第4話

 セントラルエリアで輝械人形が暴れているという連絡をヴィクターから聞いて、現場に駆けつけたアリス、サラサ、ノエルは、集まった制輝軍と輝士たちとともに大量に現れた輝械人形たちの相手をしていた。


 実力者たちが集まる現場で、次々と輝械人形は破壊されるが、サラサ、アリス、ノエルの三人はそんな彼らの中でも最も活躍をしていた。


 武輝である二本の剣を手にしているノエルは、無駄がいっさいない機械的で淡々とした動きでありながらも、攻撃の瞬間は激しいものに変化して、次々と輝械人形を両断して破壊しており、彼女が通った道には必ず輝械人形の残骸が散らばっていた。


 的確に輝械人形を破壊しながらも、ノエルは大勢いる味方に的確な指示を送っており、不意打ちを仕掛けられてもまったく気にも留めずに対処していた。


 一方のサラサはノエルの指示を受けながら武輝である二本の短剣で、静かな動きで相手の背後に回って不意打ちを仕掛け、確実に輝械人形を破壊し続けていた。


 ノエルや他にいる大勢の味方と比べて積極的に動くことはしなかったが、それでもサラサは不意打ちを仕掛けようとする輝械人形を誰よりも早く察知して、それらを破壊していた。


 サラサたちの後方にいるアリスは、自身の小柄な体躯をゆうに超える武輝である銃剣のついた大型の銃で味方の後方から支援射撃を行っていた。


 冷静で慎重な判断で引き金を引いて銃口から光弾を放ち、危機的状況に陥った味方のフォローを確実にしながらも、自身に迫る輝械人形にも対応して、銃剣のついた大型の銃を槍のように振るって輝械人形を破壊する。


 大量に現れた輝械人形はノエルたちや大勢の味方たちによってあっという間に破壊され、事態はすぐに鎮静化された。


「みんな、できるだけ壊れていない、特に頭部の破損が少ない新型の輝械人形を回収して」


 鎮静化すると同時に、アリスは制輝軍と輝士たちにそう指示を出した。


 駆けつける前にアリスは父からできるだけ機械人形をきれいなまま破壊しろと指示されていたが、現場でそんな指示を出したら味方たちは気を遣って輝械人形を倒しづらくなり、時間もかかって最悪の場合怪我人も出てしまうと判断し、高い実力を持つサラサとノエル以外にその指示を出さなかった。


 代わりにできるだけアリスたちは輝械人形を傷つけないように破壊し、順調にきれいな状態で破壊された輝械人形が集まり、それらはドレイクが運転する大型トラックに乗せられていた。


 順調に回収できている輝械人形の残骸を見て、アリスは安堵しているようでありながらも、不安げな表情を浮かべていた。


「順調に回収できているようだけど……これで何も出なかったら、最悪」


「だ、大丈夫、です。ヴィクターさんなら何とかしてくれます」


「個人的にはそう上手くはいかないと思う。アルトマンたちが関わっているなら尚更そんな証拠を残すわけがない。そ残したとしても罠の可能性もある」


「それでも、何かの手掛かりになるなら、大きく前進します」


 現実的で慎重な考えをするアリスだが、サラサは前だけを見て希望を捨てなかった。


 そんなアリスを見ていたら自分も希望を抱きたくなってしまったアリスは小さく微笑み、「そうね」とアリスの言葉に同意を示した。


 事件が大きく前進することへの希望を抱くアリスとサラサの前に、きれいな状態の輝械人形を必死に探したせいで、着ている白を基調としたアカデミー女子専用の制服に輝械人形から流れ出たオイルの汚れがついてしまっているノエルが近づき、「アリスさん」と話しかけてきた。


「今回現れた輝械人形の中にいた新型にも、旧型と同じく煌石の力に反応する機能がついているのでしょうか」


「旧本部から送られてきた新型輝械人形のパーツを見る限り、新型の中身は旧型とは全然違うと思う。いっさい煌石を扱う人間を必要としない構造になってる」


「しかし、新型からも旧型と同じ煌石を扱える人間から放たれる力を感じられました」


 アルトマンによって生命を操るとされている賢者の石の力を受けて輝石から生まれた存在である、『イミテーション』と呼ばれる存在だからこそ、輝石や煌石の力に敏感なノエルは新旧混じった輝械人形と戦って感じ取った感想を述べて、不可解そうに首を傾げていた。


「ノエル、何か気になることがあるの?」


「今回の騒動に目的は全く感じられなかったので、おそらくですが、新旧ともに七瀬さんの力を受けて暴走をしたのだと思います」


「教皇エレナの影響を受けても暴走しなかった輝械人形が七瀬の力を受けて暴走した? ……にわかには信じがたいけど、他人の生命に干渉するということは膨大なエネルギーを秘めているから、その力に耐え切れずに暴走することはありえる。それに、輝械人形は輝石を使用するためにアンプリファイアを使用しているから七瀬の力を受けて、アンプリファイアの力が暴走した可能性は大いにありえる」


「七瀬さん、大丈夫でしょうか」


「……わからない」


 従来の輝械人形はボディの中にある輝石を、煌石を扱える人間によって反応させて機械であっても武輝を扱えるようにしていたが、新型になってアンプリファイアと呼ばれる輝石の力を増減させる、鳳グループが持つ『無窮の勾玉』と呼ばれる煌石の欠片で輝石を無理矢理反応させて輝石の力を扱えるようにしていた。


 幸太郎の力が新型輝械人形のアンプリファイアに過剰に影響をもたらして、今回の騒動が発生したと容易に考えることができたアリスに、ノエルとサラサにも不安が襲いかかる。


 輝械人形を操るための機械につなげられて無理矢理力を引き出せば、まともに輝石や煌石を操ることのできない幸太郎にかなりの負担を与えてしまうからだ。


 暗い雰囲気になるが、最悪な結果が頭に過って不安に押し潰されそうになりながらもサラサは「大丈夫です」と、僅かに震えた声でそう言って気丈な笑みを浮かべた。


「みなさんのおかげで今回の騒動を解決できたので幸太郎さんの負担は減ったと思いますし、輝械人形を回収すればきっと幸太郎さんの行方もわかるはず、です……だから大丈夫、です」


 サラサとノエルを安心させるように、そして、自分に言い聞かせるように放ったサラサの言葉に、無表情のノエルは僅かに目を細めた。


「サラサさんはすごいです」


「そ、そんな……の、ノエルさんの方が強いし、すごいです」


「そうでしょうか? 今、私はかなりの焦燥感に襲われています。だから、サラサさんのように普段は消極的で、口数少ないというのに、不自然なほど無理して気丈に振舞って私たちを元気づけることなどできません。すごいです」


「……ノエル、そういうこと言わなくていいから。そういうことは黙って受け止めてあげて」


「わかりました」


 こんな状況でも気丈に振舞って自分たちを気遣って鼓舞してくれているサラサに心からの感謝を称賛をするノエル。


 そんなノエルの言葉に嬉しく思うサラサだが、それ以上にアリスたちに気づかれないように気遣いをしていたというのにすぐに気づかれてしまい、それをハッキリと指摘されたことに恥ずかしさを感じていた。


 空気を読まないノエルの発言に、恥ずかしがっているサラサの気持ちを汲んでアリスはフォローする。


「それじゃあ、サラサ。私たちは回収を続ける――気遣ってくれてありがとう」


 恥ずかしさで真っ赤になった顔を俯かせているサラサに再びノエルが余計なことを言わせないために、ノエルを連れてサラサから離れるアリス。去り際に年下でありながらも自分を気遣ってくれているサラサへ、アリスは心からの感謝の言葉を述べた。


 アリスたちが立ち去って少しだけ落ち着いてきたサラサは、アリスたちと同様に輝械人形の回収を再開する。


 ……これで、幸太郎さんの行方がわかるといいんだけど……

 きっと、大丈夫だ。みんなが協力してくれているんだから、きっと大丈夫。


 続々と集められる破壊された輝械人形を見つめながら、サラサは切にそう願った。


 そして、不安になる心を奮い立たせていると――「サラサ」と、トラックを運転してここまで来た父・ドレイクが声をかけてきた。


「大丈夫か?」


「うん。アリスさんたちもいて、大勢味方もいてくれたから大丈夫だよ」


「そのことじゃない……無理をしていないか?」


「うん。大丈夫……お嬢様やセラお姉ちゃんが動けない今、私がこの事件を解決しないと」


「気負い過ぎるな」


「わかってるよ。私一人でどうにかならないってよくわかってる。だから、アリスさんたちや、お父さんたちに頼るし、私にできることならなんだってする」


 風紀委員の一員として、同じく風紀委員であるセラや麗華や幸太郎が動けない今、自分がこの事件を解決しなければならないという使命感にサラサは静かに燃え上がっていた。


 しかし、燃えながらもサラサは冷静であり、一人では今回の事件を解決できないと十分に理解しており、一人で突っ走ることなくただ自分のできることを精一杯やろうとしていた。


 そんな娘の様子を見て、ドレイクは強面の表情を僅かに柔らかくさせて「何も問題ないようだな」と安堵していた。


「何だか幸太郎に似てきたような気がするな」


「え、そ、そう、なのかな……」


「……嬉しいのか?」


「あ、え、えっと……その……」


「嬉しいんだな。そうに決まっている! お前にはまだ早いぞ! 絶対に早いんだからな!」


「……お父さん、気持ち悪い」


 自分のできる限りのことを精一杯しようとするサラサの姿勢に、幸太郎の姿と被って見えた父の不意の一言に、サラサは頬を染めて照れる。そんな娘の様子から乙女な気配を感じてしまった父は少しムッとしてしまう。


 僅かに感情的になって邪推する父の姿を、サラサは絶対零度の視線で一瞥した。

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