第31話

 ――何とか到着したけど……

 何だろう……何か、変な気がする……


 迫る輝石使いたちの対処を優輝と宗仁に任せ、道を阻む輝石使いたちの相手をしながら沙菜、美咲、ジェリコに連れられてティアストーンの元へとようやく到着するリクトとプリム。


 神秘的な青白い光とともに、圧倒的な力を放っている巨大な涙形の石――輝石を生み出す力を持つ、煌石・ティアストーンを前にして、リクトは何か違和感を抱いてしまっていた。


 プリムもリクトと同じ気持ちなのか、圧倒的な力とともに漠然としない力を放つティアストーンを怪訝そうに見つめていた。


「リクト様、プリム様、ティアストーンの起動をお願いします」


「アタシとしてはもうちょっと楽しみたいんだけど――アルトマンちゃんと戦った方が面白そうだからね♪ 早く終わらせようよ❤」


「ここは我々が守るので、お二人はティアストーンに集中してください」


 出入り口から現れる大勢の輝石使いたちを相手にしているジェリコと美咲と沙菜に急かされるが、リクトとプリムは湧き出る違和感にティアストーンの起動に二の足を踏んでしまっていた。


「わかっているのだが……リクトよ、お前はどう思う?」


「プリムさんと同じことを思っていると思います――何だか、妙な感じがします。ティアストーン自体に問題はないようですが……こういう時にティアストーンの力に慣れている母さんがいてくれたら、原因を特定できたのですが……」


「どうする……ここで起動するべきだと思うか?」


「予定通り、アルトマンさんを倒すため、賢者の石を無力化させるためにH起動するべきだとは思います」


「アルトマンの罠である可能性は大いにありえるぞ」


「わかっています、わかっていますが……ここまで来た以上、起動せずに戻れませんし、アルトマンさんを倒せる可能性が僅かでもあるのなら起動するべきです」


 神秘的な輝きを放つティアストーンから感じられる違和感に、アルトマンが何か罠を仕掛けた可能性があると考えて動けなくなってしまう。


 しかし、アルトマンがいつ幸太郎に接触して、交戦するのかわからない以上、引き返す時間も、迷っている時間もなかった。


「それならば、リクト。私が一度ティアストーンを起動させる――何か問題があれば、お前が制御してくれ」


「……危険かもしれません」


「お前がいるのならば何も心配はない」


「……わかりました。もしもの時はプリムさんを必ず守ります」


 様子を見ながらティアストーンを起動させることに決め、さっそくプリムは意識をティアストーンに集中させる。


 しばらくの沈黙の後、プリムの身体がティアストーンから放たれるものと同じ青白い光に包まれ、小さな身体から圧倒的な力が放たれる。


 同時に、ティアストーンを包んでいた青白い光が徐々に強くなり、周囲に放っていた力も徐々に強くなってきていた。


 ――今のところは大丈夫そうだ……

 警戒しながらも、安定してプリムさんはティアストーンの力を引き出している……

 何も問題はないように見える……――でも、何だ、この違和感……


 プリムとティアストーンの様子を注意深く観察しながら、いつでも彼女をフォローする準備を万端にさせるリクトだが、ティアストーンから流れ出るように放たれた力を間近で感じ、抱いている違和感は徐々に強くなってきていた。


 そして、ティアストーンから流れ出る力を感じ取るにつれて、強くなってくる違和感が徐々にハッキリしてくる。


 ――これは……まさか!


「プリムさん! 今すぐティアストーンの力を止めてください!」


 ティアストーンから流れ出る力の行く先を感じ取ったリクトは、ティアストーンの力を操るのに集中しているプリムを制止させるが――


 すべてはもう遅かった。




――――――――――




「――敵の流れが変わった。どうやら、刈谷たちは安定して戦えているようだ」


「多分、二人に援軍が来てくれたんじゃないかな? 心強い援軍が」


 無窮の勾玉に向かいながら、刈谷たちが撃ち漏らして背後から迫ってくる敵の流れが若干緩くなってきたことを、敵たちの相手をしながらティアは気づいた。


 自身の周囲に浮かび上がらせた複製させた武輝である手裏剣を適当に操りながら、大和は刈谷たちの身に起きた出来事を何となく想像している様子で、楽しそうに笑っていた。


「勢いが衰えていないということは、刈谷君と大道さんは元気である証拠ね。とにか

く、二人の勢いが衰えていない今の内に急ぎましょう」


「――了解」


「二人とも元気だねぇ」


 そう言って、この勢いのままに一気に前へ突き進む巴と、それに続くティア。


 刈谷と大道を残してただでさえ少なかった心強い戦力が少なくなり、ここに来るまで大勢の敵たちを倒したというのに、目的地に近づくにつれて更に敵の襲撃も苛烈になってきたというのに、勢いをまったく衰えさせることなく迫りくる敵たちを薙ぎ倒すティアと巴を見て、大和は感心したように眺めていた。


 目的地を守る敵たちを二人に任せ、大和は余裕な足取りで先へと進みながら、周囲に浮かび上がらせた複製した武輝である無数の手裏剣を自在に操作しながら、背後から襲いかかってくる敵を倒し続けていた。


 敵が多くて時間はかかったが、それでも大和たちはいっさいの消耗をすることなく余裕に目的地――中央に置かれた重厚な筒状のガラスケースに覆われた、輝石の力を増減させる力を持つ勾玉型の煌石・無窮の勾玉から放たれる神秘的でありながらも、どこか毒々しさを感じられる緑白色の光と、煌石から流れ出る力によって包まれた空間に到着した。


「それじゃあ、ティアさんと巴さんには、僕の邪魔をさせないように出入り口を守ってもらおうかな――って言っても、ここに来るまでほとんど倒しちゃったからいないか」


「でも、油断はできないわ。大和、あなたは自分のことに集中しなさい。その間に私とティアはあなたのことを守るわ」


「さっすが巴さん。頼りになるなぁ。それじゃあさっそく――」


 自分の後ろは巴たちに任せて、無窮の勾玉の元へと向かう大和だが――


 無窮の勾玉を近づいた瞬間、大和は目を疑い、仰々しくため息を漏らした。


 一見すると普通に見える無窮の勾玉から、無窮の勾玉の力を自在に操ることのできる御子である大和は明らかな異変を感じ取ると同時に、その理由を理解してしまったからだ。


「……どうやら、僕たちはアルトマンに誘き出されたのかもしれない」


 ため息交じりに放たれた大和の言葉に、「どういうことだ」とティアは即座に反応する。


「無窮の勾玉から流れ出てる力が


「アルトマンの元へか……すぐに止められないのか?」


 無窮の勾玉の力がすべてアルトマンに向かってしまっているという状況に、ティアは冷静に努めながらも、僅かに動揺を感じさせる弾んだ声で大和に尋ねた。


「無理。気づいてすぐに無窮の勾玉から流れ出る力を止めようとしてるけど、それができないんだ……多分、アルトマンの賢者の石によって制御されてる。こっちからのコントロールを完全に奪われてるみたいだ……それに、もっと最悪なのは――」


 アルトマンを守護する賢者の石を無力化させる効果的な手段が失われてしまったことよりも、大和は最悪な事態を思い浮かべていた――


 アルトマンの胸に埋め込まれた装置を想像して。

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