第5話

 ここ、どこだろう……う、動けない……

 僕、どうして――あ……


 目を覚ました幸太郎の視界は暗闇に包まれ、窮屈な空間にいて動けなかった。


 自分の身に何が起きたのか目を覚ます前の最後の記憶を辿った瞬間、自分の置かれた状況を理解すると同時にトラウマ級の恐怖映像が頭の中で再生された。


 ……うぅ……ひ、ひどい目にあった……

 うわぁ、両腕と両足が千切れかけてて、動かせない……

 刈谷さんに刻まれたし、御柴さんに胸を貫かれた……

 痛みはなかったけど……こ、怖かった……

 と、とにかく、ここから出ないと……


 自分が機械になっていたと思い出した瞬間に、凶悪な表情の刈谷と、鬼神のような表情の巴に完膚なきまで破壊されたトラウマ級の瞬間を思い出して、幸太郎は恐怖に震えた。


 しかし、ここで恐怖に震えていても仕方がないと思って、ほんの僅かに動く千切れかけた両手両足と首を動かして、暗闇から抜け出そうとする。


 身体をもぞもぞと動かすと、視界に僅かな光が届いた。


 ……ガードロボット? ……の残骸?


 自分の周りには機能停止した人型のガードロボットが積まれていた。


「――これくらい運べば大丈夫かしら」


「十分。残ったものはまだ使うかもしれないから、まとめて保管して」


「わかったわ。でも、数体手足が切断されている輝械人形があるけど、大丈夫なの?」


「重要なのは情報が詰まってる頭だから、頭にいっさい傷がついていない輝械人形を選んだの」


「少しくらい頭に傷がついていてもダメなの?」


「念には念を入れた方がいいから」


 ……アリスちゃんと、御柴さん?


 ガードロボットの残骸の中に自分がいることに気づくと同時に、幸太郎の耳――というか、頭に直接届くような感じで、聞き慣れた声が届いた。


 残骸の合間から届く光の先から聞こえた声を求めるように、もぞもぞと身体を動かすと、ようやく部屋の中の様子がよく見える位置にまで来ることができた。


 視界に映るのは、着ている服と、せっかくの美しく整った顔がオイルで汚れてしまっている巴、アリス、ノエル、サラサの四人が薄暗い部屋の中にいた。


「それなりに気を遣って破壊したけど、あれだけ大量の輝械人形が暴走していたというのに頭にいっさい傷がついていない輝械人形は少ないわね」


「時間をかければその分怪我人も出るし、輝械人形を操る七瀬の負担も大きくなるから、なるべくきれいに破壊しろって指示を出したのは私たちの周りだけ。でも、御柴巴、あなたと刈谷祥はやりすぎ。なるべくきれいに壊しているけど、ほとんど使い物にならないものばかりだった。幸い新型はボロボロになっていなかったけど、もうちょっと考えて」


 謝る御柴さん、かわいい……


 だいぶ年下のアリスの説教に、巴は「ご、ごめんなさい」と身体を小さくして謝ることしかできなかった。そんな巴を見て、幸太郎はかわいいと思ってしまった。


「で、でも、きっと幸太郎さんに繋がる手掛かりが見つかりますから、大丈夫、です」


「ありがとう、サラサさん……本当にそうなってくれるといいんだけど……」


 自分を気遣ってくれる感謝して、サラサの言葉に強く同意を示す巴。


 僕、ここにいるんだけど――と、幸太郎は声を出そうとするが、上手く声が出なかった。


「心配しなくても大丈夫、です。幸太郎さんならきっと、救っても呑気な顔をしていますよ。幸太郎さんを心配するだけ損だって、お嬢様が何度も言っていました。セラお姉ちゃんたちも、もう心配するのを諦めているような気がします。だから、きっと心配するだけ無駄、です」


 ……ぐうの音も出ない。


 幸太郎の身を案じている巴だけではなく、サラサとノエルを気遣うサラサの一言に、場の雰囲気が和むと同時に三人はサラサの言葉に頷いて激しく同意を示し、容赦のないサラサの一言を聞いている幸太郎は苦笑を浮かべることしかできなかった。


