第6話

 放課後――アカデミーにいる大勢の人がアカデミー高等部校舎前に集まり、今や今かと風紀委員たちが現れるのを待っていた。


 連日過激で刺激的な服装で行われていた風紀委員活動のおかげで、徐々に風紀委員の姿と活躍を一目見ようと集まり、追いかける野次馬たちが増え続け、今では大勢の野次馬が殺到し、彼女たちの後をついて行く姿は大名行列のようになってしまっていた。


 野次馬たちが風紀委員の活動の邪魔をしないよう、危険な真似をしないように、風紀委員とともにアカデミーの治安を守る国から派遣された組織・制輝軍たちが目を光らせ、そんな彼らとともにいる、アカデミー都市内を徘徊している、半円形の頭部と寸胴ボディの清掃用兼警備用のガードロボットも大量に集まっていた。


「オーッホッホッホッホッホッホッホッ! 皆様ごきげんよう、風紀委員の活動開始ですわ!」


 耳障りな麗華の高笑いとともに現れる風紀委員たち。


 まだ二月の寒い時期だというのにノースリーブで若干サイズが、特に張り詰めた胸の部分が窮屈そうな、引き締まったウェストとへそが露になっているトップスに、限界ギリギリの丈のプリーツスカート、麗華らしい健康的で活発な、それでいて、大人の色気を感じさせるチアガール衣装を身に纏った麗華。


 堂々と立つ麗華の横に立っているのは、覚悟を決めた様子で現れるのは――大きく胸元が開いたシャツを着て、脚線美を強調させるようなタイトなスカートを履き、羞恥に塗れて赤くなった顔を隠すように制帽を被った、ミニスカポリス姿のセラ。


 そんな二人の後ろに隠れるようにして立つのは スカートの丈が短い純白のナース服を着たサラサであり、発展途上中の身体を強調させるようなサイズのナース服に、清純な白とは対照的に黒のガーターベルトとストッキングを着用しており、未発達で清純そうな雰囲気な中にも、怪しく、危なげな、大人にも負けない、何とも言えない色気を放っていた。


 魅力的な衣装を着た風紀委員たちの登場に、集まった野次馬たちの歓声が上がり、周囲の熱量が上がった。


「……不純」


 異性同性年齢問わずに野次馬たちがセラたちを見るいやらしい視線を遠巻きから眺めていた、プラチナブロンドの髪をショートボブにした、人形のような可憐な顔立ちの――しかし、冷めきった目と雰囲気のせいでそれを台無しにしている少女、アリス・オズワルドは小さくそう吐き捨て、深々と呆れたようにため息を漏らした。


 制輝軍を束ねている身としてこの一週間、仲間たちとともに風紀委員の警護を行っていたアリスは、徐々に過激になってくる風紀委員の衣装と、そんな彼女たちに熱狂する野次馬や仲間たちを見続けていたためウンザリしていた。


「しかし、アリスさん。性欲は人を発展させると美咲みさきさんから聞きました」


「なるほど、こうして人は進化をするのだな」


「違うから! 美咲の言葉を真に受けないで」


 いやらしい野次馬たちを非難するアリスに反論をするのは、雪のように白い短めの白髪の髪を赤いリボンで結い上げた、機械のように無表情の少女・白葉しろばノエルだった。


 そんなノエルの言葉に納得しているのは、姉の彼女と瓜二つの外見である、少女と見紛う外見の黒髪の少年・白葉クロノだった。


 偏った知識をスポンジのように吸収する二人に、アリスは注意し、純粋無垢な二人に偏った知識を与えた人物を恨みがましく思った。


「でも、美咲さんの言っていることはあながち間違いじゃないよ。性欲は人を滾らせて、活発化させるからね。それに何より、この活動のおかげでアカデミー都市の犯罪率が大幅に低下しているんだから」


「アリスさん、ここは制輝軍も風紀委員に対抗して、何か衣装を着るべきではないでしょうか」


「その時はオレたちも是非とも協力させてくれ」


「ええ。そうしましょう」


「別にいいから! というか、伊波も余計なことを言わないで」


 自分たちとともに行動している、ニヤニヤとした笑みを浮かべている大和の発言に、風紀委員を見習って静かにやる気を漲らせるノエルとクロノ。


 風紀委員のおかげで犯罪率が低下しているのは認めつつも、恥ずかしい衣装で見世物にされるのは絶対に嫌なアリスは、余計なことを言ってノエルとクロノを煽る大和をキッと睨み、「それよりも――」と強引に話を替えた。


「アンタの思い通りの状況になっているみたいだけど、本当にアルトマンは動くの? 誰がどう見ても誘き出されているってわかるのに」


「確証はないけど、目立ちたい彼らがいつか必ず動くって僕は確信を抱いているよ」


「それはいつか必ず動くだろうし、犯罪率が低下しているし決して無駄な行動じゃないけど……二人はどう思う?」


 アルトマンの目的が目立つことであり、風紀委員が注目を浴びれば、彼らは注目を浴びるために風紀委員に何らかの方法で接触する――二週間前の騒動でアルトマンたちの目的を推理した大和の考えが一理あると認めつつも、やはり、あからさまな罠に引っかかるのか、アリスは疑念を抱いていた。


