第26話 

 生徒が暮らす寮や、教員が暮らす家が立ち並ぶノースエリアにある、新たな寮が建設される予定の工事現場――


 新年度に入学する生徒たちのために高層マンションが建てられる予定であり、鳳グループ本社と教皇庁本部の解体工事と並行して半年前から建設工事が行われていた。


 今日は煌石一般公開が開始されるという記念すべき日であり、無用な事故で無駄な混乱を広げてしまうのを防ぐため、工事はすべて休みになっており、現場には人気はなかった。


 そんな工事現場内に、激しい戦闘音がけたたましく響き渡っていた。


 武輝である手にした刀で、もう正体は明らかになっているというのにまだフードで顔を隠している父・宗仁とぶつかる優輝。


 師弟関係である二人は過去に何度も戦ってきたが、今は修行で行われる実戦形式の訓練ではなく、父子は本気でぶつかり合っていた。


 武輝同士がぶつかり合う度に火花が散り、周囲に甲高い金属音が響き渡り、二人の力と力がぶつかり合ったことによって発生した衝撃波が頑丈な鉄骨を大きく揺らしていた。


 そんな二人の周囲には、自在に輝石の力を扱える力を持つ二人によって無数に生み出された光の刃が縦横無尽に駆け回っていた。


 優輝の死角から襲いかかる父の光の刃は、優輝が生み出した光の刃によって受け止められ、父の死角から襲わせた優輝の光の刃もまた、父が生み出した光の刃によって受け止められていた。


 周囲を駆け回る無数の光の刃は互いにぶつかり合い、消え去りながらも、優輝たちは戦いながら増やし、操っており、数が減ることはなかった。


 一進一退の攻防が続き、お互い互角の戦いを繰り広げていたが――


 時間が経つにつれ、僅かに宗仁の動きが鈍くなってしまっていた。


 一方の優輝は時間が経っても動きが衰えることなく、全力の力を出しており、時間が経つにつれて動きが鋭くなっていた。


 激しく、鋭くなる息子の動きに、宗仁は後の先を狙った最小限の動きで対応する。


 顔をそらして額目掛けて放たれる鋭い刺突を回避、袈裟懸けに振り下ろされる武輝の刃に、半身になって淡々と回避すると同時に息子の胴目掛けて武輝を振り払って反撃を仕掛ける――相手の動きをじっくり観察して、的確に相手の隙をついて最小限の動きで反撃する宗仁。


 だが、優輝は身体を大きく捻って父の反撃を回避しながら武輝を振るう。


 思いがけない息子の反撃に、咄嗟に宗仁は回避しながら大きく後退して間合いを取る。


 ――逃がさない。


 一旦間合いを取って仕切り直そうとする父を追いかける優輝。


 父の予測に自分の動きが上回ったと優輝は確信し、このまま一気に勝負を決めるつもりで接近するが――そんな優輝に無数の光の刃が鉄砲水のように襲いかかる。


 慌てて優輝は横に飛んで光の刃の激流を回避するが、容赦なく父は矢継ぎ早に今度はハンマー上に変化させた輝石の力を息子に向かって叩きつけた。


 ――勝負を焦りすぎた。

 焦りや隙を見せれば、相手は一気にそれをついてくる――容赦なく。


 勝負を決めるために焦りすぎた自分を自戒しながら、優輝は後方に大きく身を翻して、自身を押し潰さんとする光のハンマーの一撃を回避。


 回避すると同時に父の姿が消えたことに気づく優輝。


 目を離した一瞬の隙に視界から消えた父の姿を目と気配で探知し、即座に背後を振り返りながら、武輝を振るった。


 息子の背後に回り込んでいた宗仁は、振り返りざまに放った息子の一撃を片手で持った武輝で受け止めると同時に、武輝を持っていない手を固く握り締めて息子の鳩尾目掛けて突き出す。


 鳩尾から全身に伝わる鈍い衝撃に苦悶の表情を浮かべて怯む優輝。


 輝石の力を全身にバリアのように身に纏っている輝石使いにとって、体術で与えるダメージは僅かだが、牽制程度には役に立ち、宗仁ほどの実力者であるならば輝石の力で身体能力を向上させた体術の一撃だけで並の輝石使いならば昏倒させることができた。


