第21話

 セントラルエリアにある輝動隊本部の地下――一時的に人を拘留する施設に幸太郎、セラ、麗華の三人は、まとめて仲良く一緒の部屋に閉じ込められた。


 輝動隊と派手に争ったセラは傷だらけ壁を背もたれにして座っており、麗華は不機嫌な顔をして落ち着かない様子で部屋を回っていて、セラと同じ態勢で座っている幸太郎は大きく欠伸をすると同時に空腹でお腹が鳴っていた。


 窓も時計もないが、大体幸太郎は自分が輝動隊に拘束されてから一時間くらい経過していると、自身の空腹具合でそう思っていた。


 輝動隊に拘束されてからのことを思い返す幸太郎。


 あれから、セントラルエリアにある輝動隊の本部に連れられて、数分間軽い取り調べを受けた。カツ丼が出るかと思ったけど、出なかったのが残念だった。


 自分からは有益な情報を得られないと思ったのか、すぐに取り調べは終わった。


 一人で監禁部屋にいると、しばらくするとセラさんと鳳さんが同時に部屋に入ってきた。


 ……二人が部屋に入ってから、まだ一言も喋ってない。


 何度か話しかけようとしたけど、二人とも生返事ばかりで話を広げようとはしないで、心ここにあらずといった感じだったから、話しかけるのをやめた。


 思い返しながら、幸太郎は暇そうに大きな欠伸をしていると、落ち着かない様子で部屋中を回っていた麗華が、突然壁に向かって頭突きをした。


 突然の行為に幸太郎とセラは、麗華に注目する。


 誰が見ても怒っていると理解できる様子の麗華。鉄の壁に思いきり頭突きをしたので痛々しく額が赤く腫れているが、あまりの怒りで痛みすらも感じていない様子だった。


「まんまと、罠に嵌められましたわ! あのいけ好かない北崎という男、絶対に許しませんわ! あぁっ! もう、ムカつきますわぁあああああああ!」


「お、落ち着いてください! 鳳さん。まずは私たちに詳しく話を聞かせてください」


「ファァァァアアアッッッッッック!」


 怒りの雄叫びを上げる麗華は、壁に向かってパンチやキックを連発する。


 そんな彼女に見ていられなくなったのか、セラは慌てて立ち上がって、後ろから羽交い絞めにして制止させようとするが、麗華の怒りは収まる気配がない。


 八つ当たりの道具にされる壁を見て、幸太郎は何だか壁がかわいそうに思えてきた。


 しばらく暴れ回っていた麗華だったが、徐々に落ち着いてきたのか、壁に八つ当たりするのを中断して、説明をはじめる。


 この事件には北崎という、人を小馬鹿にする笑みを常に浮かべている眼鏡をかけた男、用心棒として雇われたドレイクという大男がいるということを教えた。


「……私たち――いえ、輝動隊も鳳グループも彼らの掌で踊らされていたのですわ!」


「詳しく説明してくれませんか? その北崎、ドレイクという男たちが立てた計画を」


「事件の発生から、今のこの状況まで、すべて計算づくだというわけですわ!」


 忌々しげにそう言って、麗華は再度壁を思いきり殴りつけた。


 再び暴れそうな気配がしたが、さっきよりも幾分麗華は落ち着いているようだった。


「彼らの立てた計画は、私たち風紀委員を利用することによって、数が多く、実力者もたくさんいる輝士団と輝動隊との衝突を防ぐことを大前提とした計画だったのですわ」


 麗華の説明を聞いて、セラは得心したように頷く。すぐにセラは理解できたようだった。


「なるほど、私たち風紀委員は他の治安維持部隊と比べ、人数も少なく、まだ信用がないということを利用したんですね。でも、そんな情報――……まさか……!」


「そう、私たちが風紀委員を認知させるために行ったチラシやポスターによる宣伝活動で、風紀委員の人数を調べたのですわ。この活動が裏目に出るとは思いもしませんでしたわ」


