第2話
三時間程アカデミー都市内を巡回して風紀委員の活動を終えたセラたちは、近くにあった公園の女子トイレ内で着替えていた。
執事服のまま帰ってもいいと麗華に言われたのだが、すぐにでも脱ぎたかったので丁重に断り、さっさとセラは着替え終えてトイレから出ると、近くにあるベンチに座って疲労感たっぷりに深々とため息を漏らした。
仕方がないとはいえ私は一体何をやっているんだ……
本当にいいのだろうか、こんなことをして……
もう一週間こんなことをしてるけど、音沙汰はまったくなし。
……適当なことを言って騙されているのかもしれない。
でも、今のところ他に縋るものがないんだ。
サラサちゃんだって、文句も言わずに頑張ってるんだから、私も頑張らないと……
この一週間、様々なコスプレ衣装を着て風紀委員の活動をして、大勢の人から好奇の目に晒され続けたセラの心身はもう限界であり、心の中で不平不満を漏らしていた。
しかし、人見知りが激しく、恥ずかしがり屋なサラサが文句を言わずに頑張ってくれているので、セラは文句を押し殺して気合を入れると――
「音を上げるには早いよ、セラさん。まだまだこれからなんだからね」
「もちろん、わかってますよ」
気合を入れるセラを嘲笑うような声とともに、一人の中性的な少年――ではなく、少女である、ニヤニヤと心底楽しそうな笑みを浮かべている、
風紀委員の活動でコスプレをしなければならない原因を作り、恥ずかしい衣装の数々を用意した人物の登場に、セラは不機嫌さを隠すことなく、じっとりとした目を彼女に向けた。
あからさまに不機嫌なセラの視線を受けても、大和のヘラヘラとした笑みは消えなかった。
「麗華とサラサちゃんはまだ着替え中?」
「ええ。麗華のドレスがワンサイズ小さかったみたいで、着るのも脱ぐのも一苦労のようでサラサちゃんに手伝ってもらっているみたいです」
「あー、もしかして、また麗華太った――いや、サイズはバッチリなはずだから……もしかして、またバストサイズがアップしたのかな?」
「そうですね……特に胸のあたりがきつそうで、まろび出そうになっていましたから。――それよりも、状況はどうなっているんですか?」
「一週間の精力的な活動のおかげで、風紀委員の活動が学内電子掲示板で騒ぎになっているみたいだよ、風紀委員の活動を事細かにチェックして、写真を載せる人もいるみたいだしね。アカデミーの外でもコスプレ美少女たちが悪人を成敗しているって話題になってるみたいだから、バッチリ目立ってるね」
上手く行っているみたいだけど――……最悪だ。
大和の状況報告を聞いて、セラは深々とため息を漏らした。
「写真の類は即刻削除するようにお願いします」
「まあまあ、これもアカデミーのためだと思って我慢してよ。ね?」
「わかっていますけど……というか、大和君も少しは協力してくださいよ。宣伝効果を高めたいのなら、大和君だって衣装を着ればいいと思います」
「そうしたいのは山々なんだけど、僕はセラさんたちの裏方――例えるならば、プロデューサー業で色々と忙しいんだよね」
「――そう言っていますが、実際はサボっているだけではありませんの?」
セラと大和との会話に入ってくるのは、着替え終えた麗華とサラサだった。
大勢から注目を浴びたというのに疲れた様子はいっさいなく相変わらず麗華は堂々としているが、サラサは慣れないことを続けたせいで疲れ果てており、眠そうに大きく欠伸をしていた。
二人の登場に、「ご苦労様、麗華、サラサちゃん」と労いの言葉をかける大和だが、軽薄な笑みを浮かべているせいで、心がこもっているようには感じなかった。
「それよりも麗華、邪推しないでよ。僕だってちゃんと仕事はしているんだから。その証拠に、リクト君に協力をしてもらうように決めて、エレナさんにそのことを伝えるように巴さんと萌乃さんに頼んでおいたからさ」
「確かにちゃんと仕事をしているようですわね。リクト様が手伝ってくれるのであれば、私たち風紀委員は更に目立ちますわ! 気合を入れますわよ!」
「気合を入れるのは結構だけど、まだ二月だっていうのにまた肌の露出が多い衣装を着てるけど大丈夫? さすがの麗華でも風邪を引いちゃうんじゃないかな」
「さすが、というのはどういう意味ですの!」
「超健康優良爆乳美少女麗華ちゃんでも、って意味」
「バカにしているようにしか聞こえませんわ! ――フン! 取り敢えず、一週間経ちましたが、状況はどうなっていますの? 何か相手の尻尾を掴みましたの?」
大和への苛立ちをぶつけたい気分を抑え、麗華は大和に状況を尋ねた。
「今セラさんとも話したんだけど、風紀委員の精力的な活動のおかげでアカデミー内外に風紀委員の活動が大いに目立ってるみたいだよ。まあ、それ以外に進展はないんだけどね」
「まったく……これであなたの言う通りアルトマンたちが動くのか甚だ疑問ですわ」
特に何も進展がない状況に、麗華は先行き不安そうに言わんばかりにため息を漏らした。
大和に懐疑的な麗華の言葉に、セラも「私も同感です」と同意を示した。
「誰が見ても罠だと思える状況に、慎重なアルトマンたちは食いつくのでしょうか」