「それは同感ね。この前空木うつぎ家に連れ去られて人体実験された時もケロリとしてたし」


「何回か制輝軍から追われてたっていうのに、呑気にしてたこともあった」

「ティアさんとぶつかり合って傷だらけになっても能天気に笑っていましたね」


「い、一応幸太郎さんなりに、みんなを安心させようと思っているんですよ……多分」


 巴、アリス、ノエルは、過去に危機的状況に陥っても呑気な態度を崩さなかった幸太郎のことを思い出し、心配するのがバカバカしくなってきていた。


 一応幸太郎のために下手糞なフォローをするサラサに、「そういえば――」とアリスは不意に思い立ったように声を上げた。


「前々から思っていたけど、リクトやプリムやクロノと同じで、サラサも随分七瀬に甘い。年下のサラサに甘えて膝枕してもらっている情けない姿を見たし、頭を撫でられてデレデレしたいるバカみたいな姿も見た。共通して、七瀬は甘えきった気持ちの悪い顔をしていた」


「同感です」


 ……ぐうの音も出ない。


 過去に何度も幸太郎に対して甘いサラサの姿を見てきたアリスの指摘に同意するノエル。どことなく、サラサを見る二人の目はじっとりとしていた。


 二人の指摘にサラサは顔を紅潮させて照れていた。


「あ、あれは、その……こ、幸太郎さんが甘えてくるから、つい……」


「何度も言ってるけど、甘えさせるとろくなことにならない」


「そ、それはそうですけど……でも、その……そうしないと……」


「そうしないとって――何か理由があるの?」


「あ、えっと、それは、えっと……」


 不意に放ったサラサの言葉が気になったアリスの追及に、サラサは言葉を濁してしまう。


「私は甘えさせているというよりも、献身的に感じているのだけど……どうしてなのかな――も、もしかして、サラサさんと七瀬さんの関係はただならぬものが?」


「ありえない。七瀬がサラサの弱みを握っている脅している可能性ならありえるけど」


「そ、それなら、アリスさん……同意の上での主従関係?」


「御柴巴……アンタ普段から一体どんな妄想をしているのよ」


 アリスたちに続いて的を射て一人いかがわしい妄想を繰り広げている巴の指摘に、サラサは「そ、それは、その……」と言葉を詰まらせ、申し訳なさそうな表情を浮かべて黙ってしまう。


 一人妄想を繰り広げている巴を白い目でじっとりとアリスは見つめている中、サラサは意を決した様子で小さく深呼吸して、話を続ける。


「……こ、幸太郎さんにはずっと前に大きな恩があって、それを返そうとしているから、献身的に見えるんだと思います……」


 ……僕、何かしたっけ……

 あ、前にラーメンを奢ったことかな? ……それとも、焼き鳥を分けたことかな?


 幸太郎に恩があると言ったサラサの言葉を聞いて、アリスたちは興味深そうにサラサを見つめて次の言葉を待った。サラサに恩を売った覚えのない幸太郎もまた、サラサの言葉を待った。


「そ、その……幸太郎さんが悪い意味で有名になってしまった原因の一つは、私にあるんです」


「それって、七瀬が入学式に遅刻したことと何か関係があるの?」


 少し意外そうな表情を浮かべているアリスの言葉に、サラサはおずおずと頷き、強面の表情を抱えている罪悪感で更に険しくさせた。


 入学当初から幸太郎が悪い意味で有名になった原因は主に二つあり、一つは輝石を扱える資格を持ちながらも輝石を武輝に変化させられないこと、もう一つは栄えあるアカデミーの入学式に堂々と遅刻して途中入場したことだった。


「入学式の日……あの時私はお父さんの紹介でアカデミー都市の病院に入院することになったんですが、慣れない場所のせいで私とお母さんは道に迷ってしまったんです……そんな時、ガイドブックと、近くの商店街で買った焼き鳥を手にした幸太郎さんが現れました」


 ……あ!