「随分と用意周到な方々のようですね、その二人は」


 麗華の説明を聞いて、セラは静かに怒りを露わにしていた。


「計画の立案者はおそらく、あの北崎という男でしょう……彼が立てた計画は数段階あると思いますわ」


「花火の騒ぎ、鳳さんの誘拐、風紀委員に罪を着せる……思いつくのはそれくらいですね」


「その通り――ですが、それだけではありませんわ。しかし、そこまで理解できるとはさすがですわね、セラさん」


 もう一歩足りないセラの解答だったが、理解が早い彼女に対して麗華は素直に称賛して拍手を送る。


「花火の騒ぎはもちろん彼らの犯行ですわ。あの騒ぎを引き起こした後、何らかの方法で証拠をでっち上げ、私に濡れ衣を着せたのでしょう。私を誘拐して監禁したのは、周囲に私が逃げ回っていると思わせるためですわ」


「そして、鳳グループの娘であるあなたが事件に関わっていると判断した鳳グループと輝動隊は、教皇庁と輝士団を抑えて事件を解決しようと躍起になった――すべては計算通りのようですね」


「ええ。鳳グループが設立した輝動隊は、鳳グループの娘である私の身柄を拘束するために、教皇庁が設立した輝士団の介入は絶対に許さない。躍起になって私を探しますわ。その結果、輝士団と輝動隊との直接衝突を上手い具合に避けたというわけですわ」


「鳳グループが面子を保つための行動が、結果として犯人の行動の手助けをしたんですね」


 セラのもっともだが、鳳グループの娘である麗華にとってはかなり痛い言葉に、反論することができず、深々とため息を漏らすことしかできなかった。


「鳳グループを掌で踊らせる方法にはそれが一番ピッタリですわ。犯人の思惑通り、お父様が動いたのですからね。今のアカデミーの混沌とした状況を理解しての計画ですわね」


「でも、まさか学園長が娘であるあなたを拘束しろと命令するなんて……」


「そのことに関して、私は別に気にしていませんわ」


 学園長の命令に、いまだに納得できていない様子のセラは学園長に対しての怒りを露わにするが、娘である麗華は気にしていない様子だった。


「結果はどうであれ、お父様の判断は鳳グループ現当主として正しいですわ。この判断をしなければ、教皇庁に弱みを握られ、一気にアカデミーを乗っ取られてしまいますわ」


「でも、学園長はあなたの――」


「鳳グループの当主、そして、アカデミーに在籍する多くの学生たちを見守る学園長。そんな方が父親としての感情に支配されてしまったら、アカデミーは終わりですわ。私はお父様の判断を尊重しますわ――そんなことよりも、今は事件のことですわ」


 気にしていない様子の麗華に、セラは何か納得できない気持ちになったが、麗華の言う通り、確かに今は事件のことを考えるのが先だった。


「話を続けますわ――私を監禁した後、あなたと彼を含めて輝動隊に拘束させ、その後に輝動隊に私を救出させるつもりだったようですわね」


 今まで順調だった計画に思いもしなかった邪魔が入った時の北崎の顔を思い出し、麗華は気分良さそうに微笑んだ。


「彼が刈谷さんと一緒に私が監禁されている場所へ来ると知った時、北崎は計画が早まったとおっしゃっていましたわ。そして、私の輝石を置いて外に出ました。それだけではありませんわ、私の監禁場所への道に、ドレイクさん以外誰も味方を配置しなかったのですわ。いえ、もしかしたらドレイクさん以外誰も仲間がいないのかもしれませんわね。少数精鋭の方が動きやすいですし」


「それは確かに変ですね。でも、そんなことをして何のメリットがあるのでしょう」


「私たちを捕え、本当の黒幕がいると説明すれば、事態はさらに混乱しますわ。輝動隊の初動を失敗させて、後手に回らせるのが彼らの目的だったのですわ……自分たちの本当の目的のために」


