第37話

 アルバートが用意した特別製のガードロボットに聖堂の外へと運び込まれた美咲は、軽快で嬉々とした足取りで、美咲は自分をここまで運んだ一味違うガードロボットに向かう。


 大きく身体を回転させた勢いで武輝である身の丈を超える斧を振るう美咲。


 通常のガードロボットなら反応できないまま破壊される美咲の攻撃だが、彼女の相手をしているガードロボットは違った。


 人間のような、いや、人間以上の動きで後方に向けて軽快に大きく身を翻しながら、両腕の銃口から光弾を連射する。


 全身に輝石の力を纏っている輝石使いならば実弾が直撃しても無傷で済み、戦闘用ガードロボットに搭載されている電流を纏った衝撃波を打ち出す武器『ショックガン』の攻撃も並みの輝石使いならば一撃で昏倒することもあるが、輝石使いの実力が高い美咲にはそんなにダメージはなかった。


 しかし、今、ガードロボットが連射している光弾は輝石の力を感じられるものであり、直撃したらダメージを受けると即座に判断した美咲は、軽やかなステップを踏んで回避した。


 美咲は地面に向けて勢いよく武輝を振り下ろし、地を這う衝撃波を着地したガードロボットに向けて放った。


 地面を砕きながら土煙を上げて迫る衝撃波に、ガードロボットは獣のような動きで横に飛んで回避すると――ガードロボットの背後に、美咲は既に回り込んでいた。


 アルバートが特別製と称しているに相応しく、従来の二足歩行の戦闘用ガードロボット以上に、非常に人間らしい動きをするガードロボットだが、その分次の行動が読みやすかった。


 ガードロボットの脳天目掛けて、嬉々とした笑みを浮かべた美咲は武輝を振り下ろす――だが、ガードロボットの周囲から光を纏った衝撃波が発生して美咲は怯む。美咲の不意打ちを予測したガードロボットは緊急回避行動を取り、怯んだ美咲に即座に攻撃を仕掛けた。


 体勢を低くして勢いよく回転すると同時に美咲の足を払い、バランスを崩した美咲の頭を掴んで地面に叩きつけ、馬乗りになると同時に至近距離で光弾を連射する。


 至近距離からの光弾の連射に、さすがの美咲は耐え切れずに苦悶の表情を一瞬浮かべるが、即座に巴投げの要領で馬乗りのなっているガードロボットに向けて勢いよく足を突き出して、ガードロボットを投げ飛ばした。


 勢いよく投げ飛ばされながらも空中で態勢を立て直して華麗にガードロボットは着地する。


「なるほど、確かに『特別製』だね♪ かーなーり一味違うみたい☆」


 自身の不意打ちに対応しただけではなく、反撃を仕掛けて一気に勝負を決めてきた特別製のガードロボットに、美咲は嬉々とした獰猛な笑みを浮かべて称賛を送ると、新型輝械人形に守られて戦いを眺めていたアルバートは嬉しそうにしていた。


「アカデミーで集めた多くの輝石使いの戦闘データを基にして設計しているのだ。もちろん、君の戦闘データも基にしている。今までのガードロボットとは一味違う」


「それだけじゃなくて輝石の力も使えるんでしょ? いや、もうほとんど輝石使いだね☆」


「輝石の力に頼るのは少々癪だが、それでも輝械人形を生み出し、強化する過程で得たノウハウをすべて利用しているのだ。輝石の力にすべてを頼っているわけではないのだよ! 今のところはまだ完全な武装をしていないが、近接戦闘はさすがの君でも手こずるようにプログラムしてあるのだ! その他にもしなやかでありながらも武輝の攻撃にも耐えうる合金、相手の戦闘パターンを即座に読んで対応する高度なAIを搭載してあるのだ! そして更に――」


「取り敢えず、すごいロボットってことだよね?」


 長々しくなりそうなアルバートの説明を断ち切って要約する美咲に、アルバートは「その通り! これが私の最高傑作だ」と狂喜の笑みを浮かべて頷いた。


「ガードロボットを超え、輝械人形を超え、人を超え、輝石使いをも超える、『彼』はある意味『白葉ノエル』と『白葉クロノ』のようなイミテーションと同様に新たな生命体! 『彼』こそまさにこの世に蔓延る輝石使いと対抗しうる救世主! そうだな、そのまま『彼』は『メシア』とでも名付けようか」


