第25話

 襲いかかってきた輝械人形・メシアの相手をする、武輝である二本の短剣を手にしたサラサ。


 メシアは両腕部から伸びる輝石の力で生成した光の刃と体術でサラサを攻める。


 メシアの動きは輝械人形のような機械的な動きではなく、人間かそれ以上の動きで、光の刃による攻撃と体術を織り交ぜた連撃でサラサを防戦一方にさせていた。


 メシアの攻撃を最小限の動きで回避し続け、武輝で防ぐサラサだが、人間以上で、人間の身体の構造では不可能な動きをして攻撃の際に生まれる隙を最小限にしているメシアに中々反撃できない。


 そんなサラサを援護するためにメシアの背後に回り込んだアリスは、武輝である身の丈を超える銃剣のついた銃を構え、引き金を引いて光弾を発射する。


 死角から飛んでくるアリスが放った光弾をメシアはサラサの相手をしながらギリギリまで引きつけ、直撃する寸前に後方に大きく身を翻して回避。


 突然メシアが自分との距離を開けると同時に、目の前に飛び込んでくるアリスが放った光弾に、サラサは慌てて横に飛んで回避。


 今の不意打ちを避けれるなんて、ただの輝械人形じゃない。

 あれが、美咲の報告にあったメシアの実力……すごい……


 普通の輝械人形ならば直撃している不意打ちを容易に回して、同士討ちを狙った輝械人形・メシアの判断力と応用力に驚くと同時に、敵の発明品ながらも天晴だと感じてしまうアリス。


 まだ宙にいるメシアは腕部から伸びた光の刃を軽く振るったことによって生み出した、衝撃波を二人に向けて発射した。


 メシアが放った衝撃波を容易に回避する二人だが――回避すると同時にメシアはアリスの目の前に着地し、腕から伸びた光の刃で攻撃を仕掛ける。


 ――衝撃波は気をそらせるため。

 本命は私。


 衝撃波を放ち、避けることを専念させた相手との距離を一気に詰め、サラサと比べて接近戦が若干苦手な自分に狙いを定めてきたことを察するアリス。


 アリスに遅れてメシアの魂胆に気づいたサラサは、大きく一歩を踏み込んで一気にメシアとの距離を詰め、左右の手に持った剣を同時に振り下ろし、その攻撃に合わせるようにアリスも銃剣のついた銃を力強く踏み込むと同時に勢いよく突き出した。


 不意打ちを仕掛けられたが、二人は冷静な判断力で一気に反撃を仕掛ける――


 しかし、二人の攻撃を両腕から伸びる光の刃を、円形の盾状に変化させて防御するメシア。


 防ぐと同時にショックガンが装備された両掌から電流を纏った衝撃波を放ち、二人を吹き飛ばすが、吹き飛ばされながらも体勢を立て直したサラサとアリスは再び反撃に転ずる。


 空を蹴ってサラサはメシアとの距離を一気に詰め、そんなサラサを援護するように空中にいるアリスは引き金を引いて不規則な軌道を描く数発の光弾を発射する。


 一直線にメシアに向かうサラサだが、真っ向から攻撃を仕掛けると見せかけて、間合いに入ると同時に足音する聞こえないほど静かな足運びでメシアの背後に回り、不意打ちを仕掛ける。


 しかし、振り返って背後に回り込んだサラサの動きを確認することなく、メシアはいっさいの無駄のない最小限の動きでサラサの不意打ちを回避、続けて襲いかかる不規則な軌道を描く光弾も最小限の動きで回避。


 気配のないサラサの一撃を振り返らずに回避?

 ……私たちの動きが読まれているんじゃない――予測されている。


 音もなく、目にも映らぬスピードで背後に回り込んで攻撃を仕掛けたサラサの一撃を回避したメシアの動きを見て、アリスは自分たちの動きがすべて予測されていることに気づいた。


 それに気づいたアリスはサラサに目配せをすると、アリスの心の内を読んだサラサは戦法を変える。


 サラサはフェイントを繰り返して相手の意表を突きながら攻撃を仕掛け、サラサの僅かな隙を狙ってくる輝械人形の行動を中断させるように後方から援護射撃をするアリス。


 お互いをフォローする息の合った連携攻撃を続ける二人だが、メシアは二人の連携をすべて無駄のない最小限の動きで回避を続けていた。


 二人の連携に防戦一方になるメシアだが、すぐに状況は一転する。


 大きく身体を半回転させて武輝を薙ぎ払ったサラサの攻撃を回避、回避されると同時にもう一方の手に持った武輝で頭部目掛けて振り下ろすが、直撃する寸前にメシアは片手で彼女の武輝を掴み、武輝の刃を掴んだまま彼女の身体を持ち上げた。


