第13話
「――それで、どうしてアルトマンの居場所がわかったんですか?」
イーストエリアから、訓練場などが立ち並ぶウェストエリアの境目付近にある公園に逃げ込み、ドーム型遊具の中に入ったセラ、ノエル、幸太郎の三人は、幸太郎が呑気にもコンビニで買ったお菓子を食べながら状況の整理を行っていた。
「連日発生した事件の近くには、アルトマンが使用していた隠れ家がありました。どの場所に隠れていたのか、という明確な推理はできませんでしたが、昨夜の騒動で相手が逃げた先にある隠れ家と、次の襲撃場所を予測しながら隠れ家を回っていました。その過程で幸運にも目標と出会い、不本意ながらあなたたちと行動する羽目になりました」
「それでは、ノエルさんは次の襲撃場所をどこと予測しているんですか?」
「目立つ場所だと推測しています。今回の件、相手はまるで自分に注目されるような行動ばかりで、翻弄して嘲笑うように我々の前に現れては消えて挑発しています」
「確かに一理ありそうですね。実際、現状で大勢の追手を打ち破ったアルトマンは大勢から注目を浴びています。学内電子掲示板でもアルトマンの目撃情報と、大勢の輝石使いを打ち破った彼の実力に騒いでいます。アカデミー側も彼に更なる警戒を抱き、注目を集める結果になっています」
「おそらく、賢者の石を持つ七瀬さんを目の前にして見逃したのも、今は何かの目的のために注目を集めることが必要だと考えてのことでしょう」
「なるほど……それなら、そこまで気づいていて、どうして誰にも言わずに一人で行動したんですか? あなたが勝手な真似のせいで状況は更に混乱しています」
「それは……」
「答えに窮し、沈黙をするということは何かやましいことがある証明になります」
「邪推です」
……一々不愉快。
静かな威圧感を身に纏って険しい表情を浮かべ、取調べをされているような態度で核心をついてくるセラに無表情ながらも不快感を露にするノエルだが、そんな彼女の気持ちを十分に理解しながらもセラは構わずに続ける。
「不本意とはいえ、私も幸太郎君もアルトマンとあなたが引き起こした騒動に巻き込まれてしまい、今はその渦中にいます。理由くらいは話してください」
「頼んだ覚えはありません。あなたが勝手について来ただけです」
「それでは、今ここであなたの居場所をアカデミー側に伝えます」
「脅しですか?」
「そのつもりです」
――状況は悪い。
今ここで居場所を伝えられたら、自分の行動に意味がなさなくなる……
しかし、セラさんはまだしも、七瀬さんがいる……彼を巻き込みたくはない。
だが、ここで何を言っても七瀬さんは確実に私を追ってくる……どうすれば……
セラの脅しを心底忌々しく思いつつも、アカデミー中から追われている現状を考えれば彼女に従った方がいいと判断するノエル。
だが――問題は自分とセラの間で呑気にスナック菓子を食べている幸太郎だと思っていた。
自分の目的を告げれば必ず幸太郎はついてくるし、ここで何も言わずに強引に彼を突き放しても必ず追ってくるからだ。
何をしても自分の後をついてくる幸太郎のことを考えた結果、ここで自分の目的を素直に告げた方が、彼もある程度納得して、大人しくしてくれるのではないかと判断――というか、そう願い、ノエルは心底不承不承といった様子で話をはじめる。
「……今の私は足手纏いです」
嘆息交じりにノエルはそう言い放った。
感情を宿していない普段の淡々とした声とは違い、自分の本心をこれから告げることの緊張感と気恥ずかしさのせいで、若干声が上擦っていた。
「私は今、明確に迷いを抱いています。慕っていた父を止めたいと思う気持ちと、許せない気持ちが混合したせいで迷いが生じ、その結果周囲に迷惑をかけてしまいました」
「――だから、誰にも迷惑をかけたくない一心で、一人で勝手な真似をしたと?」
一々自分の心の内を見透かしてくるセラを忌々しく思いながらも、事実なのでノエルは頷く。
「愚かな真似をしたのは理解しています」
「自分で理解できているようで、安心しました」
「……少しは疑いが晴れましたか?」
先程から煽るような嫌味な態度のセラを無表情のノエルはじっとりと睨んだ。
そんなノエルにセラはフッと脱力したように微笑み、雰囲気も柔らかくなった。
「前にも言いましたが、今のノエルさんをそれなりに私は信用しています。だから、最初から私はノエルさんが寝返ったとは思っていません」
「……ですが、明らかな疑念は抱いていました」
「相手に寝返る以外のことに関しての疑念は抱いていましたよ。例えば、常日頃の不満が爆発しての血迷った行動とか、疑念と監視の目に対してのストライキとか諸々」
「そこまで愚かではありません」
「取り敢えず、今のところは味方と思っていただいて構いませんから」
「そう願っています」
「私も、あなたが敵にならないように願っていますから」
一応、安全と判断……気に食わないが。
幸太郎とは違い、セラというあらゆる面で心強い味方が得られて安堵するノエルだが、それ以上に、最初から今の言葉を言えばよかったのに、不必要に警戒心を抱かせた彼女に対して腹立たしく思ってもいた。
「それで、これからどうするつもりですか? アルトマンも私たちと同じくイーストエリア方面に逃げたという情報があるのですが?」
「動きたいところですが、アカデミーに追われている身であるために不用意に動けません、今はこうして隠れながら状況をするのが得策でしょう――それよりも、随分と相手の具体的な動きを知っているようですが?」
「学内電子掲示板では騒ぎになってますからね。イーストエリアにいる人――アカデミーに通う輝石使いも含めて避難指示が出され、輝士たちや制輝軍たちがアルトマンの対応をするそうです」
「……本当に、随分と具体的な情報ですね」
「こ、これも、学内電子掲示板で騒ぎになっていますから」
「一応、納得しますが――不用意に携帯を使わないでください。不用意に使えば携帯の位置情報を探られます」
……明らかに何か隠している。
――だが、今のところは何も問題はなさそうだ。
自分の一言に妙に狼狽えて必死に取り繕ったのを悟られないように棒型のスナック菓子を齧ったセラが、何かを隠していると思い警戒心を高めるノエルだが、自分の味方をすると宣言した以上すぐには何かを仕掛けるわけではないと判断し、しばらく泳がせておくことにした。
「ある程度相手の動きも把握できたので、悠長にここで待っている時間はありませんね。頃合いを見て私たちも動きましょう」
「焦る気持ちは理解できますが落ち着くべきです。不用意に動いたら一気に追い詰められます」
「……わかりました」
「わかっていただけたなら結構ですが、それでも早まった真似はもうやめてくださいね? 今回の騒動で身に染みてわかっていますよね?」
「それも十分に承知しています」
「それなら、結構です――……ノエルさんも食べませんか? これ、美味しいですよ」
「一人で食べられるので結構です」
……一理、ある。
気に食わないが。
アルトマンが暴れているという情報を聞いて、焦燥感で胸がざわつくノエルだが、忌々しくも現実的なセラの一言のおかげですぐに冷静さを取り戻した。
への字に曲げたノエルの口元に、セラは自分と同じ棒型スナック菓子を袋から開けて差し出すが、ノエルは無表情ながらも不機嫌そうにセラを見つめて、彼女の手からお菓子を強引に取って食べはじめた。
そんな二人の一連のやり取りを、スナック菓子を食べることに集中しながら何も言わずにじっと見つめていた幸太郎は――
「セラさんと、ノエルさん、母娘みたいだね」
「「ありえません」」
思ったことをストレートに口にした幸太郎の感想に、セラとノエルは揃って即否定した。
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