 サラサちゃんとはじめて会った時どこかで見たような気がしたけど……

 ドレイクさん似てるからじゃなくて、あの時会った女の子だったからかぁ――なるほどなぁ。


 サラサの話を聞いていた幸太郎は、彼女との出会いを一気に思い出すとともに、去年彼女と出会った時に覚えた既視感の理由が判明して声を上げそうになるが、上手く声が出せなかった。


「お互いに慣れない場所なのに、何度も迷いながらも幸太郎さんはアカデミー都市内のガイドブックや、人に聞いたりして私たちを案内してくれましたし、私たちに気を遣ってガイドブックに載っている評判のいい焼き鳥を買ってくれました」


 自分との出会いを話すサラサに、次々と幸太郎の記憶が蘇ってくる。


 サラサによく似た長身の褐色の女性――サラサの母親であり、ドレイクの奥さんの美しい容姿と、そんな母の後ろにずっと隠れていた少女のことを。


「見知らぬ人に突然話しかけられてどうしたらいいのかわからなかった私は、お母さんの後ろに隠れることしかできず、感謝の言葉もまともに言えないまま目的地について別れました……その後、すぐにアカデミーで悪い意味で有名になった人があの時私たちを案内してくれた人だってわかったんです」


「七瀬の自業自得。気にしないでもいい。ガイドブックを渡せばよかったし、タクシー乗り場を案内すればよかった。それらをしなかった七瀬の自業自得」


「それに、入学式前だというのに呑気に商店街で焼き鳥を買うのもどうかと」


 ……ぐうの音も出ない。


 アリスの容赦のない言葉と、心底理解不能といったノエルの一言に、幸太郎は何も反論できず、サラサも「た、確かにそうですけど……」とフォローの言葉も見当たらなかった。


「でも、誰かのために懸命になれるというのが七瀬君の良いところじゃないかしら?」


「……そうかもね。バカだけど」


「ええ、バカですけど」


 サラサに代わって幸太郎のフォローをする巴に、アリスとノエルは取り敢えず納得した。


「でも、一番バカなのは私です。今日までずっと家族以外にこのことを言わないで、私は幸太郎さんに謝ることができなかった。再開した時に言うべきだったのに……私は卑怯です」


「そうね。ホント、バカ。大体、思い出しても七瀬なんて気にしないから、真剣に悩んでも七瀬相手ならバカを見るだけ」


 自分のせいで悪い意味で有名になってしまった幸太郎への罪悪感を抱えながらも、真実を話して彼に何を言われるのか想像して怯え、感謝と謝罪の言葉を出せなかった自分を恨むサラサ。


 しかし、能天気な幸太郎ならば、今の真実を伝えてサラサに何と言うのか容易に想像できたアリスは、自虐議しているサラサを見て深々と呆れたように嘆息した。


「能天気で頭お花畑の七瀬のことだから、『別に気にしてない』の一言で終わり。というか、あの男はバカを通り越してる。間違いなく、将来詐欺師に騙されて、一文無しになって路頭に彷徨う。お人好しで懐深いって言えるかもしれないけど、他人に利用されていることも理解できない単なる浅慮なバカ。扱いやすい人間ではあるけどね。アイツのせいで面倒事がたくさん降りかかってくるだろうから周りにいる人間がかわいそう」


「アリスさん、七瀬さんのことをとても理解しているようですね」


「……別に理解なんてしたくはないけど、わかりやすいから当然」


 幸太郎のことを理解しているアリスを意外そうに見つめるノエルに、アリスのクールフェイスに僅かな動揺が走りながらも、それが表に出すことはしなかった。


「ドレイクさんたちにしか知らなかったことを私たちの前で言えたのだから、きっと、七瀬君にも言えるはずだから、そう自分を卑下しないで。それに、アリスさんの言う通り、七瀬君の性格だからそんなに悩むことないから……彼なら、受け入れてくれるわ」


「確かにそうですけど、幸太郎さんに甘えすぎているような気がします」


「いつも幸太郎君が甘えているんだから、たまにはサラサさんも甘えなくちゃ」


 暗い表情を浮かべていたサラサだが、巴の一言のおかげでだいぶ気が楽になる。


 そんなサラサを見て、アリスはやれやれと言わんばかりに小さくため息を漏らした後――おもむろに輝械人形の残骸から流れ出たオイルで汚れた上着を脱ぎ捨て、薄着になった。


「ここ、一応浴室もついてるみたいだから、気分転換に少しサッパリした方がいい。その間に洗濯もできるから少しだけゆっくりして。準備はもうできてるから、いつでも入れる」


「う、嬉しいけど随分早いのね」


「リモコン一つで全自動。出不精のあの男の秘密研究所の割には良い設備が整ってる」


「そうね、それならお言葉に甘えて――サラサさん、一緒に入りましょう」


 朝から休む間もなく事件解決のために走り続けた疲労感と、色々と考え過ぎてパンク寸前の頭を一度リセットするために、浴室に向かうことを提案するアリスに、巴も着ていたスーツの上着を脱ぎ、シャツのボタンを外しはじめる。


 巴に促され、サラサも「は、はい」と着ていた制服を脱ぎはじめる。


 自分たち以外に誰もいないと思っているのか、それとも、油と汗で汚れた服とすぐに離れたいからか、四人はいつもより開放的になっていた。


「裸の付き合い、というわけですね……なるほど」


 服を脱ぎはじめたアリスたちをジッと観察するように見つめながら、ノエルも着ている制服を脱ぎはじめ、アリスと同じ色気のない無地のスポーツブラ姿になる。しかし、同じタイプの下着を着ているアリスとは違い、ノエルのスタイルは抜群だった。


「……ノエル、じっと見つめてどうしたの?」


「美咲さんから教えてもらいました。裸の付き合いをする時は、相手の身体を舐めるように観察しろと。そうすれば、心が通じ合えると」


「それ、適当なこと言っているだけだから」


「そうなんですか? ……でも、アリスさんはきれいです」


「う、嬉しいけど、私よりノエルたちの方がきれいだし……」


 不意に放ったノエルの一言に顔を僅かに紅潮させて照れるアリスは、下着姿になって露になった巴たちの身体と自分の身体を比較して、軽い劣等感に苛まれて、深々と嘆息した。


 この場にいる誰よりも小柄で、ノエルや巴と比較してしまえばかわいそうなくらい凹凸の少ない華奢で幼い身体であるが、この場にいる誰よりも色白で滑らかな肌は美しかった。発展しているのかさえも定かではないなだらかな身体の中でも特に腋から腰にかけてのラインは、その手の好事家たちでなくとも、そそられてしまう危険な魅力と色気に満ち溢れており、あどけない身体つきの中にも確かな『女性』を感じさせていた。起伏が乏しいことは変わりのない事実で、これから先もどうなるのか望みが薄いが、それでも小さな桃のような瑞々しい質感の臀部の肉付きはよかった。そのことについて本人は少し気にしているのだが、第三者から見れば思わず掴んだり、撫でまわしたりしたい衝動に駆られるほどの魅力に溢れていた。


 一方、普段から何事も機械的で事務的に対応するノエルの身体はかなり自己主張が激しいものであり、出ているところはしっかりと出ていた。


 染み一つついていない雪のように白い肌に、性格通りいっさいの無駄な贅肉がついていないしなやかだが力強い芯が通った身体つき、小ぶりだが食べ頃のヒップ――そして、制服の上からでもよくわかるが、下着姿になったことによって更に主張が激しくなったバストだった。突き出たバストは綿菓子のようにフワフワとしていて、つきたての餅のようなもちもちとした質感でありながらも形が崩れることなく、着替えている最中に制服のポケットの中に入っていたペンを落としてしまい、無防備にも誘うようにして小ぶりなヒップを突き出すように身を屈めて扇情的なドッグポーズを取るが、それでもバストは垂れ下がることはなく、美しいまま形をキープしていた。いっさいの無駄のないノエルの身体つきは彫刻のような美しさと同時に、機械的な性格とは対照的に主張が激しいスタイルは艶やかでもあった。