 即座にサラサはメシアに掴まれた武輝を輝石に戻して、メシアから離れた後に再び輝石を武輝に変化させて攻撃を仕掛けるが――その行動を読んでいたメシアは、一気に彼女に接近してショックガンを零距離で放つ。


 しかし、その行動をどこからかともなく飛んできたアリスの光弾が阻んだ。


 今までアリスたちの攻撃を避け続けていたメシアだが、ここでようやく攻撃が直撃した。


 傷はつかなかったが、それでも僅かに怯んだメシアの隙をついて攻撃を仕掛けるサラサだが、その前にメシアは彼女をアリス目掛けて投げ飛ばした。


 投げ飛ばされながらもサラサは空中で態勢を立て直し、刀身に光を纏わせた短剣からメシア目掛けて衝撃波を放ち、アリスも同時に光弾を発射した。


 サラサの放った衝撃波は真っ直ぐとメシアへと向かい、アリスの放った光弾は一度壁に衝突してから、壁に当たったボールのように跳ね返り、不規則な軌道を描いて輝械人形へと向かった。


 しかし、既にメシアはアリスの背後に回り込んでおり、メシアは輝石の力を込めた足で回し蹴りを放つ。


 振り返りながらメシアの攻撃をギリギリで武輝を盾にしてアリスは防ぐが、防ぐと同時に衝撃波が全身に襲いかかり、アリスの華奢な身体は勢いよく吹き飛んだ。


 吹き飛んだアリスは空中にいたサラサに衝突し、二人揃って床に突っ伏した。


 勢いよく衝突したせいで全身に痛みが走っていたが、それでも苦悶の表情を浮かべながらアリスとサラサは立ち上がる。


「ぜ、全然、攻撃が当たりません……」


「そうみたいね」


「あれ、本当に輝械人形なんですか? ……人が入ってたりしませんか?」


「中に人はいないわ。あれが輝械人形の究極系――メシアよ」


「……飯屋?」


「メシア」


 自分たちの攻撃がすべて避けられ、まったく通用しない輝械人形にサラサは驚くとともに恐怖していたが、アリスは興味津々といった様子でメシアのことを見つめていた。


「この前教皇庁旧本部に行ってた美咲から輝械人形・メシアのことは聞いていたけど、まさか、これほどまでとは思わなかった。私たちを含めた膨大な数名の戦闘データを取り込んだ結果、相手の数手先――いいえ、未来を読み取ることができるなんて、人を超えてる。素晴らしい」


「ハーッハッハッハッハッハッハッハッ! そう手放しに褒められると照れてしまうよ」


 自身の最高傑作を褒められてアルバートは得意気に笑うが、どこかを怪我している彼の表情は更に血の気が引いており、青白くなっていた。


「特に、君たちの戦闘データは多く取り込んだのだ。そして、つい最近行われた銀城美咲ぎんじょう みさきとの戦闘においても、戦闘データだけではなく、ボディの脆さと不測の事態に対する対応力の弱さという貴重な反省点も得られたのだ。そして、今回君たちとの戦闘のおかげでメシアは更なる高みへと向かうことになる! そして、我が最高傑作は輝石使いが蔓延する未来において、輝石を扱う力を持たない、弱き民衆を守るための救世主となるのだ」


「機械がどこまで高みに行けるのかは個人的に興味あるけど……残念だけど、あなたのご立派で身勝手な計画はここでおしまい。ここで終わらせる」


「君たちだけで私の最高傑作を破壊できるのかな? もう君たちには打つ手がないだろう。君は跳弾でメシアを攻めようとしたが、無駄だ。一度は不意打ちを食らったが、同じ手は二度も通用しない。メシアは常に学習し、常に進化を続けているのだ。君たちに勝ち目はない」


「……さあ、それはどうかしら」


 ……確かに、打つ手はない。


 自信に満ち満ちた嫌味な笑みを浮かべるアルバートに、強気な表情を浮かべているアリスだが、内心では打つ手がなくて焦っていた。


 輝械人形は完全に自分たちの動きを読むと同時に学習しており、どんなに変則的で不規則な攻撃を仕掛けても回避され、対応もされ、たとえ運良く攻撃が直撃しても頑丈なボディには傷一つつかなかった。


 全力で攻撃を仕掛ければ頑丈なボディを貫くことができるだろうが――自分たちの動きや攻撃を完全に読み切っているメシアには、全力攻撃を予測され、容易に対応されることが簡単に頭に浮かんだ。


 ――それらを考えた結果、自分たちだけでは勝ち目がないとアリスは判断していた。


 明らかに、勝ち目は薄い……

 でも、相手は機械。行動予測にも限界はあるはず。

 大勢が襲えば、予測が追いつかずに勝ち目はあるかもしれない――でも、この状況で応援の望みは薄い。

 それなら、行動予測の限界をさせるような動きをする?

