第17話

「無駄な時間を過ごした……急いで鳳さんたちを探そう」


 十人以上いた輝動隊たちは、全員気絶して戦闘不能状態になってしまっていた。


 加えて、輝動隊のフォローに駆けつけたガードロボットも数体破壊した。


 一人で十人以上の人間と機械を相手にしても、セラは特に疲れている様子はな

い。


 倒れている輝動隊たちに一瞥もくれず、麗華を探すため、まずは幸太郎に連絡を入れようと思っていたが、目の前に現れた相手を見て、その手を止めた。


 目の前に現れたのは、武輝である大剣を手にしたティアリナ・フリューゲルだった。


 二度と会わないと宣言したのにもかかわらず、彼女が自分の前に現れて嬉しいと思う気持ちがあったが、今のセラは呑気に再会の喜びに浸るほど馬鹿じゃない。


 しかし、ようやく話が通じそうな相手の登場に、セラは少し安堵する。


「まさか、こんな形でまた会ってしまうとはな……まったく、二度と会わないと宣言した手前、気恥ずかしい気分だ」


「会えて嬉しいし、色々と話したいことがあるけど、今はお互いそれどころじゃないよね」


 やれやれと言わんばかりに、ティアは小さくため息を漏らした。そんな彼女の態度にセラは思わず微笑んでしまう。


 セラはさっそくティアに今起きている状況を聞くことにする。


「それで、ティア……一体どうなっているの?」


「この花火と爆発騒ぎの事件の犯人が鳳麗華であるということになっている」


「それはさっきこの人たちに聞いた。でも、鳳さんが犯人なわけがないと私は思ってる。 ティアもそう思うでしょ?」


「輝動隊として、個人的な意見を言える立場ではない」


 麗華が犯人でないと言い切り、セラはティアに同意を求めるが、ティアは何も言わない。


 しかし、ティアも麗華が犯人でないと思っていると、セラには何となくそう感じた。


「この一件は学園長の娘が絡んでいる。教皇庁にけじめをつけさせるため、そして鳳グループの世間体を保つため、輝士団ではなく輝動隊が早急にケリをつけろと、学園長から命令された」


 面子のために娘を信じない親を腹立たしく思うセラだが、今は怒っている暇はなかった。


 今は何とかして麗華を探さなければならないと思っているセラは――

「ティア、今はお互いに協力して一緒に鳳さんを探そう」


「悪いが、それはできない……これ以上、お前たち風紀委員は介入するべきではない」


 セラは協力をティアに頼むが、申し訳なさそうにそれを断った。


 自分との一件で断っているわけではないとセラは察するが、それでも納得はできない。


「お前たちが行動すればするほど、事態の混乱を招くと判断されているからだ」


「それは……ティアの判断? それとも、学園長が下した判断なの?」


「学園長の判断でもあり、私もそう思っている……同じ風紀委員として納得できない理由もわかるが、ここは大人しく私に拘束されるんだ」


 相変わらず冷たい態度のティアだが、淡々としながらも頼むような口調だった。


 ティアの優しさを垣間見たセラは、思わす微笑んでしまうが、すぐに強固な覚悟を宿した目でティアを見つめる。


 きっと、私の気持ちをわかってくれているんだ、ティアも……だけど、ここは退けない。


 小さく深呼吸をして、セラは武輝を強く握る。


「ごめん、ティア……私は鳳さんを友達だと思っているから」


「大人しく従わないのなら――わかっているな?」


 謝ってくるセラだが、退く気はないのは明らかだった。


 そんなセラの様子を見て、ティアは僅かに笑みを見せると、大剣の切先を彼女に向ける。


 お互いに言葉はもう必要なかった。


 セラは一気にティアに肉迫して、攻撃を仕掛ける。


 あまりのスピードに避ける間もなかったティアは、何とか大剣でガードする。


 初撃は防がれたが、セラは連続して攻撃を仕掛ける。


 今はこんなことをしている時間も惜しい――すぐに終わらせる!


 セラはそう思いながら、ティアに体術と剣術を織り交ぜた猛攻を仕掛けていた。


 先日戦った時よりもすべてにおいて格段にパワーアップしているセラに、ティアは驚きながらも冷静に大剣ですべての攻撃を受け流している。


 連続した攻撃の一瞬の隙を見逃さず、ティアはすぐさま反撃に転じて大剣で薙ぎ払う。薙ぎ払うと同時に、凄まじい風圧が発生した。


 しかし、セラは瞬時に反撃に反応して、後方に宙返りしながらその攻撃を回避する。


 回避しながらセラは、光を纏った剣から光弾を数発飛ばした。


 セラの攻撃に、ティアは大剣を盾代わりにして防御する。


 だが、セラの攻撃を防御しても、衝撃は殺せなかったティアは吹き飛んだ。


 吹き飛んでいるティアに向かって、セラは間髪入れずに攻撃をするために飛び込んだ。


 空中でティアは態勢を立て直し、着地すると同時にセラの攻撃を紙一重で回避して、彼女の細い首を掴んだ。


 咄嗟にセラはティアの身体を蹴って、首を絞められるのを回避した。


 セラが回避すると同時に、ティアは武輝に光を纏わせ、思いきり振って衝撃波を放つ。


 避ける暇がなかったセラは、咄嗟に剣で防御する。


 衝撃波を防がれると同時に武輝に光を纏わせ、ティアは武輝を突き立てながら高速で突進してきた。


 セラも武輝に光を纏わせ、突進してくるティアに向かって衝撃波を放った。


 衝撃波が直撃してもティアは怯むことなく、突進してくるスピードも落ちなかった。


 セラは片手で持っていた武輝を、両手に持ち替えてティアに立ち向かおうとする。


 しかし、急にセラは身体を数度痙攣させると、膝をついて呼吸を荒げていた。


「セラ! ――クッ!」


 急に膝をついたセラの様子に驚いたティアは、咄嗟に攻撃を中止しようとするが、セラに近づきすぎていた。


 ギリギリまでセラに迫っていた大剣の切先を、持てる限りの力を振り絞ってティアは強引にそらした。


 どうにかして直撃は免れたが、ティアの攻撃によって生まれた衝撃波がセラの身体は吹き飛んでしまい、受け身も取らずに地面に激突した。


 地面に激突してセラは気絶してしまったのか、ピクリとも動かない。


 咄嗟にティアはセラの元へ駆け寄ろうとしたが、五人の輝動隊員が立っていることに気がついて、自分の地位を考慮してそれを堪えた。


 五人の手には輝動隊に支給されている、スタンロッドが握られていた。


「ティアさん、大丈夫ですか? 騒ぎを聞いて急いで駆けつけてきたのですが」


 一人の輝動隊の隊員は、軽く息が上がっているティアを心配して話しかけてきた。


 ティアは爆発しそうな激情を抑え、冷静に自分を保つ。


「……お前たちがセラに電気ショックを与えたのか?」


「ええ、相手が相手だったので、五人一斉。あなたとの戦闘に気を取られていて、気づいていないのが幸いでした……だいぶ苦戦をされていたように見えましたが、大丈夫ですか? どこか怪我はされていませんか?」


「大丈夫だ。よくやってくれた、感謝する」


 心にもない言葉だが、ティアに感謝をされて隊員は喜んでいた。


「セラは私が本部まで連れて行く。お前たちは倒れている他の隊員を頼む」


 ティアに指示されて、輝動隊員たちはセラに倒された他の隊員たちに駆け寄った。


 ティアは倒れているセラに近づき、優しく抱きかかえた。


 汚れがついているセラの顔を、ティアは優しく指で拭う。


「……すまない、セラ」


 気絶しているセラに向けて、ティアは誰にも聞こえないほどの小さな声で謝罪した。

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