エピローグ
腹部からとめどなく流れ出ている血だまりの中で倒れているヴィクターの傍に立つ、武輝である剣を手にしたアルトマンは感情のない瞳で眺めていた。
失血で青白い顔のヴィクターには生気はなく、呼吸もなかった。
「ヴィクター、君は知りすぎた」
眼下にいるヴィクターに向けて呟くように冷たくそう言い放つと、自分の言葉に何も反応しない彼を放って、壁全面に様々な資料が張り付けられた研究室へと、淡々とした足取りで向かうアルトマン。
「これだけの情報で真実に辿り着くとは、大したものだ」
壁全面に張られた資料を見て、感心したようにアルトマンはそう呟いた。
ほとんどの資料は使い物ならず、有益になりそうな資料もあるにはあったが、運よくそれらを見つけても、意味が理解できなければ真実に近づくことは不可能だった。
にもかかわらず、ヴィクターは数少ない手掛かりで、自分の傍にずっといて賢者の石の力を目の当たりにしてきた北崎やアルバートでさえも到達できなかった真実に辿り着いたことに、アルトマンは心の中で称賛していた。
「しかし、真実の代償は高くついたな……真実とはそういうものなのだよ。知れば知るほど、痛みが伴うものだ――君も、私も」
力なくそう言い放ったアルトマンは、おもむろに研究所内にあった可燃性の液体を手に取り、それを室内に撒き散らした。
そして、目に見えない速度で武輝を振るって床を擦り、それによって生まれた火花で、撒き散らした可燃性の液体は激しく燃え上がった。
すぐにスプリンクラーが発動し、火災ベルがけたたましく鳴り響くが、一瞬にして燃え上がった可燃性の液体は壁全面に張られていた資料を焼き尽くした。
「すべてを終わりにしよう……すべてを」
スプリンクラーから放たれる冷水を浴びながら、諦めを感じさせながらも覚悟を宿した表情でアルトマンは自分に言い聞かせるようにそう呟き、研究所から立ち去る。
研究所を出るアルトマンの足取りは弱々しさ感じさせながらも、いっさいの迷いも、退く気もない覚悟を感じさせるものだった。
――続く――
次回は今年中には。
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