「うーん、捻りがないなぁ。それに、聞いていて何だか恥ずかしくなるよ」


「それなら、君の意見を聞こうか。光栄に思いたまえ。世界に救世主となりうる存在を命名することができるのだから!」


「そうだなぁ……まあ、どうでもいいかな? どうせ、すぐ壊れちゃうんだし♪」


 アルバートととの話が飽きた美咲は好戦的な笑みを浮かべて軽く地面を蹴り、極上の獲物――『メシア』と名付けられたガードロボットに向かって飛びかかった。


 人の話を聞くよりも、戦いを選ぶ戦闘狂な美咲に辟易しつつも、「お手柔らかに頼むよ」とアルバートは最高傑作と美咲の戦いを見守っていた。


 一気に肉薄して、振り上げた武輝を一気に振り下ろす美咲にメシアは最小限の動きで回避と同時に、両腕の銃口から光弾を発射して的確かつ迅速に反撃を決める。


 普通の輝石使いなら対応できないほどのスピーディかつ、機械とは思えないほどの流麗な動きで反撃するメシアだが、美咲は違った。


 反撃されるよりも先に美咲は後方に向けて押し出すような蹴りを放ち、直撃したメシアは軽く吹き飛び、発射した光弾はあらぬ方向へと飛んで行ってしまった。


 軽く吹き飛んだメシアが着地すると同時に美咲は不意打ちを仕掛けることなく、一気に間合いを詰め、片手で軽々と振るった武輝で連続攻撃を仕掛ける。


 避ける間もなく不規則な動きで仕掛けてくる美咲の攻撃を読もうとも、読むことができないメシアは攻撃を受け続けてしまっていた。


 美咲の攻撃を受け続け、丈夫なボディに傷がついてひしゃげてしまっている最高傑作の姿に、アルバートは不安と期待が入り混じっていた視線で眺めていたが、すぐに抱いた不安が杞憂だと判断して、余裕な笑みを浮かべた。


 不規則な動きながらも美咲の攻撃パターンを呼んだメシアは、迫る美咲の武輝の刃を両手で掴み取った。


 自身の一撃を傷一つつくことなく掴み取ったメシアに、美咲は感嘆の域を漏らしながらも、軽く力を込めて押し出そうとするが、ぴたりともメシアは動かなった。


 それどころか、力を込めて押し出そうとする美咲よりも遥かに強い力で武輝を持ち上げた。


 輝石使いが武輝を手放したら一気に無力化されるので、武輝を手放せない美咲の身体はそのまま宙に持ち上げられてしまった。


 その状態のまま勢いよく美咲を地面に叩きつけようとするメシア。


 だが、それよりも早く、あえて美咲は武輝を手放した。


 手放した武輝が輝石に戻るのを、メシアは怪訝そうに見つめていると――そんなメシアの頭部に向けて美咲は上段回し蹴りをお見舞いした。


 一瞬だけ怯むメシアの隙をついて輝石を拾って即座に武器に変化させた美咲は、掲げた武輝を思い切り振り下ろした。


 振り下ろされた美咲の武輝はメシアのボディを肩から腰まで深く抉り、メシアは膝をついた。


「中々楽しかったけど、まあまあかな? まだまだ完成には程遠いんじゃないかな♪」


「相手が悪かったというのもあるが、確かに君の言う通りだ。まだまだ不測の事態に対応する能力はないようだ。しかし、貴重な戦闘データを得てよかったよ」


 自身の最高傑作であるメシアが更なる成長を遂げるためのデータが集まって嬉々とした表情を浮かべているアルバートだが、ハッキリと悔しさが内から滲み出ていた。


「そうなればいいんだけど、大丈夫なのかなぁ? 今のままじゃ全然大したことないよ? 救世主(笑)だよ❤」


「トライアンドエラーを繰り返してこそ、成果は磨かれるのだよ。この戦闘を経て、世界の救世主は更なる力を得ることだろう!」


「救世主ねぇ……そうなる前に更に輝石使いの数が増えちゃうかもね♪」


「何も問題はないだろう。現時点で輝石使いたちは醜い同族争いをしているのだ。その前に同族同士の争いで滅ぶかもしれないな」


 アトラたちとリクトたちの戦いを思い浮かべ、嫌味な笑みを浮かべるアルバートの言葉に美咲は「確かにそうかもね」と認めつつも、アルバートの神経を逆撫でするような不敵な笑みを浮かべていた。


「アトラちゃんもリクトちゃんもお互い中途半端な覚悟で喧嘩してて、アタシも正直ちょっとウンザリしてたけどさぁ、あの子たちはあの子たちになりに本気で悩んでぶつかってるんだよね♥ それだけは認めてあげようよ」


「それを認めたとしても結局、同族同士で醜い争いをしているのに変わりはないだろう? 愚か、実に愚かだ! 変革の時を迎えようとする時代でその歩みを止める醜い争いをするのは! 余計な力を持てば、争いが勃発するのは必至。だからこそ、余計な力を持って増長している輝石使いは、争いのない明るい未来のために管理しなければならないのだ」


「さすがはアルバートちゃん、迷いはないんだね☆」


「当然だ! 私以上に増え続ける輝石使いに憂い、そんな彼らが滅茶苦茶にする未来を想像して、未来を憂いている人間はいないだろうと自負している! 私の研究や実験を批判する者も多いが、それは十分に理解している。しかし、明るい未来というのは大勢の犠牲で成り立っている。未来のための犠牲だと思えば、私は何でもできるし、犠牲になった人間も浮かばれるだろうと私は確信している!」