 ――いや、こんな状況でそれができるほど都合が良くない。

 何か……何か、方法があるはず……絶対に、ある。


 完全に人や輝石使いを超えているけど、相手は他人が作った機械――完全なものはない。


 しかし、勝ち目がないと理解していても、目の前にいるアルバートを見過ごすことはできないアリスは、自分たちの前に立つメシアを観察しながら、打つ手を考えていた。


 勝ち目が薄いのにもかかわらず諦めの悪いアリスを、アルバートは勝ち誇ったように眺めながら嘲笑を浮かべていた。


 熟考して一縷の希望を模索するアリスに、「……アリスさん」とサラサは控えめに話しかけた。


「その……あの輝械人形はまだ不測の事態に弱いのでしょうか」


「多少は。でも、二度も同じ手は通用しない」


 サラサの質問に、自分が放った跳弾が直撃したことを思い返したアリスは頷く。


 相手がこちらの動きを読んでいるのならと思い、自分の意志が込められていない跳弾で攻めた結果、運良く直撃することができたが、頑丈なボディを傷つけるのには威力が足りないし、次に同じ攻撃をしたら簡単に回避されたので、アルバートの言う通り同じ手は二度は通用しないとアリスは理解していた。


「え、えっと……もしも、思いがけない行動を取れば、相手は混乱するのでしょうか」


「するとは思うけど、すぐに対応される」


「そ、それなら、そうすれば、倒せるかもしれないんです、ね?」


「言うのは簡単。相手は私たちの戦闘データを基にしたおかげで、私たちの動きを完全に読み取って、相手の動きを常に学習する高度な頭脳を得た。それを超える動きなんてそう簡単にできない」


「その……相手が得た私たちのデータとは違う動きをするのは、どうでしょう、か?」


「言うのは簡単だけど、今すぐに相手の行動予測を超える動きができるとは思えない」


、のではなく、動きをするんです」


 ……なるほど、確かに……


 サラサの言葉のおかげで、相手の行動予測を超えることしか考えていなかったアリスはようやく一縷の希望を見出すことができたが――熟考してしまうアリス。


 ……サラサの言葉通りにするのなら、確かに相手の意表をつけるかもしれない。

 でも、同時にこちらも大きな隙を作ることになる。

 それに、すぐに相手はこっちの動きも予測してくるはず。

 それ以上に失敗すれば、こちらはかなりの痛手を受けることになる。

 そう考えれば……相打ち覚悟の博打で、危険度は高い……


 熟考した末にサラサの提案が危険だという結論に行き着き、二の足を踏んでしまうアリス。


 熟考した末に不安そうな面持ちで二の足を踏むアリスを励ますような優しい声音で、「アリスさん」とサラサは話しかけてきた。


「今はそういう考えを逆転するべき、です……そうしないと今はダメ、です」


 ……打つ手がない以上、サラサに従うしかない。

 それに……慎重になり過ぎたら今からやることに支障をきたす。

 ――やるしかない。

 美咲、ノエル……力を貸して。


 優しいが強い口調で諭してくるサラサに、深々とため息を漏らして「わかった」と頷いて、慎重になり過ぎるあまり熟考して何もできなくなった自分を無理矢理納得させるアリスは、自分の友人を頭に思い浮かべる。


「作戦会議は終わったのかな? ――さあ、どうやらもう時間がないようだ。これ以上は無駄なことはやめて、そろそろ終わりにさせてもらおう……決着をつけようではないか」


 教皇庁本部全体の揺れが大きくなり、倒壊する危険性が徐々に高まる中、メシアを倒すための作戦を立てているアリスとサラサを無駄だと一蹴するアルバートの言葉を合図に、メシアの全身を白い光が包み、力を漲らせた。


