第23話
爆発の原因もわかったし、アカデミー都市内で暴れていた人たちも拘束できてるみたいだし、それに何よりプリムさんも無事に確保できた――
まだ油断はできないけど、取り敢えずはこれで一安心だ。
それにまた――特にアリシアさんの不満が爆発する前に避難の誘導ができてよかった……
でも、アルトマンさんが生きていたなんて……
それに伝説の聖輝士、優輝さんのお父様である久住宗仁さんが関わっているなんて……
――それだけじゃない……なんだろう、この違和感は……
「みなさん、慌てず、走らないで落ち着いてここから出てください! もう大丈夫です!」
「ほらそこ! 順番守りなさいよ! ――あ? 何、文句あんの?」
「あ、アリシアさん、最後の最後でトラブルは勘弁してください」
「あのクソババアは今アタシを睨んだし、そこにいるエロジジイはアタシの尻を撫でたのよ!」
煌石展示会場が閉鎖されて一時間近く経った頃――爆発事件の原因が判明し、誘拐されたプリムも奪還し、犯人グループの大半が捕まったところで、会場内に取り残された人を外に避難させるために閉鎖が一時解除されると、彼らは出入り口に殺到し、そんな彼らを安全に出すための誘導をアリシアとともにリクトは行っていた。
アリーナを出た観光客たちは、通路にいる会場内の警備担当者の誘導に従って外に出て、そこで待っている救急隊員に怪我がないかチェックされ、問題がなければウェストエリアを離れてもらうというのが、避難計画だった。
誘拐されたプリムを無事に奪還した報告を聞いて、先程比べてやや気合が入っている様子のアリシアだが、それについてツッコんだら機嫌が悪くなりそうなので、何も言わず、ただただ暴走しそうな彼女を御しながらリクトは誘導を行っていた。
まだすべてが解決したわけではないが、不満が爆発して再びパニックになる前に避難が誘導できたことに心底安堵するリクトだが――違和感があった。
その違和感を抱えたまま、数分後、ようやくアリーナ内に取り残された観光客たちの避難誘導が終わり、リクトとアリシアも会場から出て状況を整理するために、一旦アリーナを出た。
「……まったく、気に入らないわね」
「ま、まあ、いいじゃないですか。今のところは実害が出ていないんですし」
アリーナから出ると同時に、深々としたため息とともに機嫌が悪そうに気に入らないと吐き捨てたアリシアを落ち着かせるリクト。
「そういう問題じゃないの。こうなることを予想していたエレナの掌で踊らされているのがムカつくのよ……よくわからない理由で巻き込まれて、私がこんなことをするなんていい迷惑よ」
「でも、アルトマンさんと久住宗仁さん――二人が今回の騒動に関係しているのは、さすがの母さ――エレナ様でも想定外だったんだと思います」
「誰もが想定外だったわよ、そんなの。でも、あのエレナが想定外で、無表情で狼狽える様を想像すると良い気味だわ。実にね」
アリシアさん……すごい楽しそうだ……
ま、まあ、機嫌が良いなら、それでいいのかな? ――うん。
サディスティックな笑みをにんまりと浮かべているアリシアを見て、若干引いてしまうリクトだが、不満が爆発して暴れられるよりかはマシだと思うことにした。
「でもわからないわね。どうして伝説の聖輝士がウチのバカ娘を攫ったりしたのかしら。煌石を扱える以外、何の価値もないのに」
「煌石を扱えることができれば必然的に次期教皇候補の一人になれますし、プリムさんはアリシアさんの娘です。攫う価値は十分にありますよ」
「……フン! 攫ったところで私は別に困らないんだけどね」
……素直じゃないな、アリシアさん。
娘に関して素直になれないアリシアをかわいらしいと思いつつも、口に出したら何をされるかわからないので、リクトはグッと堪えた。
「それに、アルトマンさんが関わっているということはプリムさんを利用して、賢者の石を生成しようと画策しているのかもしれません」
「賢者の石は存在しないっていうのに、バカじゃないの?」
「でも、ティアストーンの欠片と、アンプリファイアの力でクロノ君たちイミテーション、新たな生命を生み出したんです。それをヒントに何かをしようとしているのではないでしょうか」
「そう単純だといいんだけどね……わからないことはまだあるわ」
「……詳しく教えていただけないでしょうか」
アリシアの言葉を聞けば、自分の中にある違和感の正体が掴めるかもしれないと思って、リクトはアリシアの気がかりなことを尋ねた。
