第三章 風紀委員危機一髪
第14話
放課後、幸太郎は大きく欠伸をしながら今までの出来事を回想していた。
鳳さんたちと出会って一週間が経った。
風紀委員を認めさせるため、色々と頑張ってきた。頑張ったのは主に二人だが。
喧嘩の仲裁、カツアゲしている生徒の退治をしたり、親とはぐれて泣いている子供のために親を探したり、いろんなことをしてきた。……自分は情報収集をしてただけだが。
大きな実績は上げていないけど、風紀委員の行動は着実に周囲に認められていた。
今では、風紀委員のセラさんと鳳さんは一躍時の人になっていて、学内ネットの掲示板でも話題になっている。
ファンクラブもできたので、二人は多くの生徒から羨望の眼差しで見られていた。
自分のファンクラブはまだできていないので、ちょっと羨ましい気がするが、ほとんど自分は何もしていないので仕方がない。
今ではすっかり二人は有名人で、風紀委員に入りたい人たちが後を絶たない。
今も、セラさんの周りは異性同性問わず人が集まり、色々な誘いを受けている。
セラさんの活躍や容姿を考えれば納得できる――が、もう一人は納得していなかった。
「何ですの? ……この差は一体なんですの……何ですのこれは!」
クラスメイトたちに囲まれて和気藹々としているセラの姿を、麗華は幸太郎の近くで激しい嫉妬の炎を宿した目で睨みながら、呪詛のように恨み言を延々と漏らしていた。
爆発的にセラの人気が出はじめた三日前から、ずっと麗華はこの調子だった。
そんな麗華を見かねて、幸太郎はフォローする。
「大丈夫、鳳さんだって学内ネットの掲示板で騒がれているから」
「ほ、本当ですの? さっそくチェックしてみますわ!」
幸太郎の言葉に素早く反応した麗華は、すぐに自分の携帯を出してアカデミーの学内ネットにある掲示板を期待に満ち溢れたキラキラした目でチェックする。
「どれどれ……『麗華さんの高圧的なツリ目についてドMな僕が出した答え』、『金髪ロールの髪の活用法』、『あのレイピアで僕の――』……ふっざけんなですわ!」
怒りと羞恥で顔を紅潮させて、麗華は携帯を床に向かって壊す勢いで思いきり叩きつけた。
フォローのつもりだったが、逆に嫉妬の炎に油を注いだだけだった。
「鳳さんだって、セラさんに負けず劣らず人気があるよ。鳳さんの下僕になってもいいって人だっているから、これは期待に応えるべきじゃ……」
「どんな期待に応えるべきなんですの? どうして私はこんなのですの?」
「く、苦しい、首を絞めないで鳳さん、お、落ち着いて」
ナルシストでプライドが高い麗華には耐えきれない事実に、怒りと嫉妬に狂い、激情に身を任せたまま麗華は幸太郎の首を掴んでブンブン振り回す。
首を思いきり掴まれ、酸欠で意識が朦朧とする幸太郎だったが、完全に意識を失う寸前でようやく麗華が落ち着いてくれて解放してくれた。
「わ、私だって風紀委員なのですわ! 私も活躍しているのにどうして!」
麗華の言っていることは誇張でも何でもなく、その通りだった。
三日前、セラの人気が出はじめてから、麗華は自分もそうなろうと必死で実績を上げてきた。
時には一人で数十人いる不良グループを壊滅させたこともあった。
しかし、そんな活躍をしても、人気度はセラの方が高く、麗華の活躍がセラの活躍のように噂されているのが現状である。
人気がないというわけではないが、セラのように純粋に慕ってくれるような人気ではなく、アブノーマルな性癖を持つマニアックな人たちから人気がある。
どうしてだろうと、幸太郎も考えてみると、すぐに何となく答えが出た。
「単純に人望」
「し、失礼な! 私にだって人望はありますわ!」
「ごめんなさい。そうだったよね、鳳さんにもファンがいたよね」
まったく悪気がない幸太郎の言葉に、麗華は机を叩いて「シャラップ!」と叫んだ。
「あなたのその生意気な口にはもうウンザリですわ! あなたなんて、風紀委員を設立した暁には絶対にクビにしてやりますわ!」
「僕に八つ当たりしないでよ」
「今日こそは大きな事件を解決して、風紀委員を設立させて見せますわ!」