 教皇庁本部倒壊の危機、アルバートの挑発、メシアから伝わる力の奔流――それらを無視して、サラサとアリスは頭の中で友達たちの姿を思い浮かべることに集中する。


 セラ、麗華、ノエル、美咲――二人は大勢の友達たちが戦う姿を間近で見てきたことを思い出しながら、二人は同時にメシアに飛びかかった。


「無駄だ! どんな作戦を立ててもメシアには通用しない!」


 策を練りながらも先程と同様に一直線にメシアに向かう、学習能力のない二人を見て、哄笑を上げるアルバート。


 自身の力を限界以上に引き出しているメシアには、飛びかかる二人がどのように行動するのか既に予測していて、確実に相手を戦闘不能にできる手段も見つけていた。


 後は予測通りに動く相手を、導き出された的確な方法で戦闘不能にさせるだけのメシアだが――二人が間合いに入ると同時に、二人の動きが急変する。


「お……オーッホッホッホッホッホッホッホッホッ……」


「……サラサ、突然バカみたいに笑いだしてどうしたの?」


「こ、こうしないと、その……なりきれなくて……」


「気持ちはわかるけど、アホの真似するとアホが移る」


 控え目で気恥ずかしそうにしながらも突然、鳳麗華のように高笑いをはじめたサラサは猛烈な勢いで積極的に攻撃を仕掛け、そんなサラサを一歩引いた目で眺めつつもアリスは一旦メシアの背後に回り込み、ただひたすらに武輝である大型の銃から光弾を乱射する。


 積極的に攻撃を仕掛けるあまり隙の多い動きになってしまっているサラサ、そして、瓦礫が崩れることも考えずに周囲に光弾をまき散らしていた。


 メシアの持つデータの中では、心優しいサラサは戦闘には消極的で、不意打ちを仕掛けてできるだけ相手を苦しませずに一撃で倒す戦法を得意としており、一方のアリスは相手を分析してから効率的に相手の弱点を的確につく戦法を得意としていた――だというのに、今の彼女たちの戦法は得たデータとはまったく逆だった。


 突然真逆な戦い方をする二人に、対応できないメシア――戸惑いながらも自分たちの動きを必死に分析しようとしているメシアを見て、アリスは心の中でほくそ笑んだ。


 サラサの考え通り、相手は変化に弱い。

 やっぱり、完全な機械なんてないんだ。

 きっとすぐに分析されて対応されるけど、この隙を逃さない――


 自分たちの行動が通用する内に、無駄に隙の多い動きで力を込めて積極的に武輝を振るって攻撃を続けるサラサと、何も考えずにただ闇雲に光弾を乱射し続けるアリス。


 二人の動きの変化に対応できず、ただただ攻撃を食らい続けるメシアだったが、すぐに二人の行動を読み取り、劣勢から攻勢に転ずる。


 闇雲にアリスが乱射した光弾と、無駄に隙の多いサラサの力強い攻撃を自身の周囲に張ったバリアで防ぐと同時に、近くにいたサラサに膝蹴りを食らわせ、怯んだ彼女の首を掴んで、そのまま持ち上げた。


 渾身の力を込めてサラサを床に叩きつけ、トドメにショックガンを放とうとするが、槍のように銃剣のついた銃を突き出しながらアリスが勢いよくメシアに突撃してくる。


 勢いのままに突進するアリスに向けてサラサを投げようとするが、投げられる寸前に勢いよく走っていたアリスは機械的でありながらも流麗な動作で宙を舞った。


 激しい動きから落ち着いた動きに大きく変化したアリスに、戸惑いながらも対応するが僅かに遅れ、隙が生まれた。


 再び動きを変化させるサラサは無駄に隙の多い動きから、冷静沈着で容赦のない動き――まるで、セラ・ヴァイスハルトを彷彿とさせる動きに変化させ、メシアの頭部目掛けて左右の手に持った武輝を振るい、宙にいるアリスは眼下にいるメシアの頭部目掛けて光弾を発射する。


 続けざまに二人の強烈な一撃を頭部に食らい、怯むメシア。


 メシアが怯んだ隙に、サラサは武輝である短剣の刀身に光を纏わせ、着地したアリスは銃口に力を蓄えて強烈な一撃を放とうとする。


 しかし、それよりも早くメシアは両掌のショックガンから衝撃波を乱射しながら、両腕から伸びた光の刃から斬撃を飛ばした。


 攻撃する間も、防ぐ間も与えない激しいメシアの攻撃だが、二人は決着をつけるつもりの一撃を放つために逃げることはもちろん、怯むことをしないで武輝に変化した輝石から力を絞り出すことに集中していた。


 メシアの攻撃が掠り、直撃しても怯むことなくサラサは光を纏った武輝をきつく握り締めてメシアに接近し、アリスも傷つきながらも銃口に力を蓄えていた。


 ――これで、終わりにする!


