第6話
「ついさっきのことなんだけど、煌石の一般公開は決まったってさ。それも、一週間後に。そろそろニュース速報で流れるんじゃないかな?」
「世間の圧力があったとはいえ、随分と早急な判断を下しましたわね」
「エレナさんがかなりゴリ押ししたそうだけど、隙のない警備計画を練って上層部を説得して、最終的にはそれに納得した大悟さんが決め手になって、次々と上層部の人たちは公開に賛成したんだってさ」
そうなるとは思っていたけど、随分と早いな……
放課後――一日の授業が終わって高等部校舎内にある空き教室を利用した、掃除がしっかりと行き届いている風紀委員本部に集まったセラ、麗華、サラサの三人は、放課後になると同時に大悟との会話を終えて戻ってきた大和の話をソファに座ってお菓子を食べながら聞いていた。
煌石一般公開は避けられないとある程度予見していたセラだったが、もっと慎重に計画を立ててからだと思っていたので、一週間後になるとは思いもしなかった。
「公開期間は二日――って言ってるけど、確実に騒動が起きるだろうから短縮されるだろうね。公開場所はウェストエリアにある闘技場だってさ」
「輝石使い同士の戦いが公式に認められた煌王祭で使用される堅牢な闘技場、何が起きても強度の面では問題ないのでしょうが、肝心の警備はどうなっていますの?」
「それについては夜に詳しいことをエレナさんから聞くことになってるんだ。どうやら、警備は煌石を扱える強い資格を持った人が必要らしいね」
「何やら今までにない大掛かりな警備になりそうですわね」
「今まで一度も公開されたことのなかった煌石が公開されるんだから、外部からたくさんの観光客やマスコミが来るのは当然。それに、アカデミーを狙う人たちにとっても、自分たちをアピールする良い機会になるのは確実だし――あーあ、面倒なことになりそうだ」
「私たちはアカデミーを守る使命があるのですわ! 気合を入れなさい!」
ニヤニヤと笑い、仰々しく深々とため息を漏らして肩をすくませる大和に、喝を入れる麗華。
「そう言っても、僕は風紀委員に協力しているだけで治安維持活動とは無関係だし」
「アカデミーの治安を守っていた
「元だし、今は輝動隊もなくなってるからね」
「シャラップ! 言い訳無用ですわ! あなたも警備の当てにされている以上、泣き言など言語道断、許されませんわよ! 士道不覚後は切腹ですわ!」
口うるさい麗華の説教を「ハイハイ、わかってるって」と大和は軽く流した。
二人の会話が一段落して、「大和君、一つ聞きたいのですが」とセラは大和に声をかける。
「何でも聞いていいからね? 今朝、純潔の危機の僕を見放したセラさん?」
「じゅ、純潔の危機……れ、麗華、そんなことまで? ご、ごめんなさい、大和君!」
「お、お嬢様……ちょっと、ガッカリです」
朝、麗華に弄ばれたのを助けてくれなかったセラを恨みがましく見つめる大和に、思いきり誤解して土下座する勢いで謝るセラと、引き気味で麗華を見つめるサラサ。
思いきり誤解している二人に、麗華は「ち、違いますわ!」と慌てて釈明する。
「大和! 誤解を招くようなことを言うのはやめなさい! 健全な裸の付き合いでしたわ!」
「穢れの知らない青い実りを好き勝手に弄り倒されて、僕の反応を確かめながら、楽しそうに冒険する指先の先には、桃色の秘境が――」
「そんなことをした覚えはありませんわ! た、多少タッチはいつもより激しめでしたが……」
「ンフフフ、まあ、多少の脚色はあるけど、似たようなことはされたからね」
「と、とにかく! さっさとセラの質問に答えてあげるのですわ!」
いやらしい妄想をさせるのには十分な大和の表現を思春期のサラサは興味津々に、セラは妄想で顔を真っ赤にしながらも聞き入っていたが、それを強引に中断させる恥ずかしい妄想と怒りで顔を真っ赤にさせている麗華。
そんな麗華の反応を楽しんだ後、「それで、質問って何かな、セラさん」と本題に入る。
