第17話

「どこで爆発して、どこから煙や敵が出てくるのかがわからない以上、狭い非常階段よりも避難用のエレベーターを使った方がいい。護衛として輝士を二人つける。場所はこっちだ。焦らずにゆっくりと向かうんだ」


「さあ、こちらです――私の手をしっかりと掴んでください」


 爆発音とともに会場内が暗闇に包まれ、非常照明に照らされると同時にボディガードが不思議な機械――兵輝を用いて武輝を手にし、手にした武輝を振るって光弾や斬撃を飛ばして会場内を滅茶苦茶にしている状況にパニックになっている会場内。


 妨害電波のようなものが流れているのか、外部との連絡が取れず、マスコミが使用している映像機器もすべて使用不能になっているせいで混乱は更に加速していた。


 しかし、そんな中でも主催者の一人である鳳大悟は、部下や仲間とともに出席者たちの避難誘導に全力を注ぎ、エレナも彼と同じく避難誘導しながら突然の事態に混乱して動けない人や、腰を抜かしている高齢者に優しく声をかけて手を差し伸べていた。


 パニックになりながらも大悟たちの避難誘導のおかげで、出席者たちは慌てながらも順調に避難用エレベーターに向かっていたが――そんな彼らに、パーティー会場を滅茶苦茶にしていることを優先していた兵輝使用者たちが襲いかかる。


 会場内から自分たちに狙いを定めたことを察して出席者たちの悲鳴が上がり、恐慌状態に陥るが――


「ここは僕が食い止めます! だから、落ち着いて避難してください!」


 出席者たちの前に守るようにして立つ、武輝である盾を手にしたリクトは光の壁を生み出し、出席者たちに襲いかかろうとする兵輝使用者たちの行動を阻んだ。


 突然目の前に現れた光の壁に、兵輝使用者たちは攻撃を仕掛けるが、リクトの力によって生み出された壁はパーティー会場にあるものと違い、強固でびくともしなかった。


「余所見してんじゃねぇよ! せっかくのパーティーなんだから楽しもうぜ!」


「ウフフ♪ 私も何だか久しぶりの大舞台で興奮しちゃってるわよ💗」


「マスコミが大勢集まってことは、俺の雄姿を見せるチャンスってことか……よっしゃ! やる気が出てきたぞ!」


 リクトの生み出した壁を破壊しようとする兵輝使用者たちに向かって、凶悪な表情を浮かべた武輝であるナイフと、電流を放てるように改造した特殊警棒を持った刈谷が、無遠慮に周囲のものを破壊しながら飛びかかった。


 次々と荒々しく、容赦のない攻撃を仕掛ける刈谷に続いて、武輝である足甲を両足に装着した萌乃が妖艶な笑みを浮かべながら、流麗で華麗な足技で兵輝使用者たちを倒していた。


 二人とも見栄えだけを気にした隙の多い無駄に派手な動きをしているが、それを補って余るほどの実力がある二人に、兵輝使用者たちは次々と倒されてしまっていた。


「巴、ドレイク、できるだけ迅速に片付けろ。刈谷のように余計な被害を出さず、萌乃のように周りの目を気にして目立とうとするなよ」


「言われなくてもわかってる――行きましょう、ドレイクさん」


「了解」


 武輝である銃の引き金を引いて光弾を発射しながら、後方から娘とドレイクに指示を送った。


 考えもなしに攻めまくる萌乃と刈谷に呆れながらも、武輝である十文字槍を手にした巴は清流を彷彿させるような静かな動きで敵に接近し、静かでありながらも激しい攻撃を仕掛け、一撃で次々と敵を倒していた。


 囲まれてもいっさい巴の動きが衰えることはなく、囲まれた状態で武輝を軽く薙ぎ払い、それによって生まれた斬撃を含んだ衝撃波で一気に敵を倒していた。


 克也の指示通りにドレイクも淡々としながらも荒々しい動作で武輝である両腕に装着された手甲を振るって敵を次々と倒しながらも、元ボディガードとして、戦うことよりも逃げ遅れた出席者たちを助け、守ることを優先していた。


 巴たち以外の会場の警備を任された輝石使いたちも、突然の事態に混乱しながらも出席者たちを守り、暴れる兵輝使用者たちを鎮圧していた。


 大勢いた兵輝使用者たちも巴たちの活躍によって次々と倒され、非難の誘導も順調だったが――ここで、映像機器が使えない代わりに目の前で起きている光景を写真に収めてスクープを得ようとするために、カメラを手にしたマスコミたちが危険だというのに前に出てくる。


 ここで一気に歯車が狂い、そんな彼らに飛びかかろうとする兵輝使用者。


「バカヤロー! こんな時に何考えてるんだっての! どうせ撮るなら俺を撮れっての!」


「刈谷! こっちはどうにかする。お前は迫ってくる敵だけに集中しろ!」


 命知らずなマスコミたちに罵声を浴びせながらも、彼らの元へと駆けつけようとする刈谷。


 だが、そんな刈谷を制止させて、遠距離攻撃できる輝石使いを集めた克也は、マスコミに襲いかかる兵輝使用者たちに光弾を発射した。


 迫る光弾に一旦飛び退いて距離を取る兵輝使用者たちだが、マスコミたちは自分たちを守ってくれる刈谷たちがいるために退かなかった。


 そんな彼らに向けて今度は、戦闘不能状態に陥っていないすべての兵輝使用者がマスコミに襲いかかった。


 後方から射撃する克也たちだけではなく、巴たちもマスコミたちを守ろうとするが、彼らの勢いを止めることができない。


 リクトも動こうとするが、避難する出席者たちを守るために動けない。


 一人でも出席者たちにけが人が出てしまえば、北崎たちの思うツボだった。


 今回の件が大々的に報じられ、輝械人形や兵輝についての情報が世界中に広まると同時に、今回の件の不手際で鳳グループと教皇庁が世間に責められ、強固な協力関係を結んで、未来に進もうとしているアカデミーの歩みが一気に止まってしまうからだ。


 それだけは何とか避けたかったが――北崎の命令を受け、兵輝の中にある輝石を無理矢理反応させているアンプリファイアの力によって精神が高揚し、武輝という強大な力を得て狂喜している彼らの勢いを止めるのは、実力者たちが揃う巴たちでも難しかった。


 何人かは身を挺してマスコミたちを守っていたが、それでも兵輝使用者たちの勢いは止まらず、ついに一人の兵輝使用者がマスコミの目の前に辿り着いた。


 ようやくマスコミたちは恐怖してカメラを捨てて逃げようとするが、もう遅かった。


 ――しかし、兵輝使用者たちの凶刃がマスコミたちを襲うことはなかった。


 突然天井が轟音を立てて崩れ、崩れた天井から大量の輝械人形が現れたからだ。


 現れた輝械人形に驚いて、マスコミに攻撃を仕掛けようとしていた兵輝使用者たちの動きが僅かに止まった隙に、目にも映らぬ速度で間合いを詰めた巴の攻撃と、克也の援護射撃で一気に彼らを蹴散らした。


 危機を脱したマスコミたちは懲りずに捨てたカメラを拾って、撮影を続けようとするが、無言で近づいて睨んでくるドレイクの威圧感に気圧され、逃げるようにカメラを拾わずに避難用のエレベーターへと向かった。


「来るのは予想できてたけど、さすがにこの状況で輝械人形が来るのは面倒だぞ」


「でも、避難は順調に進んでいるみたいだから、希望はありそうよ」


「さっきバカどもみたいな行動をしなけりゃ希望はありそうですけどね」


「文句を言っても仕方がないわ――行くわよ」


「どうせなら、マスコミの連中は俺を撮ってくれっての! ほら、このセクスィーな動きを見てくれよ! 彼女募集中だ! オラ! できれば、今まで誰とも付き合ったことのない、まだ誰のものでもありません的な、清純キュートでダイナマイトなハニーでよろしく!」


「んもう! 祥ちゃんだけずるいー☆ それじゃあ、私はちょっと過激なポーズを決めちゃおうかな? あ、私は別に恋人は募集中じゃないから♪ でも、私に興味があるって人は覚悟してね♪ 私、激しいのがお好みだから♥」


 状況を更にややこしくさせる輝械人形の登場に忌々しく舌打ちをして苛立つ刈谷を萌乃は宥め、先程の湯に出席者やマスコミたちに不用意な真似をされる前に決着をつけようと、萌乃は武輝である足甲が装着された両足に力を入れて――若干、マスコミたちを意識して、更に見栄えを気にした派手な動きで敵に飛びかかろうとする。


 他の輝石使いたちも萌乃と同様に、一気に決着をつけようとするが――


 そんな彼らの行動が、目の前で突然繰り広げられた光景を見て中断された。


「何だ……一体何が起きている」


 目の前で突然起きている光景に理解が追いつかず、克也は思わず驚きの声を上げる。


 目の前で起きている光景――それは、アルバートが開発した新型輝械人形が、協力関係を築いているはずの北崎が作り出した兵輝を使用している者たちに襲いかかったからだ。


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