第19話

 ――まさか、昨日と同じ方法で来るとは……

 昨日と同じく様子見のつもりなのか?

 いや、大勢の人、それも大勢のマスコミが集まる中でそれはない。

 アルトマンたちが来る――


 花火が上がる同時に自分たちを包む煙幕に混乱しながらも、すぐに冷静さを取り戻した頭で、赤い煙幕に包まれて視界が悪い中、チェーンに繋がれた輝石を武輝である剣に変化させ、周囲の気配を感じ取って状況を瞬時に確認するセラ。


 昨日のように周囲に怒号と叫び声が絶えまなく響き渡ってパニックになっていたが、周りにいた警備の人たちのおかげである程度のパニックは抑えることができており、冷静沈着に避難の誘導が行われていた。


 野次馬たちの状況を確認した後は、麗華たちの状況を確認しようとするセラだが――


「セラさん! 気をつけてください! 何か来ます!」


「ヤツだ、狙われているぞ」


 警戒を促すリクトとクロノの声とともに、麗華たちの気配を探るセラの邪魔をする、凶暴などす黒い感情が纏った殺気が急接近する。


 視界が悪く、大勢の気配が周囲を中、自身に迫る凶刃を気配だけで察知したセラは後方に身を翻すと、セラが元居た場所からアスファルトが砕け散る音が響き渡った。


 どこからかともなく放たれた私怨を纏わせた攻撃を視界が悪い中、気配だけを察知して華麗に回避するセラだが、矢継ぎ早に攻撃は飛んでくる。


 これも昨日と同じか――

 どこだ――どこにいる! ファントム!

 ――ダメだ、昨日と同じで上手く大勢の気配に紛れている!

 周りを考えて、昨日のようにここは一旦退いて、引きつけるべきか……


 これも昨日と同じく自身が執拗に狙われる状況に、ファントムによる攻撃だと判断し、周囲に被害を及ぼさないために攻撃を引きつけながらこの場から一旦退くセラ。


「セラ、セラ! 私もついて行きますわ!」


「セラさん! 僕も援護します!」


「ふ、二人とも! ここはセラお姉ちゃんに任せようよ」


 狙われているセラを援護しようとする麗華とリクトだが、ここで普段自分を表に出さないサラサが周囲に飛び交う怒号や叫び声にかき消されないよう、精一杯に声を張り上げた。


「こうなった場合、どうするのかはちゃんと決めてるから……そうしようよ」


「サラサちゃんの言う通り、ここは任せて今は退くんだ、麗華、リクト君!」


 サラサの言う通り、こうなった場合どうするのかは朝、風紀委員本部に集まった際、大和から聞いていたからこそ、セラは自分に任せるべきだと訴えた。


 一撃一撃に昨日以上のどす黒い感情が込められ、中途半端に攻撃が止んだ昨日と違って相手が本気であることをセラは十分に理解していたからだ。


「リクト、セラの言う通りだ。一旦ここは退く」


「わかりました……セラさん! 気をつけてくださいね」


 クロノに促され、不承不承といった様子で周囲を守るために、セラから離れるリクト。


「お嬢様も、行きましょう」


「セラ! 栄えある風紀委員のあなたが不覚を取ったら許しませんわよ!」


 サラサに促され、素直ではない態度でセラを心配している麗華はこの場を離れる。


 ありがとう、みんな……

 ――さあ、来い!


 この場を自分に任せてくれた麗華たちに感謝の言葉を心の中で述べながら、セラは自分に向かってくる攻撃を引きつけながら大勢の野次馬がいるこの場を離れる。


 目指すは襲撃された場合に、アルトマンたちを引きつけるため、予め決めていた人通りが少ない場所だった。


 この場から離れようとするセラに、向かってくる攻撃が一層苛烈になる。


 アスファルトを砕き、街路樹を両断し、壁を切り裂く。


 それらすべてを宙を跳ね回りながら回避し、自分以外の人に被害が出そうになった時だけ、セラは手にした武輝である剣で防いだ。


 中々攻撃が当たらないことに、自身への私怨とどす黒い感情を纏わせた攻撃に苛立ちが帯びはじめるが、構わずにセラは回避と防御を続ける。


 周囲がパニックになっている中、冷静にセラは華麗に回避し続け、あっという間に大勢の野次馬たちがいる空間から離れた。


 周囲を包んでいた赤い煙が徐々に晴れ、人気がない道に出たセラだが、それでも攻撃は執拗に続く。


 どうにかして惹きつけることはできたけど……

 やっぱり、昨日と違って攻撃をやめるつもりはないみたいだ。


「ファントム! お前なんだろう? 姿を現したらどうだ!」


 自身に攻撃を仕掛けているかもしれないファントムに声をかけるが何も反応はなく、帰ってくるのは攻撃のみ。


 ちょこまか動いて回避を続けるセラに対して抱く苛立ちを発散させるように、今まで以上に強大な力とどす黒い感情が込められた、赤黒い光を纏った斬撃が襲いかかる。

 

 今までにないほど強力な一撃が目前に迫っても、これもセラは軽快なステップを踏んで勢いよく宙を舞いながら側転を決めて回避して冷静に対処。


「私を狙いたいのなら狙えばいい! だが、周りの人は絶対に傷つけさせないぞ!」


 宣言するようにそう啖呵を切り、セラは目的地へと向かう。


 その間にも絶え間なくセラに攻撃が続いていた。

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