そう宣言して、やる気と怒りに満ち溢れた麗華は幸太郎から離れた。
そして、麗華はクラスメイトたちと談笑しているセラを無理矢理引っ張って、今日も大きな実績を得るために教室を出て、巡回に向かった。
二人が出た後、幸太郎はしばらく教室に残って、今日はどうしようかと考える。
いつもなら、放課後はセラと麗華のため、アカデミーの学内ネットの掲示板で情報収集を行っている。成果は今までで一つもないが。
主に幸太郎は、放課後はファミレスにいるが、さすがにファミレスの味にも飽きてきた。
なので、今日は商店街で食べ歩きをしながら情報収集をしようと決めた。
……鳳さん、携帯忘れてる。
今日の予定を決めて、さっそく教室を出ようとしていると、床に落ちている麗華の携帯を発見した。怒りに身を任せて携帯を投げ捨て、そのまま拾い忘れているようだった。
風紀委員として、携帯と学生手帳は持つようにと決めたから届けよう。
そう決めて携帯を拾い、教室を出ようと思った瞬間――
外から何かが打ち上がる音ともに、爆発音が響き、眩いほどの閃光が煌めいた。
――――――――――――
「最近あの生意気な口がさらに拍車がかかっている気がしますわ!」
セラを無理矢理教室から連れ出し、校舎から出てからも麗華は怒りが収まらない様子で幸太郎の恨み言をずっと言っていた。
怒りとやる気に満ち満ちている麗華の気迫に、幸太郎が何か余計なことを言ったのだろうと、セラは察して、小さく嘆息する。
「鳳さん、いい加減気持ちを切り替えましょう。それでは油断が生まれてしまいます」
「わ、わかっていますが! 元はと言えばあなたが原因なのですわ!」
「え? 私のせいですか? ……す、すみません」
麗華の怒りの矛先が自分に向けられていることを知り、納得できない気持ちだったが、ここで余計な反論をしてしまえばさらに火に油を注ぐと思ったので、セラは素直に謝った。
「べ、別にあなたのせいではありませんでしたわね……八つ当たりをしてしまい、申し訳ございません」
「気にしないでください。気持ちを切り替えましょう」
「そうですわね、そうしましょう!」
八つ当たり気味に怒りの矛先を向けられて謝るセラに、すぐに麗華は落ち着きを取り戻し、自分の非を認める。落ち着きを取り戻した麗華に、セラは小さく安堵の息を漏らす。
「今日こそ、大きな実績を! そして……私のファンクラブを……ッ!」
拳を天に高く突き上げて声高に宣言する麗華――そして、小さく自分の願望も口にした。
「それにしても、あっという間に一週間を過ぎようとしていますね」
「そうですわね。まあ、あまり私は日数に関しては気にしていませんが」
「そうなんですか? すごいですね……私なんて落ち着いていられませんよ」
「オーッホッホッホッホッホッホッ! まあ当然ですわ!」
そろそろヴィクターの提示した十日が過ぎようとしているにもかかわらず、特に気にしている様子はない麗華に、自分と比較してみたセラは心の底から彼女を尊敬した。
素直に尊敬の眼差しを向けてくるセラに、麗華は気分が良さそうに高笑いをした。
「もしも十日間のうちにどうにもならなかったら、また他の手を考えればいいだけですわ。それに、一週間過ぎても時間はあるのですから、まだ諦めるのには早いですわ」
「確かに、諦めるのにはまだ早いですね……今日も頑張りましょうか!」
どっしりと構えている麗華に感化され、セラもやる気が出てきた。
セントラルエリアの駅前広場に到着して、今日も本腰を入れて巡回をはじめようかと思った瞬間――
何かが打ち上がる音ともに、空から爆発音が響き、眩い閃光が煌めいた。
麗華とセラは二人同時に空を見上げると、きれいな花火が上がっていた。
まだ真っ赤な夕日が空に浮かんでいるのにもかかわらず、大輪の花火が空に咲いていた。
突然花火が上がったのを怪訝そうに麗華は見つめていた。
「花火ですか……何かイベントでもあるのでしょうか」
「おかしいですわ、こんなイベントはなかったと思うのですが……」
