第一章 綻ぶ日常

第1話

 アカデミー都市――輝石きせきと呼ばれる、扱える資格がある者に武輝ぶきと呼ばれる力を授ける力を持ち、そんな輝石使いたちを世界中から大勢集めて形成された学園都市。


 古くから輝石を管理している強大な組織・教皇庁、世界的企業である鳳グループがアカデミー都市をともに運営しており、つい最近まではお互いを反目し合っていた組織だが、今では確固たる協力関係を築いていた。


 近々強力な二つの組織が一つになり、第二のアカデミーも建設されるという予定もあり、今までにないほどアカデミーの運営は順風満帆だった。


 しかし、今に至るまで大勢の人間が教皇庁や鳳グループに裏切られ、犠牲になった。


 その恨みを忘れていない、風化させてはならない、犠牲になった者たちの想いをぶつける――という大義名分の元、『彼ら』は動き出していたのだが……


「オーッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッ!」


 そんな彼らの想いを嘲るように、バカみたいな高笑いが響き渡った。


 そして、無駄に華麗な動作で空中を舞い、優雅に着地してポーズを決めて登場するのは、一部の髪が癖でロールしている、美しい金糸の髪をロングヘア―にした、エレガントビューティフルブリリアントな少女・鳳麗華おおとり れいかだった。


「アカデミーへの恨みがあるあなたたちの気持ちは理解しましょう――ですが! 関係のない者を巻き込もうと画策するのは言語道断! 大義名分も何もありませんわ! そんな狼藉者は吹き風紀であるこのわたくし・鳳麗華が成敗いたしますわ!」


 豊満を超える胸を張って偉そうに大見得を切って、手にした煌びやかな装飾がされた武輝・レイピアを『彼ら』――アカデミー都市の数ヵ所で騒動を起こした者たちに向けた。


 アカデミーを運営する鳳グループのトップの一人娘であり、アカデミー都市の治安を守る風紀委員に所属している麗華の登場に、彼らは恐れおののく。


 設立したまだ新しいが、数多くの事件を解決してきた風紀委員と、風紀委員のメンバーの実力はアカデミー内外でも轟いており、『彼ら』にとって最大の障害の一つだからだ。


 しかし、一気に危機的状況に陥っても、大義名分を背負う彼らは逃げることなく、この場で抵抗をするために輝石を武輝に変化させ、抵抗する意思を見せた。


「フン! 果敢にもこの私に立ち向かおうとする度胸は褒めてあげますわ! ――セラさん、サラサ! 懲らしめてやりなさい!」


 不敵な笑みを浮かべた麗華の言葉とともに風を切りながら現れるのは、武輝である剣を手にした少女だった。


 敵対しているにもかかわらず、思わず見惚れてしまうほどの凛々しい外見のショートヘアーの少女――セラ・ヴァイスハルトは躊躇いなく『彼ら』に向けて武輝を振るう。


 軽く薙ぎ払ったセラの一撃は衝撃波を生み、『彼ら』を吹き飛ばした。


 力強い一歩を踏み込んで跳躍し、宙を舞いながら吹き飛ばした相手に次々と追撃を仕掛けるセラの姿は美しくもあり、それ以上に彼女の圧倒的な実力差を感じ取って『彼ら』は恐怖する。


 辛うじて衝撃波から逃れた『彼ら』は勝ち目がないと早々に判断して、戦略的撤退をしようとするが――音もなく『彼ら』に忍び寄っていた彼女が逃がさない。


 逃げようとする『彼ら』の背後に回って次々と倒すのは、赤茶色の髪をセミロングに伸ばした、褐色肌の鋭い顔つきの少女、サラサ・デュールだった。


 存在感を極限まで希釈して、左右の手に持った二つの短剣を静かに振るい、死角から的確に急所をついて一撃で戦闘不能にするサラサに、いつ、どこで彼女に攻撃されるのかわからない『彼ら』は恐怖のあまりパニックになってしまう。


 だが、それでも『彼ら』は折れておらず、掲げた大義名分を果たすため、交戦よりも態勢を整えるために一旦この場から離れることを優先しようとするが――


「オーッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッ! 無駄ァ! 無駄ですわ!」


 そんな『彼ら』を絶望、というか、神経を逆撫でするようなバカみたいな笑い声が響き渡る。


 セラとサラサから運良く逃れた『彼ら』を最後に出迎えるのは、無駄に美しく武輝を構えている麗華だった。


 一人でも同志を逃がすため、『彼ら』は無謀と知りながらも、風紀委員たちの実力を目の当たりにして折れそうになった心を奮い立たせて抵抗する気概を見せる。


 しかし、そんな『彼ら』の想いを麗華は平然と無に帰す。


 相変わらずの高笑いを上げながら、見栄えを気にするあまり無駄に華麗で優雅で豪快な、それなのに洗練されていて隙のない無駄で、周囲のものなど考えない派手な動きで次々と容赦なく『彼ら』を倒す。


 激しい――というか一方的な戦闘で、街路樹は薙ぎ倒され、壁が破壊され、アスファルトが砕け、電灯が折れ曲がる。主に麗華のせいで。


「これにて、一件落着ですわ! オーッホッホッホッホッホッホッホッホッホッ!」


 あっという間に倒された『彼ら』を偉そうに見下ろしながら、麗華は気分良さそうに高笑いを上げ続ける。


 意識を失う寸前まで『彼ら』は麗華の憎たらしいほど気分良さそうな笑い声を聞く羽目になってしまい、自分たちの行いを軽く後悔してした。


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