第25話
優輝さん、宗仁さん、美咲さん、沙菜さん、ジェリコさん――他にも、輝士や聖輝士、鳳グループの実戦経験溢れる輝石使いの人たちがいて心強いけど……
数が多すぎるし、想定以上の強さで簡単に倒れてくれない……
味方も大勢減っているせいで、中々前に進めないし。
何とかして先へ進まないと……
でも、一つだけ確信できるのは、ここまで警備が強化されているということは、アルトマンさんにとって煌石の力はそれほど恐ろしいってことなんだ。
だから、ティアストーンの元へと辿り着ければ、状況はきっと帰ることができるはずだ!
教皇庁本部跡地の地下にあるティアストーンの元へと向かっている、リクト、プリム、優輝、宗仁、美咲、沙菜、ジェリコ、その他大勢の協力者たちだが、道中大勢のアルトマンに操られた輝石使いやガードロボットが待ち受けており、彼らの苛烈な攻撃によって大勢の味方が戦線離脱しながらも、確実に前に進んでいた。
しかし、味方が減るにつれて進みも徐々に遅くなってしまい、今では目的地まで後一歩だというのに前方から目的地を守る敵と、後方から撃ち漏らした敵たちが迫り、一歩も動けない状態だった。
停滞している状況に武輝である盾を手にして戦い、周囲を守っているリクトは歯噛みしつつも、アルトマンは確実に煌石の力を恐れているのだろうと思い、諦めずに先へ進もうとしていた。
「むぅ……敵の勢いが激しくなっているな。このまま停滞すれば、じり貧になるだけだ」
「プリム様、下がっていてください」
輝石を扱える力を持っていても、輝石使いの実力はないに等しいプリムは、徐々に追い詰められている状況を冷静に分析していた。
そんなプリムの前に庇うようにして立っているジェリコは、いっさいの無駄のない動きで武輝である二本のナイフを振るって襲いかかる輝石使いたちを次々と倒していた。
「しかし、ジェリコよ。このままでは消耗するばかりで、まずいのではないか?」
「ええ、そのような流れになっていますがご安心を。あなたのことを必ず守るようにと、あなたのお母様から命じられているので」
「別に気を遣わなくてもいいぞ。どうせ、素直ではない母様のことだ。私がリクトの迷惑にならないように見張っていろと言われたのだろう?」
「……要約しただけです」
正直に答えるジェリコに、追い詰められている状況だというのに、素直ではない母の気遣いを感じたプリムは楽しそうに笑っていた。
「いやぁ、最高だね、もー、本当に最高だよ!」
そんなプリムの楽しそうな笑い声以上に、心底楽しそうに笑って狂喜しながら縦横無尽に駆け回りながら武輝である身の丈を超える大斧を振るって、操られているとはいえ味方である輝石使いたちをいっさいの容赦なく次々と薙ぎ払っている美咲だった。
「おねーさん、さっきからジュンジュンしっぱなしの濡れ濡れだよ!」
戦闘狂である美咲は大勢のタフな敵を相手にして、発情した獣のように興奮しきって、ティアストーンに向かってから今まで勢いが衰えることなく戦っていた。
近づく敵すべてを一撃の下で吹き飛ばす美咲の様子はまさに災害級の暴風だった。
それに加えて、攻撃することに集中するあまり大勢から集中攻撃を受けても、いっさい美咲は無傷で怯むことなく、攻撃されても構わずに反撃を仕掛けていた。
そんな鬼神のような強さを見せる美咲に、操られて意識を失くしているというのに、輝石使いたちは不用意に美咲に近づこうとせず、彼女を恐れているようだった。
しかし、敵がどんなに美咲を恐れていても、狂喜の笑みを浮かべた美咲は決して敵たちを逃がすことなく、自ら進んで倒しに行っていた。
この場にいる誰よりも敵を倒している美咲の活躍のおかげで追い詰められていないが、彼女の勢いと同様に敵の勢いも衰える様子はなかった。
だが、美咲はそんな状況などまったく構うことなく、待ち望んでいた大暴れできる状況に狂喜しながら、戦い続けていた。