 何かを隠しているように上手い説明をしない大和を不審に思いつつも、アリスはアルトマンのことをよく知っているだろうノエルとクロノに意見を求めた。


「伊波さんの考えている通り、二週間前の騒動は明らかに妙でした。あの人ならば、もっと慎重に、自分の正体を悟られずに計画を進めたはずです。もちろん、不測の事態はあったのでしょうが、わざわざ自分の正体を明かすことはなかったはずです」


「一見意味のない、無駄な行動に見えても、ヤツにとっては意味のある行動となってオレたちを苦しめる――散々、それでオレたちは苦しめられたはずだ。大胆な真似をしたのも、ヤツにとっては意味がある行動だろう」


「相手がどんな行動に出るのかはわかりませんが、今回も何かしらの行動を起こすのは間違いないかと思われます」


 大和と同じく二週間前に発生した騒動のアルトマンの動きを不自然に思っているノエルと、過去に何度も苦しめられたアルトマンの行動を思い出させるクロノの一言は説得力があり、違和感を抱えつつもアリスは納得してしまっていた。


「さすがはノエルさんとクロノ君。お父さんのことをよく理解しているね」


「勘違いするな。あんなヤツ、父親でも何でもない」


 茶化すような大和の一言に、クロノは不快感を露にして反応したが、対照的にノエルは複雑な表情を浮かべて押し黙った。


 アルトマン・リートレイド――ノエルとクロノにとっては、父親のような存在だった。


 ノエルとクロノはイミテーションと呼ばれる、人の遺伝子と輝石を組み合わせて生まれた存在であり、アルトマンによって作られた生命だった。


 しかし、アルトマンにとって二人は駒としてしか扱われておらず、そんな父に対してクロノは怒りを抱いていたが、ノエルにとっては尊敬する父のために複雑な思いを抱えていた。


 そんな二人の気持ちを理解しているからこそ、アリスは二人を心配そうに眺めていた。


 若干暗い雰囲気になるが、そんな雰囲気を打ち壊すように「さて――」と大和は軽快に笑いながら話を替えた。


「アルトマンがどう動くのかはわからないけど、未然に防ぐのが一番いいからね。ここらで分かれて行動しようよ。アリスちゃん、風紀委員の周辺は僕に任せて、君たちは制輝軍たちと一緒に周辺の警備に向かってくれないかな」


「わかった。すぐにあなたの傍に何人かの制輝軍をつける」


 珍しくやる気を見せている大和の指示に従い、アリスは彼女のサポートをするために制輝軍の人間を何人かつけようとするのだが、「ああ、別にいいよ」と丁重にそれを断った。


「混雑している状況で僕の周りに大勢いたら正直言って邪魔だよ。それに、そろそろ巴さんが来るから、ここは僕と巴さんが何とかするよ。相手がどこにどんな仕掛けを仕掛けてくるかわからないから、アリスちゃんたちは制輝軍のすべての人員を使って周辺を徹底的に探って」


「すべての人員を使ったら風紀委員周辺の警備が手薄になって、返って隙ができる」


「それを狙っているんだ。こちらが隙を作れば作るほど、相手は動きやすくなるだろうからね」


「手薄にしたら、野次馬たちが危険」


「こっちだって手薄ってわけじゃないよ? 野次馬のほとんどはアカデミーの生徒で、彼らも輝石使いだし、周りにはガードロボットもいるし、何て言ったってここには風紀委員がいるんだよ? それに、情報収集を担当していた大道さんたちにも協力してもらっているんだからね。だから問題ないって」


 アルトマンを誘き出すために、あえて風紀委員周辺の警備を手薄にしようとする大和の案に、アリスは納得しつつも怪訝な顔をする。


 妙にやる気に満ちている大和からは、明らかに隠し切れない何かが存在していたからだ。


「オマエ、何が狙いだ?」


「すべては世のため人のためってね」


 射貫くような鋭い眼光を飛ばすクロノに、腹に一物も二物も抱えている思わせぶりな笑みを浮かべて誤魔化す大和。


 明らかに何かを隠している大和に不信感を募らせるアリスは、彼女をジッと観察するように睨んでいたが――やがて、諦めたように深々とため息を漏らす。


「一応、信用はしてる」


「何だか含みのある言い方だなぁ」


「日頃の行いを振り返って」


「ぐうの音も出ません」


「ここは任せるから――行こう、ノエル、クロノ」


 釈然とせず、不安もあるが、取り敢えずはこの場は大和に任せることにした。


 何を考えているのかわからない、信用も油断もできない人物ではあるが――過去に多くの事件をともに解決して、それなりに大和のことは信用していたからだ。


 離れ行く自分たちに「それじゃあねー」と呑気に手を振る大和を無視して、アリスたちはこの場を離れた。

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