第11話

「一体何を考えているのだ!」

「大勢の味方を失い、大勢の敵が生まれた! それも、アルトマンの力によって強化されて!」

「これで事態は更にややこしくなり、救わなければならい人が大勢増えたのだ!」

「焦りと不安を抱く気持ちは理解できるが、一時の感情に身を任せたせいでこのざまだ!」

「どう責任を取る! 我々は一気にアルトマンに追い詰められたんだぞ!」


 勝手に暴走した一部上層部たちが大勢の輝石使いを煽ったせいで、大勢の輝石使いがアルトマンに操られることになって、いつも会議で使用しているセントラルエリアのホテルの大宴会場で開かれた緊急の会議。


 本来ならば幸太郎を交えてアルトマン決戦へと向けた会議を行うつもりだったが、それを中止してこの会議が開かれた。


 会議場内である大宴会場には、会議がはじまってからずっと怒号が絶え間なく響き渡っており、状況が悪化したことで会場内の空気が焦燥感で満ち満ちていた。


 彼らの怒号が向けられている、大勢の輝石使いたちを煽って状況を悪化させた上層部は何も反論せず、ただただ項垂れて自らの非を認めていた。


 自分たちの不安と焦燥、そして、外部からの重圧に耐えかねて下した決断だった。


 七瀬幸太郎という賢者の石の力を持つ者が自分たち側にいるからこそ、アルトマンに対抗できるはずだと高を括っていたのだが――結果は有志で募ってくれた輝石使いたちを操られ、彼らを苦しめる結果となったことを彼らは心苦しく思い、浅慮な自分たちの決断を激しく後悔していた。


「――静粛に」


 静かでありながらも、怒号飛び交う会場内にエレナの声に全員水を打ったように黙り、議長席に座るエレナと大悟に視線が向けられた。


「責任の所在を追及するために開かれた場ではありません」


 怒りの声を上げていた上層部たちはエレナの言葉で徐々に落ち着きが戻ってくる。


「それに、責任を問われるのであれば、それは私や大悟にあります――私たちは賢者の石の力に恐れるあまり、判断を慎重にならざる負えなくなった結果、一部上層部たちには辛い思いをさせてしまい、今回の件に発展させてしまいました。そして、あなたを止めることができなかった……本当に申し訳ありません」


「エレナの言う通りだ。今はアルトマンを倒すことに集中してくれ。倒してから、然るべき処分を受けよう。――だから、今はアルトマンを倒すために協力してくれ」


 今回の事態を招いたの自分であると言ったエレナは大悟とともに立ち上がり、この場にいる全員へ向けて頭を下げて謝罪の言葉を口にする。


「あ、頭を上げてください、エレナ様、今回の件は行動を起こした我々に責任がある」

「そうです、社長! 糾弾されるべきは我々だ! あなたたちではない!」


 今まで黙っていた、今回暴走した一部上層部たちが声を上げて、トップ二人を庇うが、トップ二人の考えは変わっていなかった。


 トップ二人の真摯な態度に、怒号を上げ、深い溝が生まれていた上層部たちの間に関係が僅かに修復する。


 怒りではなく、目の前の問題を解決しなければないという真っ直ぐな想いで熱量が上がる会場内の様子を確認した大悟は、淡々とした様子で話を再開させる。


「今回の件はアルトマンに大勢の味方を奪われる形となったが、それでも無意味だったわけではない――彼らの様子を観察している克也と萌乃から、アルトマンは教皇庁本部と鳳グループ本部跡地にある、地下に通ずる道に大勢の輝石使いたちを配置させ、大勢が地下に入っているという報告があった」


 大悟の報告に、一縷の希望を垣間見た上層部たちの表情は明るくなる。


 かつて、アカデミー都市の中央に塔のようにそびえ立っていた教皇庁本部、鳳グループ本部の地下には、『グレイブヤード』と呼ばれる世界中の輝石使いの情報や、機密情報などが保管された場所があった。


 その更に地下には『深部』と呼ばれる煌石・『無窮の勾玉』を保管されており、その深部に近い場所――教皇庁本部の地下には煌石・ティアストーンが保管されていた。


 半年前の爆破事件で大きなダメージを負った教皇庁本部と鳳グループ本社だったが、地下だけは無事で、事件後も出入り口に厳重な警備を配置して同じ場所にティアストーンと無窮の勾玉を保管していた。


 その出入り口と地下に大勢の輝石使いたちを配置しているということは――アルトマンは二つの煌石の力を恐れていると、上層部たちは理解した。


 アルトマンの胸に装着された賢者の石を安定させる装置――ティアストーンの欠片、無窮の勾玉の欠片であるアンプリファイア、それらの力のバランスを崩せば、アルトマンが扱う賢者の石の力を大幅に弱体化させることが可能だからだ。


「大勢の輝石使いが操られている――いや、人質にされている以上、我々は決してアルトマンを許してはならない。扱い方を間違えれば煌石の力が暴走する危険性があるが、決着をつけるために煌石の存分に力を使う」


 いよいよ決着をつけることを決めた大悟の言葉に、上層部たちの機が引き締まる。


「作戦実行は明日の早朝――アルトマンに準備を与える猶予を与えることになりますが、猶予は我々にも与えられます。明日の準備を万全にすることだけを今は考えてください」


 決着は明日の早朝――十数時間後に迫った決着の時に、会場内いる上層部たちのボルテージは最高潮に達していた。

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