第三章 それぞれの裏切り
第23話
歴代教皇の墓所の近くにある聖堂に、白を基調とした教皇庁の祭服を着た幸太郎と、不安そうな顔を隠すように若干俯いている白を基調とした教皇の祭服を着たエレナ、二人の付き添いとして相変わらず派手な服装と酒のにおいを充満させているアリシア、プリム、リクト、そんな彼らの警護としてティア、美咲、ジェリコが集まっていた。
広いエントランスの上には輝石とティアストーンが描かれたステンドグラスが張られているが――曇りがちな今日の天気では、太陽の光を浴びた美しいステンドグラスを見ることはできなかった。しかし、それでも美しい外観であることは間違いなく、頭上にあるステンドグラスを幸太郎は情けなく大口を開けて見上げていた。
これから、この聖堂の地下奥深く――歴代教皇が眠る墓所のちょうど真下にある儀式の間で幸太郎が次期教皇候補になるための最後の儀式が行われることになっており、後は警備についての最終確認を行っているイリーナの到着を待つだけだった。
「それにしても、ロクな策を練らずにここまで来たしまったが本当に大丈夫なのだろうな」
「できることはやりましたし、ここにはティアさんたちもいるんです、だからそんなに幸太郎さんを心配しなくても大丈夫ですよプリムさん」
「べ、別に私はコータローのことなど心配しておらぬ! た、ただ私は――……そ、それよりも、アトラは何をしているのだ? 昨日と同じで今日もアイツは私たちと一緒ではないのか?」
素直じゃない態度を取るプリムを微笑ましく思いながらも、深くツッコむことはしないでリクトはプリムの質問に、一拍子間を置いて神妙な面持ちになって答える。
「アトラ君はクロノ君たちと一緒に外の警備をしています」
「そうか……それなら、少しでもクロノと会話をしてくれればいいのだがな。まったく、アトラもいい加減に意地を張るのをやめればいいというのに」
「ええ、本当に僕もそう思います。……そうなってくれればいいんですけどね」
クロノとアトラを思い、呆れているようでありながらも不安げな表情を浮かべるプリムの言葉に、リクトは心の底から同意を示し、外の警備状況について詳しい確認を取るために、暗いが強い覚悟を宿した表情で張り詰めた緊張感を纏うティアに視線を向けた。
「ティアさん。外の警備の状況はどうなっているんでしょう」
「外には優輝、沙菜、大道、クロノ、グランがいる。あの五人がいれば、昨日以上の人数を集めた過激派たちが襲いかかっても何も問題はないだろうが、問題は今回警備に当たっている人間は二つの派閥に分かれていることだ」
張り詰めた緊張を身に纏いながら、若干苛立った様子で警備状況をティアはリクトに教えると――「ティ~アちゃん♥」と、突然美咲が後ろからティアを抱きしめてきた。
突然後ろから抱きしめ、無遠慮に自分の豊満な胸を揉みしだき、もう一方の手は太腿を優しく撫で上げ、耳たぶを甘噛みし、耳の穴に息を吹きかけてくる美咲にティアは心底迷惑そうな顔を浮かべながらも、特に反応はしない。
熱っぽい表情を浮かべている美咲がティアを優しく、それでいて激しく愛撫する刺激的な光景に、リクトは顔を真っ赤にして目を背け、プリムは美咲の手の中で踊り狂うティアの胸を興味津々といった様子で眺め、幸太郎は「おー」と感嘆の声を上げていた。
「……満足か?」
「もうちょっとティアちゃんが反応してくれた満足したんだけどなー♪」
絶対零度の射貫くようなティアの視線を受け、これ以上愛撫したら危険と判断した美咲は、軽薄な笑みを浮かべ、いたずらっぽく舌を出して彼女から離れた。
「お前はもう少し緊張感を持ったらどうだ」
「これでも一応緊張していろんなところが敏感になってるよ☆」
「なら、もう少し真面目にやれ。状況は緊迫しているんだ」
「それはわかってるけど、ティアちゃんみたいにカチカチになるのはどうかなって思うよ?」
ヘラヘラとした軽薄な笑みを浮かべながらも核心をつく美咲に、反論できないティア。
「だから、アタシはティアちゃんをリラックスリラックスさせるために、マッサージしてあげたんだけどなぁ♪ ほーら、マッサージのおかげでだいぶティアちゃんも、みんなもリラックスできたんじゃないのかな?」
「……それなら、一応感謝はしておこう」
「それじゃあ、もう一度やってあげようか? 今度こそティアちゃんを感じさせてみせるよ♥」
「気色が悪いから遠慮する――それに、もうそんな時間はない」
ティアが美咲のセクハラを拒絶したタイミングで、入口の扉が開いてイリーナが現れた。
「どうやら、準備万端のようじゃの――それでは、さっそく儀式をはじめよう」
イリーナはこの場に集まるティアたちの様子を見て、満足げな笑みを浮かべながら幸太郎に近づき、儀式の開始を宣言するが――「ちょっと待ってください」とティアが待ったをかけた。
「無理を承知だとは思いますが、私も儀式の間への案内をさせていただきたい」
頭を下げて懇願するティアだが――イリーナは仰々しくため息を漏らして「残念ながら、それは無理じゃ」と申し訳なさそうに、それでいて冷たくそう告げた。
「幸太郎のために万全を期してきたお主の気持ちは理解できるが、ワシでさえも儀式の間までの案内を周りに頼み込んで何とか許可をもらったのじゃ。だから、ここから先はさすがのお主でも不可侵領域というわけじゃ。しかし、案ずることはない。ワシがいるから何も問題はないぞ。だから、お主たちはここで大人しく待っているのじゃ」
薄い胸を張って何も問題はないと言い放つイリーナに、ティアは「……わかりました」と心底渋々と言った様子で彼女の言葉に従った。
「さあ、儀式の間へ向かうぞ、幸太郎、エレナ!」
イリーナの言葉に、幸太郎は「はーい」と呑気に返事をして、エレナは何も言わずに淡々と儀式の間へと続く石造りの重厚な扉の前へと向かっていた。
「そうだ、イリーナさん……カメラを持ち込んでもいいですか? せっかくなので儀式の間で記念写真を撮りたいんですけど」
「お主はいつまで観光旅行気分でいるつもりだ! さっさと行くぞ!」
相変わらず呑気な幸太郎にイリーナは喝を入れ、彼の手を引っ張って儀式の間へと向かった。
幸太郎たちの背中を、ティアたちはジッと――警戒と敵意を宿した目で見つめていた。
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