もうひとつの、(5)

 私の計画では、第三セットの対戦相手はもう決まっている。


 その為には、第二セットでエースを脱落させるわけにいかなかった。

 同様に、ジャックは第二セットでジョーカーになってはいけない人物なのである。

 それは、あの武器の存在に気付いたから。

 彼は、私たちのどちらかを、必ず殺すことが出来る武器を手に入れたのである。

 もしも、ジャックがあの武器を見逃していたならば、もしかしたらエースと二人で物陰に隠れる作戦も、選択肢の一つにあったかも知れない。

 私はジョーカーを、避けようと思えば簡単に避けられたのだから。

 でも、現実はこうなった。

 それに――負け惜しみなどではなく――私自身は、こっちの方が、刺激的で楽しいと思う。


 こうして――。

 ジョーカーになった私は、ジョーカータイムが始まっても暫く、ホールに滞在した。

 早々に退散した二人の男は、小窓から様子を窺うことはあっても、絶対に自室からは出てこないだろう。

 七時間、あの部屋で居座れば勝てる――と、思い込んでいるだろうから。

 コンダクターは、第一セットと同じく、一人だけが見張り役として居残った。あとの二人は両開き扉から退場した。見届けた後、私は扉の頭上に目をやった。紫色のジョーカーのステンドグラスが、覇気なく、ぼんやりと灯っている。

 ジョーカー――これが、私の宿命。

 与えられたと言うより、自ら買って出たのである。

 何処にいても同じだという開き直りからか、足腰が固まって動かない。

 そう、ジョーカーは、ジョーカータイム中は、どこにいても殺される心配がない。

 だったら、狭い部屋よりも、広い場所のほうが、脳にも新鮮な酸素をたくさん供給出来るというものだ。

 赤バンダナも、肩を上下させながら酸素を吸っている。何もない中空の一点を見つめている。私は、その眼の奥を探ってみたくなった。

 コンダクター達は皆、死刑囚だと教えられた。

 奪った命が、息絶えてゆく姿を、あの目で捉えてきたのだ。それは脳裏に焼印のように焦げ付いて、死ぬまで忘れることはないのだろう。もしかしたら今も、スクリーンを広げ、過去の凄惨な所業を再生しているのかも知れない。

 ……と、そんな風に、暇を持て余しながらでも、赤バンダナは、コンダクターとしての仕事をすることが出来るのだ。

 その仕事と言うのが、「」である。


 私が動向を追った限りでは、第二セットのプレイタイムが始まりから終わりまで、赤バンダナがジョーカーの在り処を知るタイミングは、やはりなかった。

 そして、男二人はカードを隠したまま自室に引っ込んだ。私のカードはここにあるが、捲っていない。

 でも、赤バンダナは、のだ。

 私も、赤バンダナと同じ方法で、私がジョーカーであることを再確認した。


「ねえ、どう思う?」

 唐突に、私は赤バンダナの方を向いて笑顔を作った。

 赤バンダナは、一瞬だけ首をこちらに視線をくれたような気がしたけれど、それはホール天井の真ん中辺りを漂ったままだった。

 私は、返事など期待せずに続ける。

「お金が掛かっていることは認めるけど、仕掛けとしては安っぽいわよね。そう思わない?」

 赤バンダナの肩の上下が、一度だけ大きくなった。溜息でも落としたのか。鬱陶しいのだろうか。

 構わず私は、推理を赤バンダナに聞かせた。

「ヒントも大雑把過ぎるし。知ってるでしょう? みんなの部屋にある、あれ」

 赤バンダナの眼球がグリッと動いて、今度は確実に、私を視野に入れた。

「誰がジョーカーであるかを知ることが出来る、隠しアイテムのつもりならば、もっと隠さなきゃ。それとも、これくらい優しくしないと、誰も気付かないのかしら――」

 赤バンダナは沈黙を貫いた。

 私は、エースの部屋のドアの、ぼんやりと光を透過させた茶色のステンドグラスのスペードを眺めた。

「――マージャン卓だなんて。一台でも高価なのに」


 あまりの場違いな代物に、最初から私は、何らかのメッセージが隠されていると察していた。

 そして、それがジョーカー判別方法のヒントであることに気付いたのは、卓の側面にある点数棒収納ケースに、千点棒を入れたときだった。

「あのマージャン卓は、点棒を収納に入れると、点数まで自動計算してくれるタイプだった。点数棒にICタグが入っていて、それを感知するのね。これと同じ仕組みが、ジョーカー判別法にも使われていた」

 ヒントに気付いた後、私はそれを確かめる為に、部屋の小窓から、両開きの扉と、四人の部屋を象徴するパネルを、一つずつ比較したのだ。

 両開き扉にはジョーカーのパネル。そのときそれは、呪われた蝋燭の炎のような、紫色の中に浮かんでいた。

 ジャックの部屋のパネルは、青く

 エースの部屋のパネルは、茶色く、灯っていた。

 キングの部屋のパネルは、緑色に照らされていた。

「つまり、このゲームで使われているジョーカーには、点棒のようなICタグが埋め込まれていて、それを部屋に持ち込むと、ドアの上のパネルが。あなたたちは、それを目印に誰がジョーカーであるかを判別していた」

 赤バンダナは、規則を破るわけにはいかないので無視を決め込んでいるが、時折、身体が揺れるのを見逃さなかった。

「だから、この第二セット……今の時点で、ジャックとエースの部屋のパネルに異変がないとなれば、必然的に、カードを部屋に入れていない私がジョーカーということになる」

 そこまで一気に捲くし立てると、私は二枚のカードを持って、自室へと向かった。ドアを開けて、室内側の小窓に二枚を立てかける。それらが落ちないように静かに閉めると、後ろ歩きで、ホールの真ん中まで戻った。

「ほらね」

 私は、指差した。

 クイーンのパネルが、他のパネルよりも明るく、赤く光ったのだった。

 小窓の向こう側に見える二枚は、クローバーの4と、ジョーカー。

「カードは、部屋の中で開けるのがルールだったから、これは違反にならないわよね」

 私は腕を組んで、赤バンダナの方へ首だけを捻った。赤バンダナは答えなかったし、動かなかった。

 私は、三角形のテーブルの周囲を秒針と同じくらいの速さを意識して歩いた。

 尤も、ジョーカー判別法を見破られたことに対して、コンダクターたちには何の責任もない。痛くも痒くもない。あくまでこれは、参加者たちに与えられた、ゲームを有利に運ぶアイテムの一つなのである。

 そして私も、ジョーカーになってしまった今、判別法はもう、何の役にも立たない。

 ジョーカー側にも、有利になるアイテムは与えられていたが、それももうない。

 ここから私は、他の道具を探していかなければならないのだ。

 使えるものは、何だって使う。

 モノだろうと、ヒトだろうと、自分の命だろうと、他人の命だろうと、何だって。

 何せ、私には人を殺す権利が与えられたのだから。

 これは当然、誰でも得られるものではない。

 楽しまないでどうする。

 滅多にない、こんな刺激的な時間を。

 最高の快楽は、最高の危険に寄り添っているのだ。

「フグみたい」

 私は、稚拙な比喩に思わず苦笑した。赤バンダナに聞こえただろうか。


 三周したところで、コンダクターとの会話の成立を諦めた。

「また、あとでね」

 そう言って、しなやかに手を振る。歩いていたコースを外れて、ジョーカーが待つ自室へと戻った。

 小窓のカードを回収して、電気を点けずに部屋の中央に向かう。

 薄闇の中で、月光に照らされながら、私は服を脱ぎ、純白のベッドに投げ捨てた。

 タイマーを確認する。ジョーカータイムは、あと五時間。

 まだ大丈夫。

 事を急ぐよりも、もっと落ち着かなければ。

 私は風呂場に向かった。シャワーで体を温め、湯を張った浴槽に落ち着く。水面は、心臓が鼓動を打つ度に、微かな波紋を立てた。暫く、その数を数えていたが、すぐに、頭の中に霧がかかっていくような心地がしてきた。ずっとこうしていたい、と気持ちが怠け出す前に、冷水を浴び、風呂から出た。

 残り四時間二十分。まだ早い。

 私は、下着からボレロまで、すべてを綺麗に畳んでから、ベッドの上で瞑想に入った。

 いったん、この世から消えてしまおう、殺してしまおうと考えたのだ。

 呼吸も、脈拍も、意識も、筋肉も、限りなくゼロに近い活動レベルに達すると、睡眠とは違う『無』の状態が訪れる。

 月光が暖かく感じられるくらい、私は冷たくなっていく。

 そして、生きながら、限りなく死に近い領域に入っていった。


 ……目を醒ますと、ベッドのデジタル時計は午後二時を表示していた。

 身体の活動レベルを戻していくと、焦り、不安、驕りなど、全身の細かな傷がリセットされているのを実感した。

 頭の中を舞っていた、邪念も邪推も除去されて、必要なデータだけが整然と並べられている。瞑想の効果は上出来だった。

 服を着てから、私はデスクに向かい、これから行うべき作戦のイメージをシナリオ形式でメモに簡潔に書き留める。

 作戦自体はシンプルだが、時間の掛かる内容だ。

 十五分ほどで作業を終えると、メモをポケットに入れ、残りの準備を済ませてから入り口へ向かう。

 小窓から、他の部屋の小窓が閉まっていることを確認する。

 ゆっくりとドアを開け、ずっと同じ姿勢で監視を続けているコンダクターに手を振った。

 手招きをすると、赤バンダナは気だるそうに腰を上げ、私の部屋の前にやってきた。私が顔を開いても、バンダナから唯一出ている瞳は、作り物のように動かなかった。

 私は赤バンダナを室内へ引っ張り込むと、すぐにドアを閉めた。赤バンダナは、冷徹な動作で武器に手をかけた。

 私は、さっそく本題に入る。

「あなたたちと会話できないことは了解済み。けど、あなたたちを有効利用しないと、私のゲームは勝てないの」

 無意識のうちに小声になっていた。赤バンダナは、無反応で直立したまま聞いている。

 それでも私は、そこに肯定の返事を感じ取り、依頼を続けた。

「今度は少し大掛かりよ。あなたたちの演技次第、みたいな所もあるんだけど、大丈夫?」

 この問いで、赤バンダナは初めて首を微かに傾けた。どういうことだ、という声が喉まで出掛かっている。でも喋れない。これはこれで苦しい仕事だ。

 私は赤バンダナに、作ったメモを手渡す。

「早く読んで。このシナリオがオーケーならば……私を連れて行って」

 そう伝えて、私は赤バンダナから離れた。赤バンダナは素直にメモの文章に視線を落とした。

 恐らく、コンダクターの三人に権限や地位の違いはない、というのが私の憶測である。役割分担こそあるが、特に音楽プレーヤーを持っている奴が一番偉いとか、カード回収係が一番下であるとか、そんな別はない。つまり、このメモに書かれていることを、このコンダクター一人が了解すれば、まず計画は実行に移れるはずだ。

 赤バンダナが顔を上げ、こちらを凝視する。そして一回だけ、首を縦に動かした。

「そう。ありがとう」

 私は赤バンダナに握手を求めたが、手袋に包まれた手が差し出されることはなかった。多分そうなるだろうと思っていたので、諦めて引っ込めた。


「あ、ちょっと待って」

 部屋を出ようとした赤バンダナを制止し、私は小窓から外の様子を偵察する。他の部屋の小窓はやはり閉まっていた。

 再び赤バンダナに先頭を譲り、後ろに付いて部屋を出た。

 歩きながら、赤バンダナの手がホルスターの中を探っていた。

 ジョーカーの扉を開ける直前、赤バンダナは、拳銃を私の目の前に翳すと、これがどういう意味なのかを、雰囲気で脅しをかけてきた。

 分かっている。だから私も、声には出さず、空気で伝えた。

 ……大丈夫よ。ここまでして、七億円を置いて逃げるわけがないでしょ。

 それに、あのドアを出ても、まだ先にもう一つ扉があるのを、ここへ来た時にリサーチ済みだから。

 万が一、外の空気に触れられたとしても、きっと一瞬よ。主催者側の誰かが待機している。何せ、主催者側としてみれば、私たちたけでなく、あなたたち死刑囚に逃げられるリスクも考えなければならない。