一方、一人盛り上がっている美咲とは対照的に、武輝である刀を手にした優輝と宗仁の間は冷え切っており、そんな二人の様子をオロオロした様子で武輝である身の杖を手にした沙菜は眺めていた。
背中合わせに立つ宗仁と優輝は、溢れ出んばかりの輝石の力で生み出した無数の光の刃を周囲に浮かび上がらせると同時に、四方八方から迫る大勢の敵たちに発射する。
光の刃を一撃直撃しただけでは、賢者の石の力によって強化された輝石使いは倒れなかったが、尽きることなく発射し続ける光の刃を何発も食らえば話は別だった。
二人の周囲が一瞬の沈黙が流れるが、すぐに撃ち漏らした敵たちが立ち上がって二人に襲いかかろうとする――だが、その瞬間彼らの周囲に無数の光球が現れ、彼らがそれに触れた瞬間、無数の光球が一気に弾け、その衝撃で彼らは吹き飛び、ようやく倒れた。
彼らを吹き飛ばした光球は輝石の力でフワリと宙に浮いている沙菜が生み出したものであり、彼女が得意とする触れると一斉に爆発するトラップだった。
大勢を一気に戦闘不能にした沙菜の力を目の当たりにした宗仁は、感心したように小さく頷いていた。
「触れて爆発する間がなく、直前までどこに仕掛けたのかもわからない罠――素晴らしい技術だ。前に会った時と比べで強さだけではなく、技術も向上しているとは、並大抵の努力ではここまでの技術を会得するのは難しかっただろう」
「さすがは沙菜さんだね。こっちが撃ち漏らした敵を一人残らず片付けてくれたんだから」
「あ、ありがとうございます」
伝説の聖輝士と呼ばれた人物と、憧れの人物に褒められ、沙菜は頬を染めて照れていた。
「でも、やっぱりお二人には敵いません。あそこまで輝石の力を自在に操るなんて」
「心技体を鍛えれば、輝石は必ず所有者の思いに応えてくれる――だが、優輝。昨日も言ったが、お前は自分の有り余る才能に過信し過ぎている。私も他人のことは言えないが、そのせいで撃ち漏らした敵が多かった」
「はいはい、どうもすみませんでした。これからも精進します……まったく、こんな状況だっていうのに今説教しなくてもいいのに……」
こんな状況で説教してくる父にムッとしながらも、父の言う通り撃ち漏らした敵の数は自分の方が上だったので何も反論はできなかった。
更に冷える二人の間の空気に、沙菜はオロオロしはじめる。
「真面目に聞くんだ。そんな態度だと、また大勢の人間に迷惑がかかるぞ」
「悠長に説教している暇があるなら、この状況を少しでも打破する手段を考えるべきなんじゃないんですかね」
「それを考える前にお前が周りに迷惑をかけないようにするのが、師としての責任だ」
「それはどうも。それなら、今すぐに考えてくださいよ」
「お前も子供のように苛立っている暇があるのならば、自分の才能を過信してばかりの軽い頭で考えたらどうだ?」
軽い口論をしている最中も父子に迫る敵たちだが、口論しながらも二人は高まる苛立ちと怒りで更に上がった力で、無数の光の刃を生み出して発射し、迫る敵を倒し続けていた。
追い詰められている状況だというのに、口論を続ける二人の父子に沙菜は、「あの……喧嘩はやめてください……」とおずおずとした様子で割って入ろうとするが、彼女の言葉など熱くなっている二人の耳には届いていなかった。
そんな二人に徐々に苛立ちを募らせる沙菜はいよいよ――
「二人とも、いい加減にしてください!」
怒声を張り上げると同時に自身の周囲に優輝と宗仁が生み出した光の刃の数以上ある、無数の光球を生み出し、襲いかかる敵たちの目の前で弾けた。
「「……すみませんでした」」
怒りで一気に力を放出した沙菜の姿を見て、宗仁と優輝は素直に謝って口論をやめた。
ジェリコ、美咲、優輝、沙菜、宗仁――味方の数が減っても、彼らのおかげで何とか持ちこたえているが、防戦一方の状態で目的地に進むことができなかった。
大勢を相手にしてまったく疲れを見せていない優輝たちだが、目的地に到着するのが遅れてしまえばその分アルトマンと対峙する幸太郎たちに負担をかけてしまう結果となってしまうので、敵の相手をしながら状況を観察していたリクトは焦りを抱いていた。
どうにかしないとダメだけど……でも……
停滞する状況に焦りながらもリクトは一つの考えが浮かぶのだが、賢者の石によって強化された大勢の輝石使いがいる状況でその判断を下すのを躊躇ってしまう。
「リクトよ! ここは、我々だけでも先に向かうべきだ」
リクトの逡巡を見透かしたように、プリムは声を上げる。それしか停滞する現状を打破できないのだが、「で、ですが……」と、リクトは躊躇ってしまう。
「それしかないよ――リクト君、ここは俺に任せて君たちは先に向かうんだ」
「お前が残るのならば、私も残ろう」
「別に、残ってもらわなくてもいいんですけどね。一人の方が戦いやすいですし」
「それが慢心だというのだ」
プリムの言葉に賛成する優輝と宗仁は進んでこの場に残るつもりでいた。
「じゃあじゃあ、おねーさんもここに残るよ! もう、さっきから気持ちよくなっちゃって、堪らないんだよね♥ おねーさん、もっと、もーっと気持ちよくなりたいんだ♪」
「美咲さんはティアストーンを操るジェリコさんや沙菜さんと一緒にプリムちゃんたちを守って。二人に加えて君がいればだいぶ心強いからね」
「えー? まあ、でも、優輝ちゃんにそう言われるのは嬉しいからそうしちゃおうか?」
優輝に頼られて、頬を赤く染めてやる気を漲らせる美咲。
「沙菜さん、リクト君とプリムちゃんを――それと、美咲さんをお願い」
「わかりました……優輝さんたちも、無茶をしないでください」
リクトとプリム――それ以上に、勝手に盛り上がって暴走する美咲のことを優輝に任せられ、後ろ髪惹かれる思いを抱きながらも我慢して沙菜は頷いた。
「いい加減覚悟を決めるのだ。この場にいるみんなを心配する気持ちは理解できるが、我々は責任ある立場として時には苦渋の決断をしなければならない時があるのだ……今がその時だ。切羽詰まった状況で二の足を踏んでいる暇はない。お前ならそれを十分に理解できるはず。それとも、お前はここにいる心強い味方たちを信じられないというのか?」
「我々を信じているなら、ここは我々に任せるんだ――優しい君にとって難しい決断かもしれないが、それが今できる最良の判断だ」
プリムの言葉に同意した宗仁は厳しくも優しい声音で躊躇っているリクトに語り掛け、不安で圧し潰されそうな彼の瞳を真っ直ぐと見つめた。
「すべてが嫌になって隠居した私の言葉には説得力はないが――見せてくれ、君たち若人が作る未来の景色を……君が成長することによって見える景色を」
……そうだ。
だから、母さんじゃなくて僕はここにいるんだ……
母がティアストーンの元へと向かうのを反対して自分とプリムがティアストーンの元へと向かうとを決めた理由を宗仁の言葉で思い出し、リクトは覚悟を決めた。
「わかりました――ここは宗仁さんたちに任せます……プリムさん、沙菜さん、美咲さん、ジェリコさん。先を急ぎましょう」
躊躇いがちに放たれたリクトの言葉とともに、プリムたちは頷き、優輝と宗仁、そして、この場を任された仲間たちは力強く頷いた。
「壁を作ります! プリムさんたちは僕から離れないでください!」
その言葉とともに、リクトは自身の周囲に輝石の力で張った強固なバリアを張る。
バリアの中から外への攻撃はできないが、その分外からの生半可な攻撃を受けても容易に破壊することができない強固なバリアだった。
そのバリアの中にプリムたちが入ると同時に、この場を優輝たちに任せて振り返ることなくリクトたちは一気に先へと進んだ。
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