第31話

 賢者の石がすべてを――人も、事件も、運も、何もかもを引き寄せる力?

 そんな目に見えない力を持っているなんてありえない! 明らかに非現実的だ!

 もしも――もしも、それが本当なら……

 それなら――……それなら、私は……今までの私は――


「あなたが本物のアルトマン・リートレイドですわね!」


 賢者の石の真実をヘルメスから聞いて、まだ信じたわけではないが、セラの中には動揺が広がってしまっていて、本物のアルトマンと対峙しても心ここにあらずといった様子だった。


 そんなセラを傍目に、一歩前に出た麗華は持っていた武輝のレイピアの切先とともに、この場にいる誰よりも強気な目をアルトマンに向けた。


 麗華に続いて武輝である身の丈を超える銃を突きつけるアリス。


「いかにも、私は本物のアルトマン・リートレイドだ。君たちの活躍は賢者の石の力を観察するついでにじっくりと見させてもらったよ。賢者の石のおかげとはいえ、賢者の石が招いた数々の困難を打ち破り、数多くのアカデミーの危機を救ってきた君たちは英雄だ。そんな君たちと会えて光栄だよ」


「フン! くだらないですわね! 賢者の石の力が何であろうとどうでもよければ、関係ありませんわ! 今こうしてあなたの目の前に立っているのは、あなたへの怒りのみですわ!」


「それすらも賢者の石によって作り出されたまがい物の感情だとしても?」


「賢者の石の力について、確かに今までの七瀬の行動を振り返れば、ヘルメスの話を聞いていたら納得できる部分も多々あった。でも、結局は目の見えない力にどうやって確証を得ればいいの? 運も不運も引き寄せて、人を支配する力なんて当てにならない――結局、すべてはあなたが糸を引いていた、その事実だけは何一つ変わらない」


 意地の悪い顔で麗華の怒りを軽くスルーしてくるアルトマン。


 目に見えない賢者の石の力を信奉しているそんなアルトマンをアリスは冷めた目で見つめながら、賢者の石の力について否定的な見解を述べた。


「その通り! 仮に賢者の石の力が本物であっても、あなたがアカデミーを混乱に陥れただけではなく、お父様を傷つけたことには変わりない事実! 怒るには十分の理由ですわ!」


「ハーッハッハッハッハッハッ! 確かにその通りだな」


 ――麗華やアリスちゃんの言う通りだ。

 目の前にいるこの男は、裏ですべてを操っていたんだ。

 ヘルメスやファントムを生み出したのはこの男。

 大勢の人を苦しめたんだ――

 賢者の石なんて関係ない。

 私は私の意志でこの場にいて、この怒りの感情は私のものだ。


 怒りの声を上げる麗華に同調し、そう言い聞かせて、セラは頭の中でモヤモヤしていた感情を振り払い、アルトマンと対峙する。


 激しい怒りと敵意を向けてくるセラと麗華にアルトマンは深々と嘆息して、クロノとノエルに肩を借りて立っている、全身がひび割れて消滅しかけているヘルメスに視線を向けた。


「表舞台に引きずり出しただけでは飽き足らず、私に面倒事を押しつけてくるとは……まったく、ファントムはとは別の意味で厄介だな、我が息子よ――そう呼んだ方が良いのかな?」


「勘弁してもらおう」


「ハハッ! 冗談だ、本気で受け取らないでくれ。それにしても、消滅しかけているというのに無理してここまで来るとは大したものだが、今更何の用だ」


「私はただ、お前の最期を見届けたいだけだ。だから、無理を言ってここまでついて来たのだ」


「それは無理だろう。私も見届けたいのだよ――七瀬幸太郎君が、賢者の石が、すべてを支配して創造する未来を」


 アルトマンとヘルメス――二人の会話で、アルトマンは大人しく拘束される気がないと知ったクロノは、ノエルに視線を向ける。


「ノエル、まだやれるか?」


「ええ、問題ありません」


「アンプリファイアの力を使っていたが、大丈夫なのか?」


「大和さんなりの気遣いで、身体に支障をきたさない程度の力を私に潜ませていたので問題ありません――七瀬さん、お願いします」


 抱えていたヘルメスの身体を幸太郎に預け、ノエルとクロノは一歩前に出る。


 ヘルメスの身体を「ドンと任せて」と胸を張って預かる幸太郎。


 消滅の危機に瀕して苦悶の表情を浮かべていたヘルメスだったが、賢者の石の力を宿す幸太郎の身体に触れたおかげで、体中から響いてくるガラスにヒビが入るような嫌な音が止まり、アルトマンの表情にも苦痛が消えていた。


「賢者の石の力で歯車が狂えば、修正するのは不可能、か――」


 セラ、麗華、アリス、ノエル、クロノ――武輝を持ち、自分に敵意を向ける五人を見て、アルトマンは億劫そうに深々とため息を漏らしたが――


 すぐに、「ああ、そうだ!」と何かを閃き、億劫そうな顔をパッと明るくする。


「ちょうどういい機会だ、君たち相手なら私も全力で振るえるだろうし、君たちにも見せられるだろう――賢者の石の力を」


 ――……なんだ、これは。

 今、何をしたんだ?

 何かが、変わった……


 子供のように無邪気だが、隠しきれていないほどの邪悪さが溢れ出した笑みを浮かべたアルトマンから発せられる空気が一気に変わる。


 まだ輝石を武輝に変化させて臨戦態勢を整えていないアルトマンに、この場にいる全員が気圧されてしまった。


 アルトマンから感じられる得体の知れない気配に、迂闊に近づくことができないセラたち。そんな彼女たちの姿を見て、アルトマンは煽るようにせせら笑う。


「さあ、どうしたのかな? 私の準備は整っている。どこからでもかかってくるんだ。――ああ、武輝を持っていないことを心配しているのなら杞憂だ。君たち相手に武輝は必要ないだろう」


「……フン! 随分と余裕な態度ですわね! それなら、ご老体相手といえど、容赦はしませんわ! 行きますわよ! 必殺、『エレガント・ストライク』!」


 気圧されている自身に喝を入れるように、力強く一歩を踏み込んで麗華は張り詰めた緊張感を纏うこの場の空気を弛緩させるような技名を叫び、先制攻撃を仕掛ける。


 刀身に光を纏わせたレイピアを相手に勢いよく、全身の力を使って渾身の突きを放つ麗華の必殺技――輝石使いであっても、輝石の力を使わなければ回避はもちろん、防御することができない一撃だった。


 輝石の力を使っていないアルトマンに躊躇いなく必殺の一撃を繰り出す麗華。


 得体の知れない気配を放つアルトマンだからこそ、麗華は全力で攻撃を仕掛けた。


 風を切り、目にも止まらぬ神速の刺突――


 ――しかし、麗華の攻撃は当たらなかった。


 アルトマンは一歩も動いていないというのに、外してしまった。


 当てるつもりで渾身の一撃を放ったというのに、当たらなかったことに麗華は驚愕していた。


 驚愕している麗華を嘲笑うアルトマンに向け、アリスが光弾を放つ。


 しかし、光弾はアルトマンに直撃する寸前に軌道を変えて空の彼方へと消えた。


 アリスの攻撃に続いてノエルとクロノが飛びかかって同時に攻撃を仕掛ける――が、二人の同時攻撃は空を切った。


 間髪入れずにセラも飛びかかり、振り上げた武輝を勢いよく振り下ろす、だが、これもアルトマンの目の前で空を切って当たらなかった。


 アルトマンを囲んでいる状態で麗華、セラ、ノエル、クロノの四人は同時に攻撃を仕掛ける。


 囲まれて逃げ場もない状況の四人同時攻撃だが、四人の攻撃は空振りに終わる。


 同時にアリスが光弾をアルトマン目掛けて連射するが、掠りもしない。


「必殺! 『エレガント・ハリケーン』!」


 遠距離で光弾を連射するアリスに合わせるように、麗華は近距離でアルトマン目掛けて必殺の連続突きを放つが、これも掠りもしない。


 ノエルとクロノの息の合った連携で繰り広げられる攻撃も掠りもしない。


 セラも武輝を複製させて二刀流になってアルトマンを攻めるが、まったく当たらない。


 ……おかしい。何だ、これは。

 ヘルメスとの戦いを経て、確かに消耗しているが、こっちは五人いるんだ。

 それなのにどうして当たらないんだ。

 目に見えない速度で動いているわけでもない。

 輝石の力で障壁を張っているわけでもない。

 どうしてだ――どうして、当たらないんだ。


 自分たちの攻撃がいっさい届かず、アルトマンは回避や防御する素振りをすることもなく、その場から一歩も動かないアルトマン。


 相手が何か小細工を用意しているわけでもなく、相手に自分の攻撃が届くイメージがわかないセラは違和感と焦燥感が芽生えていた。


 そんなセラの焦りを見抜いて更に煽るような笑みを浮かべるアルトマンに、セラは感情と懇親の込めた一撃を放つ――が、これもまた当たらなかった。


 繰り返し全力の攻撃を続けていたせいで、息を切らした五人の荒い息遣いが周囲に響く。


「理解していただいたかな? これが賢者の石の力だ」


「ふ、フン! 何か小細工をしているに決まっていますわ!」


「まったく、鳳のお嬢様は強情だ――しかし、君たちはもう気づきかけているのだろう? 私の持つ賢者の石の力が真実であるのだと」


 息を切らしながらも、強気な瞳でわざとらしく肩をすくめて余裕な態度を見せてくるアルトマンを睨む麗華だが――相手が確実に小細工を仕掛けていると判断していながらも、強気な表情の中に明らかな困惑が露になっていた。


「これぞまさしく賢者の石が持つ支配の力――君たちの攻撃は確かに素晴らしいものだが、賢者の石の力は君たちの行動をすべて支配している。だからこそ、君たちの攻撃が私に当たらない――いや、当てられないんだ」


「賢者の石の力が無意識に私たちの意識に潜り込んで操作している? ……ありえない。ノエル、クロノ、二人は何かを感じる?」


 輝石から生まれたイミテーションであるなら、賢者の石の力を敏感に感じ取れると思い、クロノとノエルに確認を取るアリス。


「オレは何も感じない――だが、何をしてもあの男に攻撃が当たる気がしない」


「同感です……賢者の石の力、本当に存在するのかも――」


「そんなことは絶対にありえません!」


 輝石から生まれたイミテーションだからこそ、今のアルトマンにはいっさい自分たちの攻撃が当たる気がしないとクロノとノエルは感じていた。


 それを感じて賢者の石の力を認めようとするノエルの言葉をセラは怒声で遮った。


 今まで見たことがないほど焦燥しきっているセラの迫力にノエルは圧倒され、思わず口を閉ざしてしまった。


「認めなくとも、すべては賢者の石によって動かされていた。そして、君たちが幸太郎君に抱く感情すらも、賢者の石によってもたらされたもの――そう、七瀬幸太郎君が君たちを変えたのではない、賢者の石によって君たちは変えられたのだ」


「そんなもの、認めない……絶対に認めるわけにはいかないんだ!」


「当然ですわ! 適当なことを言って私たちを油断させようとしているに違いありませんわ!」


 認めたらダメだ……認めたら、すべてが崩れる。

 今までの想いも記憶も、感情もすべてを否定してしまう……

 だから、絶対に認められないんだ。


 子供が駄々をこねるように賢者の石の力を否定するセラと麗華に、アルトマンはやれやれと言わんばかりにため息を漏らしてクスクスと嘲笑った。


「それなら――セラ・ヴァイスハルト、鳳麗華、君たちが証明してみるといい」


「言わずもがな、ですわ!」


 アルトマンの挑発に先陣切って麗華とセラが攻撃を仕掛ける――だが、当たらない。


 続けてノエル、クロノ、アリスも攻撃を仕掛けるが、当たらない。


「賢者の石なんて関係ない! 私は――私たちは、幸太郎君のおかげで変わることが、強くなることができたんだ!」


「勘違いをしているようだから、もう一つ教えると、幸太郎君に賢者の石の力がなければ、君たちと彼は出会うことはなかっただろう」


 頑なに事実から目を背けようとして激しい攻撃を繰り出すセラをせせら笑うように、アルトマンは回避行動をいっさい取ることなく説明する。


「彼のおかげ、彼がいたからこそ、彼がいなかったら――そう思う気持ちもすべて賢者の石によってもたらされたものであり、彼がいてもいなくともどうとでもなったことだ。例えば、セラさん。君の幼馴染たちがファントムとの一件でアカデミーから追放されそうになった時、彼が庇ってくれたそうだが、彼がいなくともアカデミーからは追放されなかっただろう。あの二人ほどの優秀な人材を手放すことは、アカデミーにとって大きな損失になるのだから鳳大悟と教皇エレナは認めない。処分を下した後でも、適当な理由をつけてアカデミーに復帰させるつもりでいただろう。君が感じている恩義もすべて無駄だと――」


「そんなもの、取ってつけたような理由ですわ!」


 セラが幸太郎への想いを強くした騒動を無に帰すアルトマンの発言を、麗華の鋭い突きが止めると――今度は彼女に標的を変えた。


「鳳麗華――君が幸太郎君を見る目が変わった事件、鳳大悟が銃撃された事件も、伊波大和が無窮の勾玉の暴走させた事件も、彼がいなくとも何とかできた。君のお父さんの生命力なら生還できただろうし、周りの人間が彼を守っただろう。そして、伊波大和の件も、御子である彼女ならば暴走したアンプリファイアを紙一重のところで制御することができた」


 感情的になって猛攻を仕掛ける麗華だが、アルトマンにはいっさい当たらない。


 無駄に攻撃を仕掛ける麗華を無視して、今度はノエルとクロノに視線を向けるアルトマン。


「ヘルメスを含め、君たちイミテーションが感情を芽生えるきっかけも、幸太郎君から放たれる賢者の石の力によって君たちが進化したからだ。そして、ノエル、君が幸太郎君を守ると誓ったきっかけとなった、消滅に危機に瀕したのを助けてもらった件だが――あの時にアカデミー都市中にティアストーンと無窮の勾玉の力が充満していたのに加え、君の近くには教皇たちがいたのだ。彼女たちの力を使えば、君は消滅せずに済んだだろう」


 得意気に幸太郎の存在、セラたちの想いを否定するアルトマンにセラたちは同時攻撃を仕掛けるが――相手は回避も防御もしていないのに、それどころか一歩も動いていないのに、これも当たらない。


「そう、すべては賢者の石の御業――しかし、まだまだ先がある! 輝石を、人を、運命も、何もかもを支配する賢者の石の力はこれだけではないはずだ! だからもっとだ! もっと賢者の石の力を見せてくれ、賢者の石の限界を教えてくれ! さあ、さあ、さあ!」


 興奮しきった声を上げるアルトマンに、どこからかともなく光の刃と、大型の手裏剣、光弾が発射される――が、それらもアルトマンに直撃する寸前に軌道がずれて外れてしまう。


 突然優輝、沙菜、大和を乗せた、リクトが操る光の巨人が上空に現れ、巨人から飛び降りたリクトたちがセラたちの元へと着地すると同時に、光の巨人の拳がアルトマンへと叩きつけられる――が、巨人の拳は彼を捕えず、地面を砕いただけだった。


「集中しろ、セラ!」


 ヘルメスとの戦いで気絶していた優輝たちが突然現れてアルトマンに不意打ちを仕掛けたことに驚き、それ以上に彼から告げられた知りたくもない、認めたくもない真実を聞いて焦りを抱いているセラに喝を入れるのはティアだった。


 巴と美咲とともにティアはアルトマンに飛びかかって攻撃を仕掛けるが、当たらない。


 武輝に変化した輝石の力を全開放した優輝は無数の光の刃を、大和は無数に複製した手裏剣をアルトマンに向けて放つ――しかし、これも当たらない。


 光の刃を紐上に変化させてアルトマンを拘束しようとする優輝だが、彼を拘束する寸前に光の紐は消える。


 後方から沙菜はアルトマンの周囲に光球を生み出して爆発させようとするが、その前に生み出した光球が消えてしまっていた。


 武輝を持たない相手に対し、大勢の実力者たちが様々な攻撃を全力で仕掛けて攻める。


 武輝を持たないながらも得体の知れない相手に 

 

 アルトマンにはいっさい当たらない。


 しかし――セラたちの背後から飛んできた、不可視の衝撃波がアルトマンの身体を吹き飛ばした。


 即座にその隙を狙い、セラと麗華が同時に攻撃を仕掛ける。


 二人の攻撃がアルトマンを捕え、一番端にある柵まで吹き飛んだ。


 手応えはあった――

 今の攻撃はもしかして……


「みんなー、大丈夫?」


 セラの想像通り、後方から聞こえてくる呑気な幸太郎の声に、アルトマンに攻撃を直撃させたのが彼であり、彼の声を聞いてセラの焦燥しきった胸の中が一気にリラックスする。


「フン! 私たちが作り出した隙を偶然ついただけだというのに、調子に乗っていますわ」


「まあ、幸太郎君が活路を開いてくれたんだから、素直に褒めてあげようよ」


 相変わらず能天気で少し得意気な幸太郎の声を聞いて、気に食わなさそうにしている麗華をセラは宥めながらも、鉄柵が折れ曲がるほど叩きつけられ、項垂れたまま動かないアルトマンを見て警戒は解いていなかった。


 輝石を武輝に変化させ、武輝を手にするとともに輝石の力を身に纏っていない相手に麗華とともに与えた一撃は、普通の人間ならば致命傷になるほどのなのだが、相手は得体の知れない相手――油断はできなかった。


「正解だ」


 そんなセラの想像通り、アルトマンは平然とした様子で立ち上がり、最初に攻撃を直撃させた幸太郎に旺盛な好奇心を宿した目を向けた。


「確かに私と同じ力を持つ君なら私の力を相殺して無力化できる――しかし、残念だが君と私では扱える力の出力が違うのだよ」


 自分と幸太郎の間にある力の差を説明しながら、深々と嘆息するアルトマン。


「君が持つ賢者の石の力がもたらした繋がりの力――その力は賢者の石に匹敵する力のようだ。実に興味深い」


 幸太郎の元へと集うセラたち大勢の味方を興味深そうに、それでいて忌々しそうに眺めているアルトマンの表情は、セラと麗華の一撃を受けたダメージが想定以上に大きかったせいで時折苦痛に歪ませていた。


「しかし、私が観察したいのは賢者の石だけで、不純物は必要ない――だから、一度リセットさせてもらおう」


 ――何か、来る!

 ダメだ、これは、ダメだ!

 すぐに、止めないと!


 アルトマンが仕掛ける何かに、セラは全力で止めなければならないと直感で判断し、アルトマンに飛びかかり、攻撃を仕掛けるがアルトマンには届かない。


 セラに続いて麗華たちも攻撃を仕掛けるが、すべて無駄に終わる。


 遅れて反応した幸太郎もショックガンを放とうとするが――


 アルトマンを中心として放たれた夜の闇を照らすほどの赤い光に全員の目が眩む。


「まだまだ、観察は続く――」


 ……何だ、この光は――……

 急に、意識が――……

 ダメだ、今、意識を失ったら……

 こ、幸太郎君……


 赤い光に包まれる中、旺盛な好奇心を抑えきれない、興奮気味に放たれたアルトマンの言葉を最後に、セラを含めたこの場にいる全員の意識が失ってしまう。


 ダメだ……幸太郎君……

 ここで意識を失ったら、全部が……

 消える、消えてしまう……

 怖い、怖いよ……

 幸太郎君――


 最後の最後まで飛びそうになる意識を掴もうとしていたセラ。


 もちろん、セラだけではなく麗華やティア、大和、ノエル――この場にいる全員が飛びそうになる意識を何とかして引き戻そうとしていた。


 ここで意識を失ってしまったら、すべてを失う――漠然としないながらも、そんな恐怖感がこの場にいる全員に襲いかかっていたからだ。


 だから、何とかして意識を保としたが――それも無駄に終わり、幸太郎を思いながら、そして、すべてを失うかもしれない恐怖感に全身を支配されながら意識を失ってしまった。

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