第19話
イーストエリアで発生した複数個所の爆発現場に向かい、現場周辺にいて自分たちの姿を見るや否や襲いかかってきた輝石使いたちを一蹴したセラたちは、萌乃からの連絡でサウスエリアの爆発現場に向かってほしいと頼まれ、現場に急行していた。
ちょうどイーストエリアとサウスエリアの境目付近にいたので、時間がかかることなく現場付近に到着することができたのだが――
現場に近づくにつれてセラたちは肌を刺すような圧倒的な力の気配を感じていた。
そして、道中にはアカデミーでは見慣れぬ顔の不審者たち、そんな彼らと戦ったのであろうセラたちの味方である輝石使いたちが傷つき、倒れていた。
不審者たちを拘束し、怪我人を介抱したい衝動に駆られるが、徐々に近づいてくる力の気配に突き動かされるままに先へと進んでいた。
この気配……彼とよく似ている……でも、もう彼はいないはずだ……
アカデミーはとことん彼の行方を調べたし、関係者たちを洗い出したんだ。
私だって過去と決着をつけるために、優輝やティアと調べたんだ……
それで、もう彼はいないって結論付けた――だから、もう彼はいないはずなんだ。
なのに、この気配――……彼とそっくりだ……
近づくにつれてハッキリとしてくる力の気配――セラはもちろん、この場にいる全員が感じたことのある気配だった。
この気配を感じてから、サラサは不安げな面持ちになり、クロノは無表情ながらも不安と焦りを抱いており、ノエルは期待と不安が入り混じった複雑な表情を浮かべていた。
その正体をこの目でハッキリと確認するまで、無用な不安を煽らないように、セラたちは何も言わずに黙々と突き進んでいた。
「何やらこの先から重圧感のようなものが感じますが、問題ありません! この僕がセラさんをお守りいたしましょう! ハーッハッハッハッハッハッハッ!」
油断大敵だっていうのに貴原君はまったく……
でも、こんな状況でも変わらずいられるのは貴原君の良いところだ。
おかげで、少しだけ力を貰った気がする……認めるのは癪だけど。
誰もが不安を抱いている中、一人だけ根拠のない自信を抱いて恐れることなく堂々とした足取りで先へ進む貴原に、呆れながらも僅かに勇気づけられたセラは彼の後に続いて先へと急いだ。
そして――突き進んだ先には、敵味方を含めた輝石使いたちが倒れた中央で、全身黒ずくめの服を着て顔全体を覆い隠すフードを被った謎の人物が立っていた。
その人物を確認した瞬間、警戒心が極限までに高まったセラたちは輝石を武輝に変化させる。
「お前は――」
「あなたは、アルトマン・リートレイド――ですね」
「あ、アルトマン・リートレイド? い、生きていたとは――し、しかし、地獄から蘇ったとしても、ここにはセラさんたち――そして、この僕がいるのだ! 再び地獄に送り返そう!」
ノエルさん……無理もないか……何かあれば私がフォローすればいいだけだ。
それに、クロノ君やサラサちゃんもそのつもりみたいだ。
貴原君は――相変わらずだな……
セラの言葉を遮り、ノエルは無表情で無感情ながらも、抱いていた期待と不安で僅かに震えた声で、目の前にいる謎の人物に声をかけるが、謎の人物は何も答えない。
謎の人物から放たれる気配――それは、半年前にアカデミー都市で自爆し、生死不明となっており、半年間に渡るアカデミーの徹底的な調査でもうこの世にいないだろうと判断された人物である、アルトマン・リートレイドとそっくりだった。
生きているかもしれない父を目の前にして、感情を僅かに露にするノエルをセラたちは何も言わずに見守ることにした。
「答えてください」
「……相変わらず愚かだな」
間違いない――
生きていたのか……
期待と不安を募らせるノエルを心底嘲るような声が謎の人物から呟かれた。
その一言だけで、目の前にいる謎の人物が誰なのかを判別するには十分だった。
アルトマンが生きていた――その事実に驚きのあまり呆然とするセラたちに、謎の人物――アルトマンは背を向ける。
「――待ってください!」
背を向けた瞬間にノエルは感情的になって制止の声を張り上げるが――赤い閃光を残してにアルトマンは消え去ってしまった。
どこからかともなく消え去った父・アルトマンを感情に突き動かされるままに追いかけようとするノエルを、「待て、ノエル」とクロノは制止した。
「相手がどこに消えたのかわからないんだ。闇雲に探しても時間を無駄にするだけだ」
「あの人の目的は賢者の石の生成だった。だから、ウェストエリア、煌石展示会場に決まっているでしょう」
「今、あそこは結界が張られている。いくらアルトマンが強力な輝石使いでも、そんな状況でまともに戦えるはずがない」
「相手は輝石や煌石研究の第一人者。何らかの手段を講じているはずです」
「それでも鳳麗華たちアルトマンに負けない強力な輝石使いがいるんだ。今は会場の警備を任されている担当者にアルトマンのことを報告して任せ、オレたちはやるべきことをやるんだ。それに、まだ相手がアルトマンと決まったわけじゃない」
「あれは、間違いなくアルトマンです」
「ああ、声も気配もそっくりだったし、オレも本人だと思った――しかし、相手は顔を見せなかったんだ。オレたちを油断させる罠かもしれない」
「そんな手の込んだことをするとは思えません。間違いなくあれは父です」
「その淡い期待に相手が付け込んでいるのかもしれないんだ――しっかりしろ」
「しっかりするのはあなたです、クロノ。あなただって先程の人物が父であると認識しているのでしょう? それならば、私たちが責任を持って彼を追跡し、決着をつけるべきです」
「今は情報が足りないんだ。下手に行動すれば相手の思う壺かもしれない」
クロノとノエル――父・アルトマンが生きているかもしれないという状況に、動揺しているせいで仲の良い姉弟が意見の相違で険悪なムードになっていた。
「お二人とも、落ち着いてください。今は口論をしている場合ではないはずだ」
「二人とも、取り敢えず落ち着いて――」
こんな時に――沙菜さん?