 輝石の力を使えば簡単に拘束も解けるというのに、これ見よがしに輝石を自身の近くに置いた不自然さ。


 まるで自分を見つけろと言わんばかりに、自身の見張りに誰もつけなかった違和感。


 それらの不自然さと違和感を考えたら、北崎の「計画が少し早まった」という言葉の意味が徐々に麗華は理解できて、北崎の計画の全容が見えてきた。


「彼らの目的地は『』……そのためには少しでも輝動隊を混乱させて、時間を稼ぎたいのですわ」


「『墓場』? アカデミー都市内にお墓なんてあるのですか?」


 アカデミー都市では聞き慣れない『墓場』という単語に、セラは首を傾げる。


「そちらの『墓地』ではありませんわ――『グレイブヤード』と呼ばれる、今までアカデミーに在籍していた輝石使いの個人情報等を管理しているメインコンピュータがある場所ですわ」


「どこのエリアにそんな場所が……聞いたことがありませんでした」


「場所の特性上、限られた人間にしか知られていない最重要拠点ですので、知らないのは仕方がありませんわ」


 グレイブヤードがアカデミーに在籍している輝石使いの情報を管理している場所であることを知って、セラは北崎たちの最終目的がようやく理解できた。


「彼らの狙いは輝石使いの情報を得ることですか?」


「最終目的はそうでしょう。その後に何をするのかはわかりませんが、輝石使いの情報が反社会的な組織に渡ってしまえば、悪用されることは必至ですわ」


「それが目的ですか……しかし、限られた人しか知らない情報をどこで――まさか……」


 一通りの麗華の説明を聞いて、セラは嫌な考えが頭を過った。その考えを信じたくはなかったが、麗華の心底失望している様子を見て、それが確信に変わってしまった。


「……それはあまり考えたくない事実ですが、今私たちが考えても何もできませんわ」


 明らかになった北崎たちの目的だが、麗華の言う通り、今の状態では何もできない。


 セラは悔しそうに拳をきつく握って立ち尽くし、麗華は壁を背にしてゆっくりと座った。


「……輝動隊にこのことを教えたんですか?」


「教えましたが、グレイブヤードの存在は輝動隊でも知らない情報。私たちが疑われている今の状況では誰も信じませんわ。しばらく経てば気づくと思いますが……」


「気づく頃にはもう遅いですね」


「ええ……北崎たちの罠にかかった時点で私たちの敗北でしたわ。今の私たちにできることは、早く輝動隊が北崎たちの計画に気づき、すべてが終わる前に決着をつけてもらうことを祈るだけですわ」


 真相に気づいている自分たちがすぐにでも駆けつけたいという気持ちがセラと麗華にはあるが、監禁されている今の状態では何もできない。


 今の自分たちが無力であるという事実を叩きつけられ、セラと麗華は喋らなくなる。


 二人ともこれ以上何を言っても無駄だと思っているからだ。


 暗い雰囲気の中、壁を背にして床に座っていた幸太郎は頭の中で整理していた。


 二人が北崎たちについての話を聞いていたが、幸太郎にはサッパリわからなかった。


 なので、もう一度頭の中で今二人が話した内容を整理して、自分なりに理解していた。


 えーっと――風紀委員が他の治安維持部隊と比べて、人数が少ないから狙われた。

 前に配ったチラシを見て、そう決めた。


 それで……花火の騒ぎを鳳さんのせいにして、誘拐した。

 鳳さんのお父さんが学園長だから、教皇庁の人たちに誠意のある態度を見せるために、輝士団の手を借りないで輝動隊を動かしたんだ。


 それで、僕と刈谷さんが鳳さんを助けに行ったのは、犯人たちが思い描いていた計画よりもちょっと早かったんだっけか。


 最後は……なんか、どこかにある秘密の場所に行くのが目的で、そこで輝石使いの個人情報を得るのが目的だったんだ。


 ……まとめてみるとこんな感じだと思う、多分。

 よし、決めた!