 だから、あなたたちこそ、変な考えは起こさないことね……。

 そして私は、自らその銃口に額を持っていった。徐々に力を入れて、押し付けてやると、赤バンダナはトリガーから指を外して、腕を下していった。

 扉の鍵が開けられる。

 ここはあまり音を立てて欲しくなかったが、各部屋のドアに防音効果があることは、キング殺しの時にも観察済みなので、少しくらいは大丈夫だろう。

 扉の先は、炙られて煤けたような黒い廊下だった。

 狭くはない。ずっと奥まで伸びている。途中に申し訳程度の蝋燭が揺らめいている。人工的に穿たれた炭鉱の通路みたいだった。

 中ほどまで進むと、蝋燭の炎に照らし出された木製の扉があった。左側に一枚と、右側に三枚、並んでいる。

 赤バンダナが私に向き直り、片手を差し出して、ここから先は来るな、といったジェスチャーを取った。

 私が素直に頷くと、赤バンダナは右側の真ん中のドアをノックした。十秒ほど経って、中からノックの応答があった。それから更に三秒ほど待ってから、赤バンダナはドアを小さく開けて、身を滑り込ませた。

 残された私は、廊下の更に奥を観察した。暗くて判然としなかったが、やがて出口に辿り着くのだろう。

 数分後、右のドアから黒バンダナが姿を現した。あとで出てきた赤バンダナは、右隣のドアにも同様の手続きを済ませて中へ入っていった。

 私の傍に来た黒バンダナは、持っていた音楽プレーヤーを突き出した。

『恐れいる。大した策士だ』

 こんなトラックまで用意されているということは、やはりコンダクターの有効利用は、主催者側も想定済みなのだ。

 赤バンダナが、緑バンダナを連れて出てきた。二人は私たちを横切り、一番左のドアを解錠した。

 黒バンダナに、顎で促され、私は中に入った。

 室内は、体育倉庫のような六面コンクリートの埃臭い空間だった。天井の蛍光灯も弱々しく、陰鬱な雰囲気ではあった。

 だから、そんな中に設置された機材類たちが、より場違いな存在に映った。

 ドアを背にして右の壁には、幾つかのボタンやスイッチが取り付けられた操作盤がある。左には、スチール製のデスクにパソコン、モニター。そして何よりも目に付くのが、正面に配された、簡易スタジオだった。八角形のソフトライトボックス、巨大なネコジャラシのようなマイク、三脚と、その上に固定されたビデオカメラ。背景とする紙や布はなかった。

 黒バンダナが、操作盤のボタンを幾つかオンにする。続いて、テンキーボタンのゼロを六回押して、セットした。

 その間に緑バンダナが、ライトを点灯させ、カメラの位置を合わせ、私を撮る準備を進めた。


一時間早い失格。

つまり、偽の失格。


その報告が、これからカメラを通して始まるのだ。


午前三時。

注意を喚起するには充分すぎる迫力のブザーが断続的に鳴り響くと、カメラの前で自由を奪われた私も、思わず鳥肌が立った。

 操作盤の二つの赤いランプのうち、一つが緑に変わる。

 数分後、もう一つも緑に変わると、ブザーは止まり、普通以上の静寂が訪れた。

 それが、セリフ開始の合図だった。

 コンダクターの手にあるプレーヤーが、嘘の説明を始める。

 午前四時になったこと、クイーンがジョーカーであったこと、そして、ジョーカータイムをクリア出来なかったこと。

 よって――クイーンは失格、処刑されること。


 その全てが、嘘である。


 コンダクターの一人が、迫真の演技で私を殺しにかかる。

 首筋を触られるのは気持ち悪かったが、私はただ黙して、死を待つ潔い失格者を演じた。

 演技に自信はなかったけれど、命がけで演じた。

 これが、嘘だと悟られない為に。

 とどめに拳銃が発砲される。

 カメラから外れた位置を狙い、私の頭の傍のコンクリートを破壊した。弾け飛んだ破片が耳を掠めていく。フレームインして、疑念の種にならないだろうかと危惧したが、そこは運に任せるしかなかった。

 兎に角――これで私は、死んだことになった。


 肩を叩かれるまで、私は死んでいた。

 生き返ったのが、午前三時二十五分。

 もっと長く感じられたが、実際はそんなものかと私は思った。

 目隠しを取られ、麻縄を解かれると、自由の身で一度、大きく伸びをする。それからコンダクターたちを順に見てから、冗談っぽく腰から折って頭を下げた。

「ご協力、ありがとうございました」

 勿論、誰一人として返事をくれるコンダクターはいなかった。


 しかし、まだだ。

 これで終わったわけではない。

 まだ、一番大切な作業が残っている。

 スタジオから出ると、私はコンダクター三人の後ろに隠れるようにして廊下を進む。

 再びプレイルームに通じるドアの前まで来ると、私はコンダクターがドアを開ける作業を見守った。

 私の指示通り、ゆっくりとドアが開かれる。

 ドアの隙間と、コンダクターたちの隙間から、私はホール内を覗き込んだ。

 そして私は、勝利を確信した。

 今、悠々と座っているのが、真の失格者だ。

「あれ? オンナの死体は一緒じゃないのか?」

 スーツの男は、コンダクターたちを確認するなり、おどけた口調で訊ねた。それから間を置かずに付け加えた。

「やっぱ、所詮オンナには無理だよな。腕力もないし、知力もないし、運も……」

 私は、それ以上の侮辱が許せなかった。

 完全に締め切られていなかったドアを押し開け、ホールに飛び出す。

 状況判断が出来ないうちに、座っているジャック目がけて突進していった。手に握り締めたナイフは、身体の死角に隠した。

 驚愕のあまり体を仰け反らせたジャックに衝突する。ジャックを椅子ごと押し倒した。

 私の、男勝りな一振りによって切り裂かれた喉からは、短い悲鳴を漏らすのがやっとだった。

 ジャックは、驚きと激痛で眼球が零れ落ちそうなくらいに目を見開いていた。私の手の甲を引っ掻き、必死に抵抗する。

 私は、突き立てたナイフを容赦なくねじった。ジャックの両腕がピンと伸び、空を掴む。

 慈悲深い私――そう思ってから、刃を横に走らせ、頸動脈へと押し倒した。

「オンナの死体と……一緒じゃなかった所で……気付くべきだったわね!」

 その、私の一言を冥途の土産に――。

 ジャックは、絶命した。


 ナイフから離れる。

 上がる息が収まってから、私はジャックの白いズボンのポケットを探った。数字カードが二枚、あっさりと出てきた。私は、そのうちの一枚と、自分のジョーカーを入れ替える。

 立ち上がって、コンダクターたちに向けて、ピースを作る。

 その指の間にカードを二枚挟んで、

「ノルマ、クリア?」

 と、小声だが満面の笑みで訊ねた。

 赤バンダナが小走りにやってくると、ジャックの死体を確認する。脈を取り、瞳孔を観察し、呼吸を調べる。そして、他のコンダクターたちに片手を挙げて連絡する。

 それを受けてから、音楽プレーヤーが最終判定を下した。

『クイーン、ジョーカータイム、クリア』

 

 私は、それを聞いてようやく安心した。

 でも、そのことを顔に出すのは嫌だった。

 私は、特に感想もなく、無愛想に浅く頷くと、何事もなかったように部屋へと戻った。

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