第24話
無窮の勾玉があるアカデミーの地下にある『深部』と呼ばれる場所を目指す、大和たち。
刈谷、大道、ティア、巴、サラサという実力者の心強い味方を含め、大勢の協力者たちとともに進んでいるが、先に進むにつれてアルトマンが配置した輝石使いたちや、ガードロボットの攻撃が苛烈になってきていた。
そのせいで、大勢いた協力者たちの数が一気に減り、目的地まで後一歩のところだというのに大和たちは前方から、後方から撃ち漏らした敵のせいで立ち往生を食らっていた。
「いやぁ、さすがにきつくなってきたね」
……ホント、きっついなぁ……
まさか、こんな人海戦術のゴリ押しで来るなんてね……
策士のアルトマンらしくはないけど、それほど煌石の力を恐れてるのかな?
……でも、本当にらしくないな。
無数に複製させた武輝である手裏剣を周囲に浮かび上がらせ、自在に操りながら先にいる輝石使いたちを蹴散らす大和は、辟易した様子でため息を漏らして、眠そうに欠伸をしながら、物思いに耽っていた。
そんな隙だらけの大和の背後から迫る輝石使いたちだが、彼らの攻撃を読んでいた大和は最小限の動きでゆっくりと回避し、自身の周囲に浮かび上がらせている無数に複製した武輝からレーザー状の光を発射し、輝石使いたちを吹き飛ばした。
「隙だらけだぞ……油断をするな」
「平気だよティアさん。油断なんてしてないって――ほーら、この通り」
武輝である身の丈を超える大剣を軽々と振るい、この場にいる誰よりも襲いかかる敵を倒しているというのに、息をまったく乱すことなく四方八方から迫る敵を倒し続けているティアの忠告に、大和は問題ないと言わんばかりに笑み浮かべながら自在に操る手裏剣で攻撃を仕掛け続けており、隙だらけだが大和はまったく油断はしていなかった。
人の忠告を聞かずに隙だらけの大和に、襲いかかってくる敵の攻撃を舞うような足運びで最小限に回避し、武輝である十文字槍で的確にカウンターを決めている巴は呆れていた。
「そのようだけど、ティアの言う通りよ。一瞬の油断が命取り。ただでさえ味方の数が減っているんだから。私たちまで戦線離脱したら一気に窮地に陥るわ」
「僕的にはむしろ、好きに暴れることができていいかな? ――よっと」
大勢からの攻撃と、巴の言葉を軽くスルーしながら、大和は無数に生み出した手裏剣からレーザー状の光を一斉に発射して大勢の敵を薙ぎ払った。
現状に危機感を抱いている巴の言葉はもっともだが、大和にとっては動きやすかった。
味方が大勢減ったことによって、大和は輝石の力を自在に操れる力で生み出した無数の手裏剣を味方に被害を及ばすことなく縦横無尽に動き回せることができるからだ。
「あまり力を使わないようにしなさい。君はこれからが本番なんだから」
「それを言われるとぐうの音が出ないな。でも、僕としてはさっさとこの騒動を片付けて、幸太郎君と一緒に勝利の美酒に酔いしれたいんだけどね。酔った勢いで――って感じで」
「み、未成年飲酒は禁止よ! それに、よ、酔った勢いでの行為なんて言語道断! そういうのはお互い素面の時に……いや、そうじゃなくて、不純異性交遊は禁止されてるの!」
「巴さんったら、変な妄想し過ぎだよ。冗談に決まってるじゃないか、冗談に」
「む、むぅうううう! 大和!」
「かわいいなぁ、巴さんは」
「大和! 人をからかうのもいい加減にしなさい!」
大和にからかわれて顔を真っ赤にして怒りながらも、巴は流水を思わせるような動作で、しっかり襲いかかる敵の攻撃を回避してカウンターを決めていた。
巴をからかって楽しそうに笑う大和は、彼女の言う通りに消耗を抑えるために周囲に浮かんでいた無数の手裏剣の数を減らした。
その瞬間、僅かに攻撃の手を緩めた大和に大勢の敵が殺到するが――彼らの攻撃は届くことなく、膝から崩れ落ちて地に伏した。
彼らを倒したのは、音もなく彼らの背後に忍び寄っていた、武輝である二本の短剣を手にしたサラサであり、彼女に向けて大和はフランクにウィンクをして「ありがとう、サラサちゃん」と感謝した。
「大和さんは私が守り、ます」
「本当にサラサちゃんは心強いなぁ」
「おーい! 呑気に話している暇があったら、こっちの手伝いをしてくれっての!」
刈谷君か――おお、たくさんの人に追われて大変だなぁ……
刈谷君でも手こずるくらいだから、さすがに状況的にはマズいかな?
やっぱり、ここは――でも、ちょっと危ないかもしれないしなぁ……
迫りくる大勢の敵たちを相手にしつつ呑気にサラサと会話をしながら、停滞している状況を打破するために思考する大和の邪魔をするように、刈谷が救いを求めてくる。
武輝であるナイフと、普通の人間なら一撃で気絶させるほどの強い電流が放てるように改造した特殊警棒の二刀流、加えてド派手なほど金に染めたショックガンで後方から迫ってくる敵の相手をしている刈谷だが、一撃を与えても一向に倒れないタフな敵たちに追い詰められていた。
逃げ回りながらも刈谷は隙を見せた相手に攻撃を仕掛けて倒していたが、それも限界が来ており、大量の敵を引き連れてしまっていた。
そんな刈谷の危機的状況に、彼の周囲に火の玉のように揺らめく無数の光球が現れて迫る敵たちに向けて発射され、敵たちを打ち倒した。
自分を追っていた大量の敵が倒れて安堵する刈谷に「大丈夫か、刈谷」と駆け寄るのは、刈谷を助けた武輝である錫杖を手にした大道だった。
「まったく、こっちはタフな相手に必死だってのにアイツらは呑気なもんだぜ……」
「まだまだ修行が足りないということだろう。お互いに」
一人倒すのに何発も攻撃を与えなければならないというのに、強化された輝石使いたちをいとも簡単に倒す大和たちの強さを目の当たりにして、刈谷は自分の無力さを痛感してため息を漏らし、一方の大道はまだまだ自分の修行が足りないと思ってやる気に満ちていた。
「俺は別に修行なんてしなくたっていいの。つーか、どうするよ……このままじゃまともに先に進めねぇぞ。もうちょっと人員増やした方がよかったんじゃねぇの?」
「文句を言うな。こちらもいっぱいいっぱいなんだ」
「でもよ、現実問題このままじゃじり貧だ。ここらで、何とかしないといけないんじゃねぇの?」
「確かにそうだが……どうする」
「どうするって言っても、覚悟決めるしかねぇだろうが」
「……私も付き合おう」
足止めされて停滞している状況に、刈谷は現状を打破するべく行動に移す覚悟を決め、大道もそれに続くことに決めた。
「大和! おい、大和!」
襲いかかる敵を大道の援護してもらって蹴散らしながら、大和に近づく刈谷。
「情熱的に僕の名前を呼んで、駆け寄ってくれるのは嬉しいけど、申し訳ないけど僕は心に決めた人がいるんだ。ごめんね、刈谷君」
「違ぇよ! というか、なんでお前なんかにフラれないといけないんだよ!」
「昨日、大きな決戦前を前に思いきって告白して失敗したみたいだから、吊り橋効果を利用したのかなって思ってさ」
「な、ど、どうしてそれを知ってんだよ!」
「もうみんなが知っていることだよ? 大道さんも知ってるよね」
「ああ、よく知ってる」
「ふざけんな!」
決戦前に告白して情けなく玉砕したことを全員に知られていることに、刈谷は本題を忘れて思いきり動揺してしまっていた。
「幸太郎君、後で刈谷君を慰めようとしてたよ。僕も慰めようとしていたんだけど、その暇はなくてね。大道さんも知ってるよね?」
「よ、余計なお世話だよ! というか、打算腹黒女に誰が告白なんてするか!」
「ひどい言い草だなぁ。それが僕の美点なのに」
「どこがだよ! ――そんなことよりもこの状況、どうすんだよ」
自身の情けない話をされて動揺しながらも、本題に入った刈谷に大和は困ったようなため息を漏らした。
「正直ちょっと困ってるね。このままじゃ時間を食うだけなんだよね」
「だから、ここは俺と大道と他に任せて、お前は姐さんたちと一緒に先に行け」
「……まあ、確かにそうした方がいいね」
刈谷の案に大和も同意するが、大勢の賢者の石によって強化された輝石使いたちを刈谷たちに任せるというのが、それ以上に、用意周到なアルトマンが仕掛けているかもしれない罠のことが大和の判断を鈍らせていた。
「いつも人を利用しているくせに、肝心なところで迷ってんじゃねぇよ」
「賢者の石の力を弱めることは、操られている仲間たちを助けることに繋がるんだ。だから、ここは我々に任せて先に向かうんだ」
「うん。そうだね、うん……わかったよ。じゃあ、ここは先に向かわせてもらおうかな」
躊躇う自分に喝を入れる刈谷と大道の言葉に、気合を入れる大和。
「ここは君たちに任せて僕たちは先へ向かおうかな? できるだけ、最小限かつ精鋭がいいから――ティアさん、巴さん、サラサちゃんで」
大和の指示に巴たちは一瞬逡巡するが、停滞している状況を打ち破るのは刈谷たちにこの場を任せるのが一番だと思ったので、逡巡を打ち払って先に向かうことにした。
「じゃあ、ここは頼んだよ? ――もしかして、僕たちや、ここにいるみんなにカッコいいところを見せるために、頑張っちゃったりしてる?」
「う、うるせぇんだよ! 行くならさっさと行けよ!」
「はいはい、それじゃあ後でまた会おうね」
ニヤニヤと笑いながら図星をついて別れた大和の背中を腹立たしい目で睨んで刈谷は見送り、目的地を阻む輝石使いたちを薙ぎ倒しながら大和たちが先に向かったのを確認した刈谷は、疲れたようにため息を漏らした。
「さてと……それじゃあ、目いっぱい楽しむとするか!」
「格好つけようとするあまり、油断をするなよ」
「う、うるせぇんだよ! とにかく、さっさと終わりにしようぜ! そんでもって、ステーキでも食いに行こうぜ!」
図星を突いてくる大道の一言で躓きながらも、好戦的な笑みを浮かべて刈谷は襲いかかってくる輝石使いに向かって飛びかかった。
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