「エレナさんの様子ですが、どうでしたか?」
「直接対面するのはこれからだからまだ何とも言えないけど――確かに、リクト君が思ってる通り、エレナさんはかなり一般公開の件に関しては積極的だって上層部の人たちは思ってるみたいだね。一般公開の警備から会場に至るまですべてを取り決めたのはエレナさんだったみたいだし。大悟さんは何も言わなかったけど、エレナさんから協力してくれって頼まれたんじゃないかな? まだ詳しく警備についてどうなるのかは聞いていないけど、かなり強固な警備らしいし 人員に至るまで結構計算し尽くされているみたいだから、心配するようなことはないと思うよ?」
エレナに対しての意見を大和から聞いて、セラは母を心配するリクトの不安が少しだけ取り除けたような気がして、少しだけ安堵した。
「そうですか……ありがとうございます、大和君」
「別にこれくらい感謝しなくてもいいし、学食のジャンボ苺大福で勘弁するから気にしないで」
……ちゃっかりしてる。
でも、大和君らしい――ありがとう、大和君。
律義に感謝の言葉を述べるセラに照れ笑いを浮かべながらも、報酬はしっかり取る大和。
そんな大和の照れを隠すようなちゃっかりしている態度に、セラは呆れつつも微笑ましく思い、心の中でもう一度感謝の言葉を述べた。
「正直僕個人としては積極的なエレナさんに違和感はないかな。アカデミーの今後を考えるなら、多少の被害は被ってでも一般公開に踏み切った方がいいと思うし」
「そうであっても、今回の件は慎重にならざる負えない一件ですわ。だというのに、積極的なエレナ様にリクト様や周囲が疑問を抱くのも無理はありませんわ」
「まあ、そうだけどさ――麗華は反対?」
「ええ。どんな理由があろうとも、もう少し時間を置くべきですわ――サラサはどう思いますの?」
大和と真剣に会話をしていた麗華に突然話を振られて、お菓子を食べながら二人の話を聞いていたサラサは思いきり不意を突かれ、何を言ったらいいのかわからず、ただただ「え、えっと……あの……その……」と、戸惑うことしかできなかった。
口下手なサラサに突然話を振ったらどうなるかある程度想像していたサラサを見た麗華は深々と嘆息して、厳しい目を向ける。
「サラサ、あなたも風紀委員の一員! だからこそ、もう少し積極的に自分の意見を言いなさい! これから先そうなる必要があるということを肝に銘じなさい! そもそも、私は何度も言っているはずですわ! もっち自分を表に出しなさいと!」
こうなると長いからな、麗華は……でも、かわいそうだけど麗華の言う通りだ。
それに、サラサちゃんだって変わろうとしているんだ。
麗華だってそれをわかってるからこそ、厳しく言うんだ。
ここは、何も言わないようにしよう……ごめんね、サラサちゃん。
クドクドとはじまる麗華の厳しい説教にサラサは若干涙目になりながらも、麗華の言っていることは正しいと理解しているからこそ反論しないで受け入れていた。
説教がはじまると長い麗華に叱られるサラサを憐れむセラ。
しかし、麗華もサラサのためを思って厳しい言葉を放っており、サラサも消極的な自分を変えようと努力しているのを知っているからこそ、あえて何も言わないセラだったが――
「ホント、麗華は口うるさいよね、サラサちゃん。絶対こうなっちゃダメだからね? こうなったらもう辿るべき道は口うるさい小姑ルート一直線だからさ」
「ぬぁんですってぇ!」
大和が余計な一言を言ってはじまる口論――日常茶飯事だった。
しばらく麗華と大和の口論が続き、セラとサラサはお菓子を食べながらそれを眺めていた。
数分後――アカデミー都市内の数ヵ所で騒動が起きているという連絡が来て、現場に急行することになり、口論は終わり、風紀委員+協力者の大和が出動した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます