君以下ドミニオンズ戦士に任せよう。皆、異論は無いな?」

 後ろ姿のサラカが他の支部に呼びかけた。皆沈黙を持ってだくとした。

「ところで、今回の件で、プリンシパリティーズはかなりの戦力を消耗したようです。今後メタトロンがどう出るか? に注視したいと思います。まず間違いなくパワーズに対して、今まで以上に恨みを抱いているでしょう」

 安堂博士は今ある懸念をつぶやいた。

「メタトロンか……彼もまた危険人物だな。いずれ消さなければならないかもしれんな」

「同感です」

 安堂博士はうなずいた。

「しかし、アメリカ支部ではプリンシパリティーズは必要だ。数々のフォーリンエンジェルズやグリゴリ犯罪にはパペットはとても有効手段だ」

 アメリカ支部の上層部員は慌てて言った。他の支部の者もパペットは必要だと口々に言っている。

 確かにパペットそのものは犯罪に対してとても有効なツールだった。要はそれを束ねるトップが問題なのだ。

「メタトロンに関してはしばらく様子を見よう。本題がそれたな。安堂君、それではふたりの日本人のことは任せたぞ」

 口だけのラグエはまとめに入った。

「承知しました。きっと想像以上のセラフィム候補に育て上げてみせます」

 安堂博士が頭を下げた。

「すべてはMADのために」

 いつもの締めの言葉とともに、ディスプレイが切れた。

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