第3話

 朝――セントラルエリアにある高層マンションの一室を寮として使っているセラは、早起きしたので走り込みをしたので、汗を流した身体をサッパリさせるためにシャワーを浴びていた。


 ――今日もいい天気で、洗濯物もよく乾きそうだ。

 あ、今日の晩御飯、どうしようかな……

 最近、風紀委員の活動が忙しくて、帰りの時間が遅いせいで簡単なものしか作れないから、同じようなものばかりだ。

 こんな重要な時に身体を崩していられないから、栄養のバランスも考えないと。


 熱々のシャワーを浴びながら、晩御飯のことを考えるセラ。


 最近事件続きで息つく暇もないため、大好きなシャワーをいつもよりも長めに浴びてたまった疲労と、眠気を覚まし、あまりの心地良さに自然と鼻歌が漏れてしまうセラ。


 汗とともにたまっていた疲れを洗い流して、じっくりと癒しのシャワーを堪能していたのだが――勢いよく憩いの場の扉が開かれる音ともに、「失礼しますわ!」と同性でもつい目を奪われてしまうほどの豊満で美しい裸体を惜しげもなく披露する麗華が入ってきた。


 気配すらなく憩いの場に入ってきた麗華に、「ふわっ!」と素っ頓狂な声を上げて驚くセラ。


「れ、麗華! と、突然どうしたの!」


「最近セラには苦労をさせているので、労うために来ましたわ! さあ、背中やその他諸々を私がじっくり、ねっとり、疲れとともに洗い流してあげますわ!」


「え、遠慮するよ。わ、私はもう出るから」


「良いではないか、よいではないか、ですわ!」


「い、嫌だよ……だって、麗華、すぐに変なところ触るし」


 ……朝から疲れそうだ。

 でも、相変わらずきれいだな……


 癒すと言っておきながらも下心丸出しの血走った目でセラの均整の取れた美しい肉体を眺めながら、軟体動物の動きを思わせるかのようにワキワキとボディソープが滴る指をいやらしく動かしながら、じりじりと近寄ってくる麗華。


 思わず麗華の美しい裸体に一瞬目が奪われてしまったセラだがすぐに我に返り、過去に何度も浴室に侵入されては、労うと言って麗華に身体を嫌というほど弄られたことがあるので、彼女の魔の手から逃れようとするが、ここは狭い浴室、すぐ逃げ場はなくなる。


「さあ、行きますわよ! セラ!」


「だ、だから、ちょっと、麗華――って、うわっ!」


「オーッホッホッホッホッホッホッホッ! チャンスですわ! って、んひゃんっ!」


 肉食獣を彷彿とさせる動きで逃げ場がなくなったセラに襲いかかる麗華――だが、水に濡れたタイルに足を滑らせ、セラを巻き込んで押し倒すように転んでしまう。


 麗華に押し倒されながらも、転んだ彼女に怪我をさせないようにセラはクッション代わりになると同時に受け身を取って自分の身も守った。


「うぅ……す、すみません、セラ」


「まったく……はしゃぎ過ぎだよ、麗華」


「うにゃん! せ、セラ! あまり顔を動かさないでいただけます?」


 ……柔らかい。

 それに、すごく良いにおいもする。


 かわいらしく悶える麗華の声に、セラは顔面が羽毛のように柔らかく、それでいて、瑞々しい張りのある感触――例えるなら、学食の限定メニューであるデリシャスジャンボプリンを彷彿とさせるプニプニしてプリュンプリュンした感触が広がっていることに気づく、その感触を心行くまで堪能したい衝動に駆られてしまう。


 だが、それが麗華の豊満過ぎる、同性なら誰もが羨む双丘であることに気づいてすぐにセラは彼女から離れようとする。


「あ、ご、ごめんね、麗華。すぐに離れるから」


「ふわぁん! せ、セラ、く、首に息がかかりますわぁ」


「少しは我慢してよ。大体、麗華も離れる努力してよ」


「わ、わかっていますわ! セラが変なことをするから力が出ないのですわ!」


「へ、変なことなんてしてないから! とにかく、身体をどかすからね」


「あふん! そ、そこはダメですわぁ!」


「あ、朝っぱらか変な声を出さないでよ! もう! 私は出るからね!」


「あ、ちょっと待ちなさい、セラ! まだ裸の付き合いは終わっていませんわよ!」


 朝っぱらから裸同士で密着し合って変な声を上げる麗華に、せっかくの憩いの時間だというのに疲れがドッと襲いかかるセラ。


 この場にいたら更に疲れると判断してさっさとセラは浴室から出ると――


「やあ、セラさん。朝っぱらからご機嫌だね――はい、タオル」


「おはようございます、大和君……いたのなら麗華を止めてくださいよ」


 浴室に出て洗面所でタオルを差し出して出迎えてくれるのは、麗華の幼馴染であり、アカデミー高等部男子専用の制服を着た中性的な外見の美少年――ではなく美少女の伊波大和いなみ やまとだった。


 浴室での騒動を立ち聞きしていたのにもかかわらず、助け舟を出さなかった大和を恨みがましくじっとり見つめながらも、差し出されたタオルを手に取って挨拶を返した。


「セラさんには申し訳ないけど巻き添えを食らうのはごめんだからね。それに、僕はしょっちゅう麗華にシャワーシーンを覗かれて、揉みくちゃにされてるんだからね」


「心中お察しします」


「そう言ってくれるとありがたいよ。まったく、裸の付き合いをしたがる麗華も困ったものだよ。麗華に揉まれているせいで――いや、おかげなのかな? 僕、少し胸のサイズが大きくなったみたいなんだ。ほら、ドーンって」


 ……確かに。

 前よりも大きくなってる、ちょっと胸がきつそうだ。


 自慢げに胸を張る大和を見ると、さらしで巻いているため平坦な胸だが、彼女の言う通り若干窮屈そうになっており、バストサイズがアップしたことにセラは気づく。


「た、確かに、ちょっと大きくなってますね」


「フフーン、いいでしょ。そろそろセラさんを超えられる日も来るんじゃないかな? でも、セラさんも大きくなってるからなぁ。セラさんだけじゃなくて、僕の身の回りの女性陣、一体何を食べたらそんなに大きくなれるんだい?」


「よ、余計なことは言わないでいいですから!」


「かわいいなぁ、セラさん」


「か、からかわないでください!」


 タオル一枚に包まれた自身の姿を興味と邪な視線を向ける大和に、セラは恥ずかしそうに顔を真っ赤にさせる。そんなセラの反応に大和は更に楽しそうに、それ以上にいやらしく笑う。


「さあ、ここにいるとまた麗華に絡まれるだろうから早く着替えなよ。今日はあるだろうから、ここで疲れたり、風邪を引いたりすると後で大変だよ?」


、ですか?」


「うん、色々とね――まあ、後のお楽しみ♪」


 意味深で愉快そうに微笑む大和を見て、嫌な予感しかしないセラ。


「それよりも、セラさん。麗華の裸を見た?」


「え、ええ、見ましたが……」


「だったらさ、最近麗華太ったって思わない?」


「そ、そうでしたか? 相変わらず同性として羨ましい美しい体型だと思いますが……」


「そうなんだって。最近の麗華、ラーメンに凝ってるから、風紀委員の活動が終わった後によく付き合わされるんだけど、胸と同時にお尻がちょっと――」


「――聞こえていますわよ、大和」


 麗華の体型変化についていたずらっぽく笑いながら説明する大和を、気配を凝らして彼女の背後に忍び寄っていた麗華が遮った。


「そんなに私の体型について語りたいのなら、嫌というほど見せてあげますわ! さあ、大和。服が邪魔なので、脱がしてあげますわ!」


「も、もうそろそろ家を出ないといけないんだよ? わっ! ちょ、ちょっと、麗華! 強引に脱がさないでよ! 制服が皴になっちゃうし、濡れちゃうから! うひゃあっ!」


 麗華の巧みな手技によって次々と着ている制服を引っぺがされる大和。


 ブレザータイプの男子専用の上着を脱がし、ワイシャツのボタンを一つずつ素早く外すと、窮屈そうなさらしに巻かれたたおやかな身体が露になる大和。


「せ、セラさん、助けて!」


「……ごめんなさい、大和君」


「そ、そんなぁ! セラさんの人でなし! わっ、れ、麗華! ちょっと! そ、そこはダメだって! ――んっ、あっ……た、助けて、セラさぁんんぁああああ」


 これ以上麗華に絡まれないために、大和の怨嗟の言葉と、嬌声を背に受けながら、浴室から離れたセラはさっさと着替えて登校する準備を整えた。

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