「う……さ、サラサ、アンタまた成長してる……」


「そ、そうでしょうか……そ、その……アリスさん、見過ぎです」


「ど、どうして、私だけ……」


 アリスより一つ年下の中等部二年のサラサだが、アリスとは対照的に彼女の身体は順調に成長していた。去年までは明らかにサラサと変わりはない体型だったが、ここ一年の間で目覚ましい成長を遂げており、今年になって買った下着(母親の勧めで少し背伸びした)がもうきつくなっていた。別に太ってしまったわけではなく、凄まじい速度で二次性徴を遂げる彼女の成長性の賜物だった。


 日に焼けたような健康的で瑞々しい褐色肌の持ち主のサラサではあるが、本人の性格は内向的であり、消極的だった。しかし、彼女の身体つきは徐々に自己主張をはじめている状態であり、今にもはちきれんばかりで、プルンとした質感のお椀型のバストも包まれているブラジャーが今にも限界だと言って零れ落ちそうで、ショーツも大きくなりかけの臀部に僅かに食い込んでいた。着替えている最中、何度か零れ落ちそうになるブラの位置を直し、食い込みそうになるショーツの位置を直しているが、本人にそんな気がなくともその仕草は非常に官能的であり、未発達ながらも確かに大人の色気を醸し出していた。今後、一年か二年もすれば、サラサの身体は成長して、規格外の麗華を超えるほどになるのは容易に想像ができた。


「まあまあ、アリスさん、気にしなくても大丈夫だから。成長する時は一気に成長するわ。私だって、小学生高学年くらいの頃までは成長が遅かったけど、ある日から急に成長したわ」


「……説得力ないから」


「それに、私、まだ成長してるみたいだからアリスさんもこれからよ」


「そうね……そうに決まってる」


 嫉妬の炎を宿した目でサラサを睨むアリスを微笑ましく思いながらもフォローをする巴だが、思いきり逆効果だった。


 さすがはこの中で一番の年長者だけあって巴の身体は成熟しきっていたが、いまだに成長を感じさせていた。普段は鳳グループの一員としてスーツを着ている巴だが、堅苦しいスーツを脱いだ彼女の身体は引っ込むところはしっかり引っ込んで、出るところがしっかり出ている均整の取れた、ノエル以上に無駄のないスタイルだった。


 たっぷりとした豊かな二つの果実とたおやかな曲線を描く臀部を強調するようにしてウエストは引き締まっていた。締まるべきところはしっかりと締まっているが、全体的に巴の肢体は肉感的でありながらも上品さと大人の色気を感じられ、同時に非常に扇情的だった。特に安産型の臀部と、そこから伸びる白い脚は非常に官能的であり、むっちりと肉感的でありながらも決して垂れているわけではなく、瑞々しく滑らかな質感で張り詰めてしまっているがマシュマロを彷彿させるような柔らかそうな感触で、ぎゅっと掴んで指を食い込ませてみたいという欲望に駆られてしまうほどの魅力に溢れていた。そんな柔らかそうな臀部とは対照的に白く伸びる脚は長く、細く、しなやかで、舐めしゃぶりたいと思わせるほどに扇情的だった。デザインは普通だが妙に官能的に感じられる上下ともに黒い下着姿になった巴が、普段後ろ手に結っている髪を解くと、彼女から発せられる大人の色気は一気に溢れ出す。しかし、大人の色気を放ちながらも、どこか初心な雰囲気も醸し出しており、それが逆に人の持つ加虐心を駆られるような感じがして、それがまたよかった。


 ……ここは楽園なのだろうか……


 不可抗力にも目の前に現れた楽園の光景に、幸太郎は目を奪われていた。機械になってしまっているが、今の幸太郎の顔は弛みきっており、客観的に見ればかなりの不審人物だった。


「お、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 そして、目の前の光景に声を出して歓喜の雄叫びを上げる幸太郎。


 ――その瞬間、世界は制止する。


 ……あれ?


 時間が凍りつくと同時に、幸太郎は気づく――今まで出せなかった声を出したということに。


「よかった、声、やっと出せた……あ……」


 声を出せたことへの喜びで再び声を出す幸太郎だが、彼はここでようやく気づく。


 女性陣の白い眼が自分に集中しているということに。


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