そんなリクトの頼みに「仕方がないわね」と心底面倒そうにしながらも、しっかり教えようする何だかんだ言って人の良いアリシア。
「天宮家関係者、教皇庁過激派、テロ組織をまとめたのはアルトマンたちと見て間違いないし、今回の騒動を主導していたのもアルトマンたちでしょうね――でも、アカデミー都市内で数々の騒動を起こしてきたアルトマンらしくないと思わない?」
「確かに……今までのアルトマンさんなら、もう少し派手にして、自分の正体を悟られずに騒動を起こしますね」
「そういうこと。大勢の人間をまとめてるんだから、アカデミー都市中で暴れさせればいいだけだし、その騒動に乗ずればもっと上手くあのバカ娘を攫うこともできたし、何よりも爆発騒動を小規模な花火程度で終わらせたのも――」
「――それです!」
突然興奮しきった表情で大声を上げたリクトに、アリシアはもちろん、周囲にいる人たちは驚き、彼に向けて怪訝な目を向けた。
「はぁ? アンタ何を――」
「みなさん、聞こえていますか? 外に避難している人の中で、探してもらいたい人がいるんです――身長と歳は僕と同じくらい、特徴のない地味な顔立ちで、えっと、その……」
「突然そんな特徴のない人物像を上げられても全員意味がわからないわ。説明しなさい」
興奮しきった様子で耳に刺しているイヤホンマイクを使って会場内で警備をしている味方に連絡しているリクトに呆れながらも落ち着かせるアリシア。
アリシアの一言でリクトは幾分落ち着きを取り戻し、数回深呼吸をして説明する――アリシアの一言で、抱えていた違和感が刺激され、一気に弾けたことを。
「会場が閉鎖されてすぐに、不思議な人と会ったんです」
「そういえば、焼きそばをぶちまけた鈍いガキがいたわね」
リクトの言葉で、特徴があまりにもなかったので顔は覚えていないが――いや、思い出そうとすると、あの時アリーナに取り残された人間の不平不満を思い出してムカつくので、思い出したくもないが、焼きそばをぶちまけた少年がいたことを思い出すアリシア。
「その時は、ほとんどの人が混乱しているのに妙に落ち着いていたので不思議な人だとは思ったんですが――その人、まだあの時点では爆発の原因を特定していなかったのに、爆発騒ぎを花火だと言い切ったんです」
「あの状況で呑気でいられる性格なら爆発音も花火だと思えるんじゃないの?」
「そうかもしれませんけど、あの状況で呑気でいられたのも、爆発騒動の原因がわかっていたから――そう考えられませんか?」
「私からすれば、呑気な性格だったらアルトマンたちと手を組むとは、というか、アルトマンが手駒として使うのも考えにくいわね。あの男ならもっと、伝説の聖輝士のような優秀な駒を用意するわ」
「でも、探し出して詳しいことを聞いてみる価値はあると思います」
「無駄になりそうな気がするけどね――それで、どうやって探すの? 他の奴に協力してもらっても、アンタの漠然としない説明じゃ探し出すのも無理だろうし、会場内に残っている大勢の人間の中から特徴のない人間を探すのは至難よ。その前に逃げ出されるわ」
リクトの言う通り、確かに彼の言う人物は怪しいと思っているアリシアだが、閉鎖された状況で呑気でいられた人物がアルトマンの味方であることは考えにくいと思っていた。
そんな人物を探し出そうと躍起になるリクトを無駄だと言いつつも、アリシアは心底不承不承といった様子で協力するつもりでいた。
「アリシアさんの言う通り、鈍くて呑気な人だったら――もしかしたら、まだ逃げていないのかもしれません。それに、アルトマンさんの目的が煌石ならば――……」
「なるほど、まだアリーナ内に残っている、その可能性は十分にありえるわね」
ここで、ようやくアリシアとリクトの意見が一致する。
観光客たちの避難の誘導を周囲の警備担当者たちに任せ、二人はすぐに会場内へと向かう。
ようやく自分の中に存在していた違和感の正体が掴めてすっきりしていたリクトだが、まだ頭に、胸に、僅かな違和感が残っていた。
何か抜け落ちている、忘れてはならない何かがある――そんな違和感だったが、この騒動を解決するために動いている今のリクトにはそれらは気にならなかった。
――そんなリクトと同様の違和感をアリシアも抱えてしまっていた。
―――――――――
いつまで逃げるつもりだ――絶対逃がさない!
会って話すまで、絶対に!
父・宗仁を追跡するために、アカデミー都市中を疾走する優輝。
ロープ状に変化させた輝石の力を周囲の設置物に絡みつかせて振り子のように移動し、輝石の力で強化された身体能力で疾走し、父との距離と詰めているのが、時折自身に向けて躊躇いなく光の刃を飛ばして邪魔をしてくるので、中々距離を詰めることしかできなかった。
だが、優輝は諦めずに父の後を追った。
ただ追うだけでは無駄に体力を消耗するだけだと早々に判断し、優輝は時折背後から光の刃を発射していた。
本気で攻撃を当てるつもりで放っているが、実際は行き止まりに追い込むためだっ。
目論見通り、父は進行方向に放たれた光の刃を回避するために別の道――優輝の誘導に従って方向転換した。
何度か失敗したが、それでも粘り強く父を追跡したおかげでようやく行き止まり――アカデミーの生徒たちが暮らしている寮が立ち並ぶノースエリアで、新たな寮を建設している工事現場へと誘導することができた。
――これで、終わりだ。
誰の邪魔が入らず、じっくりと、ゆっくりと父と話ができる場所へと誘導できた優輝は、工事現場に入ると同時に逃げる父の周囲に向かって無数の光の刃を放つ。
自身に囲むように地面に突き刺さった光の刃で、父は動けなくなる。
「逃げるのはもう終わりにしましょう」
質問した優輝の隙に輝石の力をロープ状に変化させ、工事現場にある鉄骨に絡みつかせて上に飛んで逃げようとするが、父の動きを読んでいた優輝は光の刃を発射して、伸ばされたロープを断ち切り、父の動きを止める。
「そろそろ、こんなことをしている理由を聞かせてください」
縋るような目を向けて質問してくる優輝に、父は何も反応しない。
そんな父に、手にした武輝をきつく握り締めて激情を抑えるのだが――ついに耐え切れなくなり、「いい加減にしろよ!」と苛立ちを爆発させる優輝。
「こんなことをしてティアやセラにどう言い訳をするんだ! アンタと対峙したティアはショックを受けてるし、まだ言っていないが、特にセラはアンタが関わっていると知ればティア以上のショックを受けるに違いない――俺とティアが消えたことで重荷を背負わせてしまったセラが苦しんでいた姿をアンタは間近で見ていたはずだ!」
愛弟子であるティアとセラのことを話題に出すと、フードで顔全体を覆われてどんな表情を浮かべているのかわからないが、明らかに父は動揺していた。
「それなのにどうして二人を傷つけるような真似をするんだ! 二人だけじゃない……俺だって同じだ……アンタを尊敬しているのに、どうしてこんなことをするんだ……」
自分以上にセラとティアを傷つけたことに怒りを、尊敬していたのにプリムを誘拐しようとした失望をぶつける優輝に、父の動揺は更に広がる。
「何とか言ったらどうなんた!」
ただただ無心になって感情を爆発させた優輝に相変わらず何も答えない父だが、答えの代わりに握り締めていたチェーンに繋がれた輝石を武輝である刀に変化させた。
自在に操れる輝石の力によって生み出された紛い物ではなく、正真正銘の父の武輝だった。
武輝を手にすると同時に放たれる圧倒的な父の威圧感に優輝は気圧される。
……本気だ。
本気で、戦おうとしている……そこまでして目的を果たそうというのか?
……それなら、もういい――そっちがその気なら、こっちもそのつもりで行く。
ぶん殴ってでも止める、ぶん殴っても止められなかったら更にぶん殴るだけだ。
何も喋らないのなら、喋らせるだけだ。
本気で父が戦おうとしていることに驚きつつも、その理由を知りたかったが――
もう何を言っても、何を聞いても無言で返されるだけだと判断した優輝は武輝を構える。
「良い機会だと思うことにします――あなたを合法的にぶん殴られる良い機会だと」
そう自分に言い聞かして優輝は凶暴な笑みを浮かべて父に向かって疾走する。
逃げることなく、向かってくる息子を父は迎え撃つ。
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