 その思いを込めて、アリスは引き金を引いて力を蓄えていた銃口からレーザー状の光を放つ。


 それに合わせるように、メシアとの間合いを詰めたサラサは左右の手に持った刀身に光を纏わせた武輝を振るう。


 二筋の光閃がメシアを切り裂き、光がメシアの頑丈なボディを貫いた。


 赤い光が宿っていたメシアの双眸から光が失われ、膝をつき、前のめりに倒れた。


「ば、バカな……ありえない、私の最高傑作が……」


「これで、終わり。あなたにはもう何もない……抵抗はやめて大人しく捕まって」


「まだだ! まだ、終われん! まだ、まだなんだ! もう少しで未来は救われるのだ!」


「待って、待ちなさい! 怪我をしているのに、こんな状況で行動したら危険よ!」


 自身が作り出した最高傑作が完膚なきまで破壊されたのを見て、絶望の表情で驚愕の声を上げたアルバートは、その表情のまま、折れそうになる自身の心を無理矢理奮い立たせ、フラフラとした足取りで通路へと向かい、大きく揺れる教皇庁本部の奥へと向かった。


 自身の制止を無視して崩れ行く本部内の奥に消えていくアルバーをすぐに追いかけようとするアリスだが、再び響く爆発音と、大きな揺れとともに彼が入った通路が降ってきた瓦礫によって塞がれた。


 同時に天井が再び崩れはじめる。


 アリスとサラサは咄嗟に戦いに巻き込まないように部屋の隅に置いた幸太郎の身体の元へと疾走して、降ってくる瓦礫から彼を守った。


「派手に戦いすぎたせいで一気に倒壊しそう」


「で、でも、まだ幸太郎さんが……」


「それ以前に私たちも危険。一旦安全な場所へ避難しないと生き埋めになる」


「わ、わかりました……幸太郎さんは私に任せてください」


 揺れが激しくなる中、幸太郎の精神が宿った輝械人形がまだ見つかっていないことを心配するサラサだが、そんなことを考えている暇はなかった。


 メシアとの戦いで派手に動き回ったせいで、建物全体が大きく揺れ、天井から降ってくる瓦礫の量が更に増え、今すぐにでもここから離れなければ瓦礫で生き埋めになりそうだった。


 まだ幸太郎の精神が宿った輝械人形が見つかっていなかったが、それでも意識を失っている幸太郎の身体が傍にいるので、サラサは幸太郎の身体を抱き起してアリスの指示に従う。


 この場から離れようとするアリスたちだが――唯一の逃げ道が瓦礫で塞がれてしまう。


 即座に武輝である大型の銃から光弾を放って塞いでいた瓦礫を破壊するアリス。


 しかし、建物全体が大きく揺れて再び逃げ道が瓦礫に塞がれてしまう。


「キリがないし、これ以上破壊したら更に崩れる可能性がある――こうなったら、窓から飛び降りた方がいい。サラサ、七瀬をしっかり守って」


「か、かなりの高さですけど、と、飛び降りて、だ、大丈夫なんですか?」


「輝石の力で守られていて、地面にぶつかると同時に身体に纏っている輝石の出力を上げることと、受け身を忘れなければ大丈夫……多分」


「私たちじゃなくて……その、幸太郎さんが心配なんですけど」


「多分大丈夫。手放したらミンチになるのは確実だけど」


「……この間ハンバーグ食べたばかり、です」


「とにかく、さっさと飛び降りる」


 アリスの指示にサラサは力強く頷いて幸太郎をきつく抱きしめる。


 二人はそのまま割れた窓へと向かって走ると――鼓膜を揺るがすほどのけたたましい音が鳴り響き、暴風とともに、月のない闇夜を照らす眩い光が二人を照らした。


 窓の外にはヘリコプターが浮かんでいた。


「サラサ、こっちに来るんだ!」


「お、お父さん? ど、どうしてここまで」


「話は後だ! いいからさっさと飛び移るんだ!」


 ヘリコプターについたスピーカーから放たれる声は、ヘリの操縦者であり、サラサの父であるドレイクだった。


 操縦者であるドレイクの他には、巴と刈谷が後部座席の扉を開いてアリスたちに手を振って、彼女たちが飛び移ってくるのを待っていた。


 ヘリコプターに乗れば取り敢えずは安全だと判断したアリスとサラサは、勢いよく助走をつけて、窓の外にあるヘリコプターに向かって恐れることなく窓から跳躍した。

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