「……その割には、アタシの目にはアルバートちゃんはアトラちゃんたちやリクトちゃんたちみたいに、中途半端な感じがするんだけど、気のせいかな?」


 不敵で軽快な笑みを浮かべながら鋭い目をした美咲の一言に、気分良さそうにしていたアルバートの表情が固まった。そんな彼を見て「図星だ~」と美咲は茶化す。


「増え続ける輝石使いに憂いているって言いながら、アルバートちゃんの研究ってかなり輝石を利用しているよね? 武輝を使う輝械人形もそうだし、目の前にいるメシアちゃんも輝石の力を利用しているしさ……それって何だか矛盾してない?」


「争いのことばかり考えていると思っていたが、君はそれなりに聡いようだ」


 煽るような美咲の指摘にアルバートは激しく反論することも不快感を示すことなく、ただただ力のない笑みを浮かべた後、「だが――」と心底不承不承といった様子でゆっくりと口を開く。


「大人の世界というのは中々どうして、思い通りにいかない、複雑なものなのだよ」


「ちょーっとエッチな言い方だけど――それって言い訳して逃げてるってことだよね?」


「そう思ってくれても構わないよ。しかし、未来を変えたいという気持ちは天地神明に誓って偽りではない! さあ、我々はこれで失礼するよ!」


「えー、もうイッちゃうの? まだまだアタシは欲求不満だよー♪」


 美咲に、自分自身に言い聞かせるようにしてそう宣言するとともに、美咲に深い傷を負わされて膝をついていたメシアは立ち上がり、生みの親であるアルバートの元へと後退すると、彼を抱えてどこかへと飛び去ってしまった。


 まだまだ物足りない美咲だったが、そんな美咲の前に立ちはだかるのは先程までアルバートを守っていた複数の新型輝械人形だった。


「延長料金が入りそうだね♥」


 自分の前に現れる輝械人形たちを見て、妖艶でありながらも好戦的な笑みを浮かべる美咲だったが――どこからかともなく飛んできた火の玉のように揺らめく光弾が輝械人形たちのボディを貫き、輝械人形たちを囲むようにして現れた光球が爆発して輝械人形を破壊してしまった。


 お楽しみの時間があっという間に過ぎ去ってしまったことに、美咲は不満げでありながらも、どこか嬉しそうな表情を浮かべて、加勢に来てくれた人物――大道共慈と水月沙菜に視線を向けると、「大丈夫ですか、美咲さん」と沙菜が駆け寄ってきた。


「もうちょっと楽しめそうだと思ったけど助けてくれてありがとう、共慈ちゃんにさっちゃん♥ 二人がここまで来たってことは、そっちはもう終わったのかな?」


「ああ。アカデミーからセラさんたちが来てくれて、旧本部からの応援のおかげでだいぶ事態は鎮圧化した。後は聖堂内にいるブレイブさんとイリーナ様だけだ」


「セラちゃんたち、幸太郎ちゃんが心配して来たのかな? ありがたいけどおねーさん欲求不満だよー! だから、さっちゃんで解消しちゃう❤」


「ちょ、ちょっと美咲さん、やめてください……んっ、な、何するんですかぁ」


 状況が一気に好転していると大道から聞いて、欲求不満が解消されなくなった美咲は八つ当たり気味に沙菜に向かって飛びかかり、彼女の豊満な胸に顔を埋めてパフパフする。


 突然の美咲の行動に驚くと同時に、胸に広がるこそばゆい感覚に変な声を出してしまう沙菜。


「美咲、まだ緊張状態が続いているんだ。安心しきるのは早いぞ」


「それじゃあ、共慈ちゃんの発達した大胸筋に胸を埋めてやる!」


 そんな美咲の行動に呆れた大道は、沙菜のために止めに入ると、沙菜の代わりに大道に抱き着こうとするが、その前に美咲の頭を掴んで自分に近づけなくさせた。


「気色悪いぞ、美咲」


「失礼だなぁ。幸太郎ちゃんはアタシに抱きしめられると嬉しがるんだぞ♪」


「嫁入り前だというのに男にベタベタするんじゃない」


「考えが古いなぁ。そんな考えだと、子供ができた時に苦労するぞ☆ 例えば、娘ができた時に、『パパうざーい』って言われちゃうぞ♪」


「くだらない話をしている暇はない。聖堂内に入ってエレナ様たちの元へと向かおう」


「真面目だなぁ、共慈ちゃんは。――まあ、でも、まだ本命のブレイブちゃんやイリーナちゃんがいるから、まだまだ楽しめそうかな? ティアちゃんたちが終わらせない内に急がないと♪」


 これ以上美咲と話しても無駄に時間を費やすだけだと判断した大道は、美咲を沙菜とともに放ってさっさと聖堂に向かった。


 つれない態度の大道に不満を覚えながらも、聖堂内にいる強大な力を持ったブレイブとイリーナと戦えるかもしれないと考え、嬉々とした足取りで大道たちの後を追った。

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