 頭の中で整理が終了した幸太郎は、大きく欠伸をしながら立ち上がった。


「それじゃあ、これからどうしよう」


 暗い雰囲気の中、幸太郎の間が抜けた声が響いた。


 状況をまったく理解していない様子の幸太郎に、麗華は小馬鹿にしたように大きく鼻を鳴らす。


「この状況であなたは一体何を言っているのです?」


「これからどうしようかって聞いてるんだけど……どうする?」


「あなたさっきからバカですの? この状況で私たちにできることはありませんわ!」


「鳳さんはそうなんだ――それじゃあセラさんに聞くけど、これからどうする?」


 苛立ちで声を荒げた麗華の答えを聞いて、すぐに幸太郎はセラに視線を移して質問した。


 突然質問をされて、質問の意図が理解できないセラは戸惑うが、すぐに落ち着きを取り戻して答える。


「鳳さんの言う通り、輝石を奪われて、監禁された私たちでは何もできません……今は大人しく、輝動隊たちが解決するのを祈りながら待ちましょう」


「そうなんだ」


 諭すような口調のセラの答えを聞いて、幸太郎は固く閉じられている鋼鉄製の格子のついた扉に向かって歩く。


 扉の前まで来ると、幸太郎は突然扉を蹴った。もちろん、鋼鉄製の扉はビクともしない。


 何度か蹴っているが、扉はビクともしない。


 幸太郎の意味不明な行動を怪訝そうに、他の二人は見つめていた。


「やっぱりビクともしないか……おーい! 看守の人いるー? ……いないのかな」


 突然扉の格子の外に向かって叫ぶが、誰も来ない。


「ちょっとあなた、何をしていますの? ついに頭が変になったのですの?」


 意味不明な行動をしている幸太郎に、不機嫌そうな麗華が話しかけてきた。


 麗華の質問を聞いて、幸太郎は不思議そうに首を傾げた。


「何って……ここから出ようとしてるんだけど」


 当然のようにそう答える幸太郎に、麗華は呆れた。


「ここは監視の人が必要ないほど厳重なセキュリティに守られていますわ。電磁ロックのかかった鋼鉄製の扉、鋼鉄製の壁、天井部分につけられた監視カメラ――輝石のない私たちには打つ手はありませんわ」