アカデミーを運営する組織の一つである鳳グループの娘にもかかわらず、花火が上がるのを麗華は知らなかった。彼女でさえも知らないことに、セラは何か胸騒ぎがする。
「一体何が起きているのでしょう」
「行ってみる価値はありそうですわ、さっそくウェストエリアに――」
麗華の言葉を遮るように、再び上がる花火。今度は二連発だった。
今度はこの近く――セントラルエリアに花火が上がったようだった。
「今度はこの近くですわ……おそらく、ここからそう遠くない場所にある公園ですわね」
今打ち上げられた花火の場所を麗華は推測する。
「セラさん、ここは別れて行動しましょう。私は今打ち上げられたと思われる場所へ向かいますわ。決して、下校途中の生徒が多くて、あわよくばファンを増やそうか思って、セントラルエリアの選んだわけではありませんわよ?」
本音がダダ漏れで建前が意味をなしていない麗華に、セラは呆れながらも別行動をすることに異存はなかった。
「今までにない大事件の予感がしますわ! 気を引き締めましょう」
不謹慎にも、麗華は自身の目を期待の光でキラキラと光らせている。
「もしも、これが大事件ならば、輝動隊と輝士団はどちらが事件を担当するのか議論しているハズ――両者が手をこまねいているうちに私たちが解決しますわよ!」
「わかりました。ですが、油断はしないようにしてくださいね」
「それはそっくりそのままお返ししますわ」
かつてない事件の予感に。いよいよ大きな実績を得られる好機かもしれないと感じている麗華は期待に胸を膨らませ、対照的にセラは胸騒ぎがしていた。
胸騒ぎが止まらず、セラは思わず麗華を制止しようとするが、これが認められればティアと同じステージに立てるかもしれないと思い、それを堪えた。
セラは麗華の指示通りウェストエリアに向かうために、電車に乗った。
麗華はファンを獲得するため、人通りの多いイーストエリアに向かった。
そんな二人を、車に乗った二人の男が見つめていた。
――――――――――
「二人は別れたようだね。いいね、今のところいい感じだね、まだ序章だけど」
ドレイクが運転する車の後部座席に座っている北崎が興奮した面持ちでそう言った。
「……追うぞ」
興奮している北崎とは対照的に、冷静な様子のドレイクはターゲットに向かって車を発進させる。一瞬車を停止させようかという考えが頭に浮かんだが、それをすぐに討ち払う。
北崎は鞄をゴソゴソしながら、持ち物を確認する。
「こっちの準備は万端だよ。手筈通り、即効性の睡眠導入剤を染みこませたハンカチで眠らせてから、筋弛緩剤を打つ……ということなんだけど、君の準備はOK?」
「わかっている。問題ない」
「あ、わかってた? さすがはドレイク君だね」
仕事前に集中力を高めているというのに気安く話しかけてくる北崎に、苛立ちそうになるドレイクだが、それを抑え、冷静になることを努める。
苛立ちを我慢して返事をするドレイクの態度に、北崎は満足そうに微笑んだ。
「もうそろそろ公園が近づくから、その時はよろしくね。本当は僕も手伝いたいけど、輝石使いじゃないから、返り討ちにされちゃうからね」
「……わかっている」
「タイミングが重要だから気をつけてね」
頼むから黙ってくれ……
そう心の中で呟き、ドレイクはため息を漏らしそうになるのを堪える。
主な計画は昨日、ドレイクは詳しく北崎から聞いていた。
ドレイクは昨日、北崎から聞かされた計画を思い出す――北崎の立てた計画は多少運が作用されることがあるが、確かに成功確率は0から半々になったとドレイクは感じていた。
目的を考えれば、成功率0という絶望的な状況から、よく半々にまで成功率を高めたと思い、ドレイクは一瞬北崎を褒めそうになったが、我に返ってそれを堪えた。絶対に口に出したくないと思ったからだ。
そろそろか――……
野次馬が集まる公園が近づき、ドレイクは車を停車させる準備をする。
計画の第二段階――鳳麗華の拉致の開始だ……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます