第26話

 クロノは武輝を薙ぎ払い、セラは勢いよく武輝を振り上げ、同時攻撃でアルトマンを攻める。


 全身から溢れ出るアンプリファイアの力によって生み出された赤黒い光を纏う両腕で、セラとクロノの武輝を掴んだ。


 そのまま両腕はアルトマンの意志通り、二人の身体を投げ飛ばそうとする。


 その行動を中断させるために武輝である双剣を交差させて飛び込み、アルトマンとの間合いに入ると同時に交差させた剣を振り払うノエル。


 その攻撃にはいっさいの迷いも容赦もなく、ただただアンプリファイアの力に呑まれた父・アルトマンを止めるための一撃だが、片手で持っただけの武輝で受け止められた。


「素晴らしい連携だ! 数時間前とは見違えるようになったな! だが、まだだ! まだ、まだ、まだ! これでは終われない!」


 ノエルの攻撃を防ぐと同時にアルトマンは、セラとクロノの武輝を掴んでいた光の両腕を力任せに振るって、目の前にいるノエルに向けて二人の身体を叩きつけた。


 叩きつけられる寸前に掴まれた武輝を一旦輝石に戻してアルトマンから離れながら、輝石を武輝に変化させ、それから光弾を発射するセラとクロノ。


 それらをアルトマンは後退して回避し、光の両腕で撃ち落とす。


 光弾の対処に追われているアルトマンに向け、ノエルは力強く一歩を踏み込むと同時に武輝を勢いよく突き出し、それに合わせてセラとクロノも踏み込んで力強い突きを放つ。


 光の両腕を交差させて三人同時攻撃を防いだ。


 即座に追撃を仕掛けようとするノエルたちだが、それよりも早く赤黒い光を放つ武輝を力任せに振るって衝撃波を放ち、三人の身体を吹き飛ばした。


 吹き飛ばされながらも三人は空中で身を翻して体勢を立て直しながら武輝から光弾を放ち、三人同時に華麗に着地、即座にアルトマンに飛びかかる。


「そうだ! 来い、来い! 来るんだ! さあ、早く! すべてを終わらせるんだ!」


 狂気の雄叫びを上げるアルトマンに向け、両手で持った武輝を掲げて勢いよく振り下ろすクロノ、大きく一歩を踏み込んで力強い突きを放つセラ、舞うように身体を回転させながら左右の手に持った武輝を薙ぎ払うノエル。


 光の両腕、武輝で三人それぞれの攻撃を防ぎ、ただ力任せに、しかし、それを補うほどの得度と勢いで光の両腕と武輝を振るって反撃する。


 激しいアルトマンの反撃の合間を縫って光の剛腕による一振りを、床を滑りながら回避しながらアルトマンの足目掛けて武輝を振るうセラ。


 セラの攻撃が足に直撃して体勢を崩して怯む――ことなく、構わず彼女に反撃を仕掛けた。


 光の腕がセラの身体を地面に叩きつけて拘束する。


 即座にクロノはセラの拘束を解こうとアルトマン目掛けて光を纏った武輝を振るって強烈な一撃を仕掛けるが、もう一方の固く拳を握った光の腕で殴られ吹き飛ぶ。


 二人に気が向いていた隙を狙っていたノエルは一方の手に持った武輝をアルトマンの顎目掛けて振り上げ、淡々とした動作で鳩尾目掛けて一方の手に持った武輝を突き出す。


 二人に気を取られてノエルの攻撃に対応できなかったアルトマンだが、構わずに彼女の全力を込めた攻撃を自身の身体で受け止め、怯むことなく平然としていた。


「中々良い攻撃だな、娘よ! 確かに、お前の迷いが吹っ切れたというのも本当のようだ! だが、無駄だ! 無駄、すべてが無駄だ!」


 ノエルは次なる攻撃を仕掛けようとするが、光の腕で地面に押さえつけていたセラの身体を叩きつけられ、二人の身体は地面に激しく叩きつけられた。


 地面に突っ伏して苦悶の表情を浮かべている二人の向け、アルトマンは武輝から赤黒い光を纏った衝撃波を放って追い討ちをかけた、


 避けることも防ぐこともできなかったセラとノエルはアルトマンの攻撃が直撃し、吹き飛んで壁に叩きつけられた。


「どうした! どうした! まだ、終わりにしてくれないのか? いい加減に終わりにすればどうだ? 終わりにすべきだ! ハーッハッハッハッハッハッハッハッ!」


 痛む全身を押してフラフラとノエルは立ち上がり、狂った哄笑を上げるアルトマンを不安そうな目で観察するように見つめた。


 ……呑まれながらも、アンプリファイアの力のすべてを使っている。

 元々の強さにアンプリファイアの力が加えられ――すべてが私たちを凌駕している。

 それに加えて徐々にアンプリファイアの力が相手の体に馴染んでいるのか、それとも、身体の限界を無視して動いているのか、今この時にも力が向上してきている。

 勝ち目は薄い――しかし……


 今日一日で数多くの戦闘を経て満身創痍であり、アンプリファイアの力に呑まれて理性を失いながらも、最初は防戦一方になっていた三人同時攻撃を次は対処してきたアルトマンの力は、時間が経つにつれて確実に向上させているとノエルは判断していた。


 今のままではアルトマンを止められないだろうと他人事のように冷静に状況を分析するが、アルトマンに追い詰められて気圧される心に、アンプリファイアの力に呑まれている彼を心配して焦りを募らせる気持ちに、そして、痛む身体に喝を入れるノエル。


 あれだけアンプリファイアの力を使っているということは、その分身体の負担も大きい。

 早く止めなければ――……


 溢れ出そうになる焦燥感を無理矢理抑え、ノエルはセラとクロノに目配せをして、左右の手に持った武輝の刀身に光を纏わせる。


 ノエルの目配せで、彼女の意図を悟ったセラとクロノも武輝の刀身に光を纏わせた。


「諦めの悪い奴だ! だが、それでいい、それでいいのだ! 終わりは近い、近いぞ!」


 再び立ち向かおうとするノエルたちに、歓喜の雄叫びを上げるアルトマン。


 間合いに入ると同時に淡々としながらも、舞うような足運びと動作で光を纏った武輝を振るうノエルの攻撃をアルトマンは相打ち覚悟――というか、上等のつもりで、ノエルの攻撃が直撃することに恐れることなく攻撃を仕掛けた。


 ノエルにアルトマンの相手を任せて後方支援に集中しはじめたセラとクロノが放った光弾が、相打ち上等の彼の攻撃を中断させる。


 セラとクロノの的確な後方支援に忌々しく舌打ちをするアルトマンだが、その間にノエルの攻撃がアルトマンの脇腹を捕えた。


 光を纏った武輝による強烈なノエルの一撃が直撃し、アルトマンはようやく怯んだ。


 そんなアルトマンの脳天目掛けてもう一方の手に持った武輝を躊躇いなく振り下ろす。


 鳩尾目掛けて突き、袈裟懸けに振り下ろし、もう一方の武輝は振り上げ、同時に薙ぎ払い、最後は交差させた武輝を一気に振り払う――間髪入れずのノエルの連撃にアルトマンは膝をついて苦悶の声を上げるが、その顔は狂気に満ちた笑みで溢れていた。


「そうだ、そうだ! それでいい、ノエル! それでいい――早く、終わりにするのだ」


 ――……お父さん。


 一気に決着をつけるつもりで軽く跳躍してから左右の手に持った武輝を振り下ろすノエルだが――一瞬、アンプリファイアの力に呑まれて狂笑を浮かべていたアルトマンの顔が、自分のよく知る父の顔になり、攻撃の手が一瞬緩んでしまう。


 そんなノエルの隙をアルトマンは見逃さず、光の腕を操って彼女の身体を鷲掴み、そのまま彼女の身体を固い床が砕け散るほどの勢いで叩きつける。


 輝石の力を身体にバリアのように身に纏っていても、凄まじい勢いで床に全身を叩きつけられてノエルの意識が一瞬飛び、大きなダメージが身体に残って小さく苦悶の声を上げる。


 そんなノエルを再び床に叩きつけようとするアルトマンだが、その行動を後方支援に集中していたクロノが彼の背後に回り込み、両手で持った剣を勢いよく振り下ろした攻撃が止めた。


 クロノの強烈な不意打ちが直撃して膝をついたアルトマンは、光の腕に掴まれていたノエルの身体が自由になる。


 力なく崩れ落ちるノエルの身体を抱き止めるクロノ。


「セラ、頼む」


 固く握られた光の拳をクロノとノエルに叩きつけようとするアルトマンだが、その一撃を二人の前に現れたセラが武輝で捌いて軌道をそらした。


 セラの手には武輝である剣が握られていたが、もう一方の手にも武輝から変化した輝石から力を振り絞り、もう一本の複製した武輝である剣が握られていた。


 それを振るって、力強く踏み込んでアルトマンの懐に潜り込むと同時に鋭い突きを放ち、アルトマンを吹き飛ばした。


 間髪入れずにセラは吹き飛んでいるアルトマンに飛びかかり、ノエルのように二本の武輝を振るって連撃を仕掛けた。


「ハーッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ! 実にくだらない!」


「何がおかしい」


「なぜそこまで記憶という不確かなものに頼り、縋る! 私は父になったつもりはない! 父ではないというのに! 実に愚か、実に愚かだ!」


 確かにその通りだ……

 一瞬、見えた父の顔に私は攻撃に逡巡してしまった。

 覚悟を決めたのに、迷いを振り払ったのに、土壇場で絶好の機会をふいにしてしまった。

 幻想の父に縋った結果がこれ――確かに、愚かだ。


 ノエルと同じく二刀流となったセラの動きを回避と防御をしながら観察しつつ、的確に反撃をするアルトマン。


 自身の隙を的確につくカウンターに、セラは何とか回避し、防ぎつつ、激しく攻めてアンプリファイアで強化されたアルトマンと互角の戦いを繰り広げていた。


 激しくセラとぶつかり合っているアルトマンは堪えきれなくなった様子で哄笑を上げ、覚悟を決めながらも自信をいまだに父と慕うノエルを心の底から嘲る。


 父の記憶が頭の中に蘇った結果、足手纏いになってしまった自分を心の中で自嘲しながら、アルトマンの侮蔑の言葉を受け入れるノエルだが――「何が悪い」とアルトマンの言葉をセラは真っ向から否定し、アルトマンを攻めるセラの動きが更に激しくなる。


「お前がノエルさんに与えた記憶が偽りであっても、それに縋って何が悪い」


「その記憶に縋った結果が今のノエルだ! 滑稽だ! 実に滑稽だ! 父の虚像に惑わされて何もできない! 記憶というのは邪魔だ! 何においても、すべてにおいて! 邪魔だ!」


「お前にとって邪魔だとしても、必要ないと一蹴しても――ノエルさんがそんなお前を父だと慕った事実は変わらない。それがたとえ植え付けられた偽りの感情でも、それはノエルさんにとって大切な真実なんだ!」


「黙れ、黙れ、黙れ! すべてが偽りだというのに、どうしてだ……どうして、お前たちはそんなに愚かなほど盲目的になれる! どうしてそこまで強くなれる!」


 激しくセラに追い詰められ、それ以上に彼女の言葉が刃となって胸に突き刺さり、アルトマンの攻撃が一瞬鈍くなった。


 その隙を見逃さずにセラは、そして、クロノもアルトマンに飛びかかって攻撃を仕掛けた。


 両手で持った剣で一気にセラとともにアルトマンを攻めるクロノ。


 二人の息の合った、感情を合わせた連携にアルトマンはいよいよ防戦一方になる。


「オマエが否定し、嘲笑った記憶や思い出、そして、オマエにはいない仲間――それらすべてに頼ってノエルは今、こうしてオマエと戦っているんだ」


「黙れ、黙れ、黙れ! 偽りの記憶に縋っているのはお前たちも同じだというのに! 滑稽だというのに、どうして、どうしてだ!」


 クロノの言葉に追い詰められ、迷いのない真っ直ぐとした目で見つめられ、気圧されたアルトマンは苛立ちの声を上げてしまった。


 アンプリファイアの力に呑まれて理性がない状態だが、今のアルトマンの言葉は素の自分自身の言葉であり、抱いている苛立ちも本心であるようだった。


 そんな感情を爆発させるように一気に力を向上させ、その力を自身の周囲に一気に放つ。


 放たれた力は衝撃波となってセラとクロノに襲いかかり、二人は大きく吹き飛ばされた。


 吹き飛ばされて地面に叩きつけられた二人は気絶していなかったが、強烈な衝撃波を受けたダメージですぐに立ち上がるのは難しそうだった。


「結局は全員同じだ! 偽りの記憶に、仲間に、感情に、すべてがすべてを振り回した! そして、その結果がこれ、すべてが終わった! 滑稽、愚か、無様……実にくだらない」


 ……一理あるかもしれない。

 偽りの父との偽りの記憶や思い出が過ったせいで足手纏いになった。

 一時の感情で大勢の人間に迷惑をかけた。

 仲間のことを過剰に気遣ってしまったからこそ、独り善がりの行動をしてしまった。

 確かに、すべてが振り回したのは一理ある、一理あるが――


「私はそうは思いません」


 記憶を、仲間を、感情を、すべてを否定してくだらないと言い放つアルトマンの言葉をノエルは心の中で認めつつも、心の底から否定した。


 今はアカデミー側で父と慕っていたアルトマンとは敵対関係でありながらも、アルトマン側にいた頃に途中で裏切ったクロノとは違って真っ向からノエルは父の意見を否定したことはなく、これがはじめてのノエルの反抗だった。


「今、ここにいるのは私があなたを止めたいと心から思っているためです――たとえあなたが私に何も思わなくとも、父と慕うあなたのために私はこうしてここにいます」


「いまだに幻想の父を追い求めているとは愚かだ! 実に愚かだ! 覚悟を決めているとしても、私の気持ちは何も変わらない! 変わるわけがない! お前の覚悟はすべて無駄だ! 無駄に終わる! 所詮お前も偽りの感情に振り回されているだけだ!」


「あなたが嘲る大勢の味方の力に導かれてここまで私はここまで来ました。そして、そんな彼らの思いを受け止めた今の私の感情は偽りではないと断言できます」


「大勢の味方に導かれたとは、笑わせる――それに、イミテーションであるのに、人形であるのに『感情』を口にするとはバカバカしい。イミテーションはただの人形だ、ただ、プログラムされた行動をすることしかできない憐れな人形だ」


「確かに私はイミテーション、人間ではありません。そんな私が感情を語るのはおこがましいですが、生み出されてから今までに得た記憶や感情、友人は本物であり、偽りではありません」


 ノエルの言葉のすべてを否定し、嘲るアルトマンの表情には理性が戻っており、どこか寂しそうで、羨ましそうな表情を浮かべていた。


 そんな萎びた様子のアルトマンとは対照的に、今のノエルはアルトマンに何を言われても、何をされても、自分のすべてを否定されて嘲られても、自身の中にあるすべてが揺らがない自信に満ちていた。