「そうなんだ……監視の人が来ないし、今度はノックでもしてみようかな」


「ちょっと! 人の話を聞いていますの?」


 麗華の話を聞いても、幸太郎は意味不明な行動を止めようとはしなかった。


 意味不明な行動に苛立つ麗華は、幸太郎の肩を強く掴んで無理矢理幸太郎を制止させる。


 自分を止めた麗華を、幸太郎は不愉快そうに見つめる。


「どうして止めるの?」


「あなたが意味不明な無駄な行動をしているからですわ!」


「ここから出るつもりの行動だから、別に無駄だと思ってないんだけど」


「だからそれは――」


「僕はこの事件を解決することに決めたから、鳳さんやセラさんみたいに簡単に諦めるつもりはないよ」


 麗華の言葉を遮り、幸太郎は淡々としながらも強い意志の感じる口調でそう宣言した。


 普段はボーっとしている幸太郎からは考えられないほどの強い意志を宿す言葉と目に、麗華とセラの二人は思わず気圧されてしまう。


「僕はまだアカデミーでたくさんやりたいことがある。入学してまだ一週間しか経っていないのに、その北崎って人に好き勝手されるのは我慢できない」


 いつも通りの淡々とした幸太郎の口調だが、明らかに強い怒りが込められていた。


「だから、どうにかしてここから出て北崎って人を探して、計画を止める。僕はそう決めた」


 そう言いながら、幸太郎は再び扉を蹴りはじめる。


 こんな状況でも、幸太郎は決して諦めることなく自分なりに打開策を見つけようとしていた。


 そんな彼の様子に、麗華は自嘲的な笑みを浮かべて、立ち上がって彼とともに扉を蹴りはじめる。

 麗華に続き、晴々とした表情を浮かべているセラも扉を蹴りはじめた。


「フン! 確かに、黙ってこのまま彼らの思い通りになるのは気に入りませんわ!私も彼らを捕まえることに決めましたわ!」


「同感です。私も犯人たちの計画を止めまることに決めました」


「二人とも協力してくれてありがとう」


 何もできない状況であっても、決して諦めない幸太郎の行動に触発された二人。


 幸太郎は協力してくれた二人に感謝の言葉を述べると、麗華は恥ずかしそうに顔を紅潮させ、セラは優しく微笑んだ。


 三人で蹴っているが、さすがに鋼鉄製の扉はビクともしない。ビクともしないが、何もしないよりはマシだと思い三人は蹴り続ける。


「ビクともしないから、今度は助走をつけて蹴ってみようか」


「お待ちなさい! もっと別の方法が――」


 麗華の制止を聞かず、今度は思いきり助走をつけて飛び蹴りを食らわすつもりの幸太郎。


 軽い助走をつけてから、ジャンプをすると同時に放った飛び蹴り。


 慣れていないせいか不格好の飛び蹴り。


 不格好な幸太郎の飛び蹴りが扉に当たろうとした瞬間、急に扉が開いた。


 突然勝手に扉が開いたので、着地に失敗して思いきり幸太郎は尻餅をついた。


 突然開いた扉に、麗華とセラは驚いている。


「ハーッハッハッハッハッハッハッ! 諸君、調子はどうかね!」


 驚いている二人と、無様に尻餅をついた幸太郎を嘲笑うかのような、三人が聞き覚えのある笑い声が響くと同時に、ヴィクター・オズワルドが扉の外側から突然現れた。


 彼はなぜか、ガードロボットの寸胴の円柱ボディを乗せた台車を転がしていた。


「どうして博士がここに。……できれば、もう少しタイミングよく……」


 尻餅をついて痛む尻を押さえながら、幸太郎はヴィクターの登場に驚いていた。


「ハーッハッハッハッハッハッ! 私を誰だと思っている!全エリアのセキュリティシステムのほとんどは私が構築したものだ。こんな電磁ロックぐらい簡単に破れる――が、今は悠長に説明をしている暇はない。諸君、さっそくだがこの中に入りたまえ」


「これって、確か博士の研究所にあった新型ガードロボットの――」


 台車に置かれているガードロボットのボディパーツが、高等部の地下研究所にあったものと同じだと幸太郎は気づいた。


「いいから、さっさとこの中に入りたまえ。君は犯人の計画を止めるんだろう?」


 幸太郎の質問を無視して、ヴィクターは持ってきたガードロボットのボディパーツの前面を開いて、三人に中にさっさと入るように促した。


 ボディパーツの中は空洞で、何とかギリギリ三人分入ると思われるほどの広さだった。


 ヴィクターの言葉に力強く頷いた幸太郎は、迷うことなくボディパーツの中に入った。


 さっさとボディパーツの中に入った幸太郎を確認すると、ヴィクターはまだ部屋の中に残っているセラと麗華に視線を移した。


「さあ、諸君らも早くこの中に入りたまえ」


「お待ちなさい。ヴィクターさん、どうしてあなたがここに」


 突然現れ、ボディパーツの中に入れと言ってくるヴィクターを麗華は怪しんでいる。


 ちゃんとした理由を聞かなければ、ヴィクターについて行かない様子だった。


「言っただろう? 今は悠長に説明している暇はないのだ。さっさとこれに入りたまえ」


「今は二人以外、誰も信用できない状況です。なので、ここに来た理由を教えてください」


「何があったのかはわからないが、随分と疑り深くなっているようだ……だが、今は悠長に説明している暇はないんだ。その代わり、これで信用してもらえるかな?」


 麗華だけではなくセラも疑っている様子だった。そんな二人の様子に、ヴィクターはやれやれと言わんばかりに深々とため息を漏らし、ポケットの中から二つの輝石を取り出す。


 一つはチェーンに繋がれたセラの輝石、もう一つは麗華の輝石を埋め込んだブローチだった。その二つはここに来る前に没収されたものだった。


 それをヴィクターは持ち主に返した。


「これを渡せば信用してもらえるだろう。ほら、早くこの中に入りたまえ」


「……取り敢えず、戦う力は取り戻したので信用することにしますわ。セラさん、彼について行きましょう」


 麗華の判断にセラは力強く頷いて、ボディパーツの狭い中に身体を押し込んだ。


 狭苦しい中身にセラと麗華は顔をしかめるが、密着状態の幸太郎にとっては楽園だった。


「それじゃあ、静かにしていてくれ……これから脱出するぞ」


 ヴィクターはそう言って、ボディパーツを閉じて、開かないようしっかりネジを締めた。


 ネジを締め終えると、すぐに台車が動きはじめた。

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