第7話
「本当に感謝するよ。君たちのおかげで最悪の事態にならずに済んだ」
「だから気にしないでください、グランさん。それに、あなたたちなら僕たちがいなくても簡単に解決できましたよ」
「あーあ、グランちゃんたちが優秀だったから、歯応えがなくて欲求不満だよー☆」
「君たちにそう言われると、彼らもきっと喜ぶだろう」
空港の騒動の事後処理を終え、優輝たちと空港から旧本部に戻ったグランは、改めて優輝たちに騒動の解決だけではなく、事後処理も手伝ってくれたことを感謝する。
グランが率いていた輝士たちの連携はとても良く取れており、自分たち以上に活躍したと思っている優輝は、自分たちがいなくともグランならば簡単に今回の騒動を解決できると思っていた。一方の美咲は優秀なグランたちを褒めつつも、物足りなさで仏頂面を浮かべていた。
「それで、グランさん……やっぱり、空港の騒動はエレナ様が狙いだったのでしょうか」
「まだ取調べが終わってないから確信はないが、今回騒動を引き起こしたのは過激な思想を持つ輝士ばかりだったから、現段階では過激派による犯行だと考えているよ」
「それじゃあ、今の教皇庁にはやっぱりエレナ様を狙う人たちがたくさんいるんですね……」
「情けないことだが、そのようだ」
「まだ気は抜けないとはいえ、七瀬君が狙われている可能性が低いのは安心しましたが、教皇庁の人間としてはエレナ様が狙われているのは不安ですね」
沙菜の質問に答えたグランは、教皇を狙う人間が教皇庁内にいることを心から嘆いていた。
「今回の空港の警備に、誰が見てもわかる穴が存在した。そのことから推測すると、今回の騒動の裏には警備を自由に動かせる強い権力を持った人間が関わっているのではないだろうか」
「考えたくはないが、多くの輝士たちが騒動に関わっていることを考えると共慈さんの言う通り、聖輝士、もしくは枢機卿の中でエレナ様を狙う人間がいるかもしれない。……せっかく鳳グループと協力関係を築いたというのに、教皇庁はまったく変わっていないな」
強い権力を持った人間が今回の騒動に関わっているかもしれないということを考える大道に、権謀術数渦巻く教皇庁に対して呆れるグランは深々と嘆息する。
そんなグランを見ていたずらっぽく笑う美咲は、「ねーねー」とグランに質問をする。
「グランちゃん的には、今回の騒動の黒幕は誰だと思うのかな」
「それは、その……」
立場的に答え辛い意地悪な美咲の質問に、しどろもどろになって答えに窮するグランに、サディスティックな笑みを浮かべた美咲は「フフーン」と得意げな笑みを浮かべる。
「アタシ的には実は目星はついているんだよねー。多分だけど――」
「――ほう、中々面白そうな話をしているではないか。ワシも混ぜてもらおうか」
答えに窮するグランを更に追い詰めるサディスティックな美咲の言葉を、少女の声が遮る。
気配もなく突然背後から聞こえる声に、「うひゃあ」と素っ頓狂な声を上げた美咲は振り返ると――そこには見た目は幼女のイリーナ・ルーナ・ギルトレートがいた。
イリーナの登場に気づいたグランは慌てて頭を下げる、大道や沙菜、優輝も「お久しぶりです」と言って挨拶をして頭を下げる。
頭を下げる彼らに「苦しゅうない」と言ってイリーナは頭を上げさせた。
「どうしてイリーナ様がここに? 会議はもう終わったのですか?」
「ああ。会議が終わって気晴らしに外に出てれば、お前たちが集まって楽しそうに話していたから、ワシも混ぜてらおうかと思ったのじゃ」
「それでも、あなたは枢機卿です。警護をつけずに出歩くのは少々不用心ですよ」
「ヌハハハハッ! グランよ、ワシを誰だと心得る! そんなものは必要ない!」
グチグチと小言を言いながら無用な心配をするグランに、頼りなさそうなくらい平坦な胸を張って豪快に笑うイリーナ。
「やっほー、イリーナちゃん。相変わらずかわいーねー。おねーさんジュンジュンしちゃう♥」
久しぶりに会って、開口一番子供扱いしてくる美咲に不快感を露にするイリーナだが、彼女に何を言っても無駄であると理解して諦めているので何も言わなかった。