「前にも言ったけど、リスクが高い真似をしたんだから相手はきっと食いつくと思うよ? まあ、確証はないからハッキリと言えないんだけどね――でも、やっぱり僕は二週間前の騒動でアルトマンたちは自分たちの存在をアピールしたかったんだと思ってるんだ」
確かに、大和君の説明は納得できることがあったけど――
でも、それ以上に何か隠している、そんな感じがする。
ニヤニヤした笑みを浮かべている大和の説明を聞いて、彼女が自分たちに何かを隠しているとセラは感じていた。
今回、セラたちが渋々――というか、嫌々コスプレをしながら風紀委員の活動をしているのは、アルトマン・リートレイドを誘き出すためだった。
アルトマン・リートレイド――輝石や煌石研究の第一人者であり、長年アカデミーで発生する事件の裏で暗躍し、大勢の人間を苦しめた凶悪な人物だった。
半年前アカデミーは勢力を挙げてアルトマンを追い詰めたのだが、自爆して生死不明になっており、アカデミーは半年間に渡る捜索で彼は命を落としたと判断していた。
だが、二週間前にアカデミーが保管している煌石を一般公開した際に現れ、アカデミーに恨みを持つ者たちを集めて大いに暴れた。
アルトマンは協力者であり、煌石の力を扱える
幸いセラたち風紀委員、風紀委員と同じくアカデミーの治安を守っている国から派遣された組織である
その騒動でアルトマンの目的は何だったのか、いまだにハッキリとわかっていなかったのだが――大和だけは、アルトマンの目的を何となく理解していた。
大和は二週間前の騒動でアルトマンは、自分たちの存在を周囲にアピールしたかったのではないかと考えた。
今まで事件の裏で暗躍して、自分の存在を長年いっさい明るみに出さなかった慎重なアルトマンだからこそ、二週間前の騒動の計画はあまりにも杜撰だったからだ。
それに加え、生死不明となって色々と動きやすい状況だったのにもかかわらず、隠していた顔を露にして自分が生きていることを公にし、アカデミーや世界に警戒心を抱かせたからだ。
自分の存在を強調させて何をするのかまだわかってはいないが、明確な目的意識を持っているアルトマンの様子から、半年前のように自分に注目を集めさせ、大勢の人間を誘き出し、周囲を巻き込んで自爆しようと考えているわけではないと大和は思っていた。
それらの行動を考えた結果、大和はアルトマンたちを誘き出すための計画を練った。
アルトマンたちが自分たちの存在をアピールしたいのであれば、自分たちも彼ら以上に存在をアピールすればいいと。
アルトマン以上に風紀委員が目立てば、目立った風紀委員に何か行動を起こし、更にアルトマンたちは目立とうとする――それが、大和の考えだった。
「まあ、無駄かもしれないけど、風紀委員が精力的に活動しているということはアカデミー都市の治安も守られるってことだから、もうしばらく我慢してよ、セラさん」
「それは、わかっていますけど……もう少し別の方法があってもいいと思います」
「風紀委員設立前にコスプレしてたんだから慣れてるでしょ?」
「あの時は今のように出歩いてなんていませんから!」
「現状リスクを最小限に抑え込んだ方法なんだから、お互い役割をしっかり努めようよ」
「……二人はこのままでいいんですか」
風紀委員の役割を持ち出され、何も反論できなくなるセラは、麗華とサラサに意見を求めた。
「わ、私は、別に大丈夫、です。……が、頑張ります」
「うーん、サラサちゃんは偉いなぁ。いい子いい子」
疲れているみたいだけど、本当に偉いなサラサちゃんは……
見習わなければならないんだけど――何だろう、気負い過ぎている感じがするな。
人見知りが激しく、恥ずかしがり屋だというのに、眠そうな欠伸をして疲れ切っているというのに、過激な衣装を着続けようとするサラサの心意気に感心しつつも――どこか、使命感を帯びた彼女の表情を見て、セラは違和感を抱いた。
そんな違和感をかき消すように、「ちょうどいい機会ですわ!」と麗華は声を張り上げる。
「私のビューティフルブリリアントグラマラスボディーを披露するいい機会ですし、これくらいでアルトマンを誘き出せるのなら安い物ですわ! それに、このまま風紀委員が目立ち、アカデミー内外に風紀委員の活躍譚が轟けば、私の名も轟くのは必然! つまり、アカデミーを支配するという私の夢に大きな前進ですわ!」
「そういうこと。今回の件は一石二鳥って感じで考えてるから、セラさんたちの行動が決して無駄になることはないってことさ」
「オーッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホ! あなたにしては殊勝な考えですわね! いいですわ! あなたの魂胆にすべて委ねますわ!」
……嫌な予感しかしない。
麗華と大和――普段はそりが合わない二人の推さ馴染みの意見が珍しく一致して、やる気を漲らせている様子を見て、嫌な予感しかしないセラ。
結局、コスプレ風紀委員活動はまだまだ続く――というか、これから更に過激になることに決定し、セラの受難はまだまだ続く羽目になってしまった。
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