どうしたんだろう……もしかして、何かあったのか?
そんな姉弟を見かねてセラと貴原が間に入ろうとするが――ここで、セラの携帯が震える。
沙菜からの連絡に、会場周辺か優輝たちに何かあったのかもしれないと思い、電話に出た。
「どうしたんですか、沙菜さん」
『せ、セラさん、た、大変なことになってるんです』
受話口から聞こえる動揺しきった沙菜の声に、気圧されながらも「お、落ち着いてください」と取り敢えず沙菜を落ち着かせるセラ。
セラの一言に『す、すみません』と沙菜は受話口からでも聞こえるほどの深呼吸を何度かして自信を落ち着かせた後、状況を説明する。
『ティアさんからの連絡で優輝さんが一人で行動しているんです。今、共慈さんが追っているんですが、何度も制止させようとしてもそれを振り切っています』
「ティアからどんな連絡があったんですか?」
『わかりません……セラさんならティアさんに何か聞いているかと思って連絡したんです……』
「いいえ、何も……」
『そ、そうですか――あ、ゆ、優輝さん、待ってくだ――』
「沙菜さん? 沙菜さん――ダメか……それなら、ティアにも――ダメか……」
こっちもこっちで、何かが起きている……
一体どうなっているんだ? どうしたんだ、優輝……
……私はどうしたらいいんだ。
沙菜との通話が突然切れたので、すぐに折り返すのだが、現場で何か起きているのか、電話に出ない。
今度は優輝に何らかの情報を与えたティアに連絡するが、ティアも出ない。
自分の知らないところで何か大きなことが起きていることに、頭がついて行けずに混乱し、セラはノエルとクロノの間に入ることも忘れてしまう。
そんなセラの代わりに貴原がノエルとクロノの間に入るが、二人はそれを無視して口論をする。
混乱して停滞している状況を眺めていたサラサはただただオロオロすることしかできない。
――しかし、すぐに意を決したように、弱々しかった瞳に力強い光を宿し、混乱しているセラたちを見つめた。
「ここは私に任せてください」
強面のサラサからは信じられないほど鈴の音のような優しい、それでいて、人見知りが激しく、自分を表に出さない普段の彼女では考えられないほど力強い声音に、セラたちの視線がサラサに集まった。
「ノエルさんとクロノさんはアルトマンさんを探しに行ってください……セラお姉ちゃんは、優輝さんの情報を集めてください、私はここで貴原さんと一緒に倒れている怪我をした人の介抱をして、騒動を起こした人を拘束します」
「で、ですが、サラサちゃん――」
「ここで立ち止まっているよりも、みんなの好きにさせた方が無駄に時間を費やしませんし、何かあれば貴原さんやアリスさんたち狙撃班の人に頼るので大丈夫です」
目まぐるしい状況の変化に混乱しきっているセラたちに突き刺さるサラサの言葉に、セラたちは苦い表情を浮かべて何も反論できなかった。
そんなセラたちを見て、人の良いサラサは調子に乗ってしまったと思って「ご、ごめんな、さい」と一言謝りながらも、瞳に宿した力強さは消えてはいなかった。
「私は大丈夫、です……」
「セラさんにお供をしたいところですが、今はそんなことを言っている場合ではありません! ここは僕とサラサさんに任せるべきではないでしょうか」
……情けない。
この中で一番の年下のサラサちゃんに叱られるなんて……しっかりしないと!
自分を表に出すのが不得意なサラサから放たられる、混乱している自分たちに喝を入れるような有無を言わさぬ威圧感に、セラたちは彼女に頼もしさを感じてしまうとともに、セラは、そして、ノエルたちは年下のサラサに喝を入れられて情けなさを感じてしまった。
「サラサさん、貴原さん、ここは任せました――クロノ、一緒に行ってくれますか?」
「無論だ――サラサ、感謝する。そして、すまない」
言葉数は少なく、淡々としているが、自分たちに喝を入れてくれたサラサに感謝と、情けない姿を見せてしまったことへの謝罪の気持ちはしっかりと抱いたノエルとクロノは、サラサの言葉に甘えて、アルトマンを追うために先に急いだ。
「セラお姉ちゃんも、行って」
サラサちゃん……――よし、わかった。
……麗華が心配するようなことはなかったな――
立派にサラサちゃんは風紀委員の役目を務めているんだ。
セラは先日、麗華が消極的なサラサに説教をしたのを思い出すとともに、麗華の心配は杞憂であり、いずれサラサが風紀委員のすべてを任せられる逸材に成長すると確信するセラ。
「――サラサちゃん、ここは任せました。貴原君、彼女のことをお願いします」
「無論です! セラさんの命令とあれば、身命を尽くしましょう!」
サラサの成長を認めるとともに、年下ではなく、一人の成長しきった立派な輝石使いとして彼女を信頼してこの場に任せ、セラは優輝の情報を集めるために行動をはじめる。
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