 怯んだ優輝に向けて容赦なく攻撃を仕掛けようとする父だが――鳩尾にめり込んだ拳を掴まれていることに気づくと同時に、息子が不敵な笑みを浮かべていることに気づいた。


 その瞬間、息子は父の額目掛けて勢いよく頭を突き出した。


 ガツンと小気味いい音が響くと同時に、額が割れそうな痛みにお互い悶絶しながらも即座に態勢を整え、同時に武輝を振るって攻撃を仕掛ける。


 武輝同士がぶつかり合い、鳴り響き金属音とともに発生した衝撃に、お互い数歩後退してしまい、間合いが開いてしまう。


 ……歳のせいか、相手の消耗が早い。

 だが、相手はそれをカバーするように最小限の動きで的確に隙をついてくる。

 時間をかければ不利になるのはお互い――いや、相手の目的がわからない分、長期戦になれば、こっちの状況が不利になるかもしれない。

 それなら――


 一旦開いた間合いで、優輝は攻め方を変化させ――武輝を逆手に持ち替え、再び無数の光の刃を自身の周囲に浮かび上がらせる。


 生み出した無数の光の刃を一斉に発射すると同時に、優輝の姿は消えた。


 光の刃を最小限の動きで回避し、自身が生み出した光の刃をぶつけて打ち消しながら、消えた息子の気配を探る宗仁。


 そんな父のサイドから現れる優輝は激しい動きで突進する。


 直線的過ぎる息子の攻撃を容易に回避する同時に、光の刃が宗仁に襲いかかる。


 後方に向けて大きく跳躍して回避する宗仁に次々と襲いかかる光の刃。


 回避し、武輝と自身が生み出した光の刃で撃ち落としながら華麗に着地をする宗仁。


 そんな宗仁に休むことなく、先程と同じ動きで、時折フェイントを混ぜながら、優輝は襲いかかる。


 フェイントに無駄に反応することはなく、今度は回避と同時に反撃を仕掛ける宗仁だが、構わず優輝は体術と武輝で攻撃を続ける。


 光の刃を更に生み出して宗仁の足元目掛けて放ち、宗仁に回避行動を取らせた。


 動けば動くほど、反撃に反応するための神経と肉体を使えば使うほど、宗仁は消耗する――技量、実力ともに相手の方が勝っているのに加え、師である相手は弟子である自分の動きを読み取っており、勝っているのはスタミナだけだと判断した優輝は、相手を消耗させるために激しく動き、相手が隙を見せたところで一気に攻めようと考えた。


 多少の反撃を食らうのは覚悟しており、父の反撃が来る寸前に全身にバリアのように纏う輝石の力の出力を上げて受けるダメージを軽減していた。


 優輝の目論見通り、消耗した父の動きは若干だが先程と比べて更に鈍くなっていた。


 若干だが、それだけで十分だった――その差で勝敗は一気に決まるからだ。


 逆手から順手に持ち替え、勝負を決めるつもりで消耗している父に飛びかかる優輝の武輝の刀身は、燦然とした光を纏っていた。


 だが、そんな息子の魂胆など読みきっていた宗仁は、飛びかかってくる息子に向け、投網状に変化させた輝石の力を放った。


 ――しまった!


 絡みついた輝石の力を消し去ろうと、全身に輝石の力を巡らせる優輝だが僅かに遅かった。


 網に絡みついた優輝に、ハンマー状に変化させた輝石の力をぶつけ、近くにある鉄骨目掛けて叩きつけた。


 激しく鉄骨に叩きつけられて怯む優輝目掛け、容赦なく光の刃を発射する宗仁。


 怯みながらも優輝は全身に纏う輝石の力の出力を上げ、自身を拘束する光の網を消し去って拘束を解き、眼前に迫る無数の光の刃を紙一重で回避。


 回避すると同時に、優輝は勝負を決めるために武輝の刀身に纏わせていた輝石の力を光の槍状に変化させて発射。


 息子が放った光の槍を、肩に受けて怯む宗仁。


 怯んだ父に追撃を仕掛けようとする優輝だが、父から受けたダメージのせいですぐに動くことができなかった。


 二人の荒い息遣いだけが響く中――


「……強くなったな」


 激しくぶつかり合って、殺伐とした空気だというのにも関わらず、消耗して疲労困憊取ったような、それ以上に、嬉しそうな声が父から響いて来た。


「ようやく言葉を発しましたね」


 今まで何を聞かれても、何をされても口を閉ざしていたのに、息子の成長を目の当たりにしてつい口を開いて称賛してしまう宗仁。


 聞き慣れた父の声を聞いて、改めて目の前の父が本物であったという失望と、父に褒められたことへの嬉しさで複雑な思いを抱いてしまう優輝。


「理由を話す気になりましたか?」


「……」


 まただんまりか――……それなら……


「決着をつけましょう……話を聞くのはそれからだ」


 再び口を閉ざす父に何を聞いても無駄だと判断した優輝は、周囲を駆け回っていた光の刃を消して、自身の武輝に力を集中させる。


 余計な無駄を使わず、一撃に集中するつもりの息子を見て宗仁もそれに応じて、彼と同じく周囲に浮かんでいた無数の光の刃を消して、自身の武輝に力を集中させた。


 二人の武輝の刀身が燦然とした光を纏い、溢れ出した力で周囲の空気を震わせる――力強い一歩を踏み込む。


 お互い間合いを一気に詰め、間合いに入ると同時に武輝を振るい――武輝に纏った力を一気に爆発させる。


 武輝の刀身に圧縮された輝石の力が一気に解き放たれ、周囲に衝撃が走る――が、強烈な一撃はお互いに直撃することはなかった。


 二人の間に、武輝を持った幼馴染たちが現れたからだ。


 優輝の一撃は二人の間に入ったティアが受け流し、宗仁の一撃はセラが受け止めた。

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