「アルトマン・リートレイド――私はあなたを止める」


 不思議だ……改めて決意を口にしたら、力が湧き上がってくるような感覚が――

 いや、おかしい――その割には、随分と力が込み上げてくる――

 ……これは、まさか……


 改め自身の決意を口にするノエルの中で、沸々と力が湧き上がってくる。


 精神的に力が湧き上がっているわけではなく、本当に力が込み上げてくる感覚に、ノエルは戸惑っていると――突然、自身の身体がアルトマンと同じく緑白色の光に包まれた。


 アンプリファイアの力がノエルを包むが、イミテーションであるノエルにとって、アンプリファイアは消滅の危険性が伴う劇物であるのに、そんな感覚はいっさいなかった。


 そうか、そういえば――


 ノエルは数時間前に大和によってアンプリファイアの力を受けたことを思い出す。


 あの時受けたアンプリファイアの影響は不自然なまでに軽く、すぐに動けるようになったので、大和たちが元から自分の味方であるという確証の一つを得た原因だったが――


 大和が自分の中で悪影響を与えない程度にアンプリファイアの力を忍ばせていたことに、今ノエルは気づいた。


「アンプリファイアの力を使うとは愚かだ! 消滅しかけたことを忘れたのか?」


「――いいえ、何も問題ありません」


 アルトマンの哄笑が響き渡るが、何も問題はないとノエルにはわかっていた。


「この力もあなたが嘲る仲間から得たものです――さあ、決着をつけましょう」


 そう告げると同時に、ノエルを包んでいた緑白色の光が消え、代わりに彼女の背後に羽のように広がる六本の光の剣が現れた。


「小賢しい、小賢しい! 何が仲間だ! 偽りのくせに!」


 アンプリファイアの力を何事もなく使うノエルに、苛立ちの声を上げるアルトマンは自身の背部に浮かんでいる光の両腕を操り、大振りに薙ぎ払った。


 迫る岩のような拳をノエルは羽のように広がる六本の剣を羽ばたかせ、宙を飛んで回避。


 宙を浮かぶノエルは滑空しながら左右の手に持つ二本の剣と、羽のように広がる六本の光の剣を用いて、八刀流でアルトマンを攻める。


 六本の光の剣と、アルトマンの光の両腕がぶつかり合い、ノエルは武輝である双剣を振るって、アルトマンとぶつかり合う。


 拮抗している状態だが、アンプリファイアの力をノエルよりも大量に使っているアルトマンの方が僅かに有利だった。


 光の両腕はぶつかり合っていた六本の光の剣を弾き飛ばし、きつく握られた二つのアルトマンの相手をしていたノエルに迫る――だが、痛む身体を押して飛び込んできたセラとクロノが二つの拳を受け止めた。


 セラとクロノの二人は、アルトマンとぶつかるノエルに目配せをする。


 ――了解。


 横目でちらりと二人の視線を一瞥したノエルは、アルトマンを自分に任せると言った二人の意志を受け取ったノエルはアルトマンに集中する。


 六本の光の剣と、二本の武輝でアルトマンを攻めるノエル。


 光の両腕の相手をセラとクロノにされ、アルトマンは一度に八本の武輝を相手にして一気に追い詰められていた。


 しかし、アンプリファイアの力頑丈になった身体を利用して、ノエルの攻撃を回避と防御をすることを諦め、彼女の攻撃をその身に受けながらも構わずに攻撃を続ける。


 八本の剣に押され、傷つきながらも構わずにアルトマンは徐々にノエルに接近し、赤黒い光を纏った腕を突き出す。


 眼前に赤黒い光を纏ったアルトマンの腕が迫るが、ノエルは構わず攻撃を続ける。


 相打ち覚悟――ではなく、何も問題はないとノエルは気づいていた。


 ノエルの想像通り、眼前に迫ったアルトマンの腕がどこからかともなく飛んできた光弾によって弾かれた。


「ノエル、今!」


 宣言通り遅れて現れ、アルトマンの行動を中断させたアリスの言葉に従い、ノエルは持っいた光を纏った武輝を交差させ、力強く一歩を踏み込むと同時に振り払った。


 自分の想い、自分のわがままを受け入れ、ここまで支えてくれた味方全員のことを思い浮かべながらの一撃――


 強烈なノエルの一撃を受けて吹き飛ぶアルトマンに六本の光の剣が襲いかかり、アルトマンを床に思い切り叩きつけた。


 大の字になって倒れたアルトマンの手から武輝が転がり落ち、すぐに輝石に戻った。


 同時に、アルトマンを包んでいた緑白色の光が消え去り、彼から渦巻いていた狂気が収まる。


 終わった……


 そう判断し、ノエルは倒れているアルトマンに近づき、彼の容態を確認すると――


「そ、そんな……」


 アルトマンの姿を見たノエルの瞳が驚愕で見開かれる。


 アンプリファイアの力が消えて晴々と、それ以上に自嘲気味に笑うアルトマンの身体が、ガラス細工のようにヒビが割れていた。


 その姿は、消滅しかけているイミテーションのよう――いや、イミテーションそのものだった。


「真実は、こういうことなのだよ」


 声を出せないほど驚愕しているセラたちを見て、アルトマンは他人事のような乾いた、そして、投げやりな笑みを浮かべていた。

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