「まったく……久しぶりに会ったというのにお主はまったく変わっていないな。まあいい、それで銀城の娘よ。お主的には誰がエレナを狙ったと思っておるのじゃ?」
「えー、言い辛いなぁ。本人を目の前にしてるから」
「失礼な奴め。言っておるではないか」
隠すことなく自分を怪しんでいると言ってくる美咲を、イリーナはじっとりとした目で睨むと、美咲は「ごめんごめーん☆」と反省の欠片なく謝った。
「でも、イリーナちゃん、エレナ様と仲悪いから動機としては十分かなーって思うんだけど。それに、エレナ様や幸太郎ちゃんを呼び出したのはイリーナちゃんみたいだし」
「ワシならもっと上手く、確実にエレナを仕留めるぞ」
自信に満ちた笑みを浮かべてそう言い放つイリーナに、「ああ、そうだね」と美咲は戦意を滾らせた笑みを浮かべて納得したが、彼女に対しての疑いは消えなかった。
そんな美咲を放って、イリーナはグランたちに視線を向けて「それにしても――」と話題を替える。
「大義であったなグラン、優輝、沙菜、共慈、美咲――お主たちのおかげでエレナは守られた。教皇庁の人間として礼を言うぞ」
そう言って深々と頭を下げて感謝の言葉を述べるイリーナからは、美咲が疑うような雰囲気は感じられなかった。
「優輝、久しく会ってもいなければ、連絡もよこさないが、宗仁は元気か?」
「相変わらず家にこもっていますよ。最近では絵に凝っているらしいです。下手糞ですが」
「人間嫌いなのも相変わらずか、まったく……伝説の聖輝士と呼ばれて、我が弟子の中で一番優秀であるというのに、もったいない」
優輝の父であり、自身の弟子である宗仁の近況を聞いて、安堵と呆れのため息を漏らすイリーナは優輝から大道へと視線を向ける。
「共慈よ。お主の祝言はそろそろと聞いているが、是非ともワシも参加しさせてもらおう」
「ええ、もちろん招待します。忙しくなければ、イリーナ様には是非とも参加してもらいたいですから」
「忙しくとも、参加するに決まっているじゃろう。お主のおしめを何度も替えたのだからな。お主の嬉し恥ずかしエピソードで式を彩ってやろう」
「……できれば、ご容赦願います」
婚約者との結婚式を控えている大道はイリーナも招待する気でいるが――子供の頃の自分をよく知っている、というか知りすぎているので、アカデミーにいる友人たちも招待する気でいる大道は、彼女を招待するのに迷いを抱いてしまった。
そんな大道の迷いを感じ取ったイリーナはいたずらっぽく笑うと、大道から沙菜に視線を移す。沙菜を見つめるイリーナの目は、興味と関心が込められていた。
「それにしても、沙菜よ……お主は子供の頃と比べて随分成長したようじゃの。誰かの後ろに隠れることしかできなかった気弱の少女だったとは考えられないほどだ」
「あ、ありがとうございます……イリーナ様にそう言われると嬉しいです」
「むむぅ……一体全体何を食べたらここまで膨れるのだろうか……」
「……どこ見て言っているんですか。まったく!」
露骨すぎるイリーナの羨ましそうな視線が沙菜の豊かに実っている二つの果実に集中し、沙菜は頬を紅潮させて両腕で自身の胸を覆い隠した。
久しぶりに会う優輝、沙菜、大道と話し終えたイリーナは満足そうな笑みを浮かべて、「さて――」と旧本部内へと戻るために歩きはじめる。
「さて、久しぶりにお主たちと挨拶できたからワシはそろそろ仕事に戻ろう。明日から少々忙しくなるかなら――ああ、そうだ。コータローの護衛としてきたのだろうが、お主たちの役割は明日からなくなるかもしれんぞ」
意味深な笑みと言葉を残して、イリーナは満足そうな足取りで旧本部内へと戻った。
イリーナの言葉の意味が理解できなかった優輝たちだが、幸太郎が次期教皇候補になるという報せをティアから受けて、その意味を理解するのはすぐだった。
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