第16話
計画の第三段階に移行するために必要な場所――とある場所にある地下資料室に、ドレイクと北崎、そして拘束されたまま椅子に座らされて眠っている麗華がいた。
追手も特になく、運び出されて数十分――ドレイクは時計を見てそろそろだと思った。
ドレイクと思った通り、ピクリと身体を震わせた後、俯いたまま眠っていた麗華はゆっくりと目が覚めた。
最初は寝ぼけていた様子だったが、意識を失う寸前の記憶を思い出し、自身が拘束されていることに気づいたのか、一気に目が覚めているようだった。
「お目覚めだね、気づいていると思うけど、今君は監禁されているんだ。輝石もこうしてここに置いてあるから、もはや君に打つ手はないよ?」
意地悪そうにそう言って北崎は、ブローチに埋め込まれた麗華の輝石を見せびらかした。
戦う手段を奪われても、麗華は慌てることも喚くこともなく、ただ不愉快そうに自身の優位性をアピールしている北崎を睨んだ。
「ここはどこですの? ……多くのファイルが並んでいる棚が複数あるところから考えると、どこかの資料室でしょうか……」
目が覚めて喚くとドレイクは思っていたが、自分たちを見て冷静に事態を把握しようとする麗華。そんな度胸がある彼女にドレイクは感心していた。
敵意をむき出しにして睨んでくる麗華に向けて、北崎は優しそうな、そして、楽しそうな笑みを向けて、彼女の警戒心を高めさせる。
「どこかのエリアにある建物の地下だね。資料室というのは正解だよ」
「……上手く身体が動けませんが、何か薬を打ちましたか?」
「即効性だけど短時間しか効力がない睡眠導入剤と、お転婆姫が暴れないようにするための筋弛緩剤を打っただけだよ。安心して、用法用量は間違っていないから」
「……フン! 中々面白い冗談ですこと」
胡散臭い笑みを浮かべる北崎に、明らかな不快感を麗華は露わにしていた。
薬の影響で声を出すのも億劫だったが、少しでも相手の情報を引き出すため、気だるさを我慢して麗華は会話をはじめる。
「それで……あなた方は一体何者ですの?」
「僕の名前は北崎雄一、彼は僕が雇った用心棒のドレイク君。よろしくね、鳳麗華さん」
麗華は顔と名前を頭の中に叩きこむようにして、ドレイクと北崎の顔を交互に睨み、北崎が教えた名前を呟くような小さな声で復唱した。
「私の名前を知ってこの狼藉……随分といい度胸ですわね、鳳グループに喧嘩を売るとは。その蛮勇だけは褒めてあげますわ」
「君のような高貴な人にそんな評価を頂けるなんて、光栄だよ」
「フン、心から感謝をしなさい……」
軽口を叩き合う二人だが、殺気を放っている麗華と、無力化されても殺気立っている彼女を見てサディスティックな笑みを浮かべている北崎。
「……どうやら、鳳グループが目的ではないようですわね……」
「すごい、よくわかったね。そう、僕たちは鳳グループには興味はないんだ」
「言ってくれますわね。私の身代金を要求すれば、かなりの額が出せますわよ」
「お金は汗水垂らして頑張って稼いで得るものだから、興味はないよ」
くだらない軽口を言っている北崎の言葉を聞いて、はじめて麗華は心からの笑みを浮かべる。それも、得意気で北崎を小馬鹿にするような笑みだった。
「なるほど……お金目的でもないというわけですね」
「薬の影響がまだ残っているのにもかかわらず、よくもまあ、そんなに頭を使えるね」
強い子だ……そして、頭がキレる。
おそらく、鳳グループという名を出した時、北崎の奴が何も反応しなかったことを察して、目的が鳳グループではないと察したのだろう。
絶体絶命な状況にもかかわらず、気丈に振る舞い、知恵を絞っている麗華を見て、ドレイクは心の中で称賛する。
「……それで、あなた方の目的は?」
「僕たちの目的は『墓場』に向かうことだよ」
簡単に自分の目的を話した北崎に驚くが、それ以上に『墓場』という単語を聞いて、麗華は激しく反応をした。その反応を見て、北崎は心底愉快そうに笑った。
「あなた方の目的が何かはわかりませんが……あそこへは辿りつけませんわ」
「それはどうだろうね……」
「……どうやら、何か策があるようですわね」
麗華の言葉に北崎は詳しいことは何も言わず、ただ不敵な笑みを浮かべるだけだった。
そんな北崎の笑みを見て、麗華は怒りがわき上がるとともに嫌な予感が頭の中を過る。
「さて、お嬢様には申し訳ないんだけど、もう少し君はここにいてもらおうかな?
風紀委員にはまだ役に立ってもらわなければならないからね」
「……あ、あなた方は一体……な、何を……」
「ああ、これ以上無理して喋らない方がいいよ? 今は大人しくしてるんだ」
「よ、余計なお世話ですわ……」
嫌味のようにニッコリと笑う北崎に、悔しさを滲ませる麗華だったが、薬の影響でこれ以上上手く喋ることができなかった。それでも、怒りと殺気を滲ませた瞳を北崎たちに向けていた。
明らかに怒っている麗華だが、そんな彼女の視線を受けて、北崎は心底愉快そうに口を三日月に歪ませて狂気の笑みを浮かべていた。
「さてと、これから最終段階の準備だ……これで最後だから頼んだよ、ドレイク君」
「……ああ」
「運良くここまで来たんだから、最後まで頼りにしているからね」
これでようやく北崎から解放されると思い、ドレイクは心の中で安堵の息を漏らす。
しかし、こちらを睨んでくる麗華を見ると、暗澹たる気持ちになってしまう。
これでいいんだ、これで……こうしなければならないんだ。
ドレイクは心の中で、これからやろうとしていることへの自己正当化をして、暗い気持ちを外に出すのを堪えた。
「僕はちょっと準備に取り掛かるから、彼女の見張りをよろしくね」
そう言って、北崎は部屋を出て、ドレイクと麗華の二人きりになる。
喋る気力のない麗華は、ドレイクを激しい怒りの込めた視線で睨んでいる。
そんな麗華の視線から逃げるようにドレイクは、彼女から視線をそらした。
「……あ、あなたは……ど、どこかで見たことがありますわ……」
麗華は喉に力を振り絞って声を出し、ドレイクに質問するが何も答えない。
答えてしまえば、決意が鈍ると思っているからだ。
「まあ、いいでしょう……いずれ、私の仲間が……必ず、あなたたちを……」
そう言ったのを最後に、麗華は身体の力が完全に抜けてしまった様子で俯いた。
仲間――風紀委員のことか……彼女には悪いが、風紀委員は――すまない。
ドレイクは心の中で